有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2023/03/08 15:00
【資料】
PDFをみる
【項目】
145項目

事業等のリスク

本書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
当社グループはこれらのリスクの発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、これらは投資判断のためのリスクをすべて網羅したものではなく、さらにこれら以外にも様々なリスクを伴っていることにご留意いただく必要があると考えます。当社グループは月面開発事業を行っており月面着陸がビジネス遂行上の要件となりますが、未だ当社において月面への着陸実績はありません。また、当社が属する宇宙産業自体未だ市場草創期であり確立した市場は存在しておらず、将来の市場規模拡大には不確実性を伴います。また、月着陸船の開発には長い年月と多額の研究費用を要するとともに、すべての開発及び月面着陸ミッションが成功するとは限らないことからも、当社への投資は一般投資者の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられます。
なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、将来において発生の可能性のあるすべてのリスクを網羅したものではありません。
(1)ミッションの未達について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
当社が行うミッションについて、ミッション1においては月面着陸、ミッション2においては月面着陸及びローバーによる月面探査を目指してまいります。一方、月面開発事業は元来技術的リスクを伴うものであり、当社においてこれまで月面着陸の実績はなく、また、民間企業や日本の宇宙機関が月面着陸を行った事例もありません。当社としては、技術的にはランダーの推進及び着陸誘導制御は旧ソ連によるルナ計画、米国のアポロ計画、中国による嫦娥計画等の実績があり特に革新的な新規技術を必要とするものではないとの理解であり、本書提出日現在、ミッション1として2022年12月11日に打ち上げられた当社のランダーは宇宙空間で安定した航行状態を確立しておりますが、当社のランダーが月周回軌道へ到達したことや、月に着陸した実績はありません。加えて、地球外の天体にランダーを着陸させることは元来難易度が高いオペレーションであるため、当社では両分野の開発は経験豊富な第三者と協業することでリスクの低減に努めておりますが、予期せぬトラブルが発生した場合、ミッションが未達となる可能性があります。ミッション未達についても様々な事象が想定され、①ロケットの打上時に障害が発生する可能性、②月へ向かう航行中に障害が発生する可能性、③月の周回軌道に入る際に障害が発生する可能性、④月への着陸が安定的に成功しない可能性、⑤着陸後にランダーからローバーを放出する等のミッションを実行できない可能性等が考えられます。
当社は、ミッション1の打上げから着陸までの間に、10段階のマイルストーンごとにサクセスクライテリアを設定しており、本書提出日現在において、第5段階である「Success 5」までを完了しております(詳細は後記「5 研究開発活動」をご参照下さい。)。しかしながら、ミッション1の完了までには、月周回軌道投入前の深宇宙軌道制御マヌーバの完了(Success 6。2023年3月中旬~下旬頃を予定)、月周回軌道投入マヌーバによるランダーの月周回軌道投入の完了(Success 7。2023年3月中旬~下旬頃を予定)、月周回軌道上でのすべての軌道制御マヌーバの完了(Success 8。2023年4月下旬頃を予定)、月面着陸の完了(Success 9。2023年4月下旬頃を予定)及び月面着陸後の安定状態の確立(Success 10。2023年4月下旬頃を予定)のすべてを達成する必要があり、これらの達成のためには、ハードウェア、ソフトウェア及びランダー航行に関する様々なリスクを伴います。特に、当社は、本書提出日時点において、着陸制御システムを月面着陸のためには実際に使用した経験がなく、同システムに不備等があった場合には、ミッションにおいて最も困難である月面着陸に失敗する可能性があります。ミッション1の完了は本募集の完了後である2023年4月下旬頃を予定しており、本書提出日以降に、ミッション1の失敗その他の問題が発生した場合に、その情報をすべてリアルタイムに開示できるとは限りません。他方において本募集についての投資判断は、ミッション1の完了前に行う必要があります。
また、ミッション1が成功した場合であっても、顧客のペイロードが適切に使用出来ない場合等、月面での活動に支障が生じる可能性もあります。加えて、ミッション1が成功した場合であっても、その後のミッションについての成功が保証されるものではありません。特にミッション3以降については、当社は、重量や設計も異なるシリーズⅡランダーの使用を計画しているところ、シリーズⅡランダーの開発及び運航について想定外の問題が生じる可能性があります。また、ミッション3で予定している2機のリレー衛星の輸送についても、初の月周回軌道への輸送となることから、ミッション1及びミッション2とは異なる問題が生じる可能性があります。加えて、ミッション6以降の使用を目指して開発に着手しているシリーズⅢランダーの開発及び運航についても想定外の問題が生じる可能性があります。当社は、シリーズⅡランダー及びシリーズⅢランダーを使用する計画のミッションにおいて、前述のとおり、シリーズⅠランダーを使用するミッションよりも多くの販売可能重量及び売上高を計画していることから、これらのランダーに問題が生じた場合、当社の収益に生じる悪影響の程度が大きくなる可能性があります。
当社においては、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」及び「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 2.ミッションリスクに備えた手当」に記載のとおり、ペイロードサービスについては、その一部の対価を前払いとし、かつ、契約後の返金を行わないこととすることや、損害保険契約を締結する等によって、ミッションが未達となった場合のリスク軽減措置を講ずる予定です。特に、2024年を予定するミッション2については既に当社販売可能重量を満たすだけのペイロードサービス契約を締結済みであり、仮にミッション1が未達となる場合においてもミッション2で見込む収益へ影響を与えません。また、前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 1.品質向上サイクルの実現」記載のとおり、事業モデルとしても、一定の失敗が生じ得ることは織り込んだ上での事業運営を行っております。したがって、当社としては、1回のミッションの未達が直ちに営業面、財務面における重大な悪影響を及ぼすものではないと考えております。しかしながら、特に初の実証ミッションとなるミッション1が未達であった場合や、ミッションの未達が継続して発生した場合においては、当社の技術的信用力が低下することで、当社の株価・資金調達能力・評判に悪影響が及ぶ可能性があり、後続ミッションにおける顧客離反リスクが顕在化する可能性があります。また、ミッションが未達となることにより、当社の技術力の検証ができない可能性や、必要なデータを取得できない可能性もあり、これにより、その後のミッションに影響を及ぼす可能性があります。
