有価証券報告書-第95期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/07/02 15:00
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対処すべき課題

(経営方針)
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献することを企業理念に掲げて事業を行っています。
<日本製鉄グループ企業理念>基本理念
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。
経営理念
1.信用・信頼を大切にするグループであり続けます。
2.社会に役立つ製品・サービスを提供し、お客様とともに発展します。
3.常に世界最高の技術とものづくりの力を追求します。
4.変化を先取りし、自らの変革に努め、さらなる進歩を目指して挑戦します。
5.人を育て活かし、活力溢れるグループを築きます。
(経営環境)
中長期的な環境変化については、次の3点を想定しています。
1点目は、鉄鋼需給構造の変化です。世界の粗鋼生産量は、人口の増加に伴う経済成長とともに拡大していくと予測されています。一方で、輸出市場は、世界最大の鉄鋼消費国である中国の内需減少と中国沿岸部・ASEANにおける一貫鉄鋼生産能力の増強を受けて、競合が激化していくことが予想されます。また、世界的な自国産化・保護主義の流れが定着することも予想されます。この変化は、足元の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、さらに加速すると考えています。国内においては、高齢化・人口減少による建設需要の減少やユーザーの海外現地生産拡大による間接輸出減等により、鉄鋼需要は縮小していく見通しです。
2点目は、社会・産業構造の変化です。高度ITの急速な進歩、自動車における車体軽量化や高強度化のニーズの高まり、EV等新エネルギー車への動き、自動運転の普及等を通じて、素材に求められる性能はさらに高度化していくものと予想されます。この変化のなかで、他素材との競合が激化する可能性があります。一方で、鉄は他素材に比べ、コスト競争力、何度でも何にでも再生利用できるリサイクル性、ライフサイクルでの環境負荷の低さ等の大きな優位性があることに加えて、多様な特性と無限の可能性を持っています。例えば、鉄の理論強度は他素材に比べて非常に高く、さらに軽くて強い鉄へと進化していくポテンシャルを有しています。
3点目は、持続可能な社会の実現です。国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の取組みが進むなか、特に気候変動対策である地球温暖化ガスの削減や循環型社会の構築は、鉄鋼業にとって大きな使命です。また、環境対応商品・ソリューションへの需要が増加するとともに、国内では国土強靭化対応に対する投資の拡大に伴う鋼材需要の増加が予想されます。
足元は、複合的な要因により厳しい経営環境となっています。新型コロナウイルス感染拡大以前から、米中貿易摩擦を契機とした製造業の不振により鉄鋼需要が低迷する一方で、世界の鉄鋼生産量の半分以上を占める中国では、景気下支え策に伴うインフラ投資の増加により高水準の銑鉄生産が続き、鉄鉱石等の主原料価格が高止まりする「原料市況高・鋼材市況安」という過去に例を見ない状況となっています。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2020年度第1四半期の鉄鋼需要は急減しました。
新型コロナウイルス収束後の世界では、前述のとおり、当社が従前から想定していた市場構造の変化が加速すると考えています。需要面では、国内向けは人口減少や高齢化に伴いベース需要が一段と低迷・縮小する懸念があり、また、対立の蔓延による貿易縮小により間接輸出が減少すると想定しています。輸出についても、製造業における地産地消・自国産化の傾向が、新型コロナウイルスの影響でさらに加速し、グローバルに繋がっていた市場の分断が進展すると考えられること、また、石油価格下落によるエネルギー分野の新規投資の低迷と、感染拡大や自国通貨安による新興国の苦境が長引くと想定されることから、さらに厳しくなる見通しです。競合面においては、いち早い経済活動の再開を背景に、中国鉄鋼メーカーの相対的な優位性が拡大するものと考えています。以上のとおり、本体製鉄事業は極めて厳しい事業環境にさらされると考えています。
