有価証券報告書-第96期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)
対処すべき課題
(経営方針)
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献することを企業理念に掲げて事業を行っています。
<日本製鉄グループ企業理念>基本理念
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。
経営理念
1.信用・信頼を大切にするグループであり続けます。
2.社会に役立つ製品・サービスを提供し、お客様とともに発展します。
3.常に世界最高の技術とものづくりの力を追求します。
4.変化を先取りし、自らの変革に努め、さらなる進歩を目指して挑戦します。
5.人を育て活かし、活力溢れるグループを築きます。
(経営環境)
中長期的な環境変化については、次のとおり想定しています。
世界の鉄鋼需要については、インドも含めたアジア地域を中心に確実な成長が見込まれます。また、カーボンニュートラルに向けた新規ニーズを含め高級鋼の需要は拡大が見込まれます。一方で、国内の鉄鋼需要については、人口減少や需要家の海外現地生産拡大等に伴い引き続き減少していくことが想定されます。また、製造業における地産地消・自国産化の傾向が、新型コロナウイルスの影響で加速し、グローバルに繋がっていた市場の分断が進展すると考えられます。さらに、世界の鉄鋼生産量の6割を占める中国における需要の頭打ち等により、海外市場における競争が一層激化することが想定されます。
世界的に気候変動に関する問題意識が高まるなか、カーボンニュートラルの実現は官民を挙げた総力戦となり、他国に先駆けたゼロカーボン・スチールの技術確立が、今後の鉄鋼業界における競争力、収益力、ブランド力を決める鍵となると考えています。
2021年度については、世界経済が新型コロナウイルス感染症の影響による景気減速から回復に向かい、日本経済も回復していくと想定される一方で、製鉄事業環境については、新型コロナウイルス感染拡大前から続く国内鉄鋼需要の減少や、中国における高水準の銑鉄生産の影響による鉄鉱石等の主原料価格の高止まり、さらに石油価格低迷によるエネルギー分野の新規投資の低迷等、厳しい状況が続くと考えています。鉄鋼需要については、国内外ともに回復傾向が継続し、引き締まった需給環境が続くと想定しています。中国においては政府による景気対策が継続することにより、鋼材消費、粗鋼生産ともに高水準で推移することが想定されます。鉄鋼市況については、引き締まった需給環境を背景に国内外で上昇傾向にあり、今後の動向については、新型コロナウイルス感染症の影響を含め、引き続き注視する必要があります。
(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)
当社グループは、製鉄事業を中核として、鉄づくりを通じて培った技術をもとに、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しています。製鉄セグメントは、当社グループの連結売上収益の約9割を占めています。
当社は、新型コロナウイルス感染症の影響による鉄鋼需要の変化に対しては、高炉の一時休止・再稼働等の生産対応、BCP(事業継続計画)の実行、臨時休業の実施、営業キャッシュ・フローの悪化を踏まえた対策等に迅速かつ適切に取り組んでまいりました。2021年度においては、前述の事業環境のもと、固定費の大幅圧縮や変動費改善等により構築した単独営業利益黒字構造をベースに、安定生産力の完全定着、紐付き価格の是正を進めるとともに、輸出市況も含めた堅調な事業環境を確実に捕捉する施策等に取り組むことにより、新型コロナウイルス感染拡大前から続く厳しい製鉄事業環境下においても高水準の収益を目指します。
中長期的には、将来に亘って日本の産業競争力を支える「総合力世界No.1 の鉄鋼メーカー」を目指して成長し続けることを念頭に、本年3月5日に、以下の概要のとおり、新たな経営計画を策定・公表しています。
<日本製鉄グループ中長期経営計画(2021年3月5日公表)の概要>当社は、将来に亘って日本の産業競争力を支える「総合力世界No.1 の鉄鋼メーカー」を目指して成長し続けることを念頭に、このたび新たな経営計画を策定致しました。
(中長期経営計画の4つの柱)
1.国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化
