有価証券報告書-第94期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

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2019/06/25 15:00
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93項目

対処すべき課題

(経営方針・経営戦略等)
世界の鉄鋼需要は、長期的に拡大していく見通しです。また、IT(AI・IoT・ビッグデータ等)の急速な進歩、自動車の車体軽量化・高強度化ニーズの高まりやEV等の新エネルギー車の普及など、社会や産業が大きく変化しようとしています。一方、国連で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、「パリ協定」が発効するなど、持続可能な社会の実現に対する企業の貢献が期待されています。
鉄はコスト優位性に加え、多様な特性と無限の可能性、何度でも何にでも再生利用できるリサイクル性、ライフサイクルでの環境負荷の低さなど、他の素材に比べ大きな優位性があり、あらゆる産業・インフラに必要不可欠な基礎素材です。従い鉄鋼業は、これからも長い将来に亘り社会の発展に大きな役割を果たします。
このような社会や産業の変化の「メガトレンド」や鉄の果たし得る役割を踏まえ、当社が取り組むべき中長期の課題は次の5つと捉えております。
● 社会・産業の変化に対応した素材とソリューションの提供
● グローバル事業展開の強化・拡大
● 国内マザーミルの「つくる力」の継続強化
● 鉄鋼製造プロセスへの高度ITの実装
● 持続可能な社会の実現への貢献(SDGs)
当社は前述の課題に取り組むことにより、技術力、コスト競争力、グローバル対応力をより強化し、「鉄を極める」ことで、総合力世界No.1の鉄鋼メーカーに向け進化を続けます。
これを実現するため、「2020年中期経営計画(2018~2020年の3カ年計画及び2021年以降の長期にわたる施策検討・着手)」を策定しており、そのなかで当社の経営方針・経営戦略等をまとめております。その概要については以下のとおりです。
<2020年中期経営計画(2018年3月2日公表)>
新日鐵住金グループの中期経営計画について
~つくる力を鍛え、メガトレンドを捉え、鉄を極める~
1.社会・産業の変化に対応した素材とソリューションの提供
素材に求められる特性は、自動車分野での軽量化・電動化の進展や、電子材料分野での更なる軽・薄・短・小化と信頼性向上などのニーズを背景に、多様化・高度化しています。これに対し当社は、お客様ニーズの変化に対応した素材開発、及び利用加工技術等のソリューション提供を拡大します。例えば、ハイテン鋼板、高効率電磁鋼板、高耐食シームレス鋼管、高圧水素用材料、高強度軌条等の高級鋼の安定供給や更なる機能向上によりお客様をサポートします。これらを通じお客様の価値創造に貢献し、売上の拡大を図ります。
また、当社の非鉄素材事業(化学・新素材)が持つ技術・商品と、鉄との有機的な連携により、お客様のマルチマテリアル化ニーズに応えます。この取り組みの進化を図るために、新日鉄住金化学(株)と新日鉄住金マテリアルズ(株)を統合し、総合的材料ソリューション提案力を強化します。(2018 年10 月統合予定)
2.グローバル事業展開の強化・拡大
当社が有する商品技術力・コスト競争力及びグローバル供給ネットワークを最大限活かし、国内外における自動車、資源・エネルギー、インフラ各分野での鋼材供給を拡大します。
特に伸長する海外需要に対しては、国内からの高級鋼を中心とした輸出と、現地生産を担う海外事業会社による供給により対応します。また、インフラ需要等が伸長する地域への鋼材供給を拡大するために、保護主義の拡大や自国産化への備えの観点からも、鉄源から一貫した生産拠点を拡充します。現在、Arcelor Mittal 社とインドの一貫鉄鋼メーカーであるEssar Steel India Limited の共同買収に取り組んでいます。
これらを実行するために、今後も有力企業との協業やM&A に機動的かつ柔軟に取り組みます。