(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)
当社グループは、製鉄事業を中核として、鉄づくりを通じて培った技術をもとに、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しています。製鉄セグメントは、当社グループの連結売上収益の約9割を占めています。
当社は、足元の新型コロナウイルスの影響による鉄鋼需要減少に対して、コストを重視した需要見合いの生産に取り組んでおり、さらに踏み込んだ下方弾力性を確保するために、高炉15本中6本の一時休止を迅速に判断し、製品工程も品種毎の需要状況に合わせて稼働を調整しています。また、雇用維持に資する施策の一環として、国内の各事業所において、全社1人あたり平均月2日程度の臨時休業を実施しています。資金面では、営業キャッシュ・フローの悪化を踏まえ、資産圧縮、設備投資効率化、資金調達に取り組んでいます。
当社は、新型コロナウイルスの収束後には、いかなる事業環境下でも単独営業利益を黒字へ転換することを目指し、安定生産力の完全定着、紐付き価格のさらなる改善、選択と集中の徹底による修繕費や設備投資の圧縮に取り組んでいます。中長期的には、商品・設備・事業の徹底した取捨選択により、厳しい事業環境下においても収益力の強化に取り組みます。高付加価値商品の比率をさらに上げるとともに、集中生産することで高級材のコスト改善もあわせて図ります。この方針を踏まえ、本年2月公表の生産設備構造対策の実行の前倒しや追加対策の検討・実行に取り組みます。成長戦略としての海外事業については、引き続き積極的に取り組むと同時に、不採算事業からは撤退し、より深化させていきます。
2020年中期経営計画(2018~2020年の3カ年計画及び2021年以降の長期にわたる施策検討・着手)の進捗、本年2月公表の生産設備構造対策と経営ソフト刷新施策は、次のとおりです。
<2020年中期経営計画の進捗>(1) 社会・産業の変化に対応した素材とソリューションの提供
素材に求められる特性は、自動車分野での軽量化・電動化の進展や、電子材料分野でのさらなる軽・薄・短・小化と信頼性向上等のニーズを背景に、多様化・高度化しています。これに対し当社グループは、お客様ニーズの変化に対応した素材開発及び利用加工技術等のソリューション提供を拡大しています。例えば、ハイテン鋼板、高効率電磁鋼板、高耐食シームレス鋼管、高圧水素用材料、高強度軌条等の高級鋼の安定供給やさらなる機能向上によりお客様をサポートしています。これらを通じてお客様の価値創造に貢献し、売上の拡大を図っています。このうち、自動車・電力向け需要の成長と効率化ニーズの高まりに対応するべく、超ハイテン鋼板と電磁鋼板について製造設備の新設を決定しました。
① 超ハイテン鋼板の供給体制強化
自動車業界においては、世界的に環境規制強化と衝突安全基準の厳格化が進み、車体の軽量化・高強度化ニーズの高まりから、各自動車メーカーでの超ハイテン適用が増加しており、今後も需要拡大が見込まれます。また、今後普及が見込まれる電気自動車などの電動車においても、走行距離やバッテリー重量の問題により、車体軽量化のニーズが一層高まるものと考えられます。こうしたなか、当社は引張り強さが1.0GPa(*)以上ある超ハイテン鋼板の供給体制を強化するために、東日本製鉄所君津地区において溶融亜鉛めっきラインを新設することを決定しました。この設備では、強度1.5GPa級の超ハイテン鋼板の製造が可能で、2020年度第3四半期に稼働開始予定です。
(*)GPa:ギガパスカル。パスカルは引張り強さや圧力の単位。引張り強さ1.0GPaのハイテンは、1mm2あたり100kgの力が加わるまで破断しない。
② 電磁鋼板の能力・品質向上
世界の電力需要の伸長及び変圧器効率規制の強化を受けて、変圧器のエネルギー効率向上に資する方向性電磁鋼板の需要拡大が見込まれます。また、世界の自動車生産においては、エコカー向けの無方向性電磁鋼板の需要拡大が見込まれます。当社は、これらのハイグレードな電磁鋼板の需要拡大に対応するべく、九州製鉄所八幡地区、瀬戸内製鉄所広畑地区において電磁鋼板ラインの新設を決定しました。
