有価証券報告書-第97期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/26 11:38
【資料】
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【項目】
145項目

対処すべき課題

文中には、中期経営方針等に関する様々な業績予想及び目標数値、並びにその他の将来に関する情報が開示されています。これらの業績予想及び目標数値、並びにその他の将来に関する情報は、将来の事象についての現時点における仮定及び予想、並びにアサヒグループが現在入手可能な情報や一定の前提に基づいているため、今後様々な要因により変化を余儀なくされるものであり、これらの予想や目標の達成及び将来の業績を保証するものではありません。
(1)経営の基本方針
アサヒグループは、純粋持株会社であるアサヒグループホールディングス株式会社のもと、酒類、飲料、食品事業をグローバルに展開しています。
2019年より、グループ理念「Asahi Group Philosophy(AGP)」を制定し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指しています。AGPは、Mission、Vision、Values、Principlesで構成され、グループの使命やありたい姿に加え、受け継がれてきた大切にする価値観とステークホルダーに対する行動指針・約束を掲げています。国内外の事業会社は、AGPに基づいた戦略を策定、実行していくことにより、グループ一丸となって企業価値の向上に努めています。
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(2)中期的な経営戦略
AGPに基づいて策定した「中期経営方針」では、3年程度先を想定した「主要指標のガイドライン」や「財務、キャッシュ・フローのガイドライン」を示しつつ、以下の3つの重点課題を設定しています。
なお、重点課題については、新型コロナウイルスの感染拡大の影響やCUB事業の取得完了などを踏まえ、2021年2月に一部を更新いたしました。コロナ禍を踏まえた環境変化へ柔軟に対応し早期の業績回復を図るとともに、引き続きAGPに基づく“グローカルな価値創造経営”を推進していきます。
① 高付加価値化や収益構造改革による『稼ぐ力の強化』
・全事業での高付加価値ブランドの育成とグローバル5ブランド※の拡大によるプレミアム戦略の推進
・環境変化を見据えた収益構造改革の加速
- 2021-2023年累計の効率化効果は500億円以上を目指し、業績回復を促進するとともに、「経営資源の高度化」・「ESGへの取組み深化」に再投資する
② 新たな成長源泉の拡大に向けた『経営資源の高度化』
・イノベーション、新価値創造に向けた無形資産(研究開発・人材等)への投資強化
・DX(デジタル・トランスフォーメーション)の加速による新たなオペレーティングモデルの構築
③ 持続的な価値創造プロセスを支える『ESGへの取組み深化』
・「アサヒグループ環境ビジョン2050」、「持続可能なコミュニティ」の取組み強化など、サステナビリティを経営戦略に統合
・リスクマネジメントの高度化(ERM)、日欧豪3極を核としたグローバルガバナンスの強化
※ アサヒスーパードライ、Peroni Nastro Azzurro、Pilsner Urquell、Grolsch、Kozel
(3)目標とする経営指標
「中期経営方針」における主要指標のガイドラインは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を踏まえ既存のガイドラインは取り下げ、2022年に新たなガイドラインを設定する予定です。なお、2022年には、2019年の利益水準※1への回復を目指していきます。
財務、キャッシュ・フロー方針のガイドラインとしては、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)※2は年平均2,000億円以上とし、これを原資として債務削減へ優先的に充当し、成長投資への余力を高めていきます(Net Debt/EBITDAは、2024年に3倍程度※3を目指す)。
株主還元については、配当性向35%を目途とした安定的な増配を目指していく方針です(将来的な配当性向は40%を目指す)。
※1 2019年実績は、CUB事業の業績(1-12月推定値)を含むベース
※2 FCF=営業CF-投資CF (M&A等の事業再構築を除く)
※3 劣後債の50%はNet Debtから除いて算出
(4)対処すべき課題
今後の外部環境としては、新型コロナウイルスの感染拡大によりグローバルで経営環境が大きく変化し、消費構造の多価値化や働き方の多様化など、多様なチャンスとリスクが拡大することが想定されます。また、持続的な価値創造プロセスを支えるESGに対しても、ますますその取組みを深化させていくことが求められています。
そのような状況の中、更新した「中期経営方針」の重点課題に基づいて、引き続き“グローカルな価値創造経営”を推進するとともに、コロナ禍による環境変化を見据えた経営改革に取り組みます。
『稼ぐ力の強化』においては、各事業の主力ブランドの価値向上を目指すとともに、ノンアルコールビールテイスト飲料など新たな成長カテゴリーへの投資を強化します。また、『アサヒスーパードライ』などのグローバル5ブランドの拡大展開などにより、グループ全体のプレミアム戦略を推進します。更なるコスト効率化により、業績回復を促進するとともに、持続的な成長に向けた『経営資源の高度化』や『ESGへの取組み深化』に投資し、環境変化を見据えた収益構造改革を加速していきます。
『経営資源の高度化』においては、新たに取得したCUB事業とのシナジーを含め、研究開発や人材など無形資産への投資を強化します。また、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取組みを積極的に推進し、働き方の改革も含め新たなオペレーティングモデルを構築していきます。
『ESGへの取組み深化』においては、「アサヒグループ環境ビジョン2050」の実現に向けて各種の施策を実行するとともに、各地域の「持続可能なコミュニティ」の活性化に取り組むなど、サステナビリティの経営戦略への統合を進めていきます。また、コロナ禍を踏まえたリスクマネジメントをさらに高度化するとともに、日本、欧州、豪州の3極を核としたグローバルガバナンスを強化していきます。
アサヒグループのESGの取組み
1.アサヒグループのESG経営について
アサヒグループは、グループ理念「Asahi Group Philosophy」に基づき、「中期経営方針」の重点課題のひとつとして、「ESGへの取組み深化」を掲げています。2020年は「Asahi Group Philosophy」の実現に向けて、サステナビリティに取り組む意義や目指す未来の姿を明文化し、グループの共通認識としました。
アサヒグループサステナビリティ基本方針
1.アサヒグループの商品やサービスは、自然の恵みを使って、期待を超えるおいしさの実現を目指しています。
その大切な自然の恵みを後世につないでいくために、限りある自然を守ります。
2.アサヒグループは、自社の商品・サービスを通じて、人々の楽しい生活文化の創造を目指しています。
よりよい生活文化が継承されていくために、持続可能な社会を形成します。

