有価証券報告書-第152期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/19 14:05
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96項目

対処すべき課題

中期経営計画
●「中期経営計画2020」の進捗
当社は、2018年5月に、2020年度までの3か年を対象とする「中期経営計画2020」を策定しました。
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2019年度における「中期経営計画2020」の取組み状況は、以下のとおりです。
(1)成長戦略の推進の状況
①既存事業のバリューアップ
「既存事業のバリューアップ」を目指し、各事業部門の既存事業において、成長ポテンシャルの追求・実現に取組みました。
②次世代新規ビジネス創出
加速度的にビジネス環境が変化する中で、大きな成長が見込まれる分野に経営資源を集中的に投下することとしています。具体的には、デジタルトランスフォーメーション(注)の加速によるビジネスの高度化やビジネスモデルの変革が期待できる 「テクノロジー × イノベーション」分野、高齢化等の影響により市場の急速な拡大が見込まれる「ヘルスケア」分野、人口増大、都市化の進展によるスマートシティ・都市開発及びインフラ整備事業等の成長が見込まれる「社会インフラ」の3分野を対象にしています。
2019年度は、この3分野に合計で約800億円の投資を実行しました。
(注) IoT、ビッグデータ、AIといった革新的なデジタル技術の進化を背景に、さまざまなビジネス領域で最先端のICT技術を活用した既存事業の高度化・新規事業開発。
③プラットフォーム事業の連携深化
当社グループが有するさまざまな事業基盤や機能は、あらゆる「産業」「社会」「地域」に繋がる多くの「接点」を有しており、新たな価値を生み出す原動力になっています。「顧客基盤」「通信・放送・ネットワーク」「リース・レンタル・シェアリング」「デジタルプラットフォーム」などの事業基盤を通じ、事業と事業の掛合せや組織間の連携によって、新たな価値の創造に取組んでいます。
2019年度において、成長戦略の推進に向けた主な取組みは次のとおりです。
既存事業のバリューアップ・米国コイルセンターMagic Steelへの出資(金属)
・浅間技研工業の買収による鋳造事業の強化(輸送機・建機)
・フィリピン南北通勤鉄道車両の受注(インフラ)
・神田スクエア竣工等の不動産事業の推進(生活・不動産)
・全社デジタルトランスフォーメーションの推進(メディア・デジタル)
・資源上流案件(マダガスカルニッケル事業、チリ銅・モリブデン鉱山事業、ボリビア銀・亜鉛・鉛事業など)の早期収益化やコスト競争力の強化(資源・化学品)
次世代新規ビジネス創出<テクノロジー × イノベーション>・石油ガス掘削自動化ソフトウェア開発事業Sekalへの出資(金属)
・5G関連事業(ローカル5Gソリューション、基地局シェアリング)
(インフラ、メディア・デジタル)
・プリンテッド・エレクトロニクス(注1)分野におけるエレファンテックへの出資
(資源・化学品)
<ヘルスケア>・マレーシアにおけるマネージドケア事業(注2)の推進(生活・不動産)
<社会インフラ>・北欧駐車場事業AIMO Parkの買収(輸送機・建機)
プラットフォーム
事業の連携深化
・ハノイ北部スマートシティ開発(インフラ)
・農業資材直販事業の横展開の推進(資源・化学品)

(注1)印刷技術を活用し、電子回路や電子デバイスを製造する技術のこと。金属のインクを基材に直接塗布することで、製造工程の簡略化や製品の小型化・薄型化が可能となる。
(注2)民間の医療保険会社・医療機関と連携して、より良質で安価な医療の推進と個人の健康管理の向上を目指す仕組みづくりを行う医療関連サービス事業。
(2)事業支援機能拡充の状況
成長戦略を推進するための全社的枠組みとして、「新規事業開発支援」「フルポテンシャルプラン」「アセットサイクルマネジメント」「デジタルトランスフォーメーション」の4つの「事業支援機能」の拡充に取組んでいます。
「新規事業開発支援」では、全社視点で次世代ビジネスを育成していく仕組みづくりに取組んでいます。ヘルスケア、スマートシティ等の成長ポテンシャルの高い分野において、組織間連携を通じ、全社プロジェクトとして取組む体制を強化しています。