また、当社グループの非鉄素材事業が持つ技術・商品と、鉄との有機的な連携により、お客様のマルチマテリアル化ニーズに応えていきます。2018年10月には、新日鉄住金化学㈱と新日鉄住金マテリアルズ㈱が統合し、日鉄ケミカル&マテリアル㈱として新たにスタートしました。この統合で化学事業と新素材事業を融合し、総合的材料ソリューション提案力を強化しました。
当社グループは、鉄の可能性を極め、素材としての競争力を高めることを基本としながら、他素材との組み合わせ等これまでに培った技術力・総合力を発揮し、素材に加えてその利用・加工技術まで含めたトータルソリューションの開発・提供をしていきます。これにより、他素材への材料転換が進むリスクにも的確に対応し、社会と産業のニーズにお応えすることでオポチュニティを捉えていきます。
(2) グローバル事業展開の強化・拡大
当社グループは、「技術力・商品力を活かせる分野」、「鋼材需要の伸びが確実に期待できる地域」において、グローバル事業展開を進めています。
当社グループの技術力・商品力を活かせる分野の一つである特殊鋼分野では、2018年6月にスウェーデンのオバコ社を買収し、2019年3月には山陽特殊製鋼㈱を子会社化するとともに、オバコ社を山陽特殊製鋼㈱の傘下に置く体制としました。当社が、室蘭製鉄所、九州製鉄所八幡地区(小倉)で行っている特殊鋼棒線事業とあわせ、3社でのシナジーを追求しています。
鋼材需要の伸びが確実に期待できる地域においては、保護主義の拡大や自国産化への動きに対応するべく、有力企業との協業やM&Aに機動的かつ柔軟に取り組み、各国・地域でインサイダー化を進めています。インドにおいては、2019年12月に高炉一貫メーカーであるエッサール スチール社をアルセロールミッタル社と共同で買収し、アルセロールミッタル ニッポンスチール インディア社として新たにスタートしました。今後拡大が見込まれるインドの鉄鋼需要を着実に捕捉していきます。
一方で、財務体質改善の目途が立たない事業や役割を終えた事業、シナジーの薄まりつつある事業については撤退を含めて冷静に判断をして、経営資源の適正な再配分を行っています。
(3) 国内マザーミルの「つくる力」の継続強化
国内マザーミルは「つくる力」を強化し、技術開発並びにコスト・生産性改善の拠点として進化を続け、国内外への鋼材の安定供給と海外事業の支援を行っております。
① 「設備」と「人」のさらなる強化
「設備」の強化については、競争力ある国内マザーミルにおいて、高炉・コークス炉等の設備リフレッシュや新鋭設備の導入を推進しています。これらにより安定生産、生産性向上、コスト改善等の効果を拡大させています。
[対象箇所] [対象設備] [改修完了時期]
・北海製鉄 第2高炉 2020年度下期予定
・名古屋製鉄所 第3高炉 2022年度上期予定
・東日本製鉄所君津地区(君津) 第5コークス炉 2019年2月(実行済み)
・北海製鉄 第5コークス炉 2019年9月(実行済み)
・名古屋製鉄所 第3コークス炉 2021年度上期予定
「人」の強化については、急速に進む世代交代のなかで、ベテランの持つノウハウを「見える化」し、効率化・高度化の基礎となるものづくり標準化をはじめとした技能伝承・教育を推進しています。また、操業・整備等ライン管理者のマネジメント力の強化を進めるとともに、課題のある製鉄所や工程・設備に対して、全社のエキスパートチームによる集中支援を行ってきました。さらに、人口減少による人手不足に的確に対応するべく、省力化対策(IT活用、自動化・無人化)を実施しています。
②最適生産体制の構築 (2020年2月公表内容は後述)
事業環境変化に柔軟に対応し得る強靭な製造体制の確立に向けて、最適生産体制の構築を進めています。
a. 九州製鉄所八幡地区(戸畑)において、2019年5月に新鋭連続鋳造設備を稼働させ、2020年度上期末を目途に同地区(小倉)の鉄源設備(高炉、製鋼)を休止します。なお、同地区(小倉)での特殊鋼棒線製品の生産は現行水準を維持します。
b. 関西製鉄所和歌山地区において、2019年2月に第5高炉から新第2高炉への切り替えを実施しました。
c. 東日本製鉄所君津地区(東京)において、2020年5月に小径シームレス鋼管工場を休止し、関西製鉄所和歌山地区(海南)に生産を集約しました。
d. 東日本製鉄所鹿島地区において、2019年10月にUO鋼管ラインを休止し、同君津地区に生産を集約しました。
