有価証券報告書-第161期(2025/04/01-2026/03/31)
有報資料
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社および連結子会社、以下「SHIONOGI」という)が判断したものであります。
(1) 経営方針・経営戦略等
■経営の基本方針
SHIONOGIは、「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬(ヘルスケアソリューション)を提供する」ことを基本方針(SHIONOGI Group Heritage)として掲げております。その実現のためには、革新的な新薬を創製し製造するとともに、益々多くの人々にその品質と安全性に関する科学的に裏付けられた正確な情報を提供し使っていただかなければなりません。そして、SHIONOGIのあらゆる人々が持つ知識と技術を日々向上させることが、すべてのステークホルダー(顧客、株主・投資家、社会、従業員など)の利益の拡大につながるものと考えております。
■2030年に成し遂げたいビジョン(SHIONOGI Group Vision)
SHIONOGIは、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」ことをSHIONOGI Group Visionとして掲げ、事業変革に取り組んでおります。先進諸国における社会保障費の増加に対する懸念の高まりや医療ニーズの高度化、多様化が進む中で懸命にこれに対処し、人々の健康と持続可能な社会の実現に貢献し続けることがSHIONOGIの社会的使命であると認識しております。一方で医療用医薬品ビジネスには、主力製品の特許切れという事業のサステイナビリティに関わる課題が常に存在します。SHIONOGIは医療用医薬品を提供する従来型の「創薬型製薬企業」から、幅広いヘルスケアサービスを提供する「HaaS(Healthcare as a Service)企業」へと自らを変革し、社会に対して新たな価値を提供し続けていくことで、患者さまや社会の抱える困り事をより包括的に解決したいと考えております。そのためには、創業来培ってきた創薬型製薬企業としての創造力と専門性に基づいた強みをさらに進化させ、異なる強みを持つ他社・他産業から選ばれる「協創の核」として、ヘルスケア領域の新たなプラットフォームを構築していかなければなりません。
SHIONOGIは、SHIONOGI Group Visionの実現に向け、変化を恐れず多様性を受容し、既成概念を超えて自らを「Transform」することに、取り組んでまいります。

■経営環境及び経営戦略
グローバルでビジネスの環境は複雑さを増し、将来の予測が困難な状態にあります。世界人口の増加と高中所得国における少子高齢化の進行、地球規模で起こる気候変動等の環境変化とそれらに伴う疾病構造やヘルスケアに求められるニーズの変化、AIの飛躍的な進化、人々の価値観の多様化、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるパンデミックを契機とした創薬の研究開発の進め方やグローバル展開の考え方の変革等、ヘルスケア産業を取り巻く外部環境は急速に変化しております。また、医療保険財政のひっ迫に伴い先進諸国で薬剤費抑制への圧力が強まる中、我が国においては2021年度より、これまで2年に一度であった医療用医薬品の薬価改定が毎年施行されるなど、製薬企業の経営を取り巻く環境は一層厳しさを増しております。さらには、経済・技術・安全保障などの分野における大国同士の主導権争いや、米国による関税措置などの自国優先の動きに加え、ロシアによるウクライナへの侵略の長期化・中東対立の拡大などの地政学リスクの高まりを受け、諸外国におけるビジネスの展開や医薬品原材料の調達・供給の難度化と停滞のリスクなども日々顕在化してきております。このような外部環境の急速な変化によりビジネスの予見性がグローバル規模で低下する状況においては、イノベーションへの投資を継続しながらも、事業を安定的に運営することがこれまで以上に求められます。
こうした厳しい環境下においても、SHIONOGIは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬ゾコーバの開発に率先して取り組み、これまでにないスピードで創薬から臨床開発、承認申請へと進め、緊急承認を取得するなど、社会の安定化のために一定の成果を示すことができました。また、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)フランチャイズについては、HIVとともに生きる人々のニーズに応える2剤のみからなるより安全な経口剤の浸透と、さらに根源的なニーズに対応できる長時間作用型注射製剤(Long Acting Injectable:LAI製剤)の発売により、これまで経口薬が中心であった市場をLAI製剤に置き換えていくViiV Healthcare Ltd.(以下、ViiV Healthcare)の画期的な戦略が着実に成果を上げております。その結果、当社がViiV Healthcareに導出したカボテグラビルを含むLAI製剤のCabenuva(治療薬)とApretude(予防薬)の販売が順調に拡大し、今後も安定的な成長が期待できる見通しとなりました。