また、前記「1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 2.ミッションリスクに備えた手当」記載のとおり、当社とSpaceX社との間の打上契約では、打上げ後にはいずれの責かを判定することが困難なことから、業界慣行上、相互の責を問わない契約となっており、当社の責によらないと考えられる事由により発生しミッション継続に支障が起きた場合であっても、同社に対して打上代金の返金を求めることができないこととされています。上記のリスク軽減措置についても、例えば当社が加入する保険の保証限度内で当社が負担する損失をカバーできない等、リスクを軽減するのに十分でない可能性があり、また、本書提出日現在において当社はミッション2以降について保険契約を締結していないところ、月保険においては現時点で商品内容が確立されておらず、不確実性を伴うこと等から、当社が望む経済的条件で保険に加入できない可能性、損害を十分に幅広くカバーする保険に加入できない可能性や、高額な保険料によって当社の収益が圧迫される可能性もあります。
(2)開発遅延について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
当社は2022年12月11日にミッション1の打上げを完了するとともに、現在ミッション2、3に向けてランダー及びローバーの開発を進めており、その開発状況の詳細は前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」記載のとおりです。当社は、スケジュールについては進捗管理を専担するプロジェクト・マネジメント・オフィスを設け厳格に管理しており、仮にスケジュールに影響を与える事象が生じた場合においては、全体スケジュールへ影響を及ぼさないよう、製造工程の手順調整や部分的な作業の加速によって調整する方針ですが、従前ミッション1において、発注から納品までに年単位の時間を要する長納期品の納入に伴う開発期間の変更や、顧客ペイロードインターフェースのためのランダー仕様変更、ランダーの推進系システムの一部不具合による再調達等により、開発スケジュールの遅延が生じたことがあり、今後も同様の遅延が生じる可能性があります。当社が行う月面開発事業においては高度な技術と正確性が求められ、ミッションの成功に向けては、細心の注意を図り、万全を期す必要があることから、今後の組立工程や試験の結果、及びその結果を踏まえた物品の再調達による納期の関係等様々な要因により、やむを得ず遅延が発生する可能性があります。
開発上の技術的問題により遅延が生じた場合、当該問題を克服するために想定外の費用が生じる可能性や、想定外の期間の遅延が生じる可能性があります。当社が2024年に打上げを計画するミッション2については、既にサブシステムレベルでのCDRが完了し、今後フェーズD(制作・試験)へと移行してまいりますが、フェーズDにおいても、様々なコンポーネントを1つのシステムに組み立てる過程や、組立後の試験において不整合や不具合が判明する場合があり、その結果、ミッション2の実行時期が遅延する可能性があります。また、生じた問題の度合いによっては、再度CDRをやり直す必要が生じる可能性があり、その場合、ミッション2の打上時期が大幅に遅延する可能性があります。また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」記載のとおり、当社のミッション3以降のシリーズⅡランダーと、ミッション6以降にシリーズⅡランダーと併用することを目指して開発に着手しているシリーズⅢランダーは、ミッション1及びミッション2で使用するシリーズIランダーの設計からの変更を予定しているところ、ミッション1及びミッション2に用いるシリーズⅠランダーと比較して大きく、デザインや仕様のほか、組立、運用場所もミッション1及びミッション2から変更される予定であることから、ミッション1及びミッション2のシリーズⅠランダーを予定通り開発できたとしても、ミッション3以降のシリーズⅡランダー及びミッション6以降のシリーズⅢランダーが予定通り開発できる保証はなく、開発できたとしても当初の想定を上回る費用が生じる可能性があります。ミッションが遅延した場合、打上げ契約等外部パートナーとの間の契約内容を変更する必要が生じる可能性や、追加の費用負担が発生する可能性があり、当社の希望通りに変更や資金的な手当てができない場合にはミッションの実行に支障が生じる可能性があります。さらに、当社が既に受注を受けている顧客が発注の変更又はキャンセルを要望する可能性があります。当社は、少なくとも技術実証段階であるミッション1、ミッション2の期間については、当社ペイロードサービスの本格的な商業化前であることに鑑みて、顧客とのペイロード契約上、かかる変更やキャンセルに伴う返金が発生しない方針で基本的に合意し最終契約を締結しておりますが、商業化を目指すミッション3以降において同趣旨での契約が合意されない場合には、当社が想定する収益が減少する可能性があります。また、1つのミッションが遅延した場合には、後続のミッションスケジュールにも影響を及ぼす可能性があります。このような場合には、売上計上時期が後ろ倒しになる等、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(3)外部要因によるミッションの遅延について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
当社の開発がスケジュール通りに進む場合にも、当社からのコントロールが難しい要因により当社のミッションスケジュールが影響を受ける可能性があります。当社はSpaceX社と打上契約を締結していますが、打上げのタイミングは第三者との相乗り契約となる場合には、相手方のミッションスケジュールに影響を受ける可能性があり、また、天候・周期・同じ打上場所において先行する他社の打上スケジュール等により、数週間から長い場合には数ヵ月の調整が必要になる場合もあるため、SpaceX社との契約上打上可能期間を数ヵ月間の幅をもって設定することにより対処しております。また、顧客が当社ランダーに搭載するペイロードについては、当該顧客においても月面開発事業のためのペイロード開発について経験を有さないことが想定されるところ、顧客側での開発状況が想定通りに進捗しない場合や顧客側の都合でペイロードの重量や仕様に変更がある場合等においては当社のミッションスケジュールに影響を与える可能性があり、その結果、売上計上時期が後ろ倒しになる等、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社は、原則として、顧客が契約上の期限までにペイロードを提供できない場合には顧客が代替のマス・シミュレータを提供しなければならない旨の規定を含む契約を顧客との間で締結しており、また、契約締結後、又は必要に応じて契約締結以前の交渉段階から、顧客のペイロード開発の進捗状況をモニタリングすることで当該リスクに対処してまいりますが、かかる対応が必ずしも十分にできない可能性があります。
(4)市場について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社の属する宇宙産業は将来の成長が期待される市場でありますが、当社が事業収益を見込むペイロードサービスとデータサービスは、現在グローバルでも草創期に当たります。それゆえ、宇宙産業の将来には多くの不確実性が伴います。当社では既に現在ミッション1及びミッション2の顧客からの受注の確定及び、ミッション3以降に係る顧客からの潜在的受注を確認しておりますが、今後、当該事業における市場が当社の想定通り成立・成長する保証はありません。例えば、世界的な経済情勢や企業の景気による影響等により事業環境が変化した場合には、当社の顧客が政府機関の場合には月関連の事業に投入可能な予算額が減少し、また民間企業の場合には研究開発予算や事業開発予算・ブランディング予算等が減少し、その結果、市場において十分な需要が生じない可能性があります。加えて、当社又は第三者が策定する市場規模に関する予測は、様々な仮定や前提条件に基づいており、前提条件の内容等によってその結果は大きく異なります。例えば、前記PwC社の調査においても、各地域の市場トレンドや観測可能な調査に基づくボトムアップ分析と、当社のビジョンである「2040年に月に1,000人が居住」することと同様の前提を置いた場合のロードマップ分析では大きく結果が異なります。したがって、これらの予測において用いられる仮定や前提条件が正しくない場合には、予測とは大きく異なった結果となる可能性があります。また、当該調査は2021年9月に発表されたものであり、例えばNASAのアルテミス計画の遅延等、それ以降の市況や地政学的状況の変化を反映しておりません。