e. 瀬戸内製鉄所広畑地区において、2022年度上期を目途に最新式電気炉を立ち上げ、現行の溶解炉・転炉による冷鉄源溶解プロセスを、エネルギー効率に優れ、よりフレキシブルな生産が可能な電気炉プロセスに刷新します。この最新式電気炉では、当社の強みである精錬技術と、高炉由来の高品位原料を活かし、電磁鋼板をはじめとした高純度で高品質な薄板のハイグレード商品を製造します。なお、現行の溶解炉・転炉は2023年度上期を目途に休止します。
(4) 世界をリードする技術開発の推進、高度IT(AI・IoT・BigData等)の活用
鉄鋼業で世界最大規模・世界最高水準の技術開発力を活かし、変革のキードライバーとなる技術開発を推進しています。具体的には、お客様のニーズ変化を先取りする高機能商品(軽量・高強度・高耐食・低電力損失等)、設計・加工技術、鉄鋼製品によるライフサイクル(製造~使用~リサイクル)での環境負荷ミニマム化等の技術開発を推進し、鉄を極め世界をリードし続けます。当期における取組みの詳細については、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 研究開発活動」に記載していますので、併せて御参照ください。
また、近年の事業運営においては、日々進歩するIT の活用が、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。当社グループは、グループ内にシステムソリューション事業(日鉄ソリューションズ㈱)を持つ強みを活かし、高度IT(AI・IoT・BigData 等)を積極的に活用し、安全かつ競争力のあるユニバーサルな製造現場、安定生産・品質の向上の実現、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に取り組んでいます。
(5)グループ事業体制の強化
鉄を機軸とした素材とソリューションを通じて、より高い価値をお客様・社会に提供するために、グループ各社の連携を強化し総合力を高めています。また、グループ内での再編や「選択と集中」を進めています。
① 日新製鋼㈱シナジー発揮
当社は、2017年3月に日新製鋼㈱を子会社化し、2019年1月に完全子会社化しました。さらに2020年4月に同社を吸収合併しました。厳しい経営環境のなかで、当社グループとして従来以上に踏み込んだトータル最適を追求するとともに、顧客との関係維持・安定供給確保等の観点から一層の一体運営に取り組み、競争力強化に向けて機動的に対応していく事業体制としました。
ステンレス鋼板事業及び溶接ステンレス鋼管事業においては、2019年4月に日鉄ステンレス㈱が発足し、また、日鉄ステンレス鋼管㈱を存続会社として日新製鋼ステンレス鋼管㈱を吸収合併するなど、関係各社が経営資源を持ち寄り、事業戦略の一体化、生産体制の最適化及び操業技術のベストプラクティスの追求による競争力の強化を通じ、あらゆるお客様ニーズに対応できる体制を構築し、成長、発展を図っております。
② 製鉄事業と化学・マテリアル統合会社である日鉄ケミカル&マテリアル㈱(2018年10月発足)の連携を通じ、自動車電池等の先端ニーズへの対応力を強化するなど、事業戦略の進化を図っています。
③ エンジニアリング事業については、日鉄エンジニアリング㈱において各事業分野の競争力強化と同社グループの連携強化に取り組むとともに、他社とのシナジーを追求する視点から、東洋エンジニアリング㈱との包括連携も活かして収益力拡大に取り組んでいます。
④ システムソリューション事業のさらなる成長、当社グループIT基盤の強化
日鉄ソリューションズ㈱では、「IoXソリューション事業推進部」(2016年4月設置)、「AI研究開発センター」(2017年10月開設)の活用を通じて、IoT、AI分野におけるお客様へのソリューション提供を拡大しています。また、当社グループは、同社をグループ内に持つ強みを活かし、当社グループのIT基盤強化・高度IT活用に取り組んでいます。
(6) 社会から信頼される企業に向けた取組み
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献することを企業理念に掲げています。これは、当社グループのE(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の考え方そのものであり、ESGの課題に取り組むことは、自らの存立・成長を支える基盤であるとともに、重要な課題の一つであると認識しています。当社は、ESGについて重点的に取り組むべき重要課題(マテリアリティ)と、その成果を評価する指標(KPI:Key Performance Indicator)に基づいて実行をフォローし、持続的な社会の成長への貢献と企業価値の向上に努めています。
