訂正有価証券報告書-第91期(平成26年4月1日-平成27年3月31日)

【提出】
2017/05/12 10:44
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【項目】
122項目

研究開発活動

当社グループは特殊鋼をベースにした高い技術力を背景に「21世紀社会に貢献する創造的、個性的な企業集団」を目指すことを基本理念としており、「新製品・新事業の拡大」および「既存事業の基盤強化」のため、積極的な研究活動を行っております。
現在、当社「研究開発本部」内の「特殊鋼研究所」、「電磁材料研究所」、「プロセス技術開発センター」を中心に、新製品、新材料、新技術の研究開発を推進しており、研究開発スタッフはグループ全体で275名であります。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は53億円であり、各セグメント別の研究の目的、主要な研究成果および研究開発費は次のとおりであります。
(1) 特殊鋼鋼材
主に当社が中心となり、自動車用構造材料、工具鋼などの素材開発および製鋼、精錬、凝固から製品品質保証までプロセス革新等の研究開発を行っております。
当事業に係る研究開発費の総額は14億69百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては次のものがあります。
・製造性に優れる歯車用鋼の開発
歯車は疲労強度や表面の耐摩耗性と心部のじん性を両立させるため、一般に高温で浸炭処理して使われておりますが、この浸炭処理時に強度低下などの特性劣化の原因となる局部的な結晶粒の粗大化(結晶粒径の不均一)が発生する場合があります。そこで、結晶粒径を均一に制御し、特性劣化を抑制する技術を開発いたしました。歯車用鋼へ適用するため実用化に向けた検討を行っております。高温で短時間の処理が可能となり、浸炭処理コストの低減が図れます。
・高強度鋼板加工用PVD皮膜「ハイテンセラック」
自動車の燃費向上のための部品軽量化には、使用される鋼板の高強度化が必要となります。鋼板のプレス加工では,加工工具の表面を硬い皮膜でコーティングしますが、鋼板の高強度化によって皮膜が早期に剥がれ,工具交換が頻繁になる問題が顕在化しており、より剥がれ難い皮膜が求められております。
このようなニーズに応えるために、PVD皮膜「ハイテンセラック」を開発いたしました。ハイテンセラックは、一般的に用いられる皮膜と比べ5倍以上長持ちするため、工具交換頻度の低減により生産効率向上が図られ、今後の採用拡大が期待されます。
(2) 機能材料・磁性材料
主に当社が中心となり、耐食・耐熱材料、高級帯鋼、接合材料、電磁材料等の素材開発および電子デバイスの研究開発を行っております。
当事業に係る研究開発費の総額は25億68百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては次のものがあります。
・重希土類元素フリー型熱間加工磁石
希少かつ高価な重希土類元素(ジスプロシウムやテルビウム)を一切使用せず、かつ高い磁力と耐熱性を兼ね備えた「重希土類元素フリー型Nd-Fe-B(ネオジム-鉄-ボロン)系熱間加工磁石 ND-40SHF」を開発いたしました。自動車・家電・エネルギー分野を中心に高性能磁石の需要が拡大しております。これらの磁石には高い耐熱性が要求されます。従来はネオジム磁石に重希土類元素を添加することにより耐熱性を確保しておりましたが、重希土類元素は、現状ほぼ100%が中国で産出されており、高い価格と供給不安が大きな課題となっております。新しく開発した熱間塑性加工法および磁石組成の最適設計により、重希土類元素フリー型としては、世界最高レベルの高磁力と高耐熱性を達成いたしました。
今後成長が見込まれる自動車用EPS(電動パワーステアリング)市場を中心に、各種車載モータ、産業機器モータ、OA・家電モータ向けに、㈱ダイドー電子から市場投入しております。
・高弾性チタン合金「TNCZ」の開発
