有価証券報告書-第133期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/18 14:00
【資料】
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【項目】
124項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社グループは、2022年度を最終年度とする中期経営ビジョン「2022年 住友理工グループVision」に基づき「自動車(モビリティ)」「インフラ・住環境」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」の4分野に注力し、また、「事業環境が大きな変革期を迎える中で、着実な成長と体質強化を目指す」をVisionのテーマとして、以下の内容を遂行していきます。
<経営戦略>「新事業・新規顧客創出」
① 新事業創出
② グローバル拡販
「モノづくり革新」
① 競争を勝ち抜く強い現場づくり(SRIM 22 Act)
② 技術革新(環境技術)・世界No.1品質
「グローバル経営基盤強化」
① グローバル人材力強化
② グローバルインフラ強化
これらの取り組みにより、「人・社会・地球の安全・快適・環境に貢献する企業」を目指すべき姿として“Global Excellent Manufacturing Company”の実現を追求し続けます。
[成長投資管理と事業採算性管理について]
当社は、成長投資管理の仕組みとして投資採算基準を設定し、事業戦略との両輪で意思決定しています。投資採算基準には、回収年限法とディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法を併用しています。割引率には、加重平均資本コスト(WACC)に国別のカントリー・リスクとWACCスプレッドを上乗せしたハードルレートを用いることにより、中長期的にWACCを上回る成果の確保を目指しています。
また、投資意思決定時の計画に対して未達となっている案件については、戦略的に事業構造改革計画を策定しています。事業環境変化による採算悪化リスクを最小限に抑制し、より高い成長を見込める事業に経営資源を再配分することで、グループ全体の投資効率を高めています。成長投資管理と並行して、赤字拠点を中心に事業採算性を定期的にチェックし、将来の事業性を検討しています。
(2) 経営環境及び対処すべき課題
当社グループを取り巻く環境は、「C:Connected(つながる)」「A:Autonomous(自動運転)」「S:Shared & Services(シェアリング)」「E:Electric(電動化)」、すなわち「CASE」といった自動車業界の大変革に加え、足元では米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の感染拡大、半導体の供給不足などの影響により、先行きが依然不透明です。
このような中、当社グループは、「着実な成長と体質強化を目指す」をテーマに中期経営ビジョン「2022年 住友理工グループVision」のもと、「新事業・新規顧客創出」「モノづくり革新」「グローバル経営基盤強化」を経営戦略の柱として、企業価値向上に取り組んでいます。
当社グループは近年の費用増加やグローバルでの競争激化に伴う収益力低下を踏まえ、収益体質強化への取り組みをグループ内で横断的に進めてきました。昨年度からは、市場や時代の変遷に合わせてスピード感を持って、国内外拠点の再構築を実施しています。さらに、新製品の開発と市場開拓を急ぐ中で、親会社である住友電気工業株式会社との連携を強化し、シナジーを創出できるよう進めていきます。
[自動車用品部門]
自動車業界においては、グローバルでの新車販売台数は回復基調にありますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるロックダウンや全世界的な半導体不足による自動車メーカーの減産対応、天然ゴムや鉄鋼などの原材料価格高騰が見込まれるなど、先行きが不透明な状況が続いています。このような中にあっても技術革新の波は進行し、企業はこれらへの迅速な対応にとどまらず、カーボンニュートラルに象徴されるような社会課題解決への積極的な関与が求められています。
当社グループにおいては、CASEをはじめとする急速な自動車産業の変化の中で、新たなビジネスチャンスが到来するものと考えています。創業以来培ってきたコアコンピタンス「高分子材料技術」「総合評価技術」をもとに、防振ゴム開発で積み重ねてきた音・振動制御技術や、ホース開発で磨きをかけてきた流体搬送技術を駆使し、これからの自動車(モビリティ)に新たな価値を提供する製品の創出と開発を進めています。
現在、新商品開発センターが主体となって、CASEにおける「A:Autonomous(自動運転)」「E:Electric(電動化)」2領域の新製品開発に注力しています。たとえば、圧力分布を検知する「スマートラバー(SR)センサ」は、自動車のステアリングやシートに装着することで、呼吸や心拍などの生体情報が得られます。すでに昨年末から、自動運転対応車の安全性向上に貢献する「ステアリングタッチセンサー」の生産を開始しており、今後発売が見込まれる新型電気自動車より順次搭載されます。また、シートに設置する「ドライバーモニタリングシステム」についても、今夏よりモニター販売を予定しており、危険回避や安全確保を的確に行うシステム構築をサポートするなど、自動運転時代を勝ち抜くための新たな製品の準備を進めています。