2. 海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進
3. ゼロカーボン・スチールへの挑戦
4. デジタルトランスフォーメーション戦略の推進
いずれも長期的ビジョンに基づき、ロードマップに沿って実行していくものですが、とりわけ「国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化」については、効率的かつ強靭な生産体制を早期に確立し、国内マザーミルの収益基盤を再構築する観点から、2025年度までに完遂します。
(具体的施策)
1.国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化
(1) 国内製鉄事業の再構築・早期の収益力回復
「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針として、国内製鉄事業の最適生産体制を構築するとともに、競合他社を凌駕するコスト競争力の再構築と適正マージンの確保によって収益基盤を強化します。
最適生産体制の構築に向けては、製品製造工程及び鉄源工程の生産体制スリム化・効率化(2020年2月7日公表内容の一部前倒し実施を含む。)、戦略商品への投資(次世代型熱延ライン新設、高級電磁鋼板製造体制の強化)を実施します。
これらの各種対策及び後述するデジタルトランスフォーメーション施策等を通じ、2021年度から2025年度末迄に、当社及び協力会社(作業請負)合計で20%を上回る要員合理化を実施します。
(2) グループ経営の強化
連結事業収益力向上・企業価値最大化に向けて、「各社の競争力・収益力強化」、「『選択と集中』によるグループ構造最適化」、「当社及びグループ会社相互間の連携の深化並びにマネジメント基盤の整備・強化」等に取り組んでいきます。
2.海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進
世界の鋼材消費は、2025年さらに2030年に向けて引き続き緩やかな成長が見込まれています。当社は、規模及び成長率が世界的に見ても大きいアジアを中心に事業を展開しており、マーケットの規模や成長を当社の利益成長に繋げ得るポジションにあります。
このような環境のもとでさらなる収益力向上を図るべく、従来の国内からの高級鋼を中心とした鋼材輸出と現地生産を担う冷延・めっき等製品工程中心の海外事業会社による供給から、現地需要全体を捕捉する一貫生産体制を拡大し、より高い付加価値を確保していく本格的な海外事業へとステージを上げていく方針です。強靭な国内マザーミルと海外現地ミルによる成長市場の需要捕捉を通じ、日本製鉄グループトータルで年間粗鋼1億トン体制(*1)を目指すことをビジョンとします。
既存の海外事業については、これまでに選択と集中を積極的に推進し、合理性のない事業からの撤退をほぼ完了しつつあり、フォーカスを絞ってきました。各海外事業会社では当社の先進技術を活かし、各国のインサイダーとしてマーケットの成長を捕捉することにより、収益拡大を図っていきます。
(*1)関連会社の出資持分を考慮しない単純合算
3.ゼロカーボン・スチールへの挑戦
脱炭素社会に向けた取組みにおいて欧米・中国・韓国との開発競争に打ち勝ち、引き続き世界の鉄鋼業をリードするべく、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050~ゼロカーボン・スチールへの挑戦~」を掲げ、経営の最重要課題として諸対策を検討・実行します。
2030年においては、現行の高炉・転炉プロセスでのCOURSE50(*2)の実機化、既存プロセスの低CO2化等によって、対2013年比▽30%のCO2排出削減を実現します。2050年に向けては、電炉による高級鋼の量産製造、高炉水素還元法の開発を通じたCO2の抜本的削減、水素による直接還元鉄製造等の超革新的技術にチャレンジし、カーボンニュートラルを目指します。
特に、100%水素による直接還元鉄製造は、前人未到の技術であり、極めてハードルの高いイノベーションが必要となります。また、電炉による高級鋼の量産製造、高炉水素還元においても極めて難しい技術開発が必要です。こうしたイノベーションに向けては、約5,000億円の研究開発費、設備実装に約4~5兆円の投資を要すると見込まれます。加えて、粗鋼製造コストは現状の倍以上になる可能性があります。
ゼロカーボン・スチールは鉄鋼業界のチャレンジだけでは実現できません。研究開発や設備実装に対する政府の支援、水素供給インフラの確立、カーボンフリー電源の実現、莫大なコストを社会全体で負担する仕組みの構築等が前提となります。
