有価証券届出書(新規公開時)

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2018/08/22 15:00
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第1【企業の概況】
(はじめに)
当社は、1993年11月大阪証券取引所市場第二部に上場、1998年12月東京証券取引所市場第二部に上場、1999年9月東京証券取引所及び大阪証券取引所の市場第一部銘柄に指定され、その後、2005年11月に長期的、持続的な企業価値の最大化を図るため、マネジメント・バイアウト(MBO)による株式の公開買付け(以下「本公開買付け」という。)を行い、上場を廃止しております。
そのため、以下、公開買付けから株式の非公開化、再上場についての経緯、理由を記載いたします。
1.マネジメント・バイアウト(MBO)について
当社は、以下のMBOの過程を経て現在に至っております。
(1)公開買付けに対する賛同と公表
当社は、2005年7月25日開催の取締役会において、株式会社ハーバーホールディングスアルファ(公開買付者。以下「アルファ」という。)による当社株式の公開買付けについて賛同の意を表明することを決議し、それを公表いたしました。
本公開買付けによるMBO実施の理由は次のとおりでした。
当社は、いち早く卸売中心から小売中心のビジネスモデルに転換し、多業態化・多ブランド化の推進によって大手総合アパレル企業として発展してきました。衣料品を中心に新たな業態を開発してきたほか、的確な需要の見極めと判断に基づく店舗のスクラップ・アンド・ビルドや長年の経験に裏付けられた独自の店舗の収益管理モデルを確立し、大量出店を可能とする独自の人材採用や育成制度の充実等の独自の経営ノウハウによって、業界平均で売上が微減している中においても売上高を順調に拡大させてまいりました。
他方、当社が事業を展開するアパレル市場は消費者の嗜好の変化が大きく、また気象状況や季節要因等の影響を受けやすいことから、適切に経営環境の変化に対応することは容易ではなく、常に事業リスクを先読みし、適切にリスクを管理することが求められます。このような事業特性や環境の下で、将来にわたって当社が持続的な成長を成し遂げていくためには、当社の競争優位を堅固なものとする新たな戦略モデルを構築していくことが欠かせませんでした。
アパレル業界においては、業態開発やデザインの開発、生産から販売までワンストップで展開するシステムや仕組み作りが非常に重要であり、このようなシステムに対応した最適なコーポレートデザインを描くことによって新規事業の創造や新規市場の開拓、既存市場のシェアの拡大を実現し、同時に業務やコストの見直しと事業の効率化、生産や販売効率の向上による収益の拡大を図ることが可能になると想定いたしました。
経営環境の変化に柔軟に対応した機動的な経営戦略や施策を短期的な業績の変動に左右されることなく迅速に遂行する体制を整備するとともに、さらに自己責任を明確にした経営体制への転換を図るため、本公開買付けによる当社のMBOを行うことを目指しました。
(2)公開買付けにおける買付価格
本公開買付けにおける買付価格(1株につき、4,700円。以下「本公開買付価格」という。)は、2005年7月22日までの過去6ヶ月間の大阪証券取引所における売買価格の終値の単純平均値3,741円(小数点以下四捨五入)に対して25.6%のプレミアムを加えた価格であり、また、2003年1月6日以降の最高値4,410円を上回る価格でありました。
当社取締役会は、アーンストアンドヤングトランザクションアドバイザリーサービス株式会社、及びデロイトトーマツFAS株式会社(以下「評価人ら」という。)より、当社株式につき公開買付けが実施された場合の買付価格の妥当性を検討する際の添付資料として、当社株式価値に関する算定報告書(以下「本評価報告書」という。)を取得いたしました。本評価報告書によると、本公開買付価格は、本評価報告書が当社株式価値として算定した価格を上回っていることから、妥当な価格と判断いたしました。また当社取締役会は、神戸大学名誉教授河本一郎氏より、本公開買付けにはじまる一連の手続につき、関係法令に照らし、違法性はない旨の法律意見書を取得いたしました。
さらに、当時、当社の代表取締役社長であった寺井秀藏は、アルファの完全親会社である株式会社ハーバーホールディングスベータ(以下「ベータ」という。)の株式を有しており、アルファの代表取締役社長にも就任しておりました。社外取締役2名を除く当社取締役も今後ベータの株式を取得することを予定していたこと、また、ベータ及びアルファの役員に就任する可能性もありましたので、当社取締役会は、特に慎重を期すべく、上記買付価格を含む本公開買付けの諸条件につき、当社社外取締役であった須藤修及び由良智に対し利害関係のない者としての立場からの検討を諮問いたしました。当社社外取締役らは、河本名誉教授より直接に意見聴取して本スキームの適法性を確認するとともに、評価人らより直接意見聴取し、本公開買付価格が本評価報告書において当社株式価値として算定した価格を上回っていることを確認し、かつ評価人らからは本公開買付価格は当社株式価値に照らし、それぞれ妥当かつ公正である旨の当社取締役会宛意見報告書を取得しました。