当社グループは、SHIONOGI Group Visionを実現するために、2020年に中期経営計画「Shionogi Transformation Strategy 2030(STS2030)を発表し、様々な取り組みを進めてまいりました。そして、STS2030を策定してから2023年までの3年間の取り組みによる成果や学びをもとに、SHIONOGI Group Visionの実現に向けた道筋をより明確にするため2023年6月にSTS2030をアップデートし、STS2030 Revisionとして再策定いたしました。
■STS2030 Revisionの概要
STS2030 Revisionでは、2023年度から2025年度の3ヵ年をSTS Phase2と位置付け、変革による成長を加速させることを目指してまいりました。また、2026年度から2030年度までをSTS Phase3として計画を策定し、実行していくこととしておりました。

STS Phase1では、自社創製品の販売拡大と医療用医薬品以外の製品・サービスの進展、さらにガバナンスの強化を通じて主要KPIを概ね達成することができました。STS Phase2では「感染症領域を中心としたグローバルでのトップラインの成長」と「積極投資による成長ドライバーの育成を実現すること」を基本方針とし、3つの柱である「HIVビジネスの更なる成長」、「急性呼吸器感染症事業」、「新製品・新規事業拡大」を通じて、成長を加速させていく方針で取り組みを進めました。その結果、2022年度に創業来過去最高の売上収益と営業利益を達成し、さらに、2023年度から2025年度まで3期連続で過去最高を更新し続けることができました。特に、2025年度には売上収益およびすべての利益項目で過去最高の業績を達成するなど、着実な成長を実現しております。
■SHIONOGI Group Visionの実現に向けて
このようにSHIONOGI Group Visionの実現に向けて着実な成長を続ける中で、STS Phase2の最終年度に当たる2025年度に、当社は2026年度以降のさらなる飛躍的な成長を見据え、大規模な事業投資を複数実行いたしました。
その実行に至った背景には、当社の収益基盤であるHIV事業が、中長期にわたり安定した収益基盤となる見通しが一層確かなものとなったことがあげられます。HIV事業においてViiV Healthcareの戦略が奏功し、LAI製剤の市場浸透が順調に進展するとともに、さらなる成長を担う第3世代のインテグラ―ゼ阻害剤S-395598/VH4524184の開発が大きく進展いたしました。経口剤によるPhase2a試験において、優れた抗ウイルス効果と良好な安全性、さらに既存のインテグラーゼ阻害剤とは異なる耐性プロファイルを確認することができました。さらに、6ヵ月に1回(年に2回のみ)の投与で治療が期待できる良好な臨床試験結果も公表されました。こうした進展を受け、ViiV Healthcareとのパートナーシップのさらなる深化とHIV領域へのコミットメントの強化を目的に、ViiV Healthcareへの追加出資を決定いたしました。
さらに、中長期の成長の源泉となる自社創薬力と重要な事業基盤の1つである国内事業の強化を目的とした日本たばこ産業株式会社の医薬事業(以下、JT医薬事業)と傘下の鳥居薬品株式会社(以下、鳥居薬品)、Akros Pharma Inc.(以下、Akros社)を一体で獲得するM&Aの実施、米国における販売力の強化と感染症領域に続く成長領域としての希少疾患事業の確立を目的に、田辺ファーマ株式会社(以下、田辺ファーマ)から筋萎縮性側索硬化症等の治療薬であるエダラボンの事業買収を行いました。これら3つの大きな事業投資により、当社の今後の成長に向けた事業基盤の獲得と経営基盤の強化が順調に進展いたしました。
当初、STS2030 Revisionでは、2026年度から2030年度までをSTS Phase3として、2026年度に新たな計画を公表する予定でした。しかし、上記の積極的な事業投資を進めたことで、当社の経営を取り巻く前提は大きく変化しております。このため、2026年度については、一連の事業投資によって獲得した事業基盤を、将来の成長に向けて確実に定着させることに注力する一年と位置付けております。こうした考えのもと、新たな中期経営計画については、その先の成長を見据え、2027年4月以降に公表することを予定しております。
