有価証券報告書-第114期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/25 10:30
【資料】
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【項目】
150項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日(2021年6月25日)現在において判断したものです。
(1) 会社経営の基本方針
当社は、創業者 松下幸之助の定めた綱領で謳っているとおり、長きに亘り、「社会生活の改善と向上」と「世界文化の進展」に寄与することを社会に対してお約束してまいりました。今後も、この理念を不変の存在意義として継承し、優れた商品やサービスを、より早く、より多くのお客様にお届けすることを通じて、理想的なくらしや社会の実現、地球環境保護といったグローバルでの社会課題の解決に、大きな貢献を生み出すことを目指してまいります。
(2) 会社の経営戦略と対処すべき課題
①2021年度の主な取り組みについて
2021年度の経営環境は、各国の政治・金融情勢、貿易停滞のリスク、またワクチンの接種状況次第ではあるものの、新型コロナウイルス感染症の状況などにおいて不確実性が依然として高く、世界経済の先行きも見通しにくい状況が続きます。日本でも、こうした国際経済の影響を少なからず受けるとみられます。
このような経営環境のもと、当社は、事業の状況に応じた固定費管理と、新型コロナウイルス感染症による社会変化を捉えた新たな事業機会への取り組みを進めながら、2019年度からスタートした中期戦略の最終年度として、事業ポートフォリオマネジメントと経営体質強化を継続してまいります。あわせて、全ての事業において、攻めるべき領域を定め、そこでの競争力を徹底的に高めてまいります。
また、2021年10月には、2022年度からの持株会社制への移行に向けて、現行のカンパニー制を廃止し、新体制へ再編する予定です。新体制において、中期戦略を着実に推進するとともに、2022年4月1日からの新事業会社での円滑な事業運営に向けた準備を進めてまいります。
持株会社制への移行により分社化される各事業会社は、自主責任経営を徹底し、外部環境変化に応じた迅速な意思決定や、事業特性に応じた柔軟な制度設計などを通じて、事業競争力の大幅な強化に取り組んでまいります。持株会社は、各事業会社の競争力強化を積極的に支援するほか、グループ全社視点での成長戦略を推進し、グループとしての企業価値向上に努めてまいります。
なお、当社は、世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェアの専門企業である米国Blue Yonder Holding, Inc.(以下、「Blue Yonder」)の80%分の株式を追加取得し、同社を完全子会社化することについて、2021年4月23日の当社取締役会で決定し、Blue Yonder及び同社の実質的な株主との間で最終合意に至りました。これにより、2020年7月に取得済の20%分の株式と合わせて全株式を取得することになります。
注力事業の一つであるサプライチェーン分野の「現場プロセス事業」の領域においては、コロナ禍での極端な需要変動、物流の負担増、消費者ニーズの変化対応、働き手不足や省資源、脱炭素といった課題が山積しています。当社は、自身の100年にわたる製造業としての知見やノウハウを通じ、現場の人・モノ・機器の動きをデジタルデータとして可視化し、サイバー空間で分析。それらの情報を経営判断につなげ、グローバルでのリードタイム短縮や在庫削減、ボトルネック解消などにより、お客様の経営課題を解決するとともに、エネルギーの削減、資源の有効活用を通じて、地球環境の保全やサスティナブルな社会の実現を目指します。
お客様にとって、より付加価値の高いサービスを提供するために、ハードウェアの深化、ソリューションビジネスへのシフト、リカーリング(注)ビジネスの拡大、そしてソフトウェアによる変革が喫緊の課題となっています。本出資により、当社は、世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェアの専門企業であるBlue Yonderから、AI(人工知能)、ML(機械学習)の最新技術や、サプライチェーンのパッケージソフトウェアビジネス、リカーリングビジネスのノウハウを獲得し、「現場プロセス事業」の進化をより一層加速させます。加えて、自社のサプライチェーンにおけるオペレーション力強化(コスト競争力の向上等)を図るとともに、アジャイル(俊敏)な企業文化を取り入れ、融合することにより、自社の変革を加速してまいります。
