有価証券報告書-第73期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/29 16:31
【資料】
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【項目】
139項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社の経営方針は、工作機械メーカーとして「独創的で、精度良く、頑丈で、故障しない機械、自動化システム、デジタル技術を、最善のサービスとコストでお客様に供給すること」です。コネクテッド・インダストリーズ(IoT、インダストリー4.0)の高まりを背景に、工作機械(マシニングセンタ、ターニングセンタ、複合加工機、5軸加工機及びその他の製品)、ソフトウエア(ユーザーインタフェース、テクノロジーサイクル、組込ソフトウエア等)、計測装置、修理復旧サポート、アプリケーション、エンジニアリングを包括したトータルソリューションの提供を行い、全世界のお客様にとってなくてはならない企業を目指しております。
(2) 経営戦略及び経営環境
経営環境につきまして、連結受注高は2018年の第1四半期にピークを付けた後、米中貿易摩擦により2019年中は減少を続け、2020年3月にCOVID-19が全世界に拡大したことでさらに落ち込みましたが、当第2四半期を底に緩やかな回復傾向にあります。お客様は、工程集約化、自動化、デジタル化投資への関心を強めており、引合いは非常に強くなってきております。しかし、2020年末ないし2021年の初めからCOVID-19の感染が再度増加し、引合いから受注成約までのリードタイムの長期化が続いております。今後、ワクチンの効果の確認が期待される2021年(以下、「来期」)下期からは本格的に受注が増加するものと考えており、来期の連結受注高を3,800億円と当期実績2,797億円に対し36%増を見込んでおります。
経営戦略におきましては、当期は、春先からのCOVID-19の拡大による経済環境の急激な変化にさらされ、その危機への対応力を試される年となりました。外出規制等の制約はあったものの、グローバル43カ国137拠点に分散した直販・直サービスが十分に機能し、さらにデジタル化も進めていたことから、お客様のサポートを継続することができました。マーケティングにおいては、デジタルツインショールームの開設により当社の高速・高精度の5軸加工機、複合加工機、フルターンキー技術へのアクセスの利便性を図り、テクノロジーフライデーの少人数によるリアルの見学会、商談等、新たな手法も生まれました。また、コスト削減にも早期に着手し損益分岐点を大きく引き下げたことにより、営業利益107億円、当期利益17億円と黒字を確保することができました。
当社の使命は、産業の根幹をなすグローバルの既存のお客様15万件と潜在のお客様15万件の生産維持・向上に努めることであり、その役割を担うことができたと確信しております。また、今回の環境変化を受けて、お客様はより工程集約、自動化、デジタル化への関心を高められ、当社の取り組みに対する評価がますます高まるものと期待しております。
自動化においては、既に52の製品で標準化を行っておりますが、5G技術を用いた自律走行型ロボット (AGV)により設備配置の柔軟性を高め、安全かつ正確な搬送システムの実用化に目途を付けました。また、AI(人工知能)を活用した切屑の自動洗浄ソリューションの他、株式会社ニコンとの提携の中で、最新のセンシング技術を用いて工作機械上でワークの自動計測を行う「非接触機上計測システム」を開発し、お客様の加工精度の向上、生産性向上に貢献いたします。
デジタル化では、ポータルサイトの「my DMG MORI」が順調に登録件数を伸ばし、2020年末には約40,000件となりました。お客様とのコミュニケーションが密となったのに加え、情報の伝達がより正確になり、お客様、DMG MORIの双方にとって業務効率が改善しております。修理復旧、部品の交換依頼等で「my DMG MORI」の利便性が増していくものと考えております。今後、機械のトラブルに迅速に対応するためには機械とのつながりが重要となりますので、12月には、他社製品を含めて機械の接続を可能とするIoTconnectorをDMG森精機製の工作機械に標準搭載することを発表いたしました。
また、当社は、業界のリーディング・カンパニーとして、幅広いステークホルダーの期待に応えるべく、SDGs(Sustainable Development Goals)への取り組みを強化しております。環境面においては、業界内でいち早く部材の調達から出荷までのScope3の上流工程までのカーボンニュートラルを実現いたしました。2021年1月より出荷する全世界の工作機械がカーボンニュートラルとなっております。他にも、従業員の生活の質的向上を強化しており、「よく遊び、よく学び、よく働き」を経営理念に掲げ、健康経営に取り組む企業として「DMG森精機 健康経営宣言」を行いました。コーポレート・ガバナンスにおいては、取締役会の多様性を重視しており、社外取締役、外国籍取締役、ジェンダーの構成等に注目しています。2021年3月29日の株主総会の承認により、社外取締役の構成比は40%、外国籍取締役の構成比は20%、女性の取締役構成比は10%と なっております。
以上のように、顧客価値創造と社会との共生を実現し、事業規模、収益性、財務基盤において、継続的な企業価値向上に努めてまいります。
(3) 目標とする経営指標
需要変化の激しい工作機械業界の事業環境や市場動向に迅速に対応し、工作機械業界におけるグローバルワンの地位を維持・継続するためには、利益率の向上、財務体質の強化、資本収益性の向上が最重要課題であると考えております。
