有価証券報告書-第84期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/18 13:40
【資料】
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【項目】
125項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、株主・投資家の皆様、ビジネスパートナーの皆様等当社グループを取り巻くステークホルダーとの関係を築きながら、より良い社会の実現に貢献するために、社会的責任を自覚した企業活動を行うことを基本方針としております。そのために、基盤技術の高度化と新技術への挑戦によって新製品・新事業を創出し、新たな価値を社会に提供してまいります。製品の開発、製造に当たっては、次世代に引き継ぐ環境に配慮した企業活動を促進いたします。さらに、企業情報の適時かつ適切な開示、地域社会への貢献等を通じて社会とのコミュニケーションを推進して、より広範な社会の視点を経営に反映し、社会との信頼関係を築きます。当社グループは、これらの企業活動を通して企業価値の向上につなげてまいります。
当社グループでは、行動原則や判断基準となる「日立金属WAY」を定めています。「日立金属WAY」は経営理念
(MISSION)、社是(VALUE)、多様性のあるDNAを体系的にまとめたもので日立金属らしさを形づくるものです。当
社グループは、「日立金属WAY」のもと、事業を通じて社会課題の解決に貢献することにより「『最良の会社』」を
具現」してまいります。
0102010_001.png(2)対処すべき課題
①製品の品質に関する不適切行為について
当社は、2020年4月27日付で、当社及び子会社で製造する製品の一部に、お客様に提出する検査成績書に不適切な数値の記載が行われていた等の事実が判明したこと、及び外部の専門家により構成される特別調査委員会を設置することを公表し、事実確認と原因究明等の調査(以下「本件調査」といい、当初判明した事案と本件調査の結果判明した不適切行為を含めて、以下「本件不適切行為」といいます。)を進めました。本件調査により、当社及び子会社の磁石製品、特殊鋼製品、自動車鋳物製品等において、お客様と取り決めた仕様で定められた特性について、その検査結果を書き換えた事案等の不適切行為等の結果、お客様と取り決めた仕様を満たさない製品等がお客様に納入されていたことが確認されました。
本件不適切行為が様々な製品において、かつ、長期にわたり行われており、また、過去の他社事例を自社の行動を是正する機会にできなかったことは誠に遺憾であり、本件不適切行為により、お客様、株主様等、ステークホルダーの皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことを改めて深くお詫び申し上げます。当社グループでは、後述の再発防止策を最優先課題とし、全力を挙げてその実行に取り組んでまいります。そして、当社グループの製品・サービスが社会の幅広い分野で使用されていることを今一度、心に刻み、あらゆる場面で誠実さを貫く会社に生まれ変わることにより、再び信頼を取り戻せるよう努力を続けてまいります。
<本件不適切行為に関する再発防止策>当社は、本件不適切行為に関して、特別調査委員会からの再発防止策に関する提言も踏まえ、以下のとおり再発防止策を策定しました。
(ア)品質重視に向けた意識改革と行動の変革
a. 経営幹部におけるコミットメントと行動規範
本件不適切行為において、経営幹部による適切な措置が不足していたこと、並びに様々な製品でかつ長期にわたり不適切行為があったことの深い反省の上に立ち、品質重視の経営姿勢を社内外に明確に示し、経営幹部自らが社内意識改革と行動の変革に率先して取り組みます。経営理念において経営・事業のあらゆる面でコンプライアンスを含めたインテグリティ(誠実さ、正直さ)を貫き通す経営姿勢を再定義するとともに、社員一人ひとりの行動規範として確立します。そのために経営幹部によるメッセージの発信や品質に係るタウンホールミーティング等の継続的な実施により、社員の理解を深めることと合わせて人事評価等、各種社内制度とも連動させて変革の実効性を確保します。
b. 当社グループ全社員の品質保証に対する意識改革と行動の変革
本件不適切行為では、社員の一部に「品質に問題がないと判断できる場合にはお客様と取り決めた仕様を満たさない製品を出荷することもやむを得ない」という品質コンプライアンスに関する誤った認識が見られたことから、以下の施策により社員の意識改革と行動の変革を推進します。
ⅰ)品質保証関連規則の再整備
品質保証に関する判断・行動の基準を明確にし、報告における透明性を高めるため、以下の会社規則を再整備しました。