(注)リカーリング:継続的に収益をあげる仕組み
②各セグメントにおける代表的な取り組み
アプライアンス
環境・省エネや健康・衛生意識の高まり、生活・価値観の変化により、空調や白物家電などの領域は引き続き成長が見込まれています。一方、テレビ・オーディオなどのAV領域は、技術進化の停滞やコモディティ化の進展により、成長性の悪化が見込まれています。
成長領域である空調事業では、強い「商品×地域」への注力や、ナノイーなどの当社技術・商材を活用した差別化で、優位性を築いてまいります。テレビなどの事業環境が厳しいスマートライフネットワーク事業は、構造改革を継続し、収益改善を目指してまいります。また、白物家電を中心とするホームアプライアンス事業では、お客様の行動・活動を起点とした商品・サービス開発や、日本・中国連携の深化による設計・商品の共通化、開発リソースの効率化を通じて新たなお客様価値を創出し、グローバルに展開してまいります。
ライフソリューションズ
世界的に、生活習慣や働き方への考え方が変化し、健康・衛生意識、特に空質(注)への関心の高まりや、ワークプレイスの分散化が進展していきます。日本では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた新築着工減の影響は残るものの、海外では、インドや東南アジアを中心に需要の回復・拡大が期待されています。
日本では、主に非住宅分野において、複数の商材が連携したシステムでの販売・施工に加え、お客様の課題を解決するためのデータ解析やそれに基づくコンサルティング、納入後の保守・サービスまでをご提供し、お役立ちの幅を広げていくことに取り組んでまいります。海外では、インドやトルコ、ベトナムを中心にマーケティング・生産体制を強化し、電設資材の拡大を図るとともに、お客様ごとのご要望にお応えする件名事業の体制強化・新規事業の取り組みを進め、事業拡大を図ってまいります。お客様視点でくらしをより良く、快適にする事業をグローバルで実現してまいります。
(注) 空質:換気や調湿、除菌、気流など空間における空気の質
コネクティッドソリューションズ
労働力人口の減少や消費者嗜好の多様化、ニューノーマルへの対応などが進む中、製造・物流・流通における事業領域は継続的な市場拡大が見込まれています。特に、サプライチェーンにおける課題解決の需要は、世界的に増加しています。
現場プロセス事業では、製造・物流・流通を中心とした現場(つくる・運ぶ・売る)の業務プロセス革新によって、お客様の様々な経営課題解決に貢献してまいります。物流・流通を中心としたサプライチェーン領域では、倉庫業務や輸配送効率化、在庫適正化などの高付加価値ソリューションをモデル化、展開し、お客様の販売拡大やコスト削減などでお役立ちを果たしてまいります。また、戦略的資本参加によりパートナーシップを拡大したBlue Yonderとともに「オートノマス(自律的な)サプライチェーン™」の実現を加速してまいります。ファインプロセス(製造)領域では、加工プロセスコントロールを軸に生産活動の価値を最大化し、開発から製造・販売・サービス一体でお客様に向き合い、全プロセスで継続的価値の提供に取り組むなど、ソリューション販売の拡大を進めてまいります。
オートモーティブ
自動車業界は、新型コロナウイルス感染症の影響はあったものの、CASE(注)1の進展に対応する取り組みが活発化しています。移動空間の快適性や安全運転支援への要請は、さらに増しています。
車載機器事業では、強みを発揮できるコックピットシステム(注)2、HUD(注)3、ADAS(注)4を注力分野として、クルマの快適性・安全性の向上に貢献する取り組みを進めています。コックピットシステムは、高い操作性と最適な情報表示のノウハウや、急速に複雑化かつ大規模化するクルマの情報機器化を支えるソフトウェア開発力を強みに、競争優位性を確立してまいります。小型化・低歪かつ明るく鮮明な表示を実現するHUDや、車載カメラなどの強いデバイスに加えて画像認識などの先端技術を連携させたADASの開発を強化し、操作性・視認性・安全性を高め、お客様価値の最大化に取り組みます。車載電池事業では、円筒形リチウムイオン電池がさらなる高容量化を実現、北米電池工場で新たな増産投資を進めています。新電池の開発や欧州事業展開の可能性を検討、また高コストなコバルトの使用量をゼロにした電池の商品化を2~3年以内に見込むなど、今後も成長を実現してまいります。
(注)1. CASE:Connected(クルマが通信ネットワークに接続され、運転支援情報の受信やエンターテインメント等のサービスを享受)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(車を共有して使うサービス)、Electric(電動化)
