有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/11/20 15:00
【資料】
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【項目】
128項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。本項目を含む、本書における当社に関連する見通し、計画、目標などの将来に関する記述は、当社が現在入手している情報に基づき、本書提出日時点における予測等を基礎としてなされたものであり、実際の結果は記載内容と大きく異なる可能性があります。
(1)会社の経営の基本方針等
当社は、「仕事の成果の保証」と「新しい価値の提供」を通じて、お客様の課題を解決し、医療の未来に貢献することを企業理念としております。これが、当社が事業を通じて成したいことです。
当社が顧客とする製薬企業が所属する日本国内の製薬業界は、人口増加や、国民皆保険制度等に支えられ、一時は世界第2位(出典:Copyright © 2019IQVIA. IQVIA World Review)の市場規模にまで成長をしました。しかしながら、市場を取り巻く環境は大きな変化を迎えております。第1に、医薬行政の変化です。少子高齢化に伴い社会保障費は毎年増加を続けており、将来的には国民皆保険制度の維持も危ぶまれております。そのため、医療費抑制の観点から、薬価改定による公定価格の引き下げや、新薬に比べて薬価の低いジェネリック医薬品の推進等の取り組みが進められております。第2に、医薬品開発環境の変化です。近年主流となりつつある生物を応用したバイオ医薬品は、従来の低分子化合物を用いた医薬品に比べて開発が複雑になることや、必要な臨床症例数の増加に伴い開発期間が長期化する等、創薬業務の生産性が大きく低下しています。その結果、製薬企業の売上成長性は鈍化、利益効率は低下傾向にあります。
そのような背景から、製薬企業においては創薬業務を含むすべてのコストを極力減らし、低コスト体質を持った企業に向けてドラスティックな体制変革を検討している企業が多く、今後もCROへの委託ニーズは高いと考えております。また、既にCROへの委託を活用している製薬企業においては、CROに対する期待も従来のような業務処理を行うだけの受け身な姿勢ではなく、コスト削減等の顧客ニーズを先回りして把握し、CRO自ら改善や課題解決提案を行うといったパートナーとしてより主体的な姿に変化をしています。
このような事業環境において、当社は、最新のテクノロジーと優れたビジネスモデルを用いて、顧客に最適な業務プロセスを提案・実施し、製薬企業にとって不可欠なパートナーとしてサービスの提供を行うよう努めてまいります。
(2)目標とする経営指標
当社は、売上高経常利益率を重要な経営指標と捉えております。今後も収益力の拡大に注力し、株主価値の向上に努めてまいります。
(3)中長期的な会社の経営戦略
①事業領域
安全性情報管理サービスを主軸に、ドキュメントサポートサービス、開発サポートサービス、臨床開発支援サービスを提供いたします。各サービスは、委受託契約によるサービス提供のみならず、一部、人材派遣契約によるサービス提供も行っております。
CROの歴史において最初に医薬品開発の委託対象となったのはモニタリング業務です。この業務は臨床開発において治験を実施している時期のみの期間限定的な業務であり、製薬企業が固定費を流動化するために、外部委託化した業務です。これにより、受託するCRO側には、案件終了後に待機社員を抱えるリスクが生じます。そのため、CROでは受託したモニタリング業務を、一握りの常用雇用社員がマネジメントを行い、実務は主に実務経験の豊富な派遣社員を中心とした有期雇用社員を配置することで実行する体制が作られました。しかし、実務経験豊富な人材が業務にあたることから業務実施やその品質は人に依存する形となり、また、委託期間が限定されていることから標準化など業務安定化の仕組みの構築は図られてきませんでした。
これに対し、当社では、従来は経験者が行っていた業務を標準化した上で分業が可能な状況に組み直し、新たに採用した未経験者を育成し、配置するという方針でサービスの提供を行います。また、人材の配置にあたっては、全て当社の直接雇用かつ常用雇用社員を中心とし、継続的な業務効率改善に取り組むことで高品質と低価格を両立したサービスの提供を行います。また、業務プロセスを常に最適化するための仕組みであるオプティマル・プロセス・マネジメント(OPM)※ の構築を進め、継続的な改善が図られる仕組みを整えています。業務プロセスの最適化は、豊富な業務実施経験によって蓄積されたノウハウの活用とRPA(Robotic Process Automation;ソフトウェア型のロボットが作業を代行、自動化する概念・手法)等最新の自動化テクノロジーの導入による抜本的な変革をはじめとした複数のアプローチを用いて実施します。このサービスの提供方法を活かし、安全性情報管理を中心に現在提供しているサービスと同様に、製薬企業特有かつ恒常的に実施されている他の業務についても、将来的にサービス範囲を広げていきます。なお、臨床開発支援サービスにおいては、臨床試験、医療機器の臨床開発の分野において実績を積むことを方針としております。