(*2)高炉での原料炭による鉄鉱石の還元を一部水素に置き換える技術等
4.デジタルトランスフォーメーション戦略の推進
デジタルトランスフォーメーション戦略に今後5年間で1,000億円以上を投入し、鉄鋼業におけるデジタル先進企業を目指します。データとデジタル技術を駆使して、生産プロセス改革及び業務プロセス改革に取り組み、事業競争力を強化します。
第一に、AI・IoT等のデジタル技術の高度利活用によるものづくりのスマート化を進めます。
第二に、受注~生産~納入までの統合生産計画プラットフォームを構築し、フレキシブルかつ最適な供給体制を強化します。
第三に、様々な経営情報やKPIをリアルタイムに把握し速やかな改善アクションを可能とする統合データプラットフォームを構築し、ビジネスインテリジェンスを強化します。
(投入計画、財務目標)
1.成長の実現に向けた経営資源の積極的投入(2021年度~2025年度)
1) 5年間で24,000億円の設備投資を実施します。
2) 5年間の事業投資規模を6,000億円とします。
2.収益・財務体質目標、株主還元(2025年度)
強固な財務体質(国際格付A格相当)を確保し、企業価値の回復を図るために、2025年度断面で、以下の指標を実現することを目指します。
(*3) 劣後債等の資本性調整後
(注) 上記(経営環境)と(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)の記載には、2021年5月7日決算発表時点(日本製鉄グループ中長期経営計画についてはその公表時点)の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれている。これらはその発表又は公表の時点において当社が適切と考える情報や分析、一定の前提等に基づき策定したものであり、かかる見積りに固有の限界があることに加え、実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性がある。かかる要因については、後記「2 事業等のリスク」を参照されたい。
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献することを企業理念に掲げて事業を行っています。
<日本製鉄グループ企業理念>基本理念
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。
経営理念
1.信用・信頼を大切にするグループであり続けます。
2.社会に役立つ製品・サービスを提供し、お客様とともに発展します。
3.常に世界最高の技術とものづくりの力を追求します。
4.変化を先取りし、自らの変革に努め、さらなる進歩を目指して挑戦します。
5.人を育て活かし、活力溢れるグループを築きます。
(経営環境)
中長期的な環境変化については、次のとおり想定しています。
世界の鉄鋼需要については、インドも含めたアジア地域を中心に確実な成長が見込まれます。また、カーボンニュートラルに向けた新規ニーズを含め高級鋼の需要は拡大が見込まれます。一方で、国内の鉄鋼需要については、人口減少や需要家の海外現地生産拡大等に伴い引き続き減少していくことが想定されます。また、製造業における地産地消・自国産化の傾向が、新型コロナウイルスの影響で加速し、グローバルに繋がっていた市場の分断が進展すると考えられます。さらに、世界の鉄鋼生産量の6割を占める中国における需要の頭打ち等により、海外市場における競争が一層激化することが想定されます。
世界的に気候変動に関する問題意識が高まるなか、カーボンニュートラルの実現は官民を挙げた総力戦となり、他国に先駆けたゼロカーボン・スチールの技術確立が、今後の鉄鋼業界における競争力、収益力、ブランド力を決める鍵となると考えています。
2021年度については、世界経済が新型コロナウイルス感染症の影響による景気減速から回復に向かい、日本経済も回復していくと想定される一方で、製鉄事業環境については、新型コロナウイルス感染拡大前から続く国内鉄鋼需要の減少や、中国における高水準の銑鉄生産の影響による鉄鉱石等の主原料価格の高止まり、さらに石油価格低迷によるエネルギー分野の新規投資の低迷等、厳しい状況が続くと考えています。鉄鋼需要については、国内外ともに回復傾向が継続し、引き締まった需給環境が続くと想定しています。中国においては政府による景気対策が継続することにより、鋼材消費、粗鋼生産ともに高水準で推移することが想定されます。鉄鋼市況については、引き締まった需給環境を背景に国内外で上昇傾向にあり、今後の動向については、新型コロナウイルス感染症の影響を含め、引き続き注視する必要があります。