・「全社品質活動理念」の会社規則化
・「日立金属グループ行動規範」を補完する「日立金属グループ企業倫理・コンプライアンスコード」の制定
・会社規則「緊急事態発生時情報伝達ルール」の報告対象となる品質事案の定義の明確化
ⅱ)品質コンプライアンス教育の強化
研修機会の充実、外部専門家の講師招聘、教育計画の一元管理等により、実効性ある社員教育を計画的・継続的に実施します。さらに、本件不適切行為の教訓を風化させないよう「品質コンプライアンスの日(4月27日)」「品質コンプライアンス月間(4月)」を定め、お客様と取り決めた仕様を遵守しないことの重大さ、深刻さを繰り返し認識させる機会とします。
(イ)品質保証体制の抜本的な改善と基盤強化
品質保証の全体統制や、各事業所及び各グループ会社の品質保証部の独立性に課題があったとの認識に基づき、以下の施策により品質保証体制のガバナンスを強化します。
a. 最高品質責任者(CQO)新設(2020年6月1日)
品質専任の役員として最高品質責任者(CQO)を新設しました。CQOは当社グループの品質の全責任を負い、品質保証本部以下の体制を整備、指揮しつつ、製造拠点等から独立性をもって製品・サービスの品質を保証する役目を担います。
b. 品質保証部門の独立性確保(2020年10月1日、2021年4月1日)
各事業部門に属していた品質保証部員を品質保証本部の所属とし、組織上の独立性を確保しました(2020年10月1日)。また、各子会社の品質保証部門長を当社の品質保証本部に兼務出向する体制とし、品質保証本部による品質保証ガバナンスを強化しました(2021年4月1日)。さらに、品質監査への積極的な動員や事業部門間での人事ローテーションを活発化していきます。
c. CQO及び品質保証本部長の役割・権限の明確化
本件不適切行為では、品質保証本部がリスクを認識した際に即時適切な措置を実行できなかった点を踏まえ、品質リスクが発現した場合にCQO及び品質保証本部長は製品の出荷の中止を命じる権限及び責任があることを社内規則で明確化しました。
(ウ)品質管理プロセスの改善
異常処置、カタログ作成、デザインレビューを含む開発段階から量産への移行、変更管理等の各品質管理プロセスに関連する明確な全社細則を作成し社員に周知徹底します。加えて以下の施策を実行します。
a. 新規受注時の決定プロセスの強化
本件不適切行為では、工程能力、生産能力に見合わない条件で受注したことが発生要因となったことから、お客様との仕様取り決めのガイドラインを作成、周知徹底していきます。また、各拠点において安定して量産可能な工程能力、生産能力を継続的に確認、改善していく体制を構築します。さらに、お客様と仕様書等のやり取りをする窓口となる営業部門について、品質管理における役割を明確化・再徹底することにより品質管理強化を図ります。
b. 人為的な検査結果の書換え等を防ぐためのITシステムの構築
人的関与を極力排し、検査データの適切な生成・管理を自動的に行えるシステムを、総計約100億円を投じて構築し、2024年頃までに各製造拠点にて順次導入を進めます。また、体制の整備・運用開始までの期間については、整合性監査の頻度やサンプル数を増やすことでモニタリングを強化する等の対策を実行します。
(エ)品質コンプライアンスに関するモニタリング及び内部通報制度の強化
お客様と取り決めた仕様を遵守するため、営業・開発・設計・製造における内部統制上の第1のディフェンスラインに加え、以下の第2、第3のディフェンスラインを設けるとともに、内部通報制度の実効性を向上させます。なお、品質コンプライアンス・リスクについての多角的な分析・評価、部門横断的な対応策の検討・実施を目的に、経営会議等においてリスクの評価、対応策等について議論する機会を設けます。加えて、監査委員会及び取締役会によるモニタリングも強化します。
a. 品質保証本部による内部監査(整合性監査)の見直し(第2のディフェンスライン)
整合性監査実施者の選定基準、サンプルの選定等監査方法、品質保証本部による監査結果の確認方法の各項目において、リスクベース・アプローチに基づく適正な監査となるよう改善策を実行します。
b. 監査室における品質保証本部に対する監査の実施(第3のディフェンスライン)
監査室による品質保証本部に対する監査を実施し、品質保証本部による監査結果や品質保証本部が考案した品質保証体制の妥当性の検証を監査室が行うことで、品質保証本部に対する監督・牽制機能の強化を図ります。
c. 内部通報制度の強化(2020年10月1日)
当社経営幹部による隠蔽や不利益的な取扱いを防止することを目的に、外部業者を窓口として株式会社日立製作所コンプライアンス部に通報する仕組みの内部通報制度を新たに構築しました。
