有価証券報告書-第120期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)
有報資料
当社グループは2017年度からスタートした第19次中期経営計画(以下、19次中計)では、「リコー再起動」を掲げて、基盤事業の収益性向上と資産の最適化に向けた構造改革に注力いたしました。将来の成長に向けた投資の原資となるキャッシュ・フローを継続して創出できる会社にすることが不可欠との認識の下、拠点の整理や集約、過去の買収に伴うのれんの減損損失処理、グループ会社の再編など、聖域を設けることなく断行いたしました。2018年度からは「リコー挑戦」を掲げ、成長戦略の実行に舵を切り、事業構造の変革に取り組んできました。
2021年度からスタートする第20次中期経営計画(以下、20次中計)は、19次中計で作り上げてきた成長への足掛かりを飛躍へつなげていくものと考えておりました。しかしながら、当連結会計年度末からの新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の影響を踏まえ、当面の危機対応に注力することに加えて、中長期的な事業環境がこれまでの想定とは大きく変わっていくことを前提として、当社の変革をこれまで以上に加速していく必要があると考えています。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) リコーグループは変革の時
当社グループは1936年の創業以来、世の中にイノベーションをもたらす製品やサービスを提供し、お客様とともに成長してきました。創業者・市村清による「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という創業の精神(三愛精神)を基盤とした「リコーウェイ」を企業活動の理念・価値観に据え、「世の中の役に立つ新しい価値を生み出し、生活の質の向上と持続可能な社会づくりに責任を果たす」ことを使命としています。
これまで当社グループは、複写機・複合機を中心に、販売と保守サービスを展開する業界随一と言われる体制を築き、世界中のお客様との関係を深めつつ大きな成長を遂げることができました。しかし、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により世界的な規模での経済下降リスクが高まっていることに加え、米中貿易摩擦や新興国経済の減速、為替レートの変動など、経済環境の変化が続くものとみられます。一方、AIや5G(*1)に代表されるテクノロジーの進化、シェアリングエコノミー・ギグエコノミー(*2)の拡大などにより、お客様の価値認識や働き方の変化、需要動向なども大きく変化しつつあり、従来と同じやり方で収益を持続的に拡大することは困難となるリスクがあるとともに、新たな事業機会が大きく広がっていく可能性もあると認識しています。
*1 5G:第5世代移動通信システム(無線通信システム)
*2 ギグエコノミー:インターネットを通じて単発の仕事を請け負う働き方や、それによって成り立つ経済形態
中長期的には、全世界的に大きな2つの社会的潮流があると捉えており、これらの潮流は、新型コロナウイルス感染症拡大も加わり、従来の想定以上に加速していくものと思われます。一つ目は、企業に対して社会課題解決への貢献を求める声が高まっており、SDGs(*3)の達成に貢献しない企業はたとえ高収益でも市場の評価は得られず、持続的な成長が見込めないということです。二つ目は、個々人の生き方や価値観の多様化が進むことです。IT・ネットワーク・モノのインターネット(IoT: Internet of Things)などの進化も相まって、働く場所の制約はなくなり、働き方においても個人化(パーソナリゼーション)が加速しています。
こうした環境変化を踏まえて、従来の環境の下で作り上げられた体制や業務プロセスを、これからの事業環境に即したものへと再構築することが、喫緊の課題であると認識し、過去から学ぶだけではなく未来を見据えた変革に取り組む必要があります。
*3 SDGs: Sustainable Development Goals (持続可能な開発目標)。貧困や飢餓、健康や安全衛生、経済発展、環境課題など、
17の目標と169のターゲットに全世界が取り組むことによって、『誰も取り残されない』社会を2030年までに実現する
ことを目指す世界共有のゴール。2015年9月の国連サミットで採択
(2) 現状の課題認識と対処の方向性
不確実性がますます高まる世界において、当社グループが直面する課題としては、大きく3つあると認識しており、それぞれの課題に対して適切に取り組んでいきます。
| 課題認識 | 当社グループの取り組み |
| 1. 世界的な経済不況が想定される中での業績悪化 | 新型コロナウイルス感染症拡大の影響下における短期的な業績安定化施策の実施 |
| 2. 中長期的な事業環境の地殻変動 | 人々のマインドや働き方が変わる中で、環境変化を捉えた中長期での企業価値向上 |
| 3. バリューチェーン全体でのESG(環境・社会・ガバナンス)/SDGs対応要請拡大 | ステークホルダーの期待に応えるESG/SDGsに対する取り組みの加速 |