(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)
当社グループは、製鉄事業を中核として、鉄づくりを通じて培った技術をもとに、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しています。製鉄セグメントは、当社グループの連結売上収益の約9割を占めています。
当社は、新型コロナウイルス感染症の影響による鉄鋼需要の変化に対しては、高炉の一時休止・再稼働等の生産対応、BCP(事業継続計画)の実行、臨時休業の実施、営業キャッシュ・フローの悪化を踏まえた対策等に迅速かつ適切に取り組んでまいりました。2021年度においては、前述の事業環境のもと、固定費の大幅圧縮や変動費改善等により構築した単独営業利益黒字構造をベースに、安定生産力の完全定着、紐付き価格の是正を進めるとともに、輸出市況も含めた堅調な事業環境を確実に捕捉する施策等に取り組むことにより、新型コロナウイルス感染拡大前から続く厳しい製鉄事業環境下においても高水準の収益を目指します。
中長期的には、将来に亘って日本の産業競争力を支える「総合力世界No.1 の鉄鋼メーカー」を目指して成長し続けることを念頭に、本年3月5日に、以下の概要のとおり、新たな経営計画を策定・公表しています。
<日本製鉄グループ中長期経営計画(2021年3月5日公表)の概要>当社は、将来に亘って日本の産業競争力を支える「総合力世界No.1 の鉄鋼メーカー」を目指して成長し続けることを念頭に、このたび新たな経営計画を策定致しました。
(中長期経営計画の4つの柱)
1.国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化
2. 海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進
3. ゼロカーボン・スチールへの挑戦
4. デジタルトランスフォーメーション戦略の推進
いずれも長期的ビジョンに基づき、ロードマップに沿って実行していくものですが、とりわけ「国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化」については、効率的かつ強靭な生産体制を早期に確立し、国内マザーミルの収益基盤を再構築する観点から、2025年度までに完遂します。
(具体的施策)
1.国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化
(1) 国内製鉄事業の再構築・早期の収益力回復
「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針として、国内製鉄事業の最適生産体制を構築するとともに、競合他社を凌駕するコスト競争力の再構築と適正マージンの確保によって収益基盤を強化します。
最適生産体制の構築に向けては、製品製造工程及び鉄源工程の生産体制スリム化・効率化(2020年2月7日公表内容の一部前倒し実施を含む。)、戦略商品への投資(次世代型熱延ライン新設、高級電磁鋼板製造体制の強化)を実施します。
これらの各種対策及び後述するデジタルトランスフォーメーション施策等を通じ、2021年度から2025年度末迄に、当社及び協力会社(作業請負)合計で20%を上回る要員合理化を実施します。
(2) グループ経営の強化
連結事業収益力向上・企業価値最大化に向けて、「各社の競争力・収益力強化」、「『選択と集中』によるグループ構造最適化」、「当社及びグループ会社相互間の連携の深化並びにマネジメント基盤の整備・強化」等に取り組んでいきます。
2.海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進
世界の鋼材消費は、2025年さらに2030年に向けて引き続き緩やかな成長が見込まれています。当社は、規模及び成長率が世界的に見ても大きいアジアを中心に事業を展開しており、マーケットの規模や成長を当社の利益成長に繋げ得るポジションにあります。
このような環境のもとでさらなる収益力向上を図るべく、従来の国内からの高級鋼を中心とした鋼材輸出と現地生産を担う冷延・めっき等製品工程中心の海外事業会社による供給から、現地需要全体を捕捉する一貫生産体制を拡大し、より高い付加価値を確保していく本格的な海外事業へとステージを上げていく方針です。強靭な国内マザーミルと海外現地ミルによる成長市場の需要捕捉を通じ、日本製鉄グループトータルで年間粗鋼1億トン体制(*1)を目指すことをビジョンとします。