当社取締役会は、社外取締役らより、これらの報告をうけ、さらに慎重に検討を重ねた結果、買付価格を含む本公開買付けの諸条件は妥当であると最終的に判断するに至りました。
そして、当社取締役会は、本公開買付けが当社の新たな業態展開を促進し、当社の更なる発展に寄与するものであるとともに、当社株主に対して公正な価格による当社株式の売却の機会を提供するものであり、当社及び当社株主の利益のために妥当であると判断し、本公開買付けに賛同する旨決議いたしました。なお、当時、当社の代表取締役社長であった寺井秀藏は、アルファの代表取締役社長でもあったことに鑑み、特別利害関係者として、上記決議には参加しておりません。
(3)公開買付けの結果
公開買付期間:2005年7月27日(水)~2005年9月1日(木)の37日間
買付価格 :4,700円
応募状況 :応募株式及び買付株式の総数 44,159,907株(所有割合94.99%)
応募株式の総数が買付予定株式総数を超えたため、応募株式の全てを買付け実施いたしました。
その後、2005年9月28日に当社とアルファとの間で当社がアルファの完全子会社となる株式交換契約が締結され(簡易株式交換の確定日:10月14日、株式交換の日:12月1日)、10月13日までの反対株主(議決権数)が0名(0個)であったため、簡易株式交換が確定し、2005年11月30日の最終の株主名簿に記載又は記録された株主(アルファを除く)に対して当社株式1株につき4,700円の割合で金銭が交付されました。
当社といたしましては、本公開買付けにかかる買付価格は上記説明のとおり適正性があり、また上記の内容は適時適切に開示されていることを確認しているため、妥当性があるものと考えています。
なお、一連の手続きにおいて、株主からの訴訟は発生しておりません。
(4)公開買付け後の組織再編
2005年12月、旧株式会社ワールドとアルファとの間の株式交換により旧株式会社ワールドはアルファの完全子会社となりました。
2006年4月1日、旧株式会社ワールドを消滅会社、アルファを存続会社とする吸収合併を行い、旧株式会社ワールドは解散し、アルファは旧株式会社ワールドの営業活動を全面的に承継いたしました。また、同日、アルファは、商号を株式会社ワールドに変更して、現在に至っております。
2.MBOの目的
消費者のライフスタイルの変化やニーズの多様化に加え、気象状況や季節要因等の影響を受けやすいファッションビジネスにおいては、顧客の消費行動、マーケットやチャネルの変化を把握し、さらにコンペティターの動向も認識しながら、絶えず価値を提供し続ける企業グループであることが求められます。このような事業特性や環境の下で、当社グループが長期的・持続的な企業価値の最大化を成し遂げていくためには、常に消費者の嗜好、マーケットやチャネルの変化を見極めながら、柔軟にポートフォリオを組み替えていく必要があります。
このポートフォリオ戦略の推進には、プラットフォーム(当社グループでは、それぞれの業務において再現性のある仕組みを作り、収益構造の異なる複数の業態、ブランドの業務を安定化させる基盤としてのプラットフォームを指しております。以降同じ。)であるスパークス(SPARCS)(注)モデルの構築が欠かせません。しかし、それぞれの業態においては、出店するチャネルが違うことで収益構造が異なったり、それぞれのチームが運営することによる業務精度にばらつきが発生したりするリスクもあり、生産や販売といったプラットフォームの構築にも資金・人材の先行投資が必要なことから、短期的に収益へマイナスとなる影響を及ぼす可能性もありました。このことは短期的な業績向上を求める傾向の強い投資家からの理解が得られず、結果として変化に対応した迅速な事業戦略を実行できず、中長期的な収益基盤の構築が推進できない可能性がありました。
このように、短期的な業績の変動に左右されることなく、最適なポートフォリオの構築に取り組み、グループ内でのプラットフォームを強化することなどで、中長期業績の成長可能性を高めたいという、当時の当社経営陣の思いを実現する手段としてMBOを実施いたしました。
このような課題認識のもと、上場企業であり続けるメリットとデメリットを整理し検討を進めた結果、当時の当社は間接金融にて必要な資金の調達は可能であったことや、社会的信頼性や認知度向上、優秀な人材確保といった上場会社としてのメリットは非上場化した後も保持できると考えたこと、一方でIR活動等のコスト負担等を考慮し、上場会社であり続ける意味がその時点では薄れていると判断し、MBOを実施するに至りました。
