有価証券報告書-第15期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 15:09
【資料】
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【項目】
148項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券提出日現在(2020年6月26日)において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社の経営陣は、現在の事業環境及び入手可能な情報に基づき最善の経営方針を立案するよう努めております。近年、国内外の製薬会社はその生命線である新薬の創出のため、グローバルでの企業統合、買収等により、開発候補品の充実を目指しています。また、新薬開発における投資効率を最大化するためには実質的な特許期間、すなわち後発品出現までの期間を最大化する必要がありますが、そのために国際共同治験を活用し、主要市場国における早期・同時発売を図ることは避けられない状況となっております。このような状況に対応していくため、当社グループでも経営施策を機動的かつ柔軟に展開していくことが要求されております。
当社グループでは、特定の領域、受託業務、治験段階に注力し、大手製薬会社と同等の立場で医薬品開発を実行・支援できる知識・技術・経験を有するCROを「CDO(Contract Development Organization)」と称しております。当社グループは前述した製薬会社の要求に応えるため、主要事業のCRO事業において、主に治験の主たる段階であるフェーズⅡ、フェーズⅢにおけるモニタリング業務並びにこれに付随する品質管理業務及びコンサルティング業務に特化したCDOを目指し事業展開を行うことで、同業他社との差別化を図っております。
また、近年増加しているがん領域及び中枢神経系領域疾患の開発品目に対応するため、人材採用、教育研修及び組織改変により受託体制の強化を図っております。今後も、増加する国際共同治験に対応するため、子会社を含めた人材採用、教育研修及び組織改変により受託体制の強化を図ってまいります。
(2)目標とする経営指標
当社グループは、中長期的な成長による企業価値向上と利益還元バランスの最適化を図ることを重要施策と位置付け、安定的な利益還元の源泉となる1株当たり当期純利益(注)を目標とする経営指標にしております。
(注)1株当たり当期純利益は、親会社株主に帰属する当期純利益を発行済株式数で除した数値であり、株主価値を形成する重要な指標です。株式の評価指標の一つであるPER(株価収益率)の計算根拠の一つでもあり、株価収益率が一定水準に収束すると、1株当たり当期純利益の向上は株価水準の向上に結び付き、結果として株主価値の向上に寄与するものとなります。
(3)経営環境及び経営戦略の現状と見通し
国内におきましては、当社グループが属するCRO業界の市場規模は引き続き成長を続けております。当社グループといたしましては、これらの状況を踏まえて、今後も主に治験の主たる段階であるフェーズⅡ、Ⅲにおけるモニタリング業務並びにこれに付随する品質管理業務及びコンサルティング業務に注力し、適正な受託費で信頼性の高いデータの収集能力を有するCROとして、顧客への期待に応えていく所存であります。
そのためには、モニタリング業務の中心となる優秀なCRAの確保及び育成は必要不可欠となっております。CRAの人材確保にあたっては、即戦力となる優秀な中途採用者の積極的な獲得及びCRAの適性を有する新卒者、未経験者の採用を進めるとともに、採用したCRAに対して、入社時には相当の研修期間を設け、また、入社後も継続的に研修を実施することにより、モニタリング業務の品質の向上を常に図っております。
また、新薬の開発においては、国際共同治験を利用したグローバルな開発が増加しており、日本を含むアジア、米国及び欧州で国際共同治験を実施できる体制を整えることで、中長期的なCRO事業の拡大に努めていく方針です。現在、米国、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、オランダ、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ハンガリー、中国、韓国、台湾、シンガポール等に現地法人を有しており、今後は、現地法人の機能をさらに強化することで、国際共同治験に対応できる体制作りを進めてまいります。
さらに、当社グループは、CRO事業で取り組む医薬品開発業務の下流に位置する製造販売後の市場において、医薬品販売支援を行う育薬事業を展開しており、企業・医師主導の臨床研究、販売企画など複数の案件を受託しております。製造販売承認後の医薬品の価値を維持、増大させる活動を「育薬」と呼び、医薬品のライフサイクルマネジメントとして重要視されるようになってきています。また、臨床研究に係わる不祥事が多発したことから、臨床研究の透明化と適切な実施が求められ、2018年4月より臨床研究法が施行されています。このような背景のもと、臨床研究を中心としてアウトソーシングニーズが増加しており、医薬品販売支援業界の市場規模は拡大傾向にあります。当社グループの育薬事業では、CRO事業で得たノウハウを活かし、より専門性の求められる業務を受託し、高い品質のサービスを提供することで、同業他社との差別化を図ってまいります。
(4)事業上及び財務上の対処すべき課題
当社グループにおきましては、継続的な売上高及び利益の拡大、それを支える内部管理体制の充実を図るため、以下の課題を柱として取り組み、成長を期してまいります。
①国際共同治験実施への体制強化
