有価証券報告書-第155期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/24 14:41
【資料】
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【項目】
90項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針・経営戦略等
■経営の基本方針
当社グループ(当社及び連結子会社)は、「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬を提供する」ことを基本方針としております。そのためには、益々よい薬を創り、かつ製造するとともに、多くの方々に知らせ使って頂くことが必要であります。このことを成し遂げるために、シオノギのあらゆる人々が日々技術を向上させることが、顧客、株主、取引先、社会、従業員などシオノギに関係するすべてのステークホルダーの利益の拡大に貢献できるものと考えております。
■2030年に成し遂げたいビジョン
当社グループの2030年に成し遂げたいビジョンは、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」ことです。医薬品ビジネスには、主力製品の特許切れという事業のサステイナビリティに関わる課題が常に存在します。また、社会保障費に対する懸念の高まりや医療ニーズの高度化、多様化が進む中で懸命にこれに対処し、人々の健康と持続可能な社会の実現に貢献し続けることが製薬会社としての社会的使命であると認識しております。当社グループは従来の医療用医薬品を中心に提供する「創薬型製薬企業」から、ヘルスケアサービスを提供する「ヘルスケアプロバイダー」へと自らを変革し、社会に対して新たな価値を提供し続けていくことで、患者さまや社会の抱える困り事をより包括的に解決したいと考えております。そのためには、創造力と専門性をベースとした創薬型製薬企業としての強みをさらに進化させ、ヘルスケア領域の新たなプラットフォーム構築に向けて、異なる強みを持つ他社・他産業から選ばれる「協創の核」とならねばなりません。
当社グループは、変化を恐れず、多様性を受容し、既成概念を超えて「Transform」することで、新たなビジョンの実現に取り組んでまいります。
■経営環境及び経営戦略
当社グループは、2014年3月に、2020年のありたい姿を描いた7ヵ年の中期経営計画「Shionogi Growth Strategy 2020(SGS2020)」をスタートさせ、2016年10月にはさらなる高みを目指して本計画を更新しました。「創薬型製薬企業として社会とともに成長し続ける」というビジョンのもと、抗インフルエンザ薬ゾフルーザや多剤耐性グラム陰性菌感染症治療薬セフィデロコル等、自社創製品を継続的にグローバルで上市し、当社グループが取り組むべき社会課題の一つである「世界を感染症の脅威から守る」ことに貢献してまいりました。英国ViiV社に導出した抗HIV薬テビケイ及びその配合剤のグローバルでの売上が順調に拡大する中、経営の効率性にこだわり、コストマネジメント力の向上に取り組んだ結果、2020年度の主要な経営目標を前倒しで達成することができました。一方で、新製品売上ならびに海外事業の成長、それに伴う生産性の向上には課題を残しております。
外部環境に目を向けますと、世界人口の増加と高中所得国における少子高齢化の進行、過去10年とは異なる速度、規模で起こる気候変動等の環境変化と、それに伴う疾病構造やヘルスケアに求められるニーズの変化、情報技術の進化とデータ活用によるイノベーション、人々の価値観の多様化等、産業を取り巻く環境は急速に変化しております。昨今の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックを例にしても、一つの出来事が社会システムや人々の価値観に及ぼす影響を従来の物差しで測ることは困難であることが明らかになっております。このような中で企業が社会の要請に応え、持続的に成長していくためには、ステークホルダーズとの対話の中から世の中の変化に対する予見力を高め、ビジネスにおけるリスクを低減し、強みを活かして新たな事業機会を創出していかねばなりません。
そこで、ビジネスの変革によりSGS2020で積み残した課題を早期に克服し、2028年ごろに訪れるHIV製品の特許切れによる影響(パテントクリフ)を乗り越え、さらなる成長を達成するための戦略として、当初の予定を1年前倒し、2020年度を起点とする新中期経営計画「Shionogi Transformation Strategy 2030(STS2030)」を策定いたしました。
STS2030の最初の5ヵ年の計画であるSTS Phase 1では、グループ一丸でビジネスの変革を強力に推し進め、「トータルヘルスケア企業として持続的な成長へのTransformationを具現化する」ことをテーマに、新たな価値創造に向けた「R&D戦略」及び「トップライン(売上)戦略」と、価値創造を実現するための「経営基盤戦略」を進めてまいります。
(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
「(1)経営方針・経営戦略等」で述べた通り、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題としては、新製品売上ならびに海外事業の成長、それに伴う生産性の向上があげられます。当社グループは特定の薬剤クラスの中では最も優れた薬を創るcapabilityを有していると考えております。ただし、その優位性をもって、国内を含むグローバル市場の中では効率的に販売を拡大できず、自社販売という点で目標を達成するには至りませんでした。上記に挙げた3つの課題は、創薬から販売に至るビジネスのフローにおいてすべて繋がっている課題であり、その克服如何が次の10年の成長確度を大きく左右するものだと認識しております。