また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <当社グループが注力する月面輸送サービスのセグメントについて>」記載のとおり、当社は、ペイロードサービスにおいて、小型セグメントへの戦略的集中を行っており、中~大型のセグメントのペイロードを指向する顧客とは重複しない一定層の小型セグメントが成立し得ると考えているところ、ペイロード市場における主要なニーズが、当社が対応出来ない中~大型のペイロードを指向する場合には、当社が提供するサービスへの需要が十分に喚起されないおそれがあり、また、仮に需要があったとしても、他の事業者が提供する中~大型ランダーの余剰スペースに搭載する形のペイロードサービスによって代替されるおそれもあります。さらに、当社が行うペイロードサービスの単価等については既に確立した水準は存在しないことから、契約相手方との関係や競合相手の状況によっては、当社が希望する水準での価格設定や契約条件の設定を行えない可能性があります。
加えて、データサービスについては、潜在的な顧客からのニーズは確認されており、当社として顧客からの受注も存在しているものの、現時点で十分な市場は確立されておらず、また、同サービスにおける価格設定についても、今後市場動向や競合の動向によって仕組み等が変動する可能性があります。したがって、将来的に同サービスにおいて、当社が期待するだけの需要を喚起できない可能性や、できたとして当社が希望する水準での価格設定を行えない可能性があります。また、当社が顧客のために取得したデータについて、顧客との交渉次第では、当社が権利を確保できない可能性があり、その場合、当社が計画するデータプラットフォームやデータベースの構築が遅延する、又は実現しない可能性があります。
このように、当社の想定通りに市場が成立・成長しなかった場合等には、売上計上時期が後ろ倒しになる等、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(5)当社のデータプラットフォームを用いたSaaS型・サブスクリプション型のサービスについて
前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>2.データサービス」記載のとおり、将来的には、当社の高頻度なミッションを通じて、当社のインターナル・ペイロードから取得・蓄積した情報に、地球上で入手可能な既存のデータも加え、加工、解析、統合することで、顧客にとって高付加価値な「大規模な月のデータベース」をクラウド上に構築し、顧客が自由にアクセスし、定額料金を課金の上、利用して頂く、SaaS型・サブスクリプションモデルのビジネスの展開を目指しています。当該ビジネスモデルの実現のためには、当面の間、当社がインターナル・ペイロードを通じて月面の様々なデータを取得することが前提となりますが、ミッション未達等により、当社の想定通りミッションが実行されない場合には、当社の月面データ取得にも悪影響が及ぶ可能性があります。また、当社が十分に資金調達を行うことができない等の理由により、当社の想定通りの頻度でミッションが実行できない場合にも、当社の月面データ取得にも悪影響が及ぶ可能性があります。これらの場合、当社の同サービスの競争力を失う可能性があります。加えて、ミッションが予定通り実行されたとしても、当社がインターナル・ペイロードとして輸送するローバーや、計測機器・カメラ機器等を通じて、想定通り月面のデータが取得できるという保証はなく、当社の想定通りデータが取得できない場合、サービスの提供が困難となる可能性があります。また、データサービスのビジネス展開のためには、データセンサー・データプラットフォームの構築費用やデータサービスのための人件費等多額の支出が必要となるところ、必要となる支出が当社の想定を上回る可能性があります。また、支出したにもかかわらず、様々な要因により、当社がデータサービスを実施できない可能性があります。さらに、当社がデータサービスの提供のために外部業者と協力する場合、当該業者と契約条件を合意できない場合や当該業者によるサービスが想定通りに提供されない場合等には、当社によるデータサービスの提供に支障が生じる可能性があります。
加えて、今後、当社がデータサービスの展開ができたとしても、競争が激化する場合や、当社が付加価値のあるサービスを競争力のある価格で提供できない場合には顧客を獲得できる保証はなく、また、当社が十分な利益を上げられるほどの単価を設定できる保証もありません。
(6)当社のMOU及びI-PSAについて
前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等」記載のとおり、当社は世界各国の民間企業・宇宙機関・研究機関との間で、基本的にミッション3以降における将来的なペイロードサービス、データサービスについて、MOU等を締結しております。しかしながら、これらのMOU等は法的拘束力を伴うものではなく、MOU等を締結したとしても、当社の売上高が計上されるわけではありません。また、これらのMOU等について、当社が最終契約を締結できる保証はありません。また、最終契約を締結できたとしても、当該契約の内容は、MOU等の内容とは大幅に異なる可能性があります。さらに、当社が締結するMOU等は、相当期間、先の内容について定めるものもあり、仮にMOU等の内容通り最終契約締結に至ったとしても、将来の時点においては経済合理性を欠いている可能性もあります。
(7)販売可能なペイロード容量について
当社のミッション1及びミッション2では、ランダーの設計上、顧客に提供可能なペイロード容量を30kgに設定しておりますが、このすべての重量について顧客へ課金することは想定しておりません。具体的には、顧客に販売するためのデータを取得するための社内の実験機器の搭載や、顧客ペイロードの性質に伴う想定外の追加デバイスの搭載等により、顧客に課金可能なペイロード容量が削減される可能性があります。事業計画上は、ミッション1においては12.43kg、ミッション2においては10.5kgを顧客に課金可能な容量として設定し、一定程度保守的な見積もりを置いておりますが、2024年を予定するミッション2においては今後の状況次第で変更となる可能性があります。またミッション3以降においては、顧客に提供可能なペイロード容量を最大500kgに設定予定ですが、ミッション1及びミッション2と同様に不確定要素が存在することから、事業計画上は過去の実績を鑑み一定の開発マージンを割り引いた容量を設定し、更に容量をすべて充足するだけの顧客を獲得できない可能性を踏まえ、一定の販売充足率の前提も掛け合わせた想定歩留まり率を設定の上、将来的にこの値が徐々に改善される前提を置き、売上計画を立てております。
上記に加えて、ペイロードの構成によっては想定よりも多くのペイロード容量を要する場合もあり、ペイロード容量は顧客へ課金できる容量とは異なり、また、販売可能容量のすべてについて顧客の契約を獲得できるとは限らない点に留意する必要があります。
(8)競合について