「フルポテンシャルプラン」では、未だ所期の成果を上げるに至っていない改善余地のある事業会社や、更なる成長が期待できる事業会社を対象に、事業価値最大化のための具体策を策定し、実行状況を重点的にモニタリングすることを通じ、全社ポートフォリオの更なる質の改善を図っています。
「アセットサイクルマネジメント」では、他人資本の活用により、各事業の資産効率を上げるための支援を行っています。
「デジタルトランスフォーメーション」では、2018年4月に設立したDXセンターを中心に、各分野の知見やプラットフォーム事業基盤にテクノロジーを掛け合わせることで、当社ビジネスモデルの変革に取組んでいます。
2019年度においては、以下の取組みを行いました。
新規事業開発支援・イスラエルにおけるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)(注1)設立により、当社とベンチャー企業の連携体制をグローバルに強化
・社内起業制度「0→1チャレンジ(ゼロワンチャレンジ)」における個人情報管理・活用ツール「iscream(アイスクリーム)」が事業化に向けて実証実験開始
・社内外のさまざまなアイデアを融合させ、新たな価値を創造するためのオープンイノベーションラボとして、「MIRAI LAB PALETTE」をオープン
フルポテンシャルプラン既存事業のバリューアップ支援の継続的取組み
アセットサイクル
マネジメント
・物流施設(当社開発物件を含む)を投資対象として組成された物流リートの上場
・当社が保有する英国の洋上風力発電事業を組み入れた再生可能エネルギーファンドの出資組み入れ完了
デジタルトランス
フォーメーション(DX)
・DXセンターを設立し、業務効率化を初手に社内の意識改革を推進。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)では、10万時間以上の業務時間削減
・専門知識を保有した人材の採用・登用も進め、デジタル技術・データを活用した、ビジネスモデル変革を加速
・海外拠点にもDX組織を展開、グローバルベースで140名体制とし、外部パートナーともDXを推進

(注1)当社事業とのシナジー効果の獲得を目的としたベンチャー投資を行うファンド。
(3)経営基盤の強化
①ガバナンスの高度化
取締役会における、各事業部門の部門戦略の進捗状況及び課題並びに課題への対応方針に関する報告や、主要な委員会の活動報告、市況変動リスク、カントリー・リスク等の集中リスクに関わるポートフォリオ報告などのほか、取締役会オフサイトセッションにおける、ESG(環境・社会・ガバナンス)を含むさまざまな重要経営課題についての議論により、取締役会の執行に対するモニタリング機能の更なる強化に取組みました。
また、グローバル連結ベースでのグループガバナンスの実効性の維持・向上のため、2018年度から、グループ標準ツールを活用しながら、連結子会社と対話することで内部統制の状況を可視化し、業務品質の向上に取組んでいます。2019年度は、この連結子会社との対話をさらに推進しました。
②人材戦略の高度化
「Diversity & Inclusion ~多様な力を競争力の源泉に~」を基本コンセプトに、各種人事施策を導入し、成長戦略を後押ししています。部門・組織を越えたローテーションによる重点分野への戦略的な人材投入、専門性の高い外部人材の採用拡充、海外転勤時の処遇に関するグループ共通のルール導入等により、グローバル連結ベースで最適な人材を適時・適所に配置できる体制を整備しています。また、多様な個々人が最大限に力を発揮できるよう、「テレワーク制度」や「スーパーフレックス制度」の一層の活用と健康経営の推進を進めました。また、当社の退職者を対象とした「SC Alumni Network」を立ち上げました。当社Alumni(注2)との結びつきを高め、ビジネスイノベーションを起こすオープンな企業文化の醸成を図ります。
(注2)Alumni(アラムナイ)とは、大学の卒業生を意味し、転じて企業を離職した方の集まりを表す言葉として近年使われています。
③財務健全性の向上
経営基盤の更なる強化を目的として、配当後フリーキャッシュ・フローの黒字を確保することにより、財務健全性の向上に努めています。また、コア・リスクバッファーとリスクアセットのバランス(注3)についても、引き続きその維持に努めています。
(注3)「コア・リスクバッファー」とは、「資本金」、「剰余金」及び「在外営業活動体の換算差額」の和から「自己株式」を差し引いて得られる数値で、当社は、最大損失可能性額である「リスクアセット」を「コア・リスクバッファー」の範囲内に収めることを経営の基本としています。