こうした課題を克服し、2030年におけるビジョンを達成するための戦略として、前述のSTS2030を策定しており、STS Phase 1で定めた3つの戦略(「R&D戦略」、「トップライン(売上)戦略」及び「経営基盤戦略」)に則り事業活動に従事してまいります。
■R&D戦略
R&Dにおける疾患戦略として、感染症、精神・神経疾患をコア疾患に経営資源を集中する一方で、社会的ニーズの大きい疾患に対する挑戦を継続し、アライアンスの活用も含めて創製・獲得したパイプラインの潜在的価値に応じて柔軟かつ大胆に注力プログラムの優先度を変更してまいります。現在、注力している8つのパイプラインは、いずれもより良い治療法の開発が強く望まれている疾患を対象としており、現状の疾患治療に対する捉え方(パラダイム)を変え得るものです。また、約60年間積み上げてきた感染症領域における強みを発揮し、社会や医療のニーズに応える感染症トータルケアの実現に取り組んでまいります。その一環として、現在、世界的な脅威となっている新型コロナウイルス感染症に対して、治療薬ならびに予防ワクチンの研究開発を最優先で進めます。これらの革新的なパイプラインの研究開発を促進し、HIV製品のパテントクリフへの対応を強化してまいります。
■トップライン戦略
新たなトップライン戦略として、「最適な疾患戦略を地域に応じたパートナリングを通して実現する」ことを掲げ、当社グループの重点疾患である感染症、精神・神経・疼痛疾患をベースに、日本・米国・中国を強化地域として取り組んでまいります。各疾患に対して、従来の強みである治療薬を軸に、未病・ケア、予防、診断といった多様なアプローチで疾患全体をケアし、「ヘルスケアプロバイダー」としての新たなポジションを開拓します。この疾患戦略を統括・推進するヘルスケア戦略本部を中心に、人々の健康に必要な製品や情報をより多くの方に届ける仕組みを構築し、各地域のビジネス強化につなげてまいります。また、これらの戦略を加速するために、当社グループがこれまでに培ったアライアンスの強みを駆使し、地域ごとの最適なパートナリングを展開してまいります。
■経営基盤戦略
STS Phase 1において、Transformationの具現化を早期に実現する上では、ダイナミックな経営基盤の改革が必要不可欠であり、その根幹を担うのは「変革の仕組み」と「人材の成長」となります。変革の仕組みとしては、意思決定システムの確立やデータ活用の環境整備を始めとした意思決定の高度化、及び社内外の連携を促進する業務プロセスの刷新に取り組んでまいります。また、新たな人材像(Shionogi Way)として、「他者を惹きつける尖った強みを持ち、新しいことにチャレンジを続ける人」を掲げ、成長・変革の源泉となる人材を育成・強化する施策を展開してまいります。
当社グループは、経営理念である基本方針「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬を提供する」ことをグローバルで実現するため、創薬型製薬企業としての強みを磨き、ヘルスケア領域の新たなプラットフォームを構築することで、持続的な成長を目指します。そして、世界中の患者様やそのご家族、医療関係者の方々等、あらゆるステークホルダーの皆様に信頼されるグローバル企業を目指し、日本経済の成長・発展に貢献していきます。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
STS Phase 1で達成すべき経営指標として、8つの経営指標を設定いたしました。
成長性を測る指標として、売上収益、コア営業利益、コア営業利益率、ロイヤリティー収入を除く海外売上高比率、自社創薬比率の5つを設定しております。2024年度に向けて増収を継続し、HIV製品のパテントクリフを乗り越える上で必要十分なR&D投資を行いながら、コア営業利益率30%以上を堅持することを目指しております。また、市場が大きい海外での売上収益を高めるための投資効果を測る指標として海外売上高比率を設定しております。さらに、ヘルスケア領域の新たなプラットフォーム構築に向けて、異なる強みを持つ他社・他産業から選ばれる条件として、自社創薬比率を高水準で維持することを目指します。
株主還元を測る指標として、事業成長と財務施策の観点から基本的1株当たり当期利益(EPS)、親会社所有者帰属持分配当率(DOE)、親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)の3つを設定しております。
業績評価指標(KPI)2019年度実績2020年度2022年度2024年度2030年度
成長性売上収益3,334億円3,235億円4,000億円5,000億円6,000億円
コア営業利益*1,274億円1,103億円1,200億円1,500億円2,000億円
コア営業利益率38.2%34.1%30%以上30%以上-
海外売上高比率**18.5%13.7%25%以上50%以上-
自社創薬比率67%60%以上60%以上60%以上-
株主
還元
EPS395.71円330円以上370円以上480円以上-
DOE4.0%4%以上4%以上4%以上-
ROE15.5%12.5%以上13%以上15%以上-

注1:STS Phase 1(2020年度~2024年度)、STS Phase 2(2025年度~)
2:数値はIFRSベースとなります。
*:営業利益から非経常的な項目(減損損失、有形固定資産売却益等)を調整した利益となります。
**:ロイヤリティー収入を除きます。