当社の事業と同様のビジネスモデルを有している企業は海外に数社あり、その中には、2023年中にミッションの実行が予定されているものがあります。また、当社は、月面ペイロード輸送事業及びデータ事業を行う企業のみならず、宇宙衛星軌道にペイロードを輸送する事業を行う企業や、月面探査ローバーの開発事業のみを行う企業等とも競合する可能性があります。
当社は東北大学の吉田研究室での月面探査ローバー開発をベースとして、創業以来、約10年にわたるローバー開発の歴史を持ち、当社開発のローバーは「Google Lunar XPRIZE」の中間賞を受賞した実績を有します。また、ランダー開発においても2016年頃から取り組みを開始する等、比較的長い期間の開発実績と研究成果の蓄積を有しており、これらランダー及びローバーの開発状況が評価されたことからNASAのCLPSへ採択され、今後も継続してNASAから提示されるタスクオーダーの受注資格を有する等の実績を持ちます。それに加え、技術的難易度の高い着陸誘導制御をアポロ計画の月着陸で実績を持つドレイパー研究所と協業することによる技術競争力、日本、米国、欧州3拠点体制により各国政府の輸出規制等に左右されない最適なサプライヤー選定が可能になることによるコスト競争力の両面において他社との差別化を目指してまいりますが、宇宙産業は将来の成長が期待される市場であり、引き続き国内外の事業者がこの分野に参入してくる可能性があります。このため、先行して事業を推進していくことで、さらに実績を積み上げて市場内での地位を早期に確立してまいりますが、今後において十分な実績が得られなかった場合や、新規参入により競争が激化した場合には、ペイロード価格を下げざるを得ない場合による売上減少等、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、データサービスについても、当社のペイロードサービスの競合他社が、当社同様、ミッションで取得したデータを用いた上でデータサービスを提供する可能性があり、また、宇宙衛星軌道上で宇宙データサービスを取り扱う会社が、業務の一部として、月面データ事業に従事する可能性もあります。
当社の競合他社の中には、当社に比べ、より多額の投資ができる企業や、より高価値又は魅力的な価格でサービスを提供することができる企業が存在する可能性があります。また、既存の競合他社が、第三者と戦略的提携等を行うことにより、競争力を強化する可能性もあります。加えて、今後、海外の競合他社が政府から補助金等を受領することによって競争力を高める可能性もあります。このように、当社の競争力は多くの要因によって影響を受けるところ、当社が競争力を維持することが出来なかった場合、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(9)重要な外部パートナー及び顧客への依存について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社が開発するランダーは、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>」に記載のとおり、ミッション1及びミッション2の推進系システムについてはAriane Groupに製造を委託し、着陸制御システムの開発についてはドレイパー研究所とのアライアンス関係を築いています。
また、ミッション1から3の打上げに関しては、SpaceX社とファルコン9ロケットによる打上契約を締結しております。これらの関係は、当社における技術及び競争上の強みとなっていると考えております。
しかしながら、当社がこれらの関係を継続し続けられる保証はありません。当社これらのパートナーと長期にわたるビジネス面での連携を過去より実施し信頼関係を構築するとともに、定期的なミーティング等の場を通じて関係維持に努めておりますが、既存の関係を失った場合、同等の技術的水準又は価格水準を提供する代わりの第三者パートナーを確保できない可能性があります。また、現状の契約期間の終了後にこれらのパートナーとの契約を再締結又は更新できる保証はなく、これらの契約が同価格又はサービス水準では更新されない可能性もあります。さらに、これらはいずれも海外の企業であるため米国等の輸出管理規制が強化されることにより、これらのパートナーとの協働ができなくなる可能性もあります。
加えて、重要なパートナーとの契約では、通常の民間企業と契約する場合に比べて、当社にとって不利な契約条項が含まれる可能性があります。例えば、当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は、2022年7月にNASAのCLPSのタスクオーダーCP-12のサービスプロバイダーに採択されています。これに関して、当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は、ドレイパー研究所との間で、ランダーの製造やペイロードサービスを実施するための請負契約を締結し、当該契約に基づき、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)、及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。しかし、当社子会社は、ドレイパー研究所との契約上、自らの契約不履行又は履行遅滞に起因して発生した損害についてドレイパー研究所に対して損害賠償義務を負う可能性があり、また、当社起因の理由によりタスクオーダーCP-12の費用が増加した場合には、当該増加費用分をドレイパー研究所に対して当社が負担することになる可能性があることから、最終的な受取金額は減少する可能性もあります。
また、上記の企業以外にも、当社は開発するランダーの部品の多くを外部から調達しているところ、部品調達に遅延が生じた場合や、当該部品に欠陥等があった場合、さらには、新型コロナウイルスの拡大を含む天災や事故等により外部サプライヤーの生産能力が制限された場合等には、当社の開発・ミッションに遅延が生じる可能性や、代替調達先の確保をしなければならなくなることにより追加の費用を負担する可能性があります。
加えて、「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」記載のとおり、当社のランダーは、ロケットから放出された後、ミッション完了まではすべて当社が東京都中央区日本橋に開設いたしましたミッション・コントロール・センターより、当社の従業員により制御されるところ、そのために必要なミッション・コントロール・センターとランダー間の宇宙通信については、欧州宇宙機関(ESA)傘下のESOCの協力の下、同機関が保有する専用の宇宙通信ネットワークを利用する計画であるため、当該ネットワークに障害が生じた場合にはミッションの実行に支障を生じさせる可能性があります。
(10)打上業者に関するリスクについて
当社がミッション1からミッション3で使用するランダーの打上げについては、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>」に記載のとおり、SpaceX社と打上契約を締結しております。
当該契約上ミッション2においては、第三者のペイロードとの相乗りでSpaceXのロケットに搭載される予定です。SpaceX社は、当社及び相乗り先のスケジュールや打上場所の天候等を考慮して打上スケジュールを決定する責任を負っており、当社のミッションスケジュールに遅延等の影響が生じる可能性があります。また、ミッション3においては当社がSpaceX社のロケットを占有する契約となっておりますが、この場合も、米国連邦航空局等の政府機関によるSpaceX社のロケット及び/又は当社のランダーの打上げの承認が遅れた場合等に、打上げスケジュールに影響が生じる可能性があります。
