有価証券報告書-第118期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

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2018/06/27 16:48
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対処すべき課題


第19次中期経営計画の一年目である2017年度は、「リコー再起動」として、構造改革、成長事業の重点化、経営システムの強化を基本プランとして掲げました。
当連結会計年度は、まず新たな成長の阻害要因を全て取り除くべく構造改革を推進しました。特に、基盤事業であるオフィスプリンティングにおいては、売上拡大よりも利益重視へと転換し、そのための体制変更や固定費及び経費の適正化を完遂させることに注力しました。また拠点統廃合などによる資産効率の改善、事業選別の徹底にも取り組み、収益力強化を加速しました。
第19次中期経営計画の二年目となる2018年度は、成長戦略「リコー挑戦」を大きく前進させる一年として、オフィスプリンティング事業の収益力強化とともに、新たな柱となる事業の拡大に邁進してまいります。
そして、2020年度から「飛躍」を掲げ、持続的な成長とさらなる発展を確実なものにしてまいります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 構造改革への取り組み
リコーグループは、複写機・複合機の販売と保守サービスを展開する業界随一と言われる体制を築き、世界中のお客様との関係を深めつつ大きな成長を遂げました。そこで作り上げられた体制や業務プロセスを、これからの事業環境に即したものへと再構築することが、喫緊の課題であると認識し、過去から学ぶのではなく未来を見据えた構造改革を進めています。
第19次中期経営計画では、3年間(2017年度~2019年度)合計での構造改革効果目標を1,000億円としました。2017年度は、海外の販売体制最適化、生産拠点再編、本社/バックオフィス機能のスリム化、複合機/プリンターの開発機種絞り込み、などの施策を展開し、構造改革効果として416億円を創出しました。これは、当初の予定よりも先行して進捗しています。また、リコー電子デバイス㈱および三愛観光㈱の株式譲渡、コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス㈱の株式売却など、聖域を設けずに資産や事業の見直しも実施しました。
2018年度は、全員参加による業務プロセス改革や事業選別の徹底をさらに進めるなど、盤石な企業体質を築くための取り組みを継続、強化してまいります。
当連結会計年度の営業損益は、構造改革費用315億円(リコーインド関連費用の一部を含む)、のれん等の固定資産の減損損失1,759億円を計上した影響により、1,156億円の損失となりました。これら特殊かつ一過性の費用を除くと、前連結会計年度に比べて利益水準はいちだんと改善しています。複合機の売価維持、製造原価低減、成長領域の事業拡大などの成果が重なり、稼ぐ力は着実に向上しています。
(2) 成長戦略の基本的な考え方
成長戦略の策定にあたっては、2つの社会的潮流を捉えています。SDGs*1 (持続可能な開発目標)の達成に貢献しない企業は、たとえ高収益でも市場の評価は得られず、持続的な成長が見込めないということと、個々人の生き方や価値観の多様化が進むことです。
成長戦略「リコー挑戦」では、社会課題解決と事業の両立が企業の絶対的な命題になるという認識のもと、リコーグループが特に重視する5つの重要課題(知の創造・生産性向上・生活の質の向上・脱炭素社会の実現・循環型社会の実現)を設定しました。今後はSDGsに基づく規制や規格づくりが進むことも予想されます。また、SDGsが投資家や消費者コミュニティに浸透すると、製品やサービスの価値をSDGsの観点から説明することも必要になります。先の5つの重要課題は、リコーグループがかねてより考えて実践してきたものです。これら5つの重要課題に資する事業活動を展開し、SDGs達成への貢献とリコーグループの企業価値向上の同時実現を果たす所存です。
また、個々人の生き方や価値観の多様化が進んでいます。IT・ネットワーク・モノのインターネット
(IoT:Internet of Things)などの進化も相俟って、働く場所の制約はなくなり、働き方においても個人化(パーソナリゼーション)が加速しています。
この変化を大きな事業機会と捉えて、個々人の生活や働き方をより充実したものとする新たな製品やサービスを提供しつづけてまいります。
*1 SDGs :Sustainable Development Goals (持続可能な開発目標)
貧困や飢餓、健康や安全衛生、経済発展、環境課題など、17の目標と169のターゲットに全世界が取り組むことによって、『誰も取り残されない』社会を2030年までに実現することを目指す世界共有のゴール。2015年9月の国連サミットで採択。
成長戦略「リコー挑戦」では、これら2つの社会的潮流を踏まえつつ、当社の強みを活かした戦略として、「成長戦略0」「成長戦略1」「成長戦略2」の3つを設定しました。
「成長戦略0」は、顧客価値増大とオペレーション効率改善の両輪で稼ぐ力を強化します。