なかでも、「持続可能な開発目標(SDGs)」の気候変動対策である地球温暖化ガスの削減や循環型社会の構築をはじめとする環境課題への対応は、鉄鋼業にとっても大きな使命です。当社グループは、既に世界最高水準にある製造段階でのエネルギー効率をさらに向上させることによるCO₂排出量の削減、抜本的にCO₂排出量を削減するための革新的技術開発に挑戦する「エコプロセス」、軽量化等により当社の鋼材が最終製品となった段階で省エネ性能を発揮する「エコプロダクツ®」、当社の環境技術を海外に普及させることでグローバルな環境改善に貢献する「エコソリューション」、以上「3つのエコ」によるCO₂排出量の削減や、容器包装プラスチックの再資源化、製造時に発生する副生ガスや使用する水の再利用など循環型社会(サーキュラーエコノミー)の構築に取り組んでいます。また、日本鉄鋼連盟の長期温暖化対策ビジョン「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」の策定、鉄鋼製品のライフサイクル全体で環境への影響を評価するLCA(Life Cycle Assessment)の考え方に基づく環境負荷計算に関するISO及びJIS規格化、「海の森づくりとブルーカーボン(海洋生態系による二酸化炭素の吸収・固定)」の提唱等、地球環境に関する諸課題の解決に向けて主導的な役割を果たすとともに、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に賛同を表明し、開示内容の充実を図っています。当社グループは、持続可能な社会の実現に向けて、お客様を含めたサプライチェーン全体での省エネルギーとCO₂排出量削減及びエネルギー効率の改善などにも取り組んでいます。
また、SDGsの目標の一つである「安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住の実現」に資するインフラ整備、自然災害が激甚化するなかでの防災・減災対策など国土強靭化対策の進展に対し、当社グループの商品・ソリューションの提供を通じて貢献していきます。
(7) 収益・財務体質目標、株主還元
当社グループは、資本コストすなわち株主の皆様の期待リターン、利益水準、債券格付けの維持向上等の観点を踏まえて、2020年中期経営計画においてROS(売上収益事業利益率)10%、ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)10%を目指すべき収益目標に掲げています。一方で、前述の経営環境下において当社の収益は急激に悪化しており、将来想定される輸出市場の競合激化や国内需要の縮小にも備えるべく、収益基盤強化に向けた抜本的対策に取り組んでいます。
具体的には、資産圧縮については、2020年中期経営計画の1,000億円に4,000億円以上を追加し、5,000億円以上/3カ年を目標に取り組んでいます。また、設備投資の厳選と効率化も図っており、長期更新計画に基づく効率的設備投資を検討し、将来にわたり収益に貢献する品種・地域へ選択投資することにより、2020年中期経営計画の国内設備投資総額1兆7,000億円を2,000億円程度圧縮することとし、今後さらなる削減を検討していきます。資金調達面では、当期に劣後債3,000億円を発行し、当期末時点の親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(D/Eレシオ)は0.94倍(劣後ローン・劣後債資本性調整後0.74倍)となりました。資産圧縮、設備投資の効率化等の詳細については、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② キャッシュ・フローの状況の分析・検討並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報 (資金需要の動向に関する経営者の認識と資金調達の方法)」に記載していますので、併せて御参照ください。
2020年度を実行最終年度とする「2020年中期経営計画」の収益、財務体質の各目標とそれに対する当期までの状況は以下のとおりです。