■SHIONOGIの重要課題(マテリアリティ)とSTS2030 Revisionとの関係
SHIONOGIは事業活動を通じて社会課題や医療ニーズに応え、社会に必要とされる企業として成長し、その成果をステークホルダーと共有していくことを目指しております。その実現のため、SHIONOGIを取り巻く環境を捉え、環境変化に対する機会と脅威の評価およびSHIONOGIの現状や課題などの分析を通じて重要課題(マテリアリティ)を特定しております。これらのマテリアリティのうち、2030年までのSHIONOGIの成長や社会からの要請を考慮し、特に欠かせない要素をSTS2030 Revisionの戦略に組み入れております。
マテリアリティの詳細については「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。
※マテリアリティの特定プロセスおよびリスクと機会の分析・評価に関する詳細については、Webサイトをご覧ください。
https://www.shionogi.com/jp/ja/company/strategy/important-issues.html
(2) STS2030 Revision で優先的に対処すべき事業上および財務上の課題
マテリアリティの中で特に重視している課題は「感染症の脅威からの解放」であり、その実現こそが感染症のリーディングカンパニーとしてのSHIONOGIの使命であると考え、STS2030 Revisionでは感染症領域における種々のヘルスケア課題の解決と持続可能なビジネスモデル構築を目指しております。また、「健やかで豊かな人生への貢献」についても重視するマテリアリティの1つと据え、従来注力領域に掲げていた「精神・神経疾患」と「疼痛」にこだわらず「認知症」、「肥満症」、「子どもの疾患・希少疾患」や「睡眠障害」といった社会的影響度の高いQOL(Quality of Life)疾患にフォーカスし、誰もが自分らしく生き生きとした生活を送ることができる社会の実現に貢献いたします。
■社会課題の解決を通じた価値創造
①感染症の脅威からの解放
SHIONOGIは、60年以上にわたって感染症の研究・開発を続けており、これまで多くの感染症治療薬を社会に提供してまいりました。長い活動で培われた感染症領域への深い理解や化合物・病原体のライブラリなどの強みをベースに、今後もアンメットニーズの充足に貢献するソリューションを提供することができるものと考えております。
世界をCOVID-19のパンデミックの脅威から一日でも早く解放することを最優先に、COVID-19に対する治療薬とワクチンの開発に取り組みました。この経験とノウハウを活かして、今後出現する可能性のある変異株、コロナウイルスによる次のパンデミックに対しても有効な広域コロナウイルスワクチンの創製にも取り組んでおります。さらに、島津製作所との合弁会社である株式会社AdvanSentinelによる下水疫学調査サービスの提供、COVID-19診断薬の開発や供給など、感染症のトータルケア(治療のみではなく未病、予防、診断、予後なども含めた疾患全体のケア)の実現に向けた製品・サービスの整備を行いました。引き続き、ゾコーバのエビデンス構築、小児や予防などへの適応拡大により、いまだ満たされていないニーズの充足に貢献するとともに、感染症のトータルケアをグローバルに展開することで、トップラインの成長と持続可能なビジネスモデルの構築を目指してまいります。
また、世界三大感染症についても、HIVのみならず、結核やマラリアなど、治療に長期間を要する感染症にコミットすることで、感染症のリーディングカンパニーとしての使命を果たしてまいります。
さらに、SHIONOGI単独では対応が難しい感染症に対しても、社会とともに課題を解決するための仕組みの構築に取り組んでまいります。薬剤耐性(AMR)は、サイレント・パンデミックと称され、喫緊かつグローバルな脅威として徐々に認知が高まっておりますが、将来的な脅威の拡大が危惧されているにもかかわらず、創薬の難易度や投資が回収できないといったビジネスリスクの為に世界的に新規治療薬の開発が停滞している現状があります。こうした中でSHIONOGIは、AMRに対する有望な治療選択肢として、世界で初めてのシデロフォアセファロスポリン抗菌薬であるセフィデロコルを創出しました。さらに、Qpex Biopharma, Inc.(以下「Qpex社」)を完全子会社化することで広域阻害スペクトラムを有するβ-ラクタマーゼ阻害剤を獲得するとともに、新たな研究拠点であるQpex US Lab.を開設するなど、抗菌薬研究開発のケイパビリティ強化および米国でのネットワーク強化に取り組んでおります。加えて、低・中所得国を含む世界中の国々の感染症治療薬へのアクセス改善を目的に、MPP(Medicines Patent Pool)とパートナーシップを形成し、GARDP(Global Antibiotic Research and Development Partnership)、CHAI(Clinton Health Access Initiative)との間でも提携契約を締結しております。