アサヒグループサステナビリティビジョン
私たちは、基本方針に則り、経営戦略に「環境」「人」「コミュニティ」「健康」「責任ある飲酒」を組み込み、事業を展開するすべての地域でよりよい未来に向けた価値を創造していきます。この取組みを通じて国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に貢献できるよう、私たちは挑戦と革新を続けます。

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2.「環境」の取組み
<気候変動への対応>アサヒグループは「アサヒ カーボンゼロ」(2050年CO2排出量ゼロ※1)の達成に向けて、再生可能エネルギー等の活用等を積極的に進めています。2020年に、2030年の中間目標を見直し、CO2排出量目標を30%削減(2015年比)※1から50%削減(2019年比)※2に引き上げました。
※1 Scope1,2,3が対象
※2 Scope1,2が対象
0102010_003.png2050年にCO2排出量ゼロを目指す

「アサヒ カーボンゼロ」の取組みを加速させるため、再生可能エネルギーの活用や外部の認証取得を進めています。
0102010_004.png事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的なイニシアティブ「RE100」に、2020年10月に参画しました。再生可能エネルギーの更なる活用に取り組みます。
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「アサヒ カーボンゼロ」が、企業のCO2排出量削減目標の科学的根拠を認定する国際的なイニシアティブである、SBT(Science Based Targets)イニシアティブの「1.5℃目標」認定を2021年2月に取得しました。

①気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同
気候変動によるリスクと機会に関連した事業インパクトの評価・対応策の立案が、持続可能な社会の実現及び事業の持続可能性に必要であると認識し、2019年5月にTCFD提言への賛同を表明しました。2020年は、アサヒグループにとって、最もインパクトのあるビール事業に特化して、事業インパクトをシナリオ分析の手法を用いて定量的に評価しました。
◆事業インパクト評価
日本、欧州、豪州のビール事業における「農産物原料の収量減少による原料価格の高騰」と「炭素税の導入によるコストの増大」が、特に大きな影響(リスク)を及ぼす可能性があることを認識し、以下のとおり評価を実施しました。
農作物原料の収量減少による
原料価格の高騰
炭素税の導入によるコスト増大
2℃シナリオ・4℃シナリオにおける収量影響
(2018年供給量を100とした場合の2050年推計値)
2℃シナリオにおける炭素税の影響額
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大麦とトウモロコシは、2℃シナリオに比べ4℃シナリオの場合に収量が大きく減少
「アサヒカーボンゼロ」を実施した場合の炭素税削減効果
→2030年 14億円、2050年 70億円