2018年度(実績)2019年度(実績)2020年度(目標)
売上収益事業利益率(ROS)5.5%△4.8%10%程度
親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)7.9%△14.7%10%程度
D/Eレシオ0.73
*1 (0.66)
0.94
*1 (0.74)
0.7程度
コスト改善(単独)440億円600億円*2 年率1,500億円
連結配当性向28.4%30%程度

(*1) 劣後ローン・劣後債資本性調整後
(*2) 2018年度~2020年度の3カ年累計
<生産設備構造対策と経営ソフト刷新施策(2020年2月7日公表)>当社グループの経営環境は、足元の厳しい状況に加えて、中長期的には、国内鉄鋼需要の縮小と海外鉄鋼市場における競合激化が想定されます。一方で、当社グループの主力製鉄所においては大規模な老朽更新投資が必要な時期を迎えます。こうした厳しい環境条件を見据え、当社グループは新たな生産設備構造対策と経営ソフト刷新施策を実施することを、本年2月に決定し、順次実行しています。
(1) 生産設備構造対策 ~国内製鉄事業最適生産体制の構築に向けた新たな取組み~
① 鉄源一貫生産に関する競争力強化
鉄源一貫生産での競争力を高める観点から、各製鉄所の一貫生産・出荷能力、コスト競争力、商品力等の競争力を総合的に勘案し、次の設備を休止します。なお、2019年度末目途に休止を予定していた日鉄スチール㈱の製鋼設備の稼働は継続します。
[対象箇所] [対象設備] [休止時期]
・瀬戸内製鉄所呉地区 鉄源(高炉、焼結、製鋼)設備 2021年度上期末目途
熱延・酸洗等上記以外全設備 2023年度上期末目途
・関西製鉄所和歌山地区 第1高炉、 2022年度上期目途
第4・第5コークス炉、第5-1焼結機、第3連続鋳造機の一部設備
② 製品製造工程に関する競争力強化
a. 厚板事業体質強化
稼働率向上、生産性向上による厚板事業の体質強化を図る観点から、製造プロセス一貫での競争力を総合的に勘案し、次の設備を休止し、東日本製鉄所鹿島地区、君津地区及び九州製鉄所大分地区の厚板ラインに生産を集約します。
[対象箇所] [対象設備] [休止時期]
・名古屋製鉄所 厚板ライン 2022年度下期目途
b. 薄板生産体制効率化
競争力優位な製造ラインに注文を集約するとともに、より需要地立地での生産を指向する観点から、次の瀬戸内製鉄所堺地区の3ラインを休止し、東日本製鉄所君津地区、名古屋製鉄所等のラインに生産を集約します。また、瀬戸内製鉄所広畑地区のブリキ製造ラインの休止を2020年度末目途へ前倒し、九州製鉄所八幡地区、名古屋製鉄所のラインに生産を集約します。
[対象箇所] [対象設備] [休止時期]
・瀬戸内製鉄所堺地区 電気亜鉛めっきライン、 2020年度末目途
連続焼鈍ライン、No.1溶融アルミめっきライン
・瀬戸内製鉄所広畑地区 ブリキ製造ライン 2020年度末目途
c. チタン丸棒・溶接管事業からの撤退
航空機エンジン向けが主体のチタン丸棒及び原子力・火力発電プラント向けが主体のチタン溶接管に関わる事業環境及び収益状況を勘案し、両事業から撤退します。
[対象箇所] [対象設備] [休止時期]
・関西製鉄所製鋼所地区 チタン丸棒製造専用設備 2022年度末目途
・九州製鉄所大分地区(光鋼管) チタン溶接管製造ライン 2021年度上期末目途
d.ステンレス事業体質強化
ステンレス事業の体質強化の観点から、日鉄ステンレス㈱衣浦製造所の熱延工場を休止して当社に生産を集約するとともに、精密品製造専用設備を休止し山口製造所等へ生産を集約します。
[対象箇所] [対象設備] [休止時期]
・日鉄ステンレス 衣浦製造所 熱延工場 2020年12月末目途
精密品製造専用設備 2020年度上期末目途
(精密圧延機、光輝焼鈍ライン、
巻き直しライン)
上記取組みによる粗鋼生産能力削減規模は年間約500万トン、設備休止による直接的な収益改善効果は約1,000億円と見込んでおりますが、今回決定した生産設備構造を前提として、製鉄所統合によるシナジー効果、合理化による労働生産性向上、変動費改善等の効果を積み上げていくこととします。
加えて、今回の生産設備構造をステップとして、一層競争力ある最適生産体制の構築に向けた検討を継続するとともに、設備投資の選択と集中を実施し、さらには、今後の国内外の需給バランス、そのもとで当社が獲得しうる収益の動向等を見極めつつ、環境変化に応じさらなる対策を講ずることとします。