対処すべき課題
(1)「中期経営計画2020」の取組みと新型コロナウイルスの影響
「中期経営計画2020」の取組みの一つである既存事業のバリューアップについては、2019年度上半期からの米中貿易摩擦と自動車関連産業の低迷により金属事業部門や輸送機・建機事業部門における自動車関連ビジネスを中心に当初想定した成長の実現に課題を残しています。また、原油価格等市況商品価格の下落の影響などにより、北米鋼管事業や資源関連事業が影響を受けているほか、マダガスカルニッケル事業においては、オペレーションの高位安定化に向けた一層の取組みが必要です。これら既存の課題事業のバリューアップ実現のため、全社を挙げて取組んでいます。
2019年度後半には新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態が発生しました。当社の事業においては、インフラ、メディア・デジタル、生活・不動産の各事業部門の多くの事業では底堅い収益創出を継続しており、当社業績を下支えしていますが、新型コロナウイルスの感染拡大は、その他の事業部門のさまざまな事業に大きな影響を与えることとなり、当社の事業活動全体への影響の大きさや期間を見通すことが困難な状況が続いています。
(2)現状を踏まえた対応方針
現状においても当社グループは、十分な流動性資金を有し事業活動の継続に支障はなく、リスクアセットに見合うリスクバッファーも確保・維持できる見込みであり、本年度も財務健全性の更なる改善のための有利子負債の削減に取組みながら、長期安定配当という基本方針に基づく配当の支払を予定しています。
一方で、先行きの見通しにくい状況下、今後、さらに厳しい事業環境に晒された場合にも、新型コロナウイルス収束後を見据えて、当社の事業活動をしっかりと継続していくための手元流動性の確保・維持を最優先に経営を行います。そのため、今年は危機対応の一年と位置づけ、当社グループの各事業において、キャッシュ・フローの悪化を最小限にとどめるために、具体的施策を実行していきます。投融資については、これまでの計画をすべて一から見直し、真に必要なものに厳選のうえ、優先順位を付けて実行していきます。また、経費の徹底した管理、運転資金の改善及び資産削減の着実な実行に取組みます。
同時に、これまでも行ってきた既存事業のバリューアップ、撤退すべき事業の見極めを加速しつつ、収益力の早期回復を図るとともに、企業価値の向上に向けたポートフォリオ戦略の見直し、サステナビリティ経営の高度化等、各事業と当社グループ全体の大胆な構造改革にも取組んでいきます。
(3)サステナビリティ経営の推進と高度化
当社グループでは、住友の事業精神、住友商事グループの経営理念(注1)を踏まえ、事業活動を通じて自らの強みを生かして優先的に取組むべき課題を「社会とともに持続的に成長するための6つのマテリアリティ(重要課題)」(注2)として特定し、サステナビリティ経営を実践しています。
新型コロナウイルスが短期的にも中長期的にも社会に与える影響は多岐に亘ると思われますが、今後世界が経済発展を目指し続けるうえで、気候変動問題はさまざまな社会課題の中でも最優先に取組まなければならない課題の一つです。すでに当社グループでは、気候変動を巡る世界的な情勢を踏まえ、「気候変動問題に対する方針」を定めていますが(注3)、今後も国際的な取組みや事業環境の変化などを注視し、適宜方針を見直していきます。
また、社会課題に対する包括的方針として、「環境方針」及び「サプライチェーンCSR行動指針」を定めていますが、これらに加え、2020年5月には、「住友商事グループ人権方針」(注4)を策定し、企業に求められる社会的責任の一つとして人権を尊重する方針を明らかにしました。
新型コロナウイルスにより、社会が直面するさまざまな課題の緊急度に変化が生じた場合でも、当社グループは、世界をリードする企業グループとして、社会課題の解決と持続可能な社会の実現に向けて、具体的な方針の策定や施策の実行を通じてサステナビリティ経営の高度化を推進していきます。
(注1)住友商事グループの経営理念については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要③住友商事コーポレートガバナンス原則」をご参照ください。
(注2)住友商事グループのマテリアリティ(重要課題)については、「マテリアリティ(重要課題)への取組み」をご参照ください。
(注3)気候変動問題に対する方針については、当社ウェブサイトに掲載しています。