(注) スパークス(SPARCS)
Super(卓越した)、Production(生産)、Apparel(アパレル)、Retail(小売)、Customer Satisfaction(顧客満足)の略称であり、消費者を起点に小売から生産までを一気通貫させ、ロス・無駄を価値に変えることで顧客満足と生産性を最大化する仕組みを意味します。
3.MBOの公表後実施した具体的施策
(1)ショッピングセンター(SC)チャネルへの出店加速
アパレル業界ではそれまで1ブランド1ショップを軸に展開する百貨店マーケットが主流であったものの、2000年代に入ってからの大規模小売店舗法(大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律)の廃止及び大規模小売店舗立地法(以下「大店立地法」という。)の施行にともない、大型商業施設の新設への規制が大幅に緩和されると、ディベロッパー各社による広域商圏型のRSC(リージョナルショッピングセンター=広域商圏型ショッピングセンター)の開発が加速いたしました。当社は、この広域商圏型ショッピングセンターの広い売場、幅広い顧客層、買いやすい価格等への変化に対応して、他社に先駆けていち早く出店を加速することで売上拡大を図りました。
ショッピングセンターチャネルにおいては、回転の悪い商材をセール期まで持ち越さず、適切なタイミングで柔軟に売価を変更して売り切ることによって、常に店頭鮮度を高く、粗利率の低下を最低限に抑制することが必要となります。加えて、百貨店チャネルと比較してショッピングセンターチャネルで展開する商品の粗利率は低いため、上場会社としてショッピングセンターチャネルに出店を加速することは一時的に収益の悪化を招く恐れがありましたが、非公開化により出店を加速して、ショッピングセンターチャネルにおける売上成長を実現しました。
MBO以降、ショッピングセンターチャネルにおいて複数のブランドを開発し、出店を加速した結果、2005年3月期末に1,695店であった店舗数は2015年3月期末には2,957店にまで拡大しました。その後は、構造改革の一環で赤字・低収益店を大量閉鎖したものの、2018年3月期末において2,488店、ブランドは56ブランドを有しております。
また、近年においては、広域商圏型ショッピングセンターから、より身近なチャネルである近隣商圏型のNSC(ネイバーフットショッピングセンター=近隣商圏型ショッピングセンター)へのマーケット変化が起こりつつあります。この更なるマーケット変化に対して、低価格帯(ロワー)への展開として「シューラルー」の出店を強化いたしました。「シューラルー」については、直営店舗のみではなく、連結子会社である株式会社ワールドフランチャイズシステムズを本部機能に、フランチャイズによる出店も推進しております。さらに、アパレルだけではなく、雑貨での差別化を図るトレンドに対応し、「ワンズテラス」や「イッツデモ」に代表される服飾雑貨、生活雑貨業態の展開を強化いたしました。
(2)複数の業態及びブランド運営を支えるプラットフォームの構築
当社グループは、1992年、顧客価値と生産性の最大化を目的に、消費者を起点に小売から生産までを一気通貫させ、ロス・無駄を価値に変える「スパークス(SPARCS)」構想を発表いたしました。ファッション産業においては、製造業、卸売業、小売業とバリューチェーンが分断されていたため、それぞれの段階において在庫ロスと機会ロスが発生しておりました。
スパークス(SPARCS)構想は、この分断されていたバリューチェーンをつなぎ、情報についても一元化することにより、バリューチェーン全体の在庫ロスと機会ロスを最小化することを目指しております。また、その実現のため、複数業態・複数ブランドのバリューチェーンのそれぞれの業務において、再現性のある仕組みをプラットフォーム化することで競争優位性を高めることも目指しております。進化する顧客のニーズにスピーディーに応えることを可能とするプラットフォームの進化に継続的に取り組みました。
ポートフォリオ戦略により継続的な成長を遂げながらも、スパークス(SPARCS)構想により、それぞれのプラットフォームを構築、進化させ、バリューチェーン上の機会ロス、在庫ロスを低減し、複数業態・複数ブランドにおいても安定的な収益を確保することが可能となりました。また、プラットフォーム機能の一部を外部企業へオープン化して社外より収益を得る、プラットフォームの外販事業化も本格的に始動しております。
a 生産プラットフォームの構築
アパレル業界では、一般論として、グループ内で国内に原料・染色から縫製・組立まですべての生産工場を保有している会社は稀であります。こうした業界の常識に対して、当社は生産機能を自ら保有することで、他社との差別化を追求してまいりました。