このような場合でも、当社は既存顧客との間で、少なくともミッション1及びミッション2の間は、基本的な方針として当社の顧客に対して返金を行わない契約を締結しておりますが、顧客側が任意解除権を有する契約や一定期間以上のスケジュール遅延が生じた場合に顧客側に解除権が発生する(ただし、後者については既に受領済みの対価についての返金は不要となる)契約や、一定のマイルストーンの達成を一部支払の条件としている契約を一部の顧客との間で締結しており、結果としてミッションが遅延又は達成されない場合、当社の評判や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社はミッション4以降においても、ランダーの打上げについては、第三者である打上業者に委託をする予定ですが、将来において必ずしも十分な数の打上業者が存在するとは限らず、業界全体として十分な打上機会が確保されない結果、当社ランダーの打上コストが当社の想定を上回り、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、打上業者の不足等により、当社のスケジュール通りのミッションの実現を可能とする打上業者と当社が契約できなかった場合には、当社のミッションスケジュールに遅延等が生じる可能性があります。
上記の結果ミッションスケジュールに遅延が生じた場合には、遅延の期間や顧客との契約の内容によっては、当社の売上高の計上時期に影響が生じる可能性があります。
(11)政府機関の顧客について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社の既存顧客の多くが政府機関であり、また、当面の間、当社の潜在顧客の多くも政府機関となることが予想されるところ、一般に政府機関の数は限定的であり、受注できる契約数も限定的となる可能性があります。また、政府機関からの発注については、国家予算や地政学上のリスクによる影響を受ける傾向があり、これらによって、政府機関からの発注自体が少なくなるか、発注内容が変更若しくは取り消される可能性があります。また、政府機関からの発注への応募についても一定の当該国での内製化要件等が課される場合もあり、当社としては米国・日本・欧州の各拠点で開発体制を敷いているものの、当社が必ずしも応募できるとは限りません。加えて、政府機関との契約については、入札手続を経ることから当社が期待する水準の単価とならない可能性があり、したがって、当社の想定通りに受注できない可能性があります。また、契約締結後も、政府機関による解約が広く認められる場合等民間企業と契約する場合に比べて当社にとって不利な契約条項が含まれる可能性、政府機関が契約先であるゆえに労働・人種差別・環境等の法規制の対象となる可能性、当社において追加的な規制や要件の遵守を求められる可能性、契約対象であるプロジェクトが遅延する可能性、支出に際して政府機関の承認が必要となる可能性、当社の技術内容を含めた一定の事項について開示が要求される可能性、調達先について一定の要件を課される可能性や、現地のオフィスや施設等の設置等を求められる可能性等があります。
加えて、政府機関との契約においては、契約条件の遵守について政府機関による詳細な調査権が認められる場合があります。さらに、当社がこれらの規制や条件等に違反した場合、契約の解約のみならず、行政処分等の対象となる場合があり、かかる処分等が下された場合、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
したがって、政府機関からの発注については、受注できたとしても、当社が想定したとおりの収益を上げることができない可能性があります。
(12)資金調達について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
当社は事業活動を維持拡大するため、今後も多額の研究開発投資が必要となり、また、想定を上回る投資の増加、事業環境の変化への対応、シンジケートローン契約に係る財務制限条項の遵守に向けた資金確保が事業上重要となります。当社が現在契約しているシンジケートローンの財務制限条項を遵守するため、また、ミッション3以降の将来的な顧客からの売上が当初計画よりも遅れるケースや、追加的な開発コストが必要となるケース等に備え、当社として安定的な財務基盤を維持することは重要と考えられることから、ロックアップ期間終了後の近い将来において、約50億円程度の資本増強による資金調達を実施する可能性があります。
また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>2.データサービス」記載の大規模データベースの実現のためには、様々な分野において、多額の研究開発投資が必要となり、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性があります。例えば、当社は上記大規模データベースの実現等将来の事業規模拡大を企図した研究開発投資(以下、「先端研究開発投資」という。)を早期に実施する予定であるため、上記約50億円程度の資本増強による資金調達に加え、これと同規模程度の追加の資金調達を、資本増強、負債調達又はその他の方法により、来期実施する可能性があります。ただし、当該資金調達を実施しない場合にも、既に契約済みであるミッション3顧客からの入金に加え、今後ミッション3以降の将来的な顧客から計画通りの入金を計上することが可能である場合、それらを原資として、先端研究開発投資を除いた当社の運転資金を維持することが基本的に可能であると見込まれることから、追加の資金調達の手段、時期等につきましては、今後の金融環境や事業環境を踏まえつつ慎重に検討していく予定であり、追加の資金調達の全額又は一部を実施しない可能性もあります。
しかしながら、当社が将来において想定する上記の資金調達が出来ない場合や、必ずしも望ましい条件での資金調達ができない場合等は、当社がキャッシュ・フロー不足に陥る可能性や、当社の事業を支えかつこれを成長させるために必要な投資を行うことができない可能性や、当社のミッションの一部の遅延又は中止を余儀なくされる可能性や、当社が財務制限条項を遵守できなくなる可能性があり、これにより当社が将来の支出計画又は事業活動の一部を遅延又は断念しなければならなくなるおそれや、当社の競争力に悪影響が生じるおそれがあります。また、当社は、上記の資金調達以外にも、今後、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性があるところ、継続的な資本調達のために当社株主に希薄化をもたらす株式発行が繰り返し行われる可能性があります。さらに、借入れによる調達を行う場合には、財務制限条項その他の条項が設定されることにより、当社の事業活動が制約される可能性があります。
(13)財務制限条項について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社グループの借入金のうち、株式会社三井住友銀行をアレンジャー、株式会社みずほ銀行、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社商工組合中央金庫をコアレンジャー、株式会社静岡銀行を参加金融機関とする、総額50億円のシンジケートローンには、財務制限条項が付されており、2023年3月期末時点で、当該条項に抵触する見込みです。当社は、2023年3月期末を基準とする財務制限条項に係る期限の利益喪失につき権利行使しないことについて、シンジケート団から合意を得ておりますが、当社が将来において財務制限条項に抵触した場合、シンジケート団から同様の合意を得られる保証はなく、シンジケート団が当社の期限の利益を喪失させる権利を行使した場合には、当社の事業及び業績に影響を与える可能性があります。
なお、2022年12月末時点において純資産が△554,501千円であり、2023年3月末時点においても当該純資産が負の状況が継続する見込みです。また、2022年12月末時点の現預金残高が4,399,294千円であり、2023年3月末までの資金計画を踏まえると、2023年3月期末時点で現預金残高が30億円を下回る見込みです。そのため、2023年3月期末時点において、以下の財務制限条項に抵触する見込みとなります。