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/sustainability/environmental-management/climate
(注4)住友商事グループ人権方針については、当社ウェブサイトに掲載しています。
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/sustainability/csr
(4)定量計画
①経営環境
全般
世界経済は、新型コロナウイルスの影響により停滞しており、先行きの不透明感が高まっております。感染拡大を抑制するための都市封鎖や移動制限などにより需給両面から経済活動は弱含むと見られます。日本を含む先進国では、経済活動が停滞しており、新興国においても、中国では生産活動が再開したものの、総じて新型コロナウイルス感染拡大の影響により先行きへの懸念が高まっているほか、資源国では、原油などの資源価格の低迷によりその影響を強く受けると見られます。リスクとして、新型コロナウイルスの再拡大、政治・社会情勢の変化に伴う不確実性の高まり、不良債権問題、地政学的リスクの高まりなどが挙げられます。
金属事業部門
当部門は、鋼材・鋼管などの鉄鋼製品からアルミなどの非鉄金属製品まで幅広く金属製品を取り扱っています。
鋼材分野では、各国での通商問題ならびに鋼材供給過剰による市場の低迷といった課題に直面しています。これに加え、新型コロナウイルスによって、工場の稼働停止といった直接的影響だけでなく、グローバルサプライチェーンの寸断による各顧客の生産活動停止や世界経済停滞・需要減による生産・在庫調整といった間接的影響も受けており、当面厳しい状況が続くと見込まれます。
鋼管分野では、OPECプラスによる協調減産の破綻に加え、3月に新型コロナウイルスによる需要減の影響を受けて石油・ガス市場全体が急激に減退、将来の見通しも急激に悪化しました。加えて、主要顧客である石油・ガス企業においては、さらなる利便性・経済性と気候変動対策を追求する方針であることから、顧客ニーズの変容への適合も求められています。
このような環境を踏まえ、今後、当部門としては中長期的視点で確実に持続的成長を果たせるビジネスモデルへの再構築を一層加速するとともに、気候変動問題に対しての最先端技術・DX(注)を採り入れた新たな価値提供などにも、注力し取組んでいきます。
(注)デジタルトランスフォーメーション。IoT、ビッグデータ、AIといった革新的なデジタル技術の進化を背景に、さまざまなビジネス領域で最先端のICT技術を活用した既存事業の高度化・新規事業開発。
輸送機・建機事業部門
当部門は、リース・ファイナンス事業、グローバルにバリューチェーン展開する自動車・建設機械・船舶事業、高い専門性を持つ航空宇宙関連事業を中心に、各種取引及び事業投資を行っています。
当部門を取り巻く足元の環境としては、新型コロナウイルスの影響により、リース・ファイナンス事業では、リース先からの繰延要請やクレジットコストの増加、自動車製造・販売事業では、OEMの減産並びに工場の操業停止・世界各地の販売拠点の営業停止、建設機械事業では、需要減少・稼働率低下等の影響が生じています。
このような環境を踏まえ、当部門は手元資金流動性の確保を一義とし、キャッシュマネジメントの強化により、新型コロナウイルスの影響をミニマイズします。足元で事業環境の影響を大きく受けている自動車製造・販売事業では、各事業の競争力強化と不振事業の立て直しに注力していきます。加えて、ポストコロナを見据えた既存事業の維持強化・構造転換及び新規ビジネスの創出にも取組んでいきます。
インフラ事業部門
当部門は、水・鉄道等の社会インフラ事業、EPCビジネスや発電事業等の電力インフラ事業、港湾・海外工業団地、保険事業を含む物流インフラ事業を行っています。
電力EPCビジネスは、今年度大型案件が相次ぎ完工し収益のピークアウトを迎える予定ですが、一方で新型コロナウイルスの影響により多くのプロジェクトで履行ペースの鈍化が顕在化しており、その影響を見極める必要があります。発電事業は足元堅調ですが、今後電力需要減等の影響を一部受ける可能性があります。物流事業は世界的な貿易低迷や輸送量低下を受け、足元において影響が出始めています。
このような環境下においても、当部門は引き続き持続可能な成長を目指し、環境課題への取組みとして、再生可能エネルギーやエネルギーマネジメント事業により注力していきます。また衛生的な上・下水事業、スマートシティ開発、鉄道・空港・港湾事業等、各地域の課題を解決する社会インフラ事業への取組みを加速します。加えて、変化する事業環境への挑戦を続け、分散型発電事業等の新たなビジネスへの参入やIoT・AI・5GなどDX活用による既存事業のバリューアップ、新規ビジネスの創出に取組んでいきます。