具体的には、当社グループでは、仕入・調達の窓口機能を果たす株式会社ワールドプロダクションパートナーズ(WP2)を核として、グループ内に国内生産機能を有することでグループ内の製造技術をさらに高めて、その技術を国内・外の当社グループの仕入先に指導し、商品の品質を高め、消費者の信用を得ることを目的としました。また、中長期的な国内の作り場(技術力)の確保として、技術力の高い生産系協力工場等への投資(M&A等)を検討して参りました。
しかし、上場当時はこうした中長期的な狙いが投資家の理解を必ずしも得られない可能性もあったため、非公開化後にはM&A等も駆使して生産工場を有する企業の買収や提携等を相次いで実施いたしました。また、これらの企画から製造、調達までの一貫体制のプラットフォームを活用し、グループ会社向けの製造・調達機能だけにとどまらず、他の小売業からの商品提案要望にも対応し、OEM(Original Equipment Manufacturing又はOriginal Equipment Manufacturerの略で、発注者である相手先企業のブランドで生産すること、又は、生産するメーカーのことを指す。以下同じ。)受託事業を開始しております。
b デジタルプラットフォームの構築
EC市場の拡大に対応し、2011年4月にファッションに特化したECモール事業と他社EC事業の業務受託事業を行う株式会社ファッション・コ・ラボを設立したうえで、2011年10月にF1層(20歳から34歳までの女性)向けのファッション通販サイトである「FASHIONWALKER」等を運営する株式会社ファッションウォーカーより事業を譲り受けました。
それまで自社ブランドのWeb通信販売「WORLD ONLINE STORE(ワールドオンラインストア、WOS)」で培ったプラットフォームに株式会社ファッションウォーカーのノウハウを吸収しさらに進化させることで、他社ブランドにも活用できる新たなデジタルプラットフォームの構築を推進することができました。結果として、ECを起点に、顧客管理システム、在庫連携システム等、デジタル全般へ渡って他社が抱える多様な課題に対して、これまで培ってきたソリューション力を活かしたサービス提供も始められるようになりました。
c 販売プラットフォームの構築
事業投資の効率性とスピードを追求した競争優位性のある新たな他人資本を活用した販売プラットフォームの構築を目指して、2011年5月にフランチャイズ展開を行う株式会社ワールドフランチャイズシステムズを設立いたしました。2012年3月の店舗展開スタートより、アパレル企画開発力とストアの運営ノウハウを最大限に活用し、2018年3月末では30法人67店舗の規模となりました。
また、かねてより販売代行の役割を果たしてきた株式会社ワールドストアパートナーズ(WSP)においても、各地域の館や店舗の一つ一つでスピード感のある地域に根付いた店舗運営活動を推進するため、各地域の販売拠点となる6つの支店を開設して人材や設備なども隅々まで目配せする形で、全国に広がる店舗運営を支える販売プラットフォームを拡充いたしました。
WSPの業務領域については、支店体制を軸とした販売代行事業に留まることなく、多様な販売チャネルでの年間3桁に達する新規出店を支える店舗開発機能、アウトレット店「NEXT DOOR(ND)」運営やファミリーセール等の催事運営による在庫換金機能まで拡充しております。そして、最近では、こうした店舗開発機能の他社への提供や在庫消化機能を活かした他社とのコラボレーションも推進するなどして事業化に取り組んでおります。
d 空間プラットフォームの構築
当社グループの複数ブランドの店舗デザイン設計業務、店舗設備コストのコストダウンのための海外什器工場からの調達ルート構築など、複数ブランドのポートフォリオを支える、海外什器調達及び空間創造支援のノウハウが蓄積できたことから、現在では、自社ブランドだけでなく、社外ファッション関連企業に対する什器製造販売やインテリア設計支援(空間創造支援)等のプラットフォームを活用したビジネスがスタートしております。
4.企業体質強化のための構造改革について
当社は、前記「2.MBOの目的」及び「3.MBOの公表後実施した具体的施策」に記載のとおり、MBOで実現を目指した各種施策は確実に実現できており、その目的は十分に達成できたと判断しております。
一方で、2008年のリーマンショックに端を発した世界的な経済情勢の急激な悪化、国内景気の後退や個人消費の低迷などを受けたことに加え、大店立地法施行後のショッピングセンター開発ラッシュなどが需給バランスの悪化に拍車を掛けたことから、マーケットやチャネルなど外部環境の大きな変化が、アパレル業界全体の厳しい環境を断続的に招くこととなりました。当社におきましても、こうした想定以上の市場成熟化とオーバーサプライによる収益の低下に見舞われ、さらには2011年3月に発生した東日本大震災後の消費低迷等で在庫課題が顕在化したほか、2012年10月以降に本格化した円安転換による仕入原価の上昇なども業績面に追い討ちとなりました。