当社グループは特定業務への特化、特定治験段階への特化を推進することによって構築した治験の各業務における技術を世界に展開することで、海外における研究開発に積極的な国内製薬会社に対して、日本国内と同水準のCROサービスを海外においても提供しております。
2018年4月、当社米国子会社が米国のCROであるAccelovance,Inc.(Linical Accelovance America, Inc.に商号変更済み)を子会社化し、世界最大の市場である米国での当社グループの機能強化を図りました。これにより、日本・アジア、米国、欧州の3極を枢軸とする国際共同治験に対応する体制を一層充実させました。さらに、2019年5月には中国上海に新たに子会社を設立しております。
現在、米国、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、オランダ、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ハンガリー、中国、韓国、台湾、シンガポール等に現地法人を有しており、今後も、これらの国における国際共同治験の実施ニーズに合わせて規模拡大、機能強化を行い、現地法人の国際共同治験に対応できる体制を一層強化してまいります。
一方で、国際共同治験の実施には、参加国における規制当局の考え方、医療保険制度、医療機関の体制、治験に対する患者側の参加姿勢など、様々な環境の違いがあります。当社グループにおいても、各拠点の環境の相互理解に基づく手順やシステムの統合、プロジェクトマネジメントの強化は、喫緊の課題となっております。
②モニタリング業務の品質の向上・維持
当社グループの主要な業務でありますモニタリング業務の品質を向上・維持することは、製薬会社との良好な信頼関係を構築し、経営基盤を安定化するうえで最重要の課題であります。そのため、人事考課制度を含めたマネジメントシステム、研修システムのさらなる充実化、ITシステム等を活用したモニタリングの効率化、及び品質管理部門や当社独自の組織であるプロジェクト・コミッティーの機能を強化することにより、モニタリング業務、ひいては臨床試験の品質の向上・維持に努めてまいります。なお、プロジェクト・コミッティーとは、受託業務に係る品質を担保するために設置されている社内の組織であり、受託した治験実施計画書に対して事前に当社グループとして特に留意すべき点の確認・指示を行います。また、国際共同治験の増加に伴い、治験実施計画書の日本における実施可能性の検討や代替案の提示など役割範囲が拡大しております。構成メンバーは、臨床試験を主体とする開発業務に精通した経験者及び社外の医師から成り、グローバル化した当社グループの全社的な品質の向上と標準化に貢献するものとなっております。
③医薬品製造販売後支援事業への展開
当社グループは、CRO事業で取り組む医薬品開発業務の下流に位置する発売後の市場において、医薬品製造販売後の支援業務を行う育薬事業を展開しており、臨床研究等の企画、モニタリング業務、監査業務など複数の案件を受託しております。
また、日本では、2018年4月に臨床研究法が施行され、発売後の医薬品に関する臨床研究は、治験とほぼ同様のルールによる規制を受けることになりました。この臨床研究法は、治験と同様に臨床研究においても責任の所在を明確化しデータの信頼性を確保するためのものとなっており、これによって客観性とリソースを確保するためのアウトソーシングニーズが拡大してきております。育薬事業にとっても大きなビジネスチャンスであり、CRO事業で得たノウハウ等を利用することにより、CRO事業同様、育薬事業においても高い品質のサービスを提供できるよう対応してまいります。
④優秀な人材の確保と育成
モニタリング業務の受託を拡大するにあたり、その業務の中心となる優秀なCRA(注)の確保及び育成は必要不可欠であります。また国際共同治験の増加に伴い、これらに特有の業務や、各国間のプロジェクトマネジメント業務が増大いたします。このための人材育成も喫緊の課題であります。
⑤財務基盤の安定化
当社グループは、各事業において利益率の高いモニタリング業務を中心に高品質なサービスを提供し続け、リピートで業務を受託することにより高い収益性の確保を目指します。また、予算実績管理及びコスト管理を徹底することにより内部留保の充実を図り、優秀な人材の確保、国際共同治験への体制構築等、将来の事業発展に必要不可欠な成長投資に備えてまいります。
⑥新型コロナウイルスを含む感染症パンデミック下における業務実施体制の整備・運用
今般の世界的な新型コロナウイルス感染拡大にあたり、当社グループでは医療機関、製薬会社、従業員の安全を確保した上で事業を継続するために、感染予防を徹底するとともに、リモートでの業務実施体制の整備・運用を進めましたが、医療機関への訪問規制などにより受託業務を実施できない又は進捗が遅延し、業務に影響を受けました。現在、各国の規制当局やCRO団体等は、これまで治験業務で必要とされていた医療機関へ訪問しての作業についてリモートでの実施が可能となるような規制の変更や指針の策定を進めており、当社でもこれらに対応することで徐々に業績への影響を軽減しております。今後は、このような各国における規制の変更に対応し、新型コロナウイルスを含む感染症パンデミック下における業務実施体制を迅速に整備・運用することが課題となります。
(5)次期の見通し
次期(2021年3月期)の業績予想につきましては、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大の影響により、当社グループを取り巻く事業環境は先行き不透明な状況が続くと見込まれ、現時点で合理的な業績予想を算定することが困難であることから、未定とさせていただきます。今後、合理的な算定が可能となった段階で速やかに公表させていただきます。