2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症が全世界的に拡大し、その収束は依然として不透明な状況となっています。経済活動の収縮により、引き続き世界経済が停滞することも想定されます。その中で、2020年度を「危機対応」と「変革加速」の1年と位置付けてスピード感を持って改善施策に取り組みます。経済環境を踏まえると売上の大きな成長は見込めない中、即効性のある施策実行による利益創出と、事業継続に向けたキャッシュの確保に全力で取り組み、人員及び拠点の最適化、業務プロセス改革のさらなる追求、事業選別の徹底などを実行していきます。
また、今後の事業環境は予想をはるかに超える規模で変わることが想定されます。新しい中計の公表は、新型コロナウイルス感染症の収束状況と、収束後の事業環境変化を慎重に見極めた上で、改めて適切な時期に公表いたしますが、2021年度から始まる20次中計では「リコー飛躍」を掲げ、デジタルサービスを提供する会社への転換を進め、持続的な企業価値向上に徹底的に取り組んでいきます。新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえて、人々のマインド・価値観や働き方などを含む今後の社会環境の変化を想定しデジタルサービスを提供することで企業価値を高める戦略や能力を各事業で吟味し、各事業の提供価値向上と事業体制の変革に取り組みます。そのために、事業競争力を高める成長戦略を実行すると同時に、資本収益性を意識したマネジメントを行うことで企業価値の向上に拘ります。
さらに、中長期的な企業価値向上、事業機会の確保・経営リスク回避の観点では、上述したデジタルサービスを提供する会社へ転換する方向性及びステークホルダーからの期待を踏まえてESG/SDGsに関する目標設定を行い、具体的な取り組みとその実績の情報開示を進めます。経済社会への負の影響が顕著に表れている気候変動については、温室効果ガス(GHG)削減目標を改訂し、さらに取り組みを強化するとともに、TCFD(*4)に基づく情報開示の充実も図ります。他の社会課題についても目標設定を行い、ESG投資の拡大やグローバル顧客を中心としたステークホルダーからのESG/SDGs対応要請にバリューチェーン全体で確実に応えていきます。
*4 TCFD: 気候関連財務情報開示タスクフォース。金融安定理事会(FSB)によって設立され、企業に対する気候関連リスク・機会の情報開示の促進と、低炭素社会へのスムーズな移行による金融市場の安定化を目的としている。
(3) 20次中計に向けた方向性
2021年度から始まる20次中計「リコー飛躍」の計画策定に先立ち、持続的な企業価値向上に向けて、当社グループのマテリアリティを改めて見直しました。「事業を通じた社会課題解決」と、それを支える「経営基盤の強化」の2つの視点から、7つのマテリアリティとして“はたらく”の変革・生活の質の向上・脱炭素社会の実現・循環型社会の実現・ステークホルダーエンゲージメント・共創イノベーション・ダイバーシティ&インクルージョンを特定しました。
「事業を通じた社会課題解決」の視点では4つのマテリアリティ(“はたらく”の変革・生活の質の向上・脱炭素社会の実現・循環型社会の実現)を特定し、持続的な成長に向けた事業活動を通じて、社会課題解決に貢献していきます。「経営基盤強化」の視点では、3つのマテリアリティ(ステークホルダーエンゲージメント・共創イノベーション・ダイバーシティ&インクルージョン)を特定し、ステークホルダーやパートナーとともに、イノベーションを起こし続ける経営体質の強化に取り組みます。
事業を通じた社会課題解決に向けて、当社グループは「デジタルサービスの会社」を目指す姿として、事業構造を転換していきたいと考えています。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、人々の働き方を強制的に大きく変えました。そして、オフィス、現場だけでなく、在宅勤務を行うホーム、さらに取引先やお客様までを含めたデジタル化を進める必要性と、それに向けた課題を浮き彫りにしました。当社グループは、働く場所(ワークプレイス)のITインフラを構築し、ワークフローをデジタル化してオフィスと現場をつなぎ、新しい働き方を実現するサービスを提供していくことで、社会課題の解決に貢献していきます。
当社がこれまでOA(*5)メーカーとして築いてきたインフラ・リソースは、事業環境の変化に即し、デジタルサービスを提供していく強みに変えていけると考えています。その強みとは、グローバルに広がるお客様の基盤、そのお客様に寄り添うデジタル人材、そして数多くのパートナーです。5G、AI、IoTなどの技術革新が進展すると同時に、お客様のマインドや働き方が変わる今こそ、当社グループがOAメーカーからデジタルサービスの会社へ変わる最適のタイミングであると考えています。20次中計では、「デジタルサービスの会社」に変革していくことを企業価値向上の1つの軸として位置付け、各事業の提供価値を高めて成長していきます。
*5 OA:オフィスオートメーション
(4) ESG/SDGsの取り組み