②健やかで豊かな人生への貢献
SHIONOGIは、誰もが自分らしく生き生きとした生活を送ることができる社会の実現を目指し、社会的影響度の高いQOL疾患をSTS2030 Revisionで注力する領域として掲げ、すでに研究開発を進めていた精神・神経疾患、疼痛だけでなく、睡眠障害や難聴などの特にアンメットニーズの高い領域のパイプラインの開発を進めております。2024年度には不眠症治療薬「クービビック®錠25mg 50mg」、2025年度にはうつ病治療薬「ザズベイ®カプセル30mg」の国内販売を開始いたしました。加えて、鳥居薬品の完全子会社化によって、アレルギー、皮膚疾患領域の豊富な製品群を獲得することで、QOL疾患領域での取り組みを拡大しております。
また、HaaS企業としてのさらなる成長を実現するため、医療用医薬品を軸としたソリューションのプラットフォームを提供し、より多くの患者さまのニーズに応えるための取り組みを進めております。2024年度には小児期における注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療用アプリ「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)®」の国内製造販売承認を取得するとともに、サスメド社の不眠障害用アプリやFRONTEO社と共同で会話型認知機能検査用AIプログラム医療機器の開発などにも取り組み、患者さまのニーズに寄り添うHaaS構想の具現化を進めております。また、一人ひとりの児童生徒に合致した適切な教育プランを教員に提案する教育支援サービスを提供するYui Connection株式会社の設立、ピクシーダストテクノロジーズ社との連携による音刺激を活用した認知症機能改善に向けた取り組みの推進、2025年度はFRONTEO社との共同によるあたまの健康度判定Webアプリケーション「トークラボKIBIT」の提供開始と保険付帯サービスとしての社会実装など、HaaS実現に向けた環境整備を進展させることができました。今後も、治療薬の提供にとどまらず、革新的な治療選択肢やサービスの開発・提供を通じて患者さまとそのご家族、さらには周囲で支援しておられる皆さまの困りごとを解決し、QOLや社会の生産性向上に貢献してまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
STS2030 Revisionでは、達成すべき財務経営指標として3つの成長性指標と3つの株主還元指標を設定しております。成長性指標については、トップラインの成長を優先して進めていくことから売上収益、またその成長をグローバルに成し遂げていくことから海外売上高 CAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)、そして成長に向けた積極的な投資を行っていくことと稼ぐ力を測るためにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い・税引き・償却前利益、コア営業利益に減価償却費を加えた利益)の3つを設定しております。また、株主還元指標として、事業成長と財務施策の観点からEPS、DOE、ROEの3つを継続して設定しております。
※1 当社は、2025年5月12日に開示いたしました2024年度決算において、2025年度目標の主要業績評価指標(KPI)のうち、売上収益を5,500億円から5,300億円、EBITDAを2,000億円から1,960億円に修正いたしました。また、海外売上高CAGRについては、2026年度以降のさらなる成長を見据え再設定する予定です。
※2 当社は、2024年10月1日を効力発生日として、普通株式1株につき3株の割合をもって株式分割を行っております。2025年度目標のEPSには株式分割後の数値を記載しております。
当社は、2025年度に大規模な事業投資を複数実施し、新たな成長フェーズへと歩みを進めております。そのため、経営指標についても、今後公表予定の新中期経営計画での更新を予定しております。今後も、取り組むべき施策をひとつひとつ着実に実行するとともに、さらなる収益ドライバーを確立するためのM&Aや導入、提携などの事業開発機会の探索を継続し、強固な財務基盤を活かして各案件の価値に見合った投資を積極的に実行していくことで、経営指標の達成を目指してまいります。
(1) 経営方針・経営戦略等
■経営の基本方針