既存の海外事業については、これまでに選択と集中を積極的に推進し、合理性のない事業からの撤退をほぼ完了しつつあり、フォーカスを絞ってきました。各海外事業会社では当社の先進技術を活かし、各国のインサイダーとしてマーケットの成長を捕捉することにより、収益拡大を図っていきます。
(*1)関連会社の出資持分を考慮しない単純合算
3.ゼロカーボン・スチールへの挑戦
脱炭素社会に向けた取組みにおいて欧米・中国・韓国との開発競争に打ち勝ち、引き続き世界の鉄鋼業をリードするべく、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050~ゼロカーボン・スチールへの挑戦~」を掲げ、経営の最重要課題として諸対策を検討・実行します。
2030年においては、現行の高炉・転炉プロセスでのCOURSE50(*2)の実機化、既存プロセスの低CO2化等によって、対2013年比▽30%のCO2排出削減を実現します。2050年に向けては、電炉による高級鋼の量産製造、高炉水素還元法の開発を通じたCO2の抜本的削減、水素による直接還元鉄製造等の超革新的技術にチャレンジし、カーボンニュートラルを目指します。
特に、100%水素による直接還元鉄製造は、前人未到の技術であり、極めてハードルの高いイノベーションが必要となります。また、電炉による高級鋼の量産製造、高炉水素還元においても極めて難しい技術開発が必要です。こうしたイノベーションに向けては、約5,000億円の研究開発費、設備実装に約4~5兆円の投資を要すると見込まれます。加えて、粗鋼製造コストは現状の倍以上になる可能性があります。
ゼロカーボン・スチールは鉄鋼業界のチャレンジだけでは実現できません。研究開発や設備実装に対する政府の支援、水素供給インフラの確立、カーボンフリー電源の実現、莫大なコストを社会全体で負担する仕組みの構築等が前提となります。
(*2)高炉での原料炭による鉄鉱石の還元を一部水素に置き換える技術等
4.デジタルトランスフォーメーション戦略の推進
デジタルトランスフォーメーション戦略に今後5年間で1,000億円以上を投入し、鉄鋼業におけるデジタル先進企業を目指します。データとデジタル技術を駆使して、生産プロセス改革及び業務プロセス改革に取り組み、事業競争力を強化します。
第一に、AI・IoT等のデジタル技術の高度利活用によるものづくりのスマート化を進めます。
第二に、受注~生産~納入までの統合生産計画プラットフォームを構築し、フレキシブルかつ最適な供給体制を強化します。
第三に、様々な経営情報やKPIをリアルタイムに把握し速やかな改善アクションを可能とする統合データプラットフォームを構築し、ビジネスインテリジェンスを強化します。
(投入計画、財務目標)
1.成長の実現に向けた経営資源の積極的投入(2021年度~2025年度)
1) 5年間で24,000億円の設備投資を実施します。
2) 5年間の事業投資規模を6,000億円とします。
2.収益・財務体質目標、株主還元(2025年度)
強固な財務体質(国際格付A格相当)を確保し、企業価値の回復を図るために、2025年度断面で、以下の指標を実現することを目指します。
2025年度経営計画 | |
売上収益事業利益率(ROS) | 10%程度 |
親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE) | 10%程度 |
D/Eレシオ(*3) | 0.7以下 |
連結配当性向 | 30%程度を目安 |
(*3) 劣後債等の資本性調整後
(注) 上記(経営環境)と(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)の記載には、2021年5月7日決算発表時点(日本製鉄グループ中長期経営計画についてはその公表時点)の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれている。これらはその発表又は公表の時点において当社が適切と考える情報や分析、一定の前提等に基づき策定したものであり、かかる見積りに固有の限界があることに加え、実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性がある。かかる要因については、後記「2 事業等のリスク」を参照されたい。