当社は、持続的な企業価値の向上のためには、ESG/SDGsの取り組みをより一層強化することが必要であると考え、2020年度より7つのマテリアリティを設定し活動を進めます。また、マテリアリティに関連する14のESG目標を設定し、各事業・各機能に落とし込み具体的な活動を展開、その実績を情報開示していきます。マテリアリティの1つである「脱炭素社会の実現」については、リコーグループ環境目標(*6)を改訂、2030年のGHG(温室効果ガス)削減目標を63%削減(2015年比)としました。20次中計最終年度の2022年度には30%削減を目指します。これは、国際的なイニシアチブであるSBT(Science Based Targets)の「1.5°C目標」として認定される水準の目標であり、従来の目標を8年前倒し達成することになるチャレンジングな目標です。
2019年度のGHG排出量は、自社排出(スコープ1)・間接排出(スコープ2)合計で 338千t、前年比 9.8%削減、2015年比 23.4%削減となっています。2019年度末の再生可能エネルギー利用率(電力)は 12.8%で、前年から3.4ポイント増加しておりいずれも順調に推移しています。今後もリコーグループ環境目標達成に向けて積極的に脱炭素活動を進めていきます。
また、「“はたらく”の変革」については、人手不足など生産性向上が社会課題となっている中小企業などのデジタル化を支援し、その成果を顧客調査による評価スコアを指標として活動を進めていきます。「循環型社会の実現」については、近年のプラスチック問題への対応要請の高まりを受け、製品の再生プラスチック搭載量の大幅な引き上げなどにより、省資源化率30%を目標とします。「ダイバーシティ&インクルージョン」では、グローバルでの女性管理職比率を15%以上にする目標設定、また社員のエンゲージメントスコアについても目標設定し、活動を進めます。このように、ステークホルダーからの期待や事業戦略を踏まえて具体的な目標を掲げて活動を展開し、持続的な企業価値向上を図っていきます。
当社では財務目標とESG目標は不可分であり、一体となって経営戦略及び事業戦略に落とし込まれることで達成されるものと位置付けています。ESG/SDGsの取り組み・達成状況を測る指標として、世界的に認知度の高い「DJSI」(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)を活用し、2020年度より取締役賞与フォーミュラを改定して「DJSI Rating」の項目を追加、ESG目標の達成に取締役及び執行役員が責任を持つことを明確にしました。なお、「DJSI」につきましては、第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等 ① 役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針に係る事項を参照ください。また、全従業員に対して自身の職務とESG/SDGsのつながりを意識し語れるように教育し、グループ全体での取り組みの底上を図っていきます。
*6 リコーグループ環境目標<2030年目標>GHGスコープ1,2:63%削減(2015年比) GHGスコープ3:20%削減(2015年比) (調達、使用、物流カテゴリー) 少なくとも使用電力の30%を再生可能エネルギーとする<2050年目標>バリューチェーン全体のGHG排出ゼロを目指す 事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーに切り替える
(5) 2020年度の見通し
2020年2月以降の本格的な世界規模の新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、当社グループの事業活動においてさまざまな影響が生じています。在宅勤務拡大に伴うお客様への販売活動については、メール・ビデオ会議・テレマーケティングなどを活用し対応しているものの、購買需要の減退、実機設置に基づく検収ができないなど、新たに製品・サービスの販売を拡大することが難しい状況となっています。加えて、オフィスでの業務活動が縮小することによって、当社の主力製品である複合機の利用が減ることから、消耗品などの収益も減少しています。
このような影響は、新型コロナウイルス感染症拡大の収束が見えるまでは翌年度においても影響が生じるものと考えていますが、現時点においては、その影響額を合理的に見積もることは困難であり、翌年度の業績見通しを未定としています。2020年度の業績見通しは、新型コロナウイルス感染症拡大の今後の事業への影響を慎重に見極め、合理的な算定が可能となった時点において速やかに開示します。
改めて、2020年度を「危機対応」と「変革加速」の1年と位置付け、①業績変動に備えた手元流動性の確保、②財務安定性の向上、そして③アフターコロナを見据えた変革加速を進めます。2020年度からの3年間で順次実行していく予定だった施策を、できる限り2020年度の1年間で集中的に実行し、「リコー飛躍」での成長につなげていきたいと考えています。
また、20次中計は2021年度から2年間とし、新型コロナウイルス感染症の収束状況と、収束後の事業環境変化を慎重に見極めた上で、適切な時期に目標、具体的な施策などを改めて公表いたします。