SHIONOGIは、「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬(ヘルスケアソリューション)を提供する」ことを基本方針(SHIONOGI Group Heritage)として掲げております。その実現のためには、革新的な新薬を創製し製造するとともに、益々多くの人々にその品質と安全性に関する科学的に裏付けられた正確な情報を提供し使っていただかなければなりません。そして、SHIONOGIのあらゆる人々が持つ知識と技術を日々向上させることが、すべてのステークホルダー(顧客、株主・投資家、社会、従業員など)の利益の拡大につながるものと考えております。
■2030年に成し遂げたいビジョン(SHIONOGI Group Vision)
SHIONOGIは、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」ことをSHIONOGI Group Visionとして掲げ、事業変革に取り組んでおります。先進諸国における社会保障費の増加に対する懸念の高まりや医療ニーズの高度化、多様化が進む中で懸命にこれに対処し、人々の健康と持続可能な社会の実現に貢献し続けることがSHIONOGIの社会的使命であると認識しております。一方で医療用医薬品ビジネスには、主力製品の特許切れという事業のサステイナビリティに関わる課題が常に存在します。SHIONOGIは医療用医薬品を提供する従来型の「創薬型製薬企業」から、幅広いヘルスケアサービスを提供する「HaaS(Healthcare as a Service)企業」へと自らを変革し、社会に対して新たな価値を提供し続けていくことで、患者さまや社会の抱える困り事をより包括的に解決したいと考えております。そのためには、創業来培ってきた創薬型製薬企業としての創造力と専門性に基づいた強みをさらに進化させ、異なる強みを持つ他社・他産業から選ばれる「協創の核」として、ヘルスケア領域の新たなプラットフォームを構築していかなければなりません。
SHIONOGIは、SHIONOGI Group Visionの実現に向け、変化を恐れず多様性を受容し、既成概念を超えて自らを「Transform」することに、取り組んでまいります。

■経営環境及び経営戦略
グローバルでビジネスの環境は複雑さを増し、将来の予測が困難な状態にあります。世界人口の増加と高中所得国における少子高齢化の進行、地球規模で起こる気候変動等の環境変化とそれらに伴う疾病構造やヘルスケアに求められるニーズの変化、AIの飛躍的な進化、人々の価値観の多様化、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるパンデミックを契機とした創薬の研究開発の進め方やグローバル展開の考え方の変革等、ヘルスケア産業を取り巻く外部環境は急速に変化しております。また、医療保険財政のひっ迫に伴い先進諸国で薬剤費抑制への圧力が強まる中、我が国においては2021年度より、これまで2年に一度であった医療用医薬品の薬価改定が毎年施行されるなど、製薬企業の経営を取り巻く環境は一層厳しさを増しております。さらには、経済・技術・安全保障などの分野における大国同士の主導権争いや、米国による関税措置などの自国優先の動きに加え、ロシアによるウクライナへの侵略の長期化・中東対立の拡大などの地政学リスクの高まりを受け、諸外国におけるビジネスの展開や医薬品原材料の調達・供給の難度化と停滞のリスクなども日々顕在化してきております。このような外部環境の急速な変化によりビジネスの予見性がグローバル規模で低下する状況においては、イノベーションへの投資を継続しながらも、事業を安定的に運営することがこれまで以上に求められます。
こうした厳しい環境下においても、SHIONOGIは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬ゾコーバの開発に率先して取り組み、これまでにないスピードで創薬から臨床開発、承認申請へと進め、緊急承認を取得するなど、社会の安定化のために一定の成果を示すことができました。また、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)フランチャイズについては、HIVとともに生きる人々のニーズに応える2剤のみからなるより安全な経口剤の浸透と、さらに根源的なニーズに対応できる長時間作用型注射製剤(Long Acting Injectable:LAI製剤)の発売により、これまで経口薬が中心であった市場をLAI製剤に置き換えていくViiV Healthcare Ltd.(以下、ViiV Healthcare)の画期的な戦略が着実に成果を上げております。その結果、当社がViiV Healthcareに導出したカボテグラビルを含むLAI製剤のCabenuva(治療薬)とApretude(予防薬)の販売が順調に拡大し、今後も安定的な成長が期待できる見通しとなりました。