基盤事業においては、長年にわたり光学、画像処理、機械、電気、化学、制御などの技術を蓄積しています。それらを高度に組み合わせたプリンティング技術や全世界に拡がる顧客基盤(140万社のお客様)を活かして、新たな収益源となる成長戦略を開拓する戦略が、「成長戦略1」と「成長戦略2」です。
●成長戦略0
基盤事業“最強”化への挑戦
複合機と各種業務アプリケーションソフトをクラウドコンピューティングで連携させて、お客様の業務課題に対するソリューションメニューを拡充します。複合機が業務変革における中核機器へと進化し、付加価値を高めてまいります。
また、ロボットや人工知能(AI)なども採り入れて生産の自動化や保守プロセスの効率化を進めます。生産やアプリケーションソフト開発の外部への委託、サプライチェーンマネジメントのデジタル化・高度化などにも取り組み、業界最高水準の低コストオペレーションを目指してまいります。
●成長戦略1
プリンティング技術による産業革新への挑戦
商用や産業用途向けのプリンティング技術を進化させて、紙にとどまらない衣料品や建材などへの“表示する印刷”を強化し、顧客基盤を拡大します。さらに、アディティブマニュファクチャリング(積層造形)やバイオプリンティング(細胞積層)などの“機能する印刷”にも挑戦します。将来的には、創薬や再生医療など様々な分野への展開も視野に、プリンティングの未来を広げてまいります。
●成長戦略2
オフィスと現場を繋ぐ価値創出への挑戦
お客様の生産性向上や知識創造を当社のデジタル機器とIoTや人工知能(AI)などの先端技術を組み合わせた新たなソリューションで支援します。複合機、電子黒板(Interactive Whiteboard), テレビ会議システム(Unified Communication System)、360°全天球カメラなどは、「働くをスマートに」という概念のもと、様々な働く場での仕事の効率化やコミュニケーションの円滑化に、より一層貢献するよう進化を続けてまいります。
また、世界中のお客様のもとに配置されたこれらの機器は、文書、画像、音声などの多くのデータをデジタル化し、収集しています。アプリケーションソフトウェア、データ基盤、人工知能(AI)、セキュリティなどの有力なパートナーと連携しながら、様々なデータを蓄積、分析し、お客様のビジネスの成功を支えるエッジデバイス*2とアプリケーションにより、新たな顧客価値を創造していきたいと考えています。
*2 エッジデバイス
文字・写真・音声・動画などの様々な情報の出入り口となる複合機やカメラをはじめとしたデータ処理機能を持つネットワーク機器
なお、上記三つの成長戦略に加えて、体動や呼吸などの生体情報を高精度にモニタリングできるベットセンサーシステム、てんかんや認知症などの早期発見を可能にする脳磁計などを、社会課題の解決に貢献しつつ、リコーグループをさらに飛躍させる新しい事業と位置付けて強化してまいります。
(3) さらなる成長と事業構成の変革
基盤事業の収益力強化と新しい事業の拡大を実現し、さらなる成長を目指します。
第19次中期経営計画の二年目となる2018年度は、売上高2兆400億円、営業利益800億円、ROE5.0%以上の業績見通しとしております。
中計最終年度となる2019年度は、売上高2兆2,000億円、営業利益1,000億円、ROE6.9%を目指します。また中計3年間合計のファイナンス事業を除くフリーキャッシュフロー(FCEF)は1,000億円*3を創出してまいります。さらに、次の中計期間の最終年度となる2022年度は、売上高2兆3,000億円、営業利益1,850億円、ROE9.0%以上を目指します。その際のファイナンス事業を除くフリーキャッシュフロー(FCEF)は2,500億円*4の創出を目指します。
事業成長と同時に、事業構造の変革を進めます。三つの成長戦略の2016年度における売上高構成比は、成長戦略0(オフィスプリンティング)53%、成長戦略1(商用印刷/産業印刷/サーマル)12%、成長戦略2(デジタルビジネス/オフィスサービス/産業プロダクツ/Smart Vision)24%でした。それぞれの成長戦略を実行することで、2019年度の事業構成は、成長戦略0が45%、成長戦略1が17%、成長戦略2が27%へ、さらに2022年度には、成長戦略0が39%、成長戦略1が20%、成長戦略2が31%へと事業構成を大きく変えていきます。そのために、2019年度までに、成長戦略1と成長戦略2にそれぞれ1,000億円の戦略的投資を実施する計画です。
*3 2017~2019年度の累計
*4 2020~2022年度の累計
(4) 経営システムの強化
2017年度は、経営の実行力強化と権限委譲を進めるために、コーポレートガバナンスや経営管理に関する制度や仕組みを大きく見直しました。具体的には、取締役任期の変更の決定、社内取締役の評価制度策定、経営管理体制の見直し、海外関連会社の管理強化などを実施しました。今後もこれらの実効性を高める取り組みを継続、強化します。
また、リコーグループがこれまで培ってきた「三愛精神」が育んできた文化や風土をしっかりと受け継ぐ一方で、従来の慣習や前例を見直し、聖域を設けずに構造改革を進めてまいります。成長戦略の実行にあたっても、「開かれた意思決定と迅速かつ確実な実行」をキーワードに、自前主義にとらわれず、広く社外の知見も活用しながら取り組んでまいります。