3.国内マザーミルの「つくる力」の継続強化
国内マザーミルは「つくる力」を強化し、技術開発並びにコスト・生産性改善の拠点として進化を続け、国内外への鋼材の安定供給と海外事業の支援を行っていきます。
(1) 「設備」と「人」のさらなる強化
「設備」の強化については、2017 年中期計画にて増額した設備投資をさらに年1,000 億円規模増額し、積極的に高炉・コークス炉等の設備リフレッシュや新鋭設備の導入を推進します。これらにより安定生産、生産性向上、コスト改善等の効果を拡大します。
「人」の強化については、2017 年中期計画にて増加させた採用規模を維持し、技能伝承・教育を推進します。また、人口減少による人手不足に的確に対応すべく、省力化対策(IT 活用、自動化・無人化)を並行して実施します。
(2) 最適生産体制の構築
事業環境変化に柔軟に対応し得る強靭な製造体制の確立に向けて、最適生産体制の構築を進めます。2017 年中期計画で実施してきた、圧延・表面処理設備の集約、君津製鐵所の第3 高炉休止に加え、本中期計画においては、以下の対策を実行します。
①八幡製鐵所での新鋭連続鋳造設備稼働(2019 年度~)により、小倉地区の鉄源設備(高炉、製鋼)を計画通り2020 年度末を目途に休止します。なお、小倉地区での特殊鋼棒線製品の生産は現行水準を維持します。(既公表)
②和歌山製鐵所第5高炉から稼働待機中の新第2高炉への切替えを、2018 年度末頃に実施します。これにより粗鋼生産能力は50 万t/年増加します。また、同製鐵所構内にある日鉄住金スチール㈱の製鋼工場について、2019 年度末を目途に休止し、当社和歌山製鐵所からの鋼片供給に移行します。
③君津製鐵所小径シームレス鋼管工場(旧:東京製造所)を2020 年5 月目途に休止し、和歌山製鐵所海南地区に生産を集約します。
4.世界をリードする技術開発の推進、高度IT(AI・IoT・BigData等)の活用
鉄鋼業で世界最大規模(研究員約800 名)・世界最高水準の技術開発力を活かし、変革のキードライバーとなる技術開発を推進します。具体的には、お客様のニーズ変化を先取りする高機能商品(例:軽量・高強度・高耐食・低電力損失)、設計・加工技術、鉄鋼製品によるライフサイクル(製造~使用~リサイクル)での環境負荷ミニマム化等の技術開発を推進し、鉄を極め世界をリードし続けます。
さらに近年の事業運営においては、日々進歩するIT の活用が、企業の競争力を左右する重要要素となっています。当社はグループ内にシステムソリューション事業(新日鉄住金ソリューションズ(株))を持つ強みを活かし、高度IT(AI・IoT・BigData 等)を積極的に活用し、安全かつ競争力のあるユニバーサルな製造現場、安定生産、品質の向上、及び業務の高度化を実現します。
5.グループ事業体制の強化
鉄を基軸とした素材とソリューションを通じて、より高い価値をお客様・社会に提供するために、グループ各社の連携を強化し総合力を高めます。
また、更なるグループ内での再編や「選択と集中」を進めます。
(1) 日新製鋼(株) シナジー発揮
2017年3月に子会社化した日新製鋼㈱との間で2020年度末までに200億円/年のシナジーを発揮します。さらに、薄板・ステンレス等の各品種事業及び鉄源生産での連携施策を一層拡大します。また、当社高炉長寿命化技術の適用により呉製鉄所第1高炉の改修を2019年度末から2023年度末を目途に繰り延べました。
(2) 製鉄事業と化学・マテリアル統合会社の連携を通じ、自動車や電池等の先端ニーズへの対応力を強化する等、事業戦略の進化を図ります。
(3) エンジニアリング事業においても各事業の競争力強化とグループ連携の強化に取り組むとともに、他社とのシナジーを追求する視点から、新日鉄住金エンジニアリング(株)は東洋エンジニアリング(株)との包括連携も活かして収益力拡大に取り組みます。

(4) システムソリューション事業のさらなる成長、当社グループ IT 基盤の強化
新日鉄住金ソリューションズ(株)では、「IoX ソリューション事業推進部(2016 年4 月設置)」、「AI 研究開発センター(2017 年10 月開設)」の活用を通じて、IoT、AI 分野におけるお客様へのソリューション提供を拡大しています。また、当社グループ内に同社を持つ強みを活かし、当社グループのIT 基盤強化・高度IT 活用に取り組みます。
6.経営資源の積極的投入による成長の実現
(1) 国内設備投資
「設備」の強化に資する、高炉・コークス炉改修を含む設備の新鋭化・健全性維持、及び成長分野の需要捕捉に向けた生産対応等を推進するために、2017 年中期計画に対し3 年間で約3,500 億円を増額した、約17,000 億円の設備投資を実施します。
(2) 事業投資
国内外の品種・分野・地域毎の事業展開や原料権益の獲得等の成長投資に加え、M&A の実行に備え、投資規模を3 年間で約6,000 億円とします。
(3) 採用
「人」の強化として、2017 年中期計画と同規模の1,100 人/年程度を採用します。
なお、上記資源投入の実行と併せて、グループ全体の「選択と集中」を更に進めて、資産圧縮 (約1,000 億円/3 ヵ年)を行い、上記成長投資の財源の一部に充当します。
2020年中期計画2017年中期計画
国内設備投資(連結)約17,000億円/3カ年約13,500億円/3カ年
事業投資(連結)約6,000億円/3カ年約3,000億円/3カ年
研究開発費(連結)約2,200億円/3カ年約2,100億円/3カ年
採用(単独)約1,100人/年約1,300人/年
資産圧縮(連結)約1,000億円/3カ年約2,000億円/3カ年

7.収益・財務体質目標、株主還元
2020年中期計画2017年中期計画
ROS(売上収益事業利益率(*))10%程度10%以上
ROE(親会社所有者帰属持分利益率)10%程度10%以上
D/Eレシオ(資本負債比率)0.7程度0.5程度
コスト改善1,500億円1,500億円
連結配当性向30%程度を目安20~30%を目安

(*)2018年度決算よりIFRS(国際財務報告基準)移行予定
事業利益=税引前利益-負担金利-個別開示項目
(個別開示項目とは、当社グループの営業活動と関連が低く金額的影響が大きい非定常的項目)