当社グループは、SHIONOGI Group Visionを実現するために、2020年に中期経営計画「Shionogi Transformation Strategy 2030(STS2030)を発表し、様々な取り組みを進めてまいりました。そして、STS2030を策定してから2023年までの3年間の取り組みによる成果や学びをもとに、SHIONOGI Group Visionの実現に向けた道筋をより明確にするため2023年6月にSTS2030をアップデートし、STS2030 Revisionとして再策定いたしました。
■STS2030 Revisionの概要
STS2030 Revisionでは、2023年度から2025年度の3ヵ年をSTS Phase2と位置付け、変革による成長を加速させることを目指してまいりました。また、2026年度から2030年度までをSTS Phase3として計画を策定し、実行していくこととしておりました。

STS Phase1では、自社創製品の販売拡大と医療用医薬品以外の製品・サービスの進展、さらにガバナンスの強化を通じて主要KPIを概ね達成することができました。STS Phase2では「感染症領域を中心としたグローバルでのトップラインの成長」と「積極投資による成長ドライバーの育成を実現すること」を基本方針とし、3つの柱である「HIVビジネスの更なる成長」、「急性呼吸器感染症事業」、「新製品・新規事業拡大」を通じて、成長を加速させていく方針で取り組みを進めました。その結果、2022年度に創業来過去最高の売上収益と営業利益を達成し、さらに、2023年度から2025年度まで3期連続で過去最高を更新し続けることができました。特に、2025年度には売上収益およびすべての利益項目で過去最高の業績を達成するなど、着実な成長を実現しております。
■SHIONOGI Group Visionの実現に向けて
このようにSHIONOGI Group Visionの実現に向けて着実な成長を続ける中で、STS Phase2の最終年度に当たる2025年度に、当社は2026年度以降のさらなる飛躍的な成長を見据え、大規模な事業投資を複数実行いたしました。
その実行に至った背景には、当社の収益基盤であるHIV事業が、中長期にわたり安定した収益基盤となる見通しが一層確かなものとなったことがあげられます。HIV事業においてViiV Healthcareの戦略が奏功し、LAI製剤の市場浸透が順調に進展するとともに、さらなる成長を担う第3世代のインテグラ―ゼ阻害剤S-395598/VH4524184の開発が大きく進展いたしました。経口剤によるPhase2a試験において、優れた抗ウイルス効果と良好な安全性、さらに既存のインテグラーゼ阻害剤とは異なる耐性プロファイルを確認することができました。さらに、6ヵ月に1回(年に2回のみ)の投与で治療が期待できる良好な臨床試験結果も公表されました。こうした進展を受け、ViiV Healthcareとのパートナーシップのさらなる深化とHIV領域へのコミットメントの強化を目的に、ViiV Healthcareへの追加出資を決定いたしました。
さらに、中長期の成長の源泉となる自社創薬力と重要な事業基盤の1つである国内事業の強化を目的とした日本たばこ産業株式会社の医薬事業(以下、JT医薬事業)と傘下の鳥居薬品株式会社(以下、鳥居薬品)、Akros Pharma Inc.(以下、Akros社)を一体で獲得するM&Aの実施、米国における販売力の強化と感染症領域に続く成長領域としての希少疾患事業の確立を目的に、田辺ファーマ株式会社(以下、田辺ファーマ)から筋萎縮性側索硬化症等の治療薬であるエダラボンの事業買収を行いました。これら3つの大きな事業投資により、当社の今後の成長に向けた事業基盤の獲得と経営基盤の強化が順調に進展いたしました。
当初、STS2030 Revisionでは、2026年度から2030年度までをSTS Phase3として、2026年度に新たな計画を公表する予定でした。しかし、上記の積極的な事業投資を進めたことで、当社の経営を取り巻く前提は大きく変化しております。このため、2026年度については、一連の事業投資によって獲得した事業基盤を、将来の成長に向けて確実に定着させることに注力する一年と位置付けております。こうした考えのもと、新たな中期経営計画については、その先の成長を見据え、2027年4月以降に公表することを予定しております。
■SHIONOGIの重要課題(マテリアリティ)とSTS2030 Revisionとの関係
SHIONOGIは事業活動を通じて社会課題や医療ニーズに応え、社会に必要とされる企業として成長し、その成果をステークホルダーと共有していくことを目指しております。その実現のため、SHIONOGIを取り巻く環境を捉え、環境変化に対する機会と脅威の評価およびSHIONOGIの現状や課題などの分析を通じて重要課題(マテリアリティ)を特定しております。これらのマテリアリティのうち、2030年までのSHIONOGIの成長や社会からの要請を考慮し、特に欠かせない要素をSTS2030 Revisionの戦略に組み入れております。