※ OPMとは、Optimal Process Managementの略。業務プロセスを継続的に最適化していく当社独自の仕組み。法規制の変化や最新のテクノロジーやビジネスモデルの調査、それらを基にした業務プロセス開発、業務プロセスの実施、実施されている業務の集中管理、の4つの機能から構成される。

②戦略
RPAやAI等の自動化テクノロジーの進展は、現在の労働集約的なCROの業務処理方法を短期間で変革する可能性があります。しかし、当社は、そのテクノロジーそのものを生み出し、提供する会社ではありません。今までも、これからも製薬企業の業務の一部あるいは全てを担うサービス会社としてあり続ける方針です。
当社は、あくまでも業務プロセスに着目して事業を展開していきます。その理由は、「業務プロセスを最適化する」ということが、事業環境が変化したとしても、当社の価値としてあり続けると考えているからです。よって、現状や特定の業務の実施方法にとらわれることはありません。世の中の変化を捕捉し、テクノロジーを柔軟に取り入れながら常に最適な業務実施方法を構築・提案・実施していき、製薬企業の課題を解決するために現在のやり方に固執することなく柔軟に変化していく方針です。
当社は、「最新のテクノロジーと優れたビジネスモデルを用いて、最適な業務プロセスを提案し、実施までする会社」として、製薬企業から最も必要とされる、なくてはならない会社になり、成長を続けていくために以下のような戦略を実施していきます。
・RPA等の自動化テクノロジーを用いた、業務の自動化
・業務と受託業務の在り方を変化させるサービスプラットフォームの安全性情報管理サービスへのリリースと、他サービスセグメントへの応用展開
・問題解決とプロセス構築ができる人材の育成による製薬企業へのサービス提供
・当社の進みゆく方向性、組織の考え方、企業カルチャーといったコーポレートアイデンティティの確立と浸透
(4)会社の対処すべき課題
当社の経営陣は、現在の事業環境及び入手可能な情報に基づき最善の経営方針を立案するよう努めております。近年、国内外の製薬企業はその生命線である新薬の創出のため、企業統合、買収等による研究開発費の投資効率を上げることを最大の眼目としております。このような状況に応じて、CRO企業である当社としても経営施策を機動的かつ柔軟に展開して顧客ニーズに確りと対応していくことが要求されております。
当社におきまして、対処すべき課題は多岐に渡りますが、継続的な売上高及び利益率の拡大、それを支える内部管理体制の充実を図るため、上場によって得られる社会的信用力の獲得により顧客層の拡大と優秀な人材の確保の機会の増大を実現し、自社独自の判断による機動的な投資と資金調達力の強化を可能にすることと共に、以下の課題を柱として取り組み、成長を期してまいります。
①安全性情報管理業務の品質の向上・維持
当社の主要な業務であります安全性情報管理サービスの品質を向上・維持することは、製薬企業との良好な信頼関係を構築し、経営基盤を安定化する上で最重要の課題であります。そのため、既存の仕組みの強化に加え、ICT(Information and Communication Technology;情報通信技術)を用いた業務の効率化に積極的に取り組みます。更に、業務の進捗、品質や効率等の成果指標について可視化することにより、課題の把握、改善のサイクルを高め、安全性情報管理業務の品質の向上・維持に努めてまいります。
②原価の削減
当社は、ここ数年間、競合他社との激しい値引き競争を展開しており、今後もより一層それに拍車がかかることを確実視しております。それに対応すべく当社としては、RPA等の自動化テクノロジーを用いて業務プロセスの自動化等を推進し、受託業務の原価を始めとしたコスト削減を徹底してまいります。
③優秀な人材の確保
安全性情報管理業務の受託を拡大するにあたり、その業務の中心となる優秀な人材の確保及び育成は必要不可欠であります。人材確保にあたっては、緻密な採用計画と採用基準、入社後のミスマッチを生じさせない高精度の選考力によって逼迫した採用環境においても中途採用者を適正な人数採用します。また、戦略的な新卒採用を進めてまいります。
④従業員の意欲、能力の向上
当社は、従業員の目標設定、業績等の査定方法を明確化し、従業員の評価の適正化を図るとともに、急速なICT技術の進歩にあわせて、この変革のスピードに対応できるような人材を育成していく体制を整えることも急務であると考えております。一方では、社員一人ひとりのキャリアプランとその実現のためのポジション、教育機会を明確化、充実化させ、優秀な人材の定着と能力の向上を図っていきます。
⑤CRO事業領域の拡大と差別化
近年、CROの位置づけは重要性を増し、医薬品開発業界において一定の評価を受けるに至ったものと考えております。しかしながら、特に大手製薬企業は高い品質を維持し、かつ、固定費削減のために医薬品開発業務のアウトソーシングを進めておりますが、その委託先には自らと同等の能力を有し、対等の立場で医薬品開発を実行・支援できるCROを求めているものと当社は考えております。当社は経営資本の「選択と集中」を行い、医薬品開発の安全性情報管理業務に特化していくと共に、安全性情報管理と同様に競争力が発揮出来る事業領域の拡大も進めてまいります。