さらに、当社グループにおける今後の再発防止策の深化及び施策の実効性を高めることを目的として、外部有識者を構成員に含めた「品質コンプライアンス委員会」を取締役会の諮問機関として2021年4月1日付で設置しました。当該委員会のもと、本件調査で完了しなかった部分の追加検証、再発防止策の実施及び効果の検証等を実施します。
当社グループは、以上の再発防止策を最優先課題とし、全力を挙げてその実行に取り組んでまいります。
②中期経営計画とその進捗
当社グループは事業開始以来、自動車・産業インフラ・エレクトロニクス等の各分野において特色ある製品をお届けすることを通じ、社会に貢献してまいりました。
近年、世界規模で経済構造が激しく変化し、社会のニーズが多様化するなかで、次々に新しい技術・製品・サービスが生み出されています。さらに、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に代表されるように、企業に対して、社会を構成する一員として持続可能な社会の実現に向けて主体的に取り組み貢献することが、ますます強く要請されるようになっています。また、当社グループの事業領域である素材産業においては、社会の変化に伴いニーズが高度化・多様化するとともに、こうしたニーズに対応する新素材開発のスピードが年々加速しております。
このような状況において当社は、経営理念で掲げる「『最良の会社』の具現」が当社のミッション(使命、存在意義)であるとの認識のもと、その実現に向けて2021年度を最終年度とする「2021年度中期経営計画」(対象年度:2019年度~2021年度)を策定し、各施策に着手しました。しかしながら、その後の米中の通商問題を巡る緊張の増大やこれに伴う中国経済の成長鈍化、さらに2020年初頭からはCOVID-19拡大の影響による世界経済の落ち込みなど、事業環境は大きく変化しました。そうした中で、当社グループは「資本効率の向上」「成長事業へのリソース集中」を掲げましたが、その成果を実現することができず、売上収益の減少に伴い収益性が低下しました。
そこで、「2021年度中期経営計画」を見直し、早期の業績改善に向けてもう一段のコスト構造改革を実行するとともに、将来の成長投資の原資を確保できる収益基盤への変革をめざす事業計画を策定し、2020年10月に公表しました。この事業計画は、2020年度及び2021年度を将来の成長のための準備期間と位置づけ、2022年度計画値(率)を調整後営業利益率8%、ROIC8%としています。不採算製品からの撤退や拠点の統廃合等の事業構造改革、徹底した原価低減・経費縮減、人件費の適正化等のコスト構造改革に取り組み、需要変動に強い収益構造に変革します。また、事業ごとのグローバルの競争環境におけるベンチマーク分析を踏まえ、セグメントごとに事業の新陳代謝を加速し、成長と基盤事業のポートフォリオ最適化を図ります。
こうした取り組みにより当社グループは、将来の成長のための投資資金を創出できる事業構造を構築し、改めて「持続可能な社会を支える高機能材料会社」をめざしてまいります。
本事業計画のアクションプランは、以下のとおりです。
A. コスト構造改革
コスト構造改革施策として、事業構造改革(不採算製品の撤退、拠点統廃合)、原価低減・経費縮減、人件費適正化を図ります。
[当期の進捗]
・事業構造改革
不採算品の撤退 特殊鋼製品:黄銅製品等(2021年3月完了)
素形材製品:アルミホイール(2020年9月完了)
拠点統廃合 素形材製品:Waupaca Foundry, Inc.のペンシルバニア工場閉鎖・売却
(2021年2月完了)
耐熱鋳鋼事業を子会社に統合(2021年4月完了)
・原価低減
モノづくり改革による歩留まり改善、棚卸資産の適正化
コーポレート横串機能による材料費、経費縮減
働き方改革によるコーポレート経費縮減
・人件費適正化
人員構成の最適化(自然減、臨時員適正化、早期退職募集の実施)
B. 成長事業と基盤事業のポートフォリオ最適化
事業ごとのグローバルの競争環境におけるベンチマーク分析を踏まえ、セグメントごとに事業の新陳代謝を加速し、成長と基盤事業のポートフォリオ最適化を図ります。セグメントごとの主要な施策・戦略は以下のとおりです。
・特殊鋼製品
半導体リードフレーム市況回復取り込み
新分野(有機ELパネル用材料、車載バッテリー用材料)の拡販による成長
工具鋼・産機材の高付加価値製品へのシフト
工具鋼大規模物流拠点設置による効率・サービス向上
航空機エンジン部材の新規顧客への認定活動推進
ロール新製品の投入と海外拡販(中国、韓国、米国、欧州)
[当期の進捗]
・不採算品である黄銅製品等の撤退(2021年3月完了)
・工具鋼国内サービス体制の強化のため、日立金属工具鋼株式会社の東日本地区の物流倉庫・加工工場の集約移転
・素形材製品
Waupaca Foundry, Inc.