マテリアリティの詳細については「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。
※マテリアリティの特定プロセスおよびリスクと機会の分析・評価に関する詳細については、Webサイトをご覧ください。
https://www.shionogi.com/jp/ja/company/strategy/important-issues.html
(2) STS2030 Revision で優先的に対処すべき事業上および財務上の課題
マテリアリティの中で特に重視している課題は「感染症の脅威からの解放」であり、その実現こそが感染症のリーディングカンパニーとしてのSHIONOGIの使命であると考え、STS2030 Revisionでは感染症領域における種々のヘルスケア課題の解決と持続可能なビジネスモデル構築を目指しております。また、「健やかで豊かな人生への貢献」についても重視するマテリアリティの1つと据え、従来注力領域に掲げていた「精神・神経疾患」と「疼痛」にこだわらず「認知症」、「肥満症」、「子どもの疾患・希少疾患」や「睡眠障害」といった社会的影響度の高いQOL(Quality of Life)疾患にフォーカスし、誰もが自分らしく生き生きとした生活を送ることができる社会の実現に貢献いたします。
■社会課題の解決を通じた価値創造
①感染症の脅威からの解放
SHIONOGIは、60年以上にわたって感染症の研究・開発を続けており、これまで多くの感染症治療薬を社会に提供してまいりました。長い活動で培われた感染症領域への深い理解や化合物・病原体のライブラリなどの強みをベースに、今後もアンメットニーズの充足に貢献するソリューションを提供することができるものと考えております。
世界をCOVID-19のパンデミックの脅威から一日でも早く解放することを最優先に、COVID-19に対する治療薬とワクチンの開発に取り組みました。この経験とノウハウを活かして、今後出現する可能性のある変異株、コロナウイルスによる次のパンデミックに対しても有効な広域コロナウイルスワクチンの創製にも取り組んでおります。さらに、島津製作所との合弁会社である株式会社AdvanSentinelによる下水疫学調査サービスの提供、COVID-19診断薬の開発や供給など、感染症のトータルケア(治療のみではなく未病、予防、診断、予後なども含めた疾患全体のケア)の実現に向けた製品・サービスの整備を行いました。引き続き、ゾコーバのエビデンス構築、小児や予防などへの適応拡大により、いまだ満たされていないニーズの充足に貢献するとともに、感染症のトータルケアをグローバルに展開することで、トップラインの成長と持続可能なビジネスモデルの構築を目指してまいります。
また、世界三大感染症についても、HIVのみならず、結核やマラリアなど、治療に長期間を要する感染症にコミットすることで、感染症のリーディングカンパニーとしての使命を果たしてまいります。
さらに、SHIONOGI単独では対応が難しい感染症に対しても、社会とともに課題を解決するための仕組みの構築に取り組んでまいります。薬剤耐性(AMR)は、サイレント・パンデミックと称され、喫緊かつグローバルな脅威として徐々に認知が高まっておりますが、将来的な脅威の拡大が危惧されているにもかかわらず、創薬の難易度や投資が回収できないといったビジネスリスクの為に世界的に新規治療薬の開発が停滞している現状があります。こうした中でSHIONOGIは、AMRに対する有望な治療選択肢として、世界で初めてのシデロフォアセファロスポリン抗菌薬であるセフィデロコルを創出しました。さらに、Qpex Biopharma, Inc.(以下「Qpex社」)を完全子会社化することで広域阻害スペクトラムを有するβ-ラクタマーゼ阻害剤を獲得するとともに、新たな研究拠点であるQpex US Lab.を開設するなど、抗菌薬研究開発のケイパビリティ強化および米国でのネットワーク強化に取り組んでおります。加えて、低・中所得国を含む世界中の国々の感染症治療薬へのアクセス改善を目的に、MPP(Medicines Patent Pool)とパートナーシップを形成し、GARDP(Global Antibiotic Research and Development Partnership)、CHAI(Clinton Health Access Initiative)との間でも提携契約を締結しております。
②健やかで豊かな人生への貢献