(2) 経営ソフト刷新施策 ~意思決定の迅速化、業務運営の効率化に向けた取組み~
事業環境変化の拡大と高まる変化速度に的確に対応するため、経営ソフトを刷新し、意思決定の迅速化と全社業務運営の一層の効率化を実現します。
① コーポレート・ガバナンスに関する機関設計の見直しと経営体制のスリム化・効率化
a. 監査等委員会設置会社への移行
当社は、経営に関する意思決定の迅速化を図るとともに、取締役会における審議事項を重点化して経営方針・経営戦略の策定等の議論をより充実させ、さらに、取締役会の経営に対する監督機能の強化を図ること等を目的として、2020年6月24日開催の第96回定時株主総会で関連する定款変更議案の承認をいただき、「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」に移行しました。
b. 経営体制のスリム化・効率化
機関設計の見直しにあわせ、経営体制のスリム化に取り組みます。
② 全社的な組織・業務運営の一層の効率化
2020年4月1日付で、従来の16拠点(同日合併した日鉄日新製鋼㈱の4拠点を含む)からなる製鉄所組織を、室蘭、東日本、名古屋、関西、瀬戸内及び九州の6製鉄所に統合・再編成しました。各製鉄所において組織の重複を排除しつつ効率的にマネジメントする体制を整備するため、組織編成の大幅な見直しを行い、部組織を3割強削減しました。また、本社については各部門の全社統括機能を堅持しつつ、室組織を大括り化により3割削減しました。支社・支店、技術開発本部等においても部・室組織の統合・再編成によるスリム化を図りました。
こうした全社組織のスリム化を通じて、職場のマネジメント力の向上、課題解決の迅速化を図るとともに、業務運営の一層の効率化を実現していきます。
③ デジタルトランスフォーメーションへの対応強化
データとデジタル技術の積極活用による事業競争力のさらなる強化を目的として、2020年4月1日付で「デジタル改革推進部(DX推進部)」を設置する等、デジタルトランスフォーメーションに関わる組織の再編及び機能の再構築を行います。新組織は、製造・整備の現場、販売・生産計画、収益管理等に関する全社横断的な課題への一元的対応及びこれらの基盤となるデータマネジメントの強化により、業務・生産プロセスの改革の実行を加速します。
具体的には第一段階として、当社グループの保有するデジタル技術リソースである業務プロセス改革推進部、システム制御技術部(設備・保全技術センター)、インテリジェントアルゴリズム研究センター及び計測・制御研究部(プロセス研究所)、日鉄ソリューションズ㈱、日鉄テックスエンジ㈱等の各領域を俯瞰し、デジタル技術を用いた業務・生産プロセス改革の中長期戦略の策定及び前述の全社横断課題の企画・推進を担うとともに、デジタル投資に関する全社リソース投入マネジメントの強化・効率化、投資案件に適用するデジタル技術の評価及び実行部門間の調整、最新デジタル技術の調査・適用検討及び実機化推進等を行います。
当社は、データとデジタル技術の積極活用により、業務運営の効率化、意思決定の迅速化及び業務・生産プロセス改革に取り組み、さらなる事業競争力の強化を図っていきます。
(3) 日本製鉄グループのさらなる事業基盤強化に向けて
当社は、上記(1)(2)の施策に加え、より強靭で筋肉質な製鉄事業の国内製造体制を再構築するとともに、国内外の重点分野・地域での事業拡大を図ることを通じ、企業価値ベースでの総合力世界No.1の鉄鋼メーカーを実現するため、今後も、
1.製鉄事業最適生産体制のさらなる追求
2.グループ会社を含めた国内外事業の選択と集中の徹底
3.重点事業分野・地域・商品に係る戦略的投資の推進
4.少子高齢化及びダイバーシティ・インクルージョンへの対応
5.地球環境との調和ある成長
という視点から鋭意諸施策を継続検討し、成案を得たものから逐次実行していきます。
(注) 上記((経営環境)と(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題))の記載には、2020年5月8日決算発表時点の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれている。実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性がある。