①各事業年度末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額を正の値に維持すること。
②各事業年度末日における連結貸借対照表に記載される現預金の合計金額を30億円以上に維持すること。
(14)継続企業の前提に関する重要な事象について
当社グループは多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する宇宙関連機器の開発に従事していることから、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、現在のところすべての開発投資を補うための十分な収益は生じていないことから、2022年12月末時点において純資産が△554,501千円となり債務超過となりました。これらの状況から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。
ただし、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載のとおり、当該重要事象等を解消するための対応策を実施していること、また、債務超過の解消のための自己資本の充実を目的とした機動的な資金調達の可能性を適宜検討していることから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
(15)株式価値の希薄化について
前記「(12)資金調達について」記載のとおり、当社の事業においては、継続的に外部からの資金調達が必要となる可能性があり、その手段として、株式発行が繰り返し行われた場合には、当社の株式価値が希薄化する可能性があります。
また、当社は、業績向上に対する意欲向上を目的としてストック・オプション制度を導入しており、会社法の規定に基づく新株予約権を当社グループの従業員に付与しております。本書提出日現在、新株予約権の対象となっている株数は8,848,583株であり、当社発行済株式総数の53,901,120株に対する潜在株式比率は16.4%に相当しております。これらの新株予約権が行使された場合は、当社の株式価値が希薄化する可能性があります。
(16)人材の確保と育成について
当社が今後更なる成長を成し遂げていくためには、優秀な人材の確保が重要課題の一つであると認識しております。当社は現在も人材紹介会社を利用した中途採用を実施し、従業員からの紹介による採用(リファラル採用)制度を導入するとともに外部業者を活用する等、多様なチャネルを用いて優秀な人材の確保を進めておりますが、ミッション数の増加やデータサービスの立ち上げ及び拡充に伴う今後の事業拡大のためにはより一層の多様かつ優秀な人材採用が必要となります。これらの人材を十分に採用できない場合や、あるいは在職中の優秀な従業員が退職する等した場合には、当社の事業拡大の制約となり、その結果、ミッションの遅延が生じる等、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(17)法的規制等について
当社は、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(宇宙活動法)に基づく人工衛星等の打上げに係る許認可、宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(宇宙資源法)に基づく資源の探査及び開発に係る許認可、並びに、当社完全子会社である株式会社ispace Japanで取得すべきランダー等の当社宇宙機が宇宙空間から地上に向けて電波を発するに当たっての電波法等の許認可を除き、現状想定している当社の事業を制限する直接的かつ特有の法的規制は本書提出日現在において存在しないと考えております。宇宙活動法、宇宙資源法及び電波法については、当社が実施する各打上ミッションごとに許認可を取得する必要がありますが、ミッション1の宇宙活動法に係る許認可については関係省庁との協議を実施し、2022年11月4日付で許認可を取得しております。宇宙資源法に関しましても、同様に2021年12月23日施行後に関係省庁とコンタクトを取り始め、2022年11月4日付で許認可を取得いたしました。また、電波法に関しては、免許取得の前提となる国際電気通信連合(ITU)との宇宙空間で使用する電波の周波数の調整が完了し、電波法に基づく無線局免許取得に向けた総務省とミーティングを重ね、2022年9月7日付で予備免許を取得しております(本免許につきましては、制度上、ミッション1において当社のランダーが月面に着陸した後に取得する予定となっております。)。
上記以外にも、当社が事業収益を見込む市場は、現在グローバルでも草創期に当たっており、今後当社の事業を直接的に制限する法的規制がなされた場合には、当社の事業展開は制約を受ける可能性があります。例えば、上記の宇宙資源法上、当社が採掘等をした宇宙資源について、当該採掘等をした者が所有の意思をもって占有することによってその所有権が認められていますが、今後の国際的枠組み等で所有権を規制された結果、所有権に関して誓約を受ける可能性は否定されません。また、いわゆる宇宙5条約等についても、惑星汚染への対策(宇宙条約第9条)、及び、第三者への損害発生時の対応(宇宙損害責任条約第2条及び第3条)等において当社の事業活動に影響を及ぼす可能性があります。「資源採取の適法性(宇宙条約第2条)」については、月面で展開をする当社の宇宙機(又は当社ランダーに搭載した他社のペイロード)が月面の環境を汚染しないかという問題がありますが、国際宇宙空間研究委員会が定める惑星保護方針に準拠する方法で当社事業を進めるよう準備をしており、宇宙条約第9条が当社事業の障害となるおそれ(問題の発生可能性)は低いものと考えております。また、「第三者への損害発生時の対応(宇宙損害責任条約第2条及び第3条)」につきましては、打上ロケットから切離し後に仮に当社の宇宙機が第三者に損害を与えた場合には「打上げ国」である日本が責任を負う可能性があり、その場合には生じた損害につき、当社も求償を受けるリスクがありますが、他衛星への衝突リスク等については、(i)宇宙活動法に基づく打上げ許可に際して内閣府にて事前に十分審査されておりますのでそのリスクは低いと考えており、また、(ii)宇宙損害責任条約上は宇宙空間で生じた第三者損害については「過失責任」であるところ、法的には宇宙空間で生じた損害については予見可能性がないという点で「無過失」を主張する余地も残されていることから、現時点で当社事業の大きな障害となる規定ではないと評価しております。なお、打上ロケット切離し前の第三者損害に関しましては、打上業者であるSpaceXが責任を持つ契約内容となっておりますので、基本的に当社の事業上のリスクは極めて低いと理解しております。当社としては引き続き法令を遵守した事業運営を行うべく、法令順守体制の強化や社内教育等を行っていく方針ですが、今後当社の事業が新たな法的規制の対象となった場合には、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(18)月面開発について
当社は前記「第1 企業の概況 3.事業の内容」記載のとおり、月の水資源やその他資源の商業的価値に着目した上で、“地球と月がひとつのエコシステムとなる世界を築くことにより、月に新たな経済圏を創出する”というビジョンのもと事業活動を行っており、当社が行うミッションはいずれも月面着陸が要件となっております。現状、月面開発事業については、各宇宙機関や民間企業が大規模な予算や計画を有しており、当社としては、今後、この傾向は継続し、拡大するものと考えております。