メディア・デジタル事業部門
当部門は、ケーブルテレビ、テレビ通販及びデジタルメディア等のメディア事業、ICTプラットフォーム、デジタルソリューション等のデジタル事業、携帯電話販売、情報通信インフラサービス等のスマートプラットフォーム事業を行っています。
当部門を取り巻く環境としては、メディア事業では、有料多チャンネル市場は成長が鈍化していますが、インターネットを活用した各種サービス、及びデジタルメディア(SNSなど)などの市場が拡大しています。デジタル事業では、企業のIT投資需要は底堅く推移していますが、新型コロナウイルスの影響を注視する必要がある一方で、オンライン化・デジタル化の加速により様々な産業でDX投資が拡大する見込みです。携帯電話販売事業では、電気通信事業法改正に伴う端末価格上昇による販売数の減少に加え、新型コロナウイルスの影響で店舗の営業時間短縮等による影響が見込まれます。また、海外の情報通信インフラ事業では、社会インフラとしての重要性が高まり、行政・企業・消費者向けの各種オンラインサービスの拡大が見込まれます。
このような環境を踏まえ、ケーブルテレビ事業ではHome IoTやオンライン診療などの生活周辺サービスを強化します。デジタル事業では、DXセンターを中心に当社グループのDX推進を加速し、新たな価値創出を目指します。海外の情報通信インフラ事業では、各地域でのスマート社会の実現に向け各種付加価値サービスの展開に取組みます。
生活・不動産事業部門
当部門は、ライフスタイル・リテイル、食料、生活資材・不動産分野において事業を展開しています。
ライフスタイル・リテイル分野のスーパーマーケット事業では、新型コロナウイルス感染拡大を受け、在宅率が高まったことにより内食需要が急増しており、ドラッグストア事業とともに、社会インフラとしての重要性が増しています。ヘルスケア事業では、国内においては、高齢化の進展に伴う調剤医療費の抑制、在宅介護、オンライン診療等で事業機会の拡大が見込まれ、海外、特に新興国では、良質で安価なサービスを提供する医療プラットフォーム構築へのニーズが高まっています。
食料分野の食材・食品開発輸入事業では、外出自粛の影響等により、外食産業向け需要は低下が見込まれますが、量販店向けの需要は底堅く推移しています。不動産分野では、営業時間短縮や休業により商業施設事業の収入が減少しており、今後は、住宅、オフィスビル事業にも影響が生じる可能性があります。
このような環境を踏まえ、当部門は、マーケットを慎重に見極めながら、事業の継続及び将来の成長に必要な施策を実行していきます。食料分野では、食品の安定供給、フードロス削減への取組みを強化し、生活資材分野では、気候変動への取組みが喫緊の課題となっていることから、木材資源事業、バイオマス燃料事業を通してその解決に取組んでいきます。不動産分野では、不動産市況、金融環境を注視して中長期的な視点に立って、事業を推進していきます。
資源・化学品事業部門
当部門は、資源・エネルギー分野では、鉱物資源・エネルギー上流権益の開発・生産及び販売事業を、化学品・エレクトロニクス分野では、基礎化学品、農薬、肥料、医薬、化粧品、エレクトロニクス材料・製品の開発、製造、販売事業を展開しています。
当部門を取り巻く足元の環境ですが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、資源・エネルギー分野では、3月下旬より一部鉱山の操業を停止していることに加え、市況価格も下落しています。化学品・エレクトロニクス分野では、サプライチェーンの混乱、需要減退による市況悪化、製造拠点の稼働率低下の影響を受けています。
このような環境を踏まえ、資源・エネルギー分野では、所在国の方針に沿う形で、鉱山関係者の健康安全を最優先とした対応を取りながら、停止中の鉱山の保全と操業再開に向けた準備を行い、鉱山の安定供給体制への回復に努めていきます。化学品・エレクトロニクス分野では、各国の経済活動再開に備え、トレードと製造事業の両輪体制強化・プラットフォーム事業の連携深化を進め、さらなるバリューアップに取組みます。また、農業IoTソリューションビジネスの展開をはじめ、サステナビリティ向上に資する新規事業化案件へのチャレンジにも取組み、社会の持続的発展に貢献していきます。
②2019年度業績