SHIONOGIは、誰もが自分らしく生き生きとした生活を送ることができる社会の実現を目指し、社会的影響度の高いQOL疾患をSTS2030 Revisionで注力する領域として掲げ、すでに研究開発を進めていた精神・神経疾患、疼痛だけでなく、睡眠障害や難聴などの特にアンメットニーズの高い領域のパイプラインの開発を進めております。2024年度には不眠症治療薬「クービビック®錠25mg 50mg」、2025年度にはうつ病治療薬「ザズベイ®カプセル30mg」の国内販売を開始いたしました。加えて、鳥居薬品の完全子会社化によって、アレルギー、皮膚疾患領域の豊富な製品群を獲得することで、QOL疾患領域での取り組みを拡大しております。
また、HaaS企業としてのさらなる成長を実現するため、医療用医薬品を軸としたソリューションのプラットフォームを提供し、より多くの患者さまのニーズに応えるための取り組みを進めております。2024年度には小児期における注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療用アプリ「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)®」の国内製造販売承認を取得するとともに、サスメド社の不眠障害用アプリやFRONTEO社と共同で会話型認知機能検査用AIプログラム医療機器の開発などにも取り組み、患者さまのニーズに寄り添うHaaS構想の具現化を進めております。また、一人ひとりの児童生徒に合致した適切な教育プランを教員に提案する教育支援サービスを提供するYui Connection株式会社の設立、ピクシーダストテクノロジーズ社との連携による音刺激を活用した認知症機能改善に向けた取り組みの推進、2025年度はFRONTEO社との共同によるあたまの健康度判定Webアプリケーション「トークラボKIBIT」の提供開始と保険付帯サービスとしての社会実装など、HaaS実現に向けた環境整備を進展させることができました。今後も、治療薬の提供にとどまらず、革新的な治療選択肢やサービスの開発・提供を通じて患者さまとそのご家族、さらには周囲で支援しておられる皆さまの困りごとを解決し、QOLや社会の生産性向上に貢献してまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
STS2030 Revisionでは、達成すべき財務経営指標として3つの成長性指標と3つの株主還元指標を設定しております。成長性指標については、トップラインの成長を優先して進めていくことから売上収益、またその成長をグローバルに成し遂げていくことから海外売上高 CAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)、そして成長に向けた積極的な投資を行っていくことと稼ぐ力を測るためにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い・税引き・償却前利益、コア営業利益に減価償却費を加えた利益)の3つを設定しております。また、株主還元指標として、事業成長と財務施策の観点からEPS、DOE、ROEの3つを継続して設定しております。
| 業績評価指標(KPI) | 2025年度 目標※1 | 2030年度 目標※1 | |
| 成長性 | 売上収益 | 5,300億円 | 8,000億円 |
| 海外売上高 CAGR (ロイヤリティー収入を除く) | 成長計画を見直し (次年度以降の成長を見据え、 KPIを再設定する予定) | 成長計画を見直し (次年度以降の成長を見据え、 KPIを再設定する予定) | |
| EBITDA | 1,960億円 | - | |
| 株主還元 | EPS※2 | 200円以上 | - |
| DOE | 4% | - | |
| ROE | 14%以上 | - | |
※1 当社は、2025年5月12日に開示いたしました2024年度決算において、2025年度目標の主要業績評価指標(KPI)のうち、売上収益を5,500億円から5,300億円、EBITDAを2,000億円から1,960億円に修正いたしました。また、海外売上高CAGRについては、2026年度以降のさらなる成長を見据え再設定する予定です。
※2 当社は、2024年10月1日を効力発生日として、普通株式1株につき3株の割合をもって株式分割を行っております。2025年度目標のEPSには株式分割後の数値を記載しております。
当社は、2025年度に大規模な事業投資を複数実施し、新たな成長フェーズへと歩みを進めております。そのため、経営指標についても、今後公表予定の新中期経営計画での更新を予定しております。今後も、取り組むべき施策をひとつひとつ着実に実行するとともに、さらなる収益ドライバーを確立するためのM&Aや導入、提携などの事業開発機会の探索を継続し、強固な財務基盤を活かして各案件の価値に見合った投資を積極的に実行していくことで、経営指標の達成を目指してまいります。