しかしながら、中長期的には、月を探査した結果、月の水資源の埋蔵量が当初想定と異なる、あるいは月の水資源の採取が、技術的に又はコスト上容易でないことが判明する等、月の資源価値や商業的価値が当初の期待とは異なる可能性があります。また、特に大きな影響を及ぼす米国において、政策変更等により、宇宙領域への投資規模の拡大/縮小や、宇宙領域の中でも重点対象が月から他へシフトすることも考えられます。その場合、当社が行うペイロードサービス等の需要が、当初想定したほどのスピード又は規模で拡大せず、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(19)新型コロナウイルスの感染拡大について
現時点において、新型コロナウイルス感染拡大による当社事業への影響は限定的ですが、過去には、渡航や移動制限等により、当社の開発及び営業活動、広報活動には制約が生じておりました。また、サプライヤーとの関係においてもランダー開発に必要な物品の納入に一部遅延が生じておりますが、製造工程の調整等により全体スケジュールへ影響がないよう管理実施しております。その他にも、今後、新型コロナウイルス感染症の拡大による世界経済の停滞により、当社顧客が月関連事業に投入できる予算が減少する可能性があります。これらの場合、当社の事業運営、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性がありますが、今後の感染拡大の規模や収束の時期についての見通しは立っておらず、現時点で業績に与える影響を予測することは困難であります。
(20)知的財産権について
当社は、事業運営の際に第三者の知的財産権侵害等が起こらないよう、弁護士事務所への照会等を実施し慎重に調査・検討を行っておりますが、第三者の知的財産権に抵触しているか否かを完全に調査することは極めて困難であります。このため、知的財産権侵害とされた場合には、損害賠償又は当該知的財産権の使用に対する対価の支払等が発生する可能性があり、その際には当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、当社の知的財産権が第三者により侵害された場合、営業秘密、ノウハウその他機密情報が外部に流出した場合には、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、当社のペイロードが獲得するデータに対して適切な保護が得られない場合には、今後の当社の事業、特にデータサービスにおけるデータプラットフォームの構築等に悪影響を及ぼす可能性があります。
(21)訴訟、係争について
当社では、本書提出日現在において業績に重大な影響を及ぼす訴訟や係争は生じておりません。
しかしながら、今後何らかの事情によって当社に関連する訴訟、係争が行われる可能性は否定できず、かかる事態となった場合、その経過又は結果によっては当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(22)システム障害等について
当社では、社内システムのセキュリティ対策やネットワークの監視等を行い、安定的に運用できるように対策を講じておりますが、サイバー攻撃や不正アクセス等により重要データの流出が発生した場合、ITインフラ機器の障害、コンピューターウイルスへの感染、自然災害、その他不測の事態が生じることによりシステムトラブル等が発生した場合や、第三者によるデータの不正使用等が生じた場合には、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、本書提出日時点において当社のデータサービスについてのデータシステムを構築しておらず、当該システムの構築やアップデートを適切に行えない場合、想定以上に期間を要する場合や、当該システムに障害が生じた場合には、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(23)輸出規制について
当社では、ITAR(武器国際取引に関する規則)、EAR(米国輸出規則)及び外国為替及び外国貿易法(外為法)の対象となる技術情報を取り扱っております。当社においては米国製の慣性航法装置がITAR管理品に該当し、ランダー開発に用いる品目にはEAR及び外為法管理品が多数含まれることから、輸出管理を統括する専門部署を設置し厳格に輸出管理を行っております。また、輸出管理規制に関してeラーニングによる社内研修を実施することで全役職員への周知徹底も図っておりますが、規則を遵守できなかった場合には法的な処分を受け、また、社会的な信用の失墜等を招き、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
(24)個人情報について
当社では、社員や一部顧客の個人情報を取り扱っておりますが、「個人情報の保護に関する法律」を遵守し、厳格な個人情報の管理の徹底を図っております。しかしながら、これら個人情報が漏洩した場合、社会的信用の失墜、事故対応による多額の経費発生等により、当社グループの業績に影響が及ぶ可能性がございます。
(25)内部管理体制について
当社では、今後の事業運営及び業容拡大に対応するため、内部管理体制について一層の充実を図る必要があると認識しており、業務の適正性及び財務報告の信頼性の確保、さらに健全な倫理観に基づく法令遵守の徹底のため内部管理体制を充実・強化させていく方針であります。しかしながら、事業規模に応じた内部管理体制の整備に遅れが生じた場合は、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(26)特定人物の依存について
当社の代表取締役CEOである袴田武史は、当社の創業者であり、設立以来当社の経営方針及び事業戦略の立案や、その遂行において重要な役割を担っております。当社は特定の人物に依存しない体制を構築すべく、幹部社員への情報共有や権限の委譲によって代表取締役CEOに過度に依存しない組織体制の整備を進めておりますが、何らかの理由により代表取締役CEOの当社における業務遂行が困難になった場合やその他の当社経営陣及び重要な従業員が当社から離職する場合、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(27)配当政策について
当社は、株主に対する利益還元を経営課題と認識しており、内部留保の充実状況及び企業を取り巻く事業環境を勘案し、利益還元政策を決定していく所存であります。
しかしながら、当社は成長過程にあり内部留保が充実しているとはいえず、創業以来配当を行えておりません。また、現時点ではミッションの達成に向けた研究開発投資等に充当し、事業拡大を目指すことが株主に対する最大の利益還元に繋がると考えております。
将来的には、内部留保の充実状況及び企業を取り巻く事業環境を勘案し、利益還元を行うことを検討してまいりますが、現時点において配当実施の可能性及びその実施時期については未定であります。
(28)税務上の繰越欠損金について
第12期事業年度末には、当社に税務上の繰越欠損金が存在しており、将来における法人税等の税負担が軽減されることが予想されます。ただし、将来において当該繰越欠損金が解消又は失効した場合は、通常の税率に基づく税負担が生じることとなり、当社の当期純利益及びキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。
(29)自然災害等について
大規模な地震等の自然災害、伝染病の蔓延や事故等、当社による予測が不可能又は突発的な事由によって、事業所等が壊滅的な損害を被る可能性があります。このような自然災害に備え、従業員安否確認手段の整備、防災品の確保等に努めておりますが、想定を超える自然災害が発生する場合は、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、打上施設やサプライヤーが自然災害により損害を被った場合、悪天候により打上スケジュールが遅延した場合、サプライヤーの所在する地域においてテロや政治的混乱が生じた場合や、宇宙空間内で太陽フレアや流星塵が生じることによってランダーとの通信に悪影響が生じる場合等にも、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(30)海外事業展開について