2. コックピットシステム:オーディオ/ビジュアルで安全(運転に必要な情報)・快適(エンターテインメント)なドライブをサポートする車載機器
3. HUD :Head-Up Display(運転に必要な情報をドライバーの視線前方に表示し、視線移動を少なくすることでより安全運転に役立つディスプレイ機器)
4. ADAS:先進運転支援システム(自動ブレーキ、自動駐車など、車両が危険を察知し、車両を自動制御することで交通事故を防止する安全運転支援システム)
インダストリアルソリューションズ
IoT社会の進展やモビリティの進化、労働人口の減少などを背景に、「情報通信インフラ」「車載CASE」「工場省人化」の領域では、安定性や安全性、自動化・ネットワーク化などへの要求が高まっており、継続的な進化を伴いながら、中長期的に需要が拡大することが見込まれています。
これらの高成長領域に経営資源を集中し、「強いデバイス」と「強いデバイスを核としたシステム」による価値提供を通じて、社会課題の解決に貢献してまいります。具体的には、「情報通信インフラ」では5G基地局やデータセンター向けに低損失・長期保証可能なデバイスやシステム、「車載CASE」では電装化やxEV(注)向けに小型高効率・高信頼なデバイスやシステム、「工場省人化」ではデバイスにソフトやサポートを組み合わせた導入容易なパッケージ商品を生産設備等向けに展開してまいります。デバイスは源泉技術、システムはお客様との共創で商品力を強化し、中長期で業界を上回る成長を実現してまいります。
(注) xEV:電動車(電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグイン・ハイブリッド(電気)自動車、(水素)燃料電池自動車の総称)
③持続的成長を支える基盤
コーポレート・ガバナンス
当社は、コーポレート・ガバナンスを中長期的な企業価値向上のための重要な基盤と位置付け、取締役会と監査役・監査役会体制のもと、実効性のあるコーポレート・ガバナンス体制の強化に継続して取り組んでいます。取締役会での持株会社制への移行に向けたグループのあり方に関する議論の展開、任意の指名・報酬諮問委員会におけるトップ交代の決議に至る徹底した審議プロセスなどを通じて、監督機能、コーポレート戦略の意思決定機能としての実効性を高めています。また、指名・報酬諮問委員会や取締役会実効性評価の仕組みの活用などにより、経営の機動性や透明性を高める活動を進めています。
環境
当社グループは、より良いくらしと持続可能な地球環境の両立を目指した「パナソニック環境ビジョン2050」を策定し、創・蓄・省エネ、エネルギーマネジメントに関する商品、技術、ソリューション開発を通じて、使うエネルギーを削減するとともに、それを超えるクリーンなエネルギーの創出・活用に向けた取り組みを進めています。また、カーボンニュートラル実現に向けて、エネルギーとともに資源の有効活用も重要な課題と認識し、お客様のライフスタイルや価値観の変化に合わせた「サーキュラーエコノミー(注)1型事業」に挑戦しています。さらに、「TCFD(注)2」の提言を踏まえて、気候変動の影響を受けやすいと判断した事業を含めたリスクと機会を特定し、シナリオ分析と対応策の検討を行っています。
(注)1. サーキュラーエコノミー:循環経済。資源消費に依存せず持続可能な成長を目指す経済戦略
2. TCFD :金融安定理事会により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース
(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
人材戦略
利益成長と収益性改善を目指す当社グループでは、一人ひとりがチャレンジでき、能力を十分に発揮できる組織風土づくりを進めています。変化が激しい事業環境に対して柔軟かつ強固な事業体制を実現するため、全社最適視点で事業構造改革を担う「執行役員」と、個別事業の強化・変革を担う「事業執行層」に分け、役割に応じたマネジメントで、事業変革に向けたモチベーション向上を図っています。さらに、当社の事業経営における中核として担当事業の収益性向上と将来の競争優位の実現を担う事業執行層に対しては、成果に対する信賞必罰と未来に向けた変革へのチャレンジを一層促進する人事処遇制度を2020年度より導入しています。
また、年齢・社歴・国籍にかかわらずグローバルに活躍できる人材づくりの仕組みとして、「グローバル人事プラットフォーム」を構築しています。人材マネジメント情報を可視化、可用化する「グローバルタレントデータベース」の活用などで、国・地域・会社を超えた配置・登用やキャリア・能力開発を実現し、人材マネジメントの高位平準化、組織能力向上を目指しています。