来期は、連結受注高3,800億円、売上収益3,300億円、営業利益110億円をそれぞれ計画しております。中期的には、前回ピーク同水準の売上収益5,000億円程度時に、営業利益率10%の確保を目指し、お客様への価値提案並びに費用管理を徹底してまいります。
当社グループでは、顧客価値創造並びに企業価値のさらなる向上のために、たゆまぬ努力を継続してまいります。
(4) 優先的に対処すべき課題
①ショールームのデジタル化
昨年は、JIMTOFを始めとする、多くの対面による展示会が中止になりました。この状況に対し当社では「デジタルツインショールーム」を開設し、オンラインで展示会と同様の体験を可能とするサービスを開始いたしました。展示機は伊賀事業所のグローバルソリューションセンタと同様に配置されており、加工デモの実施、デジタルセミナーの聴講、カタログダウンロードが可能になっております。2021年はこのショールームをさらに発展させた「デジタルツインテストカット」を開始いたします。5軸加工機や複合加工機による加工をコンピュータ上で仮想的に実現することで、切削時間、切削負荷、干渉、加工状況等の結果が即座に確認可能になります。また、これらのテスト加工結果をノウハウとして蓄積し、改善改良を継続することによって、より良い加工法や機械を提案いたします。
②製品開発
昨年より、IoT化の取り組みとして、ネットワーク接続機能「IoTconnector」を出荷するすべてのCELOS搭載機に標準搭載しております。このインフラを活用して、収集した機械のアラーム情報を分析し、早期のサービス対応及び機械の改善改良を実現するプロジェクトを開始しております。従来はサービスコールを受けたサービスエンジニアが対処しておりましたお客様のトラブルに対し、機械のアラームより分析・推論することで、自動で対策や修理方法を提示いたします。これらの解決方法のノウハウ蓄積・自動提示により、素早いトラブル解決のみならず、トラブルを未然防止できる工作機械を実現いたします。
自動化についてはモジュラー化ロボットシステム「MATRIS」の販売を2017年より開始しており、ラインの入れ替えや機械の増設に対して柔軟に対応可能な導入しやすいシステムとしてご好評をいただいております。2021年はさらに柔軟な自動化システムの構築を目的として、35mmのダクトを乗り越えられる走破性、人が作業する環境下においても安全な経路を生成・走行する能力を有する、レールレスで自律走行可能なロボット搭載型AGV(無人搬送車)システム「WH-AGV」をリリースいたします。
さらに新機種として、2年の開発期間を経た新世代の横形5軸マシニングセンタを発表いたします。自動化、ミーリング、ターニング、研削の複合化・工程集約のみならず、当社の最先端技術である非接触機上3D計測機能を搭載し、完全な切屑・クーラント・ミスト処理を可能とした最重要戦略機種になります。
以上の最先端技術によって、お客様の高付加価値製品の生産、及び生産性の向上に貢献いたします。
③品質
経営理念の「独創的で、精度良く、頑丈で、故障しない機械、自動化システム、デジタル技術を、最善のサービスとコストでお客様に供給することを通して、ターニングセンタ、マシニングセンタ、複合加工機、研削盤、加工オートメーションで、グローバル ワンを目指す」を基本方針として、品質=お客様満足を合言葉に、DMG MORI AGとともにグローバルに製品・サービスの品質向上を展開しております。特に、お客様からのご要求が増えている5軸化、複合化、自動化、デジタル化を実現するための工作機械本体、周辺装置、システム、アプリケーションソフトの品質強化に注力しております。また、リモートでお客様機の問題をいち早く発見し迅速な問題解決に導くサービスも開始いたしました。このように製品・サービスの継続的な改善改良、品質向上を行い、お客様満足を獲得することを行動の基本としております。
④安全保障貿易管理
近年、世界の安全保障環境の不安定化が益々顕著になってきたことに伴い、大量破壊兵器の不拡散や通常兵器の過度の蓄積防止に対する国際的な関心が一段と高まり、諸外国においても安全保障に関する法整備の強化・改定が行われております。このような環境の中、当社グループにおいては、輸出関連法規の遵守に関する内部規程(コンプライアンス・プログラム)を定め、厳正に適用しております。さらに、当社製品には、不正な輸出を防止する目的で、据付場所からの移設を検知すると稼働できないようにする装置を搭載し、厳格な輸出管理を実践しております。なお、2012年より中国・天津、そして2019年10月よりインド・コインバトールにて工作機械の製造を開始しております。輸出関連法規上、より厳格な管理が必要となる国での海外生産を行うにあたり、訪問を含む定期監査や輸出管理研修を行っております。日本のみならず海外の関連法令遵守も必要な安全保障貿易管理につきましては、重点課題として今後とも継続して取り組んでまいります。
⑤法令遵守
経営者自ら全従業員に対し法令及び企業倫理に基づいた企業活動の徹底を指示し、役員・従業員のコンプライアンス意識の向上と浸透を図っております。当社グループでは、グローバルな事業展開に対応したコンプライアンス体制を構築するために、日本を含む各国においてコンプライアンス担当者を選任し、これらを連携させることにより、各国の制度に適応しながら統制の取れた体制の確立に取り組んでおります。また、コンプライアンスに関する問題の予防、早期発見・対策のため、2020年より多言語対応の通報窓口を設置し、海外 グループ企業も含めたグローバルでのコンプライアンス体制を強化いたしました。以上の他、内部監査部を主管部署とした定期的な法令遵守活動のモニタリングも継続しております。
勤務間インターバル制度については、当社では2018年より導入し、2020年度からは在社時間の制限を原則10時間、勤務間インターバルを12時間として従業員の健康維持、ワークライフバランスの適正化に取り組んでおります。