◆対応策の方向性の検討
評価を実施したリスクへの対応策については、既存の取組みを継続・加速するとともに、以下の主な方向性についても経営課題として取り組んでいきます。
主なリスク既存の取組み対応策の方向性
原材料価格高騰● 複数購買によるリスク分散化● 気候耐性品種の開発
● 栽培方法の開発と導入
炭素税・炭素価格● コ・ジェネレーションシステムの導入
● ポーランド、オランダ等における風力発電による再生可能エネルギーの導入
● 更なる再生可能エネルギーの活用

また、その他のリスクに対しても同様に、以下のとおり取り組んでいきます。
主なリスク既存の取組み対応策の方向性
水使用に関する
規制
● 2025年までに社有林「アサヒの森」2,467haを活用した、国内ビール工場でのウォーターニュートラルを達成
● 水使用量の削減(洗浄・殺菌工程での水使用量削減や回収水の有効活用)
● 更なる水使用量の削減
(大規模なリサイクルシステムの導入等)
顧客行動の変化● 『アサヒスーパードライ』缶350mlなどに「グリーンエネルギーマーク」を記載● エシカル消費拡大への対応
(認証原料の使用等)
異常気象の激甚化● BCPの策定、各種行動マニュアル整備
● 設備・備品の整備、防災訓練の実施
● 拠点の移転・新設時における中長期的な気候変動影響の考慮

②欧州における再生可能エネルギーの活用
欧州では2025年までにすべての工場の電力を再生可能エネルギーに切り替え、2030年までにカーボンニュートラルな工場になることを目指しています。現在、ポーランド、オランダ、イタリアの計7工場において、再生可能エネルギーの電力のみを用いて製造しております。
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③日本におけるグリーン電力の活用拡大
アサヒビール株式会社は、日本自然エネルギー株式会社と契約し活用している「グリーン電力」※を、『アサヒスーパードライ』缶350ml及び『アサヒドライゼロ』缶350mlなどに加えて、2020年5月下旬製造分から『アサヒスーパードライ』缶500mlの製造にも活用を拡大しました。
※風力やバイオマスといった地球環境への負担が少ない自然エネルギーで発電された電力。アサヒビールは2009年から「グリーン電力証書システム」を利用しています。
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3.「コミュニティ」の取組み
コミュニティ活動スローガン 「RE:CONNECTION」

経済発展の過程で人と人、人と地域の「つながり」の希薄化が問題になっているなか、COVID-19は「つながり」をさらに脆弱なものにさせています。
アサヒグループはあらためて「つながり」を見直し、進化させることが重要だと考え、人と人を、人と地域を、地域と地域を「つなぎ」、地域課題を解決することで、持続可能なコミュニティの実現に貢献していきます。
①持続可能な麦芽のための
パートナーシップ
Campus Peroni
イタリアのBirra Peroni S.r.l.では、持続可能なビールの原材料となる大麦などの穀物栽培の探求を目的に、麦芽工場、国立農業研究センター、複数の地元大学の農学部とパートナーシップを組んだ「Campus Peroni」というプロジェクトを2018年から実施しています。
研究、トレーニング、イノベーション、農業生産者の間の交流の促進に向けた取組みが進んでいます。
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②マレーシア酪農家支援プログラム
マレーシアで乳製品を扱うEtika Dairies Sdn Bhdは、地元の酪農家の支援策として、一定の品質基準と生産量を提供する酪農家の生乳を安定的な価格で買い上げるプログラムを展開しています。
酪農家の生産性と品質の向上を推進するだけでなく、酪農家の収入向上、また安定的な収入を確保する仕組みとして、新たに酪農家を目指す新規参入者の支援にも貢献しています。
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