8.社会から信頼される企業に向けた取り組み
(1) 新日鐵住金グループ企業理念(基本理念)
新日鐵住金グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。
(2) 当社のものづくり価値観は、第一に「安全・環境・防災」、第二に「品質」、第三に「生産」、そして「コスト、収益」の優先順位です。過去のトラブル・事故の教訓を風化させることなく、適切なリスク管理、未然防止対策に継続して取り組みます。
(3) 関連法規を遵守し、財務報告の信頼性と業務の有効性・効率性を確保するため、内部統制システムを整備し適切に運用するとともに、その継続的改善に努めます。
(4) 業務の標準化・効率化と IT の活用拡大によって業務運営を刷新し、「働き方改革」を実現します。
(5) 当社が考える3つのエコ(エコプロセス、エコプロダクツ®、エコソリューション)と、革新的な技術の開発(COURSE50 等)を通じ、循環型社会の確立、環境保全を推進します。
新日鐵住金グループは、社会から信頼される企業であり続けるために、上記の取り組みを継続します。


(経営環境及び対処すべき課題)
2019年度の経営環境については、以下のように認識しております。
世界経済は、中国政府が各種政策による景気の下支えに注力していることに加え、米国では引き続き景気が底堅く推移すると想定されること等により、総じて緩やかな成長を維持するものと期待されます。日本経済は、雇用環境の改善が継続し、回復基調が続くと見込まれます。
国内の鉄鋼需要及び市況については、引き続き堅調に推移すると見込まれます。海外の鉄鋼需要及び市況については、足下では市況が堅調に推移しているものの、中国政府の景気対策の成否や米中通商問題の動向等による景気の下振れリスクがあることから、今後の動きを引き続き注視していく必要があります。
2019年度の業績見通しについては、再生産可能な適正価格の実現に向けた継続的な取組みに加え、主原料価格の上昇や市況原料・資材費・物流費等のコストアップ影響も踏まえた鋼材価格の改善について、需要家の皆様と交渉中であること等から、現時点では当社として合理的な算定・予想を行うことができません。
従いまして、業績予想については未定とし、合理的な算定が可能となった時点で速やかに開示致します。
当社グループは、2020年中期経営計画の実行を通じ、国内マザーミルの「つくる力を鍛え」続けるとともに、ITの急速な進歩、自動車の車体軽量化・高強度化ニーズの高まりやEV等の新エネルギー車の普及等、社会や産業の大きな変化の「メガトレンドを捉え」、当社の強みである技術力、コスト競争力、グローバル対応力をさらに磨いて「鉄を極める」ことで、総合力世界No.1の鉄鋼メーカーに向けて進化を続けてまいります。
2018年度の連結業績は一定の水準を確保できたものの、当社単独の業績はこの数年間低水準が継続しており、収益基盤の立直しとその強化が必須と認識しております。高度経済成長期に開業した製鉄所の多くが操業開始から半世紀を迎え、従業員の世代交代も進展しているなか、当社は「第2の創業期」とも言うべき大きな構造改革を乗り越え、事業として再生産可能な収益基盤の再構築を図っていく所存です。
具体的には、「つくる力」の再構築と「売る力」の強化を柱に、中期経営計画で掲げた諸施策を着実に実行することに加え、資産圧縮対策の積増しや設備投資の一層の効率化を通じて同計画を補強し、収益基盤のさらなる強化に向けた抜本的対策を推進してまいります。
なお、本年4月、当社は商号を「日本製鉄株式会社(英文:NIPPON STEEL CORPORATION)」に変更致しました。日本を発祥とするグローバルな鉄鋼メーカーとして、多様なDNAを受け入れつつ未来に向かい、世界で成長を続けてまいります。
(注) 上記(経営環境及び対処すべき課題)の記載には、2019年5月9日決算発表時点の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれている。実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性がある。
(財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針に関する事項)
当社は、財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を次のとおり定めております。
<当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針の内容>当社グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて社会の発展に貢献することを企業理念に掲げ、この理念に基づき経営戦略を立案・遂行し、競争力・収益力を向上させることにより、企業価値ひいては株主共同の利益の向上を目指しております。
当社は、第三者から当社株式の大量買付け行為等の提案(以下、「買収提案」といいます。)がなされた場合、これを受け入れるか否かの最終的な判断は、その時点における株主の皆様に委ねられるべきものと考えております。他方で、買収提案の中には、当社の企業価値や株主共同の利益に対し明白な侵害をもたらすおそれのあるもの、株主の皆様に当社株式の売却を事実上強要することとなるおそれのあるもの等が含まれる可能性があると考えております。
従って、当社は、第三者から買収提案がなされた場合に株主の皆様にこのような不利益が生じることがないよう、当社株式の取引状況や株主の異動状況等を注視するとともに、実際に買収提案がなされた場合には、株主の皆様が必要な情報と相当な検討期間をもって適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)を行うことができるように努めます。仮に、買収提案が当社の企業価値ひいては株主共同の利益を毀損するおそれがあると合理的に判断される場合には、その時点における関係法令の許容する範囲内において、適切な措置を速やかに講じることにより、当社の企業価値ひいては株主共同の利益の確保を図って参ります。