従来材に比べ、しなやかさと冷間加工性(成形性) を改善した画期的なチタン合金「TNCZ」を開発し、2014年10月から線材の量産出荷を開始いたしました。TNCZは医療用に開発したニッケルおよびバナジウムを含まないβ型チタン合金で、毒性のない元素(チタン、ニオブ、クロム、ジルコニウム)から構成されております。また、従来のチタン合金にはない、しなやかさと複雑な形状にも加工可能な成形性を併せ持っており、従来のチタン合金では実現できなかったデザインにも対応できる材料であります。TNCZの用途は主にカテーテルガイドワイヤー、ガイドピン、ステントなどに代表される医療機器を想定しております。さらに眼鏡フレームや自動車部品、時計ケースなど、様々な分野での活用を目指して、お客様と用途開発を進めております。
(3) 自動車部品・産業機械部品
主に当社が中心となり、ターボチャージャー等の自動車部品および各種産業機械部品の研究開発を行っております。
当事業に係る研究開発費の総額は11億27百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては次のものがあります。
・高耐熱チタンアルミ製ターボチャージャーホイール
自動車の燃費改善のため、エンジンの小型化と併せて排気ガスエネルギーを変換利用し出力を上げられるターボチャージャーの需要が増加しております。このターボチャージャーの主要な構造部品であるタービンホイールは、一般的には高耐熱材であるニッケル基超合金が用いられております。当社では、初動時の応答性の向上のために、ニッケル基超合金の約半分の比重で同等以上の高耐熱性を有するチタンアルミ合金を開発、量産しておりましたが、今回、新たに高温強度および高温クリープ特性を更に向上させ、耐熱温度を上昇させたチタンアルミ合金DAT-TA3を開発し「DAT-TA」シリーズに加えております。今後、環境規制の高まりとともにターボチャージャーの高性能化技術として更なる適用拡大が見込まれております。
・高強度自動車排気バルブ鋼の開発
自動車用排気バルブ材はオーステナイト系の耐熱鋼が一般的に使用されておりますが、環境温度がより過酷になる高性能エンジンでは、高温強度特性の高いニッケル基超合金もしくは、鉄-ニッケル基超合金が使用されております。今回、固溶強化および炭化物析出強化による高強度化と、高温長時間環境における組織安定性の相反する特性を両立した、従来の耐熱鋼を上回る最高グレードの鉄基オーステナイト系耐熱鋼を開発いたしました。これまでニッケル基超合金を使用していた特性領域を安価な耐熱鋼でカバーし、ニッケルなどの合金原料を多く含む超合金に比較して安定した価格での供給が可能となっております。
・発電機用高強度非磁性保持環の製造技術の開発
発電機の効率向上のために高速で回転させる大型ローター部品は、遠心力で飛散しないように保持環と呼ばれる筒状の金属製ケースに収められております。この保持環には、大きな遠心力に耐える強度とともに、磁界中の環境においても渦電流による発熱を起さないよう、非磁性であることが求められております。このニーズに応えるために高強度非磁性保持環の製造技術を開発いたしました。特殊治工具と鍛造の最適化によって高強度化を達成し、強度予測シミュレーションも活用することで強度のバラツキを低減しており、今後の採用拡大が期待されております。
(4) エンジニアリング
主に当社が中心となり、環境保全・リサイクル設備や省エネルギー型各種工業炉等の開発を行っております。
当事業に係る研究開発費の総額は1億34百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては次のものがあります。
・超小型バッチ真空浸炭炉「シンクロサーモ」の更なる性能改善
自動車部品の高機能化・長寿命化を実現する真空浸炭設備は、ドイツ・ALD社から先行して技術導入を行った「モジュールサーモ」が国内自動車産業を中心に市場へ浸透しつつありますが、新たに同社との間で超小型バッチ真空浸炭炉「シンクロサーモ」に関する技術提携を結び、当社滝春テクノセンター(名古屋市)内に実証設備を設置しております。
具体的な開発の成果として、お客様の試作依頼に応える中で処理品の変形の少なさと高い生産性の両立を熟成することができ、設備の商品価値を一段と高めることができました。また研究開発本部からは素材面のノウハウを、機械事業部からは設備面のノウハウを惜しみなく投入する体制が奏功し、ますます高度化するお客様のニーズに適確なソリューションを提示できるようになっております。
今後は大ロットに適合したモジュールサーモ、小ロットに特化したシンクロサーモのラインナップを、自動車業界をはじめ建機、産業機械等の幅広い分野へアピールしてゆきます。