当社グループは、海外への事業展開にも取り組んでおり、ルクセンブルク大公国及び米国に連結子会社を有しております。ルクセンブルク子会社及び米国子会社の財務諸表における現地通貨建の項目は、連結財務諸表作成のために円換算されることから、連結財務諸表数値は為替相場の変動による影響を受ける可能性があります。また、これら子会社が所在している国の政治・経済・社会情勢・法規制等の影響により、事業遂行の不能等のカントリーリスクが顕在化する可能性があります。
また、当社グループの海外現地法人は財務諸表を現地通貨建てで作成しています。また、当社も海外のサプライヤーとの間で複数の外貨建て取引を行っていますが、特に為替予約その他ヘッジ取引は行っておりません。当社は、ペイロードサービスやデータサービス等の主要な事業については米ドル建ての入金とすることによって、米ドルに対する円の為替変動リスクを一定程度軽減しておりますが、今後著しい為替変動があった場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
さらに、海外での事業活動においては、当社の企業文化を保ちつつ優秀な人材を確保することが困難となるリスク、宇宙産業や宇宙資源開発に関する法規制に関するリスク、雇用や労働慣行に関する現地法規制に関するリスク、言語・慣習の違いや地理的分散によって経営陣によるコミュニケーションが困難となるリスク、輸出入規制・課税に関するリスク、法規制の変更に関するリスク、法規制の遵守に関するリスク、贈賄規制に関するリスク、知的財産権の保護に関するリスク、新型コロナウイルスを含む公衆衛生や渡航制限に関するリスク、政治・経済状況に関するリスク等が存在し、これらが顕在化した場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(31)収益認識に係る会計処理について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号 2021年3月26日)を適用しており、約束した財又はサービスの支配が顧客に移転した時点で、当該財又はサービスと交換に受け取ると見込まれる金額で収益を認識しております。ミッション1及びミッション2においては履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないため、原価回収基準を適用しており、今後収益認識を開始するミッション3についても同様の理由により原価回収基準を適用予定ですが、3回のミッションを経たミッション4以降は履行義務の充足に係る進捗度を総原価の発生割合により見積る方法で収益認識を実施することを検討しております。また、進捗度の見積りに利用する総原価からは、「収益認識に関する会計基準の適用指針」の22項に準じて打上コストを除いた原価を用いることを想定しております。ただし、実際の会計処理は将来の顧客との契約締結後において個々の契約内容に従い決定されるものであることから、適用される実際の会計処理は上記と異なる可能性があります。特に、当社が想定する総原価からの打上コストの控除については、下記4つの要件すべてが満たされる必要があり、個別の契約内容を確認の上最終的な会計処理を決定してまいります。
① 当該財が別個のものではないこと
② 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当程度前に、顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること
③ 移転する財のコストの額について、履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること
④ 企業が当該財を第三者から調達し、当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと
実際の契約内容を検討した結果当社の想定する会計処理が適用されない場合には、認識する収益総額は変動しないものの、収益認識タイミングが想定と異なるものとなり、期間損益に影響を与える可能性があります。
(32)当社実績について
ランダー及びローバーの開発に当たっては、研究開発費の支出や優秀な技術者の採用等、先行的な投資が必要であり、結果として当社は創業以来営業赤字を継続して計上しております。今後も開発部門におけるスケジュール管理、財務部門によるコスト管理及び各開発段階におけるレビュープロセスによるクオリティ管理を実施することで開発を着実に推進するとともに、事業収益の安定化に向けて引き続き中長期的に持続可能な顧客市場の開拓を進めていく方針にあります。しかしながら、当社の技術は現時点では完全には実証されておらず、また、当社が属する市場は新しい市場であることから、今後の当社の利益を正確に予測することには困難が伴い、想定通りの開発計画・顧客開拓が進まない場合、当社サービスに対する需要が想定通りに集まらない場合、当該投資に見合った収入が得られない場合、想定外の費用が生じた場合等には、想定通りのタイミングで利益を上げることができず、当社グループの事業及び業績に重要な悪影響を及ぼす可能性があります。
また、本書提出日時点において、データサービスについては売上実績がないことから、当社の過年度の業績は当社を評価するために十分な材料とはならず、今後の業績を判断する情報としては不十分な可能性があります。
(33)当社グループのイメージ及びブランドについて
当社の事業活動において、イメージ及びブランドは、既存顧客との関係維持又は新規顧客の獲得にとって重要な要素であると認識しています。ミッション未達や遅延、当社サービスの不具合、サイバー攻撃、顧客データの管理に関する問題について、当社にとってネガティブな報道がされた場合、当社に不利益な風説が流布した場合、当社の従業員又は経営陣による違法又は不適切な行為のあった場合その他当社のイメージやブランドに悪影響を与える事態が生じた場合や、同業他社に事故等が生じることにより月面探査に対するイメージが低下する場合には、当社の顧客が離反する又は当社が新規顧客を獲得できなくなることにより、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、第三者が当社の許可なく当社のブランド、商標、ロゴ等を使用した場合には、当社のイメージやブランドに悪影響が生じ、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(34)公募増資による調達資金使途について
東京証券取引所グロース市場への上場に伴う公募増資により調達した資金の使途につきましては、主にランダー開発や打上代金の支払い等運転資金に充当する予定であります。しかしながら、当社グループが属する業界の急速な変化により、当初の計画通りに資金を使用した場合でも、想定通りの投資効果をあげられない可能性があります。
(35)ベンチャーキャピタル等の株式所有割合に伴うリスクについて
当社の発行済株式総数に対するベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合(以下「ベンチャーキャピタル等」という。)の所有割合は本書提出日現在42.1%であります。当社の株式公開後において、当社の株式の株価推移によっては、ベンチャーキャピタル等が所有する株式の全部又は一部を売却する可能性が考えられ、その場合、株式市場における当社株式の需給バランスが短期的に損なわれ、当社株式の市場価格に悪影響を及ぼす可能性があります。