拠点再編による収益性向上
Horizontal molding/自動化等の設備投資
ヘビーデューティー分野(商用車、建機、農機、産業機器)拡大
自動車鋳物 不採算品(アルミホイール)の撤退
耐熱鋳造部品の新鋳造法の適用拡大、省力化推進
配管 新製品(圧力式マスフローコントローラ、特殊合金配管、水処理用吸着フィルタ)開発による収益性向上
[当期の進捗]
・Waupaca Foundry, Inc.のペンシルバニア工場閉鎖・売却(2021年2月完了)
・不採算品(アルミホイール)の撤退(2020年9月完了)
・耐熱鋳鋼事業を子会社に統合(2021年4月完了)
・磁性材料・パワーエレクトロニクス
磁性材料 生産拠点網の統廃合・海外生産拡大による製造コスト低減
希土類磁石 :中国・フィリピン拠点の強化・拡充
フェライト磁石:韓国・インドネシア拠点の活用推進
省重希土技術等の展開による低コストプロセス構築
パワーエレクトロニクス
⦅成長事業⦆
ファインメットリボン/応用品:高周波技術でxEV*市場を開拓
シンチレータ:医療、セキュリティー用途で成長
⦅新事業⦆
SiN基板:xEV時代の成長の柱にする
[当期の進捗]
・株式会社三徳和歌山工場の閉鎖(2020年10月完了)
・電線材料
成長5分野の拡大
鉄道:中国・欧州への拡販推進
医療:カテーテル・内視鏡市場での事業拡大
FAロボット:細径軽量化・複合化技術で差別化
xEV用巻線:高電圧化への対応技術で優位性確保
電装部品:グローバル成長戦略実行により持続的成長
基盤事業の収益改善
低収益製品の撤退
海外製造会社をフル活用したコスト低減
[当期の進捗]
・売上に占める成長5分野の割合:19年度40%、20年度42%
*xEV:電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の総称
なお、今後、株式会社BCJ-52による当社の普通株式に対する公開買付け等(以下、「本公開買付け」といいます。)が予定されております。本公開買付け及びその後に予定される一連の取引により、同社は当社を完全子会社とすることを企図しております。これにより、当社は日立グループから離脱し、当社普通株式は上場廃止となる予定です。本取引後当社は新パートナーの下で改革を進めることにより、これまで以上の意思決定のスピードアップや、投資資金の獲得、また外部知見の導入を行い、当社の競争力と収益力を回復させ、再成長により企業価値の向上をめざします。
(注)株式会社BCJ-52は、合同会社BCJ-51(以下「公開買付者親会社」といいます。)の完全子会社であり、当社株式の全てを所有し、当社の事業活動を支配及び管理することを主たる目的として2021年4月23日に設立された株式会社です。2021年4月28日現在、Bain Capital Private Equity, LP及びそのグループ(以下、総称して「ベインキャピタル」といいます。)が投資助言を行う投資ファンドが公開買付者親会社の発行済株式の全てを間接的に所有していますが、公開買付者親会社は、本公開買付けに係る決済開始日前に、ベインキャピタルによって保有・運営されているファンド、日本産業パートナーズ株式会社(以下「JIP」といいます。)が管理・運営・情報提供等を行うファンド、及びジャパン・インダストリアル・ソリューションズ株式会社(以下「JIS」といい、ベインキャピタル、JIP及びJISを総称して「BC連合」といいます。)が運営を行うファンドからの出資(以下、総称して「本出資」といいます。また、公開買付者、公開買付者親会社、BC連合を総称して「公開買付者ら」といいます。)を受けることを予定しており、本出資後は、ベインキャピタルが投資助言を行う投資ファンド、JIPが管理・運営・情報提供等を行うファンド、及びJISが運営を行うファンドが公開買付者親会社の発行済株式の全てを間接的に所有する予定です。
(3)目標とする経営指標
中期経営計画の2022年度計画値は調整後営業利益率8%、ROIC8%です。