当期の親会社の所有者に帰属する当期利益は1,714億円となり、前期に比べ1,492億円の減益となりました。一過性損益については、米国を中心とした鋼管事業において、原油価格の下落などによる減損損失及び在庫評価損を計上したことや、ボリビア銀・亜鉛・鉛事業での一過性損失を計上したことなどから約770億円の損失となり、前期に比べ約690億円の減益となりました。
一過性を除く業績は約2,480億円となり、前期に比べ約810億円の減益となりました。非資源ビジネス(注1)は、電力EPC案件に係る建設工事が進捗したことや不動産事業が堅調に推移した一方で、北米鋼管事業が需要減少などにより減益となったことや、米中貿易摩擦などの影響で自動車関連事業が低調に推移したことなどにより減益となりました。また、資源ビジネス(注2)は、主に資源価格の下落によりボリビア銀・亜鉛・鉛事業や豪州石炭事業などで減益となりました。
(注1)非資源ビジネスとは、全社で行っているビジネスのうち、資源ビジネス(以下、(注2)をご参照ください。)以外のビジネスを指します。
(注2)資源ビジネスとは、「資源第一本部」「資源第二本部」「エネルギー本部」が行っているビジネスを指します。
③2020年度業績見通し
2020年度の業績見通しについては、新型コロナウイルスの感染拡大による影響の度合いを合理的に見通すことが困難であり、現時点では連結純利益の見通しを開示できる状況に至っておりませんが、各国のロックダウンが解除される等、経済活動再開に係る情報を確認、精査した上で、可及的速やかに業績予想を公表いたします。
④キャッシュ・フロー計画進捗
2019年度の基礎収益キャッシュ・フロー(注3)は、事業環境の悪化もあり2,390億円のキャッシュ・インにとどまりました。その他の資金移動は、運転資金の増加などにより、500億円のキャッシュ・アウトとなった一方、資産入替えでは、英国洋上風力発電事業の売却や航空機エンジンリース事業の共同事業化などにより、1,200億円の資金を回収しました。
投融資は、北欧駐車場事業の買収や、米国オフィスビルの取得などにより、3,500億円の投融資を実施しました。これらの結果、2019年度の配当後フリーキャッシュ・フロー(注4)は約300億円のキャッシュ・アウトとなりましたが、中期経営計画2020の2年累計実績としては、約1,000億円の黒字となっています。
新型コロナウイルスの影響などにより、当初計画に対して、キャッシュ・インの大幅な減少が見込まれるものの、投融資の厳選や、資産削減の着実な実行などにより、さらなるキャッシュ・フローを創出し、フリーキャッシュ・フローの悪化を食い止め、有利子負債の削減を通じた財務健全性の向上に取組んでいきます。
キャッシュ・フロー実績 (単位:億円)
中計2020
累計実績
(18/4~20/3)
(参考)
中計2020
当初計画
(18/4~21/3)
2018年度
実績
2019年度
実績
基礎収益
キャッシュ・フロー
+2,900+2,390+5,290+12,000
減価償却費及び
無形資産償却費
+1,118+1,153+2,272
資産入替えによる回収+2,400+1,200+3,600+6,000
その他の資金移動△1,200△500△1,700
新規投資及び更新投資△3,000△3,500△6,500△13,000
フリーキャッシュ・フロー+2,176+732+2,908+5,000
配当△887△1,037△1,923△3,000
配当後
フリーキャッシュ・フロー
+1,289△305+984+2,000

(注3)基礎収益キャッシュ・フロー=基礎収益-持分法による投資損益+持分法投資先からの配当
基礎収益=(売上総利益+販売費及び一般管理費(除く貸倒引当金繰入額)+利息収支+受取配当金)×
(1-税率)+持分法による投資損益
(注4)IFRS第16号「リース」適用による減価償却費の増加額約500億円を控除したベース
主な投融資実績(18/4~20/3)
主な投融資実績
金属・インド特殊鋼事業
・ノルウェー 石油ガス関連ベンチャーへの出資
輸送機・建機・レンタル資産 積み増し
・北欧駐車場事業
インフラ・欧州洋上風力発電事業(フランス・ベルギー)
・ベトナム 石炭火力発電事業
メディア・デジタル・SCSK システム関係会社 完全子会社化、設備投資
・テクノロジー企業へのベンチャー投資
生活・不動産・国内/海外不動産取得
・国内調剤薬局買収
資源・化学品・チリ銅事業ケブラダ・ブランカ権益取得
・ウクライナ 農業資材直販事業

(5)配当方針
当社は、株主の皆様に対して長期にわたり安定した配当を行うことを基本方針としつつ、中長期的な利益成長による配当額の増加を目指して取組んでいます。