また、気候変動や海洋汚染など地球環境保全の機運がますます高まる中で、各国による環境規制政策もより厳格なものとなっています。これらの規制に対応した、ガソリン蒸散の低減に寄与する高性能な燃料ホースは依然好調で、拡販を継続しています。一方で、車の電動化が注目される中、電気自動車(EV)用の電池やモーターをはじめとする部品の熱マネジメントのニーズが高まっており、当社の流体搬送技術を生かした冷却系ホースなどの開発に注力しています。さらに、EVや「究極のエコカー」とも言われる燃料電池自動車(FCV)向けの基幹部品を供給しており、トヨタ自動車(株)の新型MIRAIにも当社製品が継続採用されています。また、EVのネックとされる電費・航続距離問題のソリューションとして、2020年9月、熱マネジメントに寄与する薄膜高断熱材「ファインシュライト™」を発売しました。車室内の断熱効果を高める高断熱フィラーの塗料化に成功し、来たるべきEV社会の省エネや環境負荷軽減に貢献すると考えています。
一方、当社グループにとって重要なエリアである米州・欧州の業績の低迷については、早急に対処すべき経営課題として認識しています。中でも米国拠点では、グローバル競争の激化や人手不足から生産性が低下していました。ローカル人材の育成や工程改善によるロス低減に継続して取り組んでおり、高収益を上げられる体制構築を目指しています。欧州拠点においては、2013年のM&A以降、買収当時に期待したレベルでのシナジーを創出できず、業績が低迷していました。早期に生産体制の統合・集約に取り組んだ拠点については黒字転換しており、また、それ以外の拠点についても事業構造改善策を展開し、全体での収益性向上につなげていきます。また、研究開発活動の国内偏重傾向を改善するために、日・米・欧・中の4極で分担・共有化することにより、迅速な開発を進められる体制を構築していきます。物流コストについては、グループ内で横断的に見直しを進め、より効率的な仕組みづくりを推進していきます。
次期については、いまだ新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない局面ですが、経費削減を継続しつつ、需要の増減に対応できるよう、より一層最適な生産体制の構築に取り組んでいきます。
[一般産業用品部門・新規事業部門]
当社グループは、主力事業の「自動車(モビリティ)」分野に加えて、「インフラ・住環境」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」といった、社会環境基盤の構築に不可欠な分野へも事業展開しています。インフラ整備に欠かせない産業用ホースや鉄道車両用品、地震対策に有効な各種制震システム、機能的で快適なオフィス環境を支える事務機器向け精密部品、そして当社独自技術のSRセンサを生かした各種ヘルスケア製品など、これらはSDGs(持続可能な開発目標)にも掲げられる「住み続けられるまちづくり」に貢献する製品群と認識しています。
一般産業用品部門においては、インフラ分野では、中国での活発なインフラ投資を背景に高圧ホースの売上が好調で、需要を見極めながら投資を実施していきます。また、エレクトロニクス分野では、成熟市場の伸び悩みやコロナ禍における働き方の変化による精密機能部品の需要減少の影響を最小限にとどめる一方で、生産性を維持するための取り組みを進めていきます。すでに富士裾野製作所(静岡県裾野市)にて事業再構築を図り、グループ全体でより高い収益を生み出すため、設備移管および最適な人員配置への見直しを進めています。
新規事業部門では、社会の要請に応えられるよう投資すべき重点事業分野を見極め、事業基盤の強化を図っていきます。
複数の生体情報を同時に計測できる診断機器「体動センサ」の活用では、大阪大学と共同で、新型コロナウイルス感染症などの感染者の呼吸や心拍の変化について本機器を介して遠隔で収集、解析するための研究が進められています。患者に大きな負担を生じさせることなく状態の推定が可能になるとともに、医療関係者の感染リスク回避にも寄与するものと考えています。また、北海道大学発のスタートアップと共同で開発した「マイクロ流路装置」は、当社の精密ゴム成型技術を生かした製品です。最先端技術である「ドラッグデリバリーシステム」のベースとなり、医薬品や化粧品などの研究開発のスピードアップに貢献すると期待しています。さらに、「ファインシュライト™」は、コロナ禍の宅配需要の盛り上がりにおいて、自動車に先んじてフードデリバリー専用の温熱シートに採用されており、その他用途でも協業先を探していきます。
次期については、新型コロナウイルス感染症の感染再拡大による経済活動の停滞やそれに伴う消費者マインドの低下を受け、顧客での生産調整や事務機器用品の需要減、住宅販売戸数の減少などの影響を受ける可能性があります。自動車用品部門同様に、生産調整や費用削減を継続しつつも、コロナ禍においても需要が望める製品の開発などを通じて、収益力の向上と事業基盤の強化を図っていきます。
私たちはこれまで、モノづくり企業として90年以上にわたって培ってきたコアコンピタンスを軸に、住友事業精神が謳う「信用確実」「不趨浮利(ふすうふり)」を忠実に守りながら、「安全・環境・コンプライアンス-品質(S.E.C.-Q.)」の取り組みを積み重ねてきました。これからも世界中で必要とされる“Global Excellent Manufacturing Company”、すなわち「人・社会・地球の安全・快適・環境に貢献する企業」への成長を目指して、創立100周年に向けた10年も一歩ずつ、着実な歩みを続けていきます。
株主の皆様におかれましては、今後とも一層のご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。