2018年度からの3か年を対象とする「中期経営計画2020」においては、連結配当性向30%程度を目安に、基礎収益やキャッシュ・フローの状況等を勘案のうえ、配当額を決定することとしています。
2019年度及び2020年度の年間配当金については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」を参照願います。
マテリアリティ(重要課題)への取組み
① 社会とともに持続的に成長するための6つのマテリアリティ(重要課題)
社会課題の解決に向けて企業の果たす役割への期待や、環境・社会・ガバナンス(ESG)の側面が企業の評価や投資行動につながる機運が高まる中、住友の事業精神、住友商事グループの経営理念(注1)を踏まえ、事業活動を通じて、自らの強みを生かして優先的に取組むべき課題を、「社会とともに持続的に成長するための6つのマテリアリティ(重要課題)」として、以下のとおり特定しました。これを、事業戦略の策定や個々のビジネスの意思決定プロセスにおける重要な要素と位置付けています。
● グローバルに広がる顧客・パートナーとの信頼関係とビジネスノウハウを活用し、健全な事業活動を通じて豊か
さと夢を実現するという企業使命を果たすことで、持続的な成長と以下の社会課題の解決を両立していきます。
0102010_002.png● また、上記の課題を解決するための基盤として、人間尊重や信用・確実といった経営姿勢と、活力に溢れ革新を
生み出す企業風土のたゆまぬ維持向上に努めています。
0102010_003.png
② マテリアリティ(重要課題)の位置付けと特定プロセス等
<マテリアリティ(重要課題)の位置付け>0102010_004.png(注1)住友商事グループの経営理念については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要③住友商事コーポレートガバナンス原則」をご参照ください。
(注2)Sustainable Development Goalsの略称。2030年までの世界規模の課題が盛り込まれた17の目標。2015年に国連総会で全ての加盟国(193か国)により採択されました。
<特定プロセス>特定に当たっては、まず国際的なガイドラインやSDGsを参照し、当社の事業と社会課題との関わりを整理・分析しました。そのうえで、住友の事業精神や当社グループの経営理念を踏まえて重要課題を抽出し、社内アンケートを実施したほか、社外ステークホルダーや有識者との意見交換を重ね、その結果を文章化しました。そして、CSR委員会(現サステナビリティ推進委員会)、経営会議及び取締役会での審議・決議を経て、特定しました。上記プロセスを経て特定したマテリアリティを事業において実践することが、当社グループがSDGsの達成に貢献していくことにつながると考えています。
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③ マテリアリティ(重要課題)の取組み事例
<ベトナム北ハノイのスマートシティ開発事業>当社は、2019年10月に、ベトナムの現地企業とともに、不動産開発会社を設立し、ハノイ市北部272haを対象としたスマートシティ開発に参画しました。病院、学校、防災設備、セキュリティシステム、商業施設などに加え、緑・水路・桜並木を整備し、安全かつ安心できる住み心地のよい環境・コミュニティの実現を目指しながら、5G、顔認証、ブロックチェーン技術を導入することによりスマートシティとしてのサービス高度化を図り、同市の持続的な発展へ貢献します。
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<鹿児島県甑島の「みらいの島プロジェクト」及び長崎県の「みらいの工場プロジェクト」>2017年より鹿児島県薩摩川内市と共同で開始した「みらいの島プロジェクト」に引き続き注力しました。電気自動車(EV)を自然環境と共生するエコな移動手段として、また交通弱者を助ける公共の乗り物として利用することで、過疎化が進む地域の課題の解決を図ります。また、長崎県で実施している、EVリユース蓄電池を活用した最新の環境関連設備を備えたスマート工場のモデルを構築する「みらいの工場プロジェクト」にも引き続き取組みました。今後も再生可能エネルギーの導入拡大に資する取組みによって、環境負荷の低減による社会貢献を進めていきます。
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