こうした環境下でも、プラットフォームの進化に対する手立てを緩めることなく、経営資源の投下を持続いたしました。商品により示される「モノ軸」では商品系業務の標準化と粗利ロスの適正化を目的としたSPS(SPARCS Platform System:当社グループの業務アプリケーション群)の開発を本格化し、人材及び組織又は店舗により示される「ヒト・ウツワ軸」では支店活動を人的リソース面で補強して現地・現場に根ざした改善取組を推進、出来事に示される「コト軸」でもリブランディング活動に不可欠な各種業務プラットフォームを構築してブランド鮮度の維持・改善に取り組みました。しかしながら、2015年3月期もアパレル市場での店舗や商品の供給過剰が継続したうえ、下期からは円安が一段と進行し、厳しい環境に終始し、連結業績は営業利益で3期連続減益となりました。
こうした厳しい状況を打開するため、当社では2015年4月に新たな経営体制を発足し、「利益を伴わない売上は追わない」という指針を掲げたうえで、ワールド単体を対象とした構造改革の各種施策に着手しました。具体的には、改革1年目の2016年3月期には屋号(ブランド)と店舗、要員という三つの柱で構造改革を進め、屋号は13ブランドを廃止し、店舗は479店を閉鎖、要員は460人の希望退職を実施いたしました。こうした赤字の屋号、店舗、品番の削減によるロス排除と本部コストや在庫など資産のスリム化を徹底的に進めたことは、筋肉質な収益構造となって業績結果に現れました。
スピード感をもった一連の構造改革で経費の節減が想定以上の速度で進展したほか、業務プラットフォーム整備の一環であるSPSの進化もあって商品ロスが過去5年間で最小となるなどして、2016年3月期には、売上収益は前期比7.2%減の2,716億円となりましたが、コア営業利益は前期比121.7%増の117億円を達成し、フリー・キャッシュ・フローの増大を背景とした純有利子負債の大幅な圧縮も実現いたしました。翌2017年3月期には、構造改革施策の効果が1年を通じてフルで発現したこともあり、売上収益は前期比8.0%減の2,500億円と減収が続いたものの、コア営業利益は前期比24.0%増の145億円と大きく続伸しました。そして、2018年3月期においては、期初の事業持株会社体制への移行に伴って、子会社各社が各々のマーケット最適の収益構造へ効率化を推し進めたほか、M&Aにも本格的に着手し始めたことなどによって、コア営業利益は前期比10.1%増の159億円となり、構造改革プラン始動前である2015年3月期のコア営業利益53億円から3倍増のV字型回復を達成いたしました。
なお、「コア営業利益」の意義及び算出方法については、後記「第2 事業の状況 1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)中長期的な会社の経営戦略」をご参照下さい。
(参考)MBO後の業績推移 (連結、単位:億円)
日本会計基準国際会計基準
48期49期50期51期52期53期54期55期56期57期58期59期60期
06/3期07/3期08/3期09/3期10/3期11/3期12/3期13/3期14/3期15/3期16/3期17/3期18/3期
売上収益
(売上高)
2,8993,3343,5833,4283,1413,0553,2993,2493,0412,9262,7162,5002,458
コア営業利益
(営業利益)
2002552452201541311591139353117145159

(注)1 第55期までは日本会計基準により、第56期からは国際会計基準(IFRS)により作成しています。なお、第48期から第55期のコア営業利益については、国際会計基準に基づく第56期以降の業績との継続性の観点から、日本会計基準に基づく連結財務諸表上の連結営業利益ではなく、のれん償却前の連結営業利益を記載しております。
2 売上収益は日本会計基準における売上高に相当し、コア営業利益は同会計基準の営業利益に相当する数値として作成しています。
(連結、単位:億円、左軸:売上収益(売上高)、右軸:コア営業利益(営業利益))

5.持続的成長に向けたコーポレートデザインの構築
「4.企業体質強化のための構造改革について」に記載のとおり、一時的には縮小均衡的な構造改革政策を実施せざるを得ない状況ではあったものの、その結果として、収益力の回復は図られたものと考えております。また、MBO後の各施策の実施によるプラットフォームの構築も大いに進展してきたものと考えております。そこで、今後の持続的成長に向けた第一歩として、2017年4月1日、当社は事業持株会社体制へ移行いたしました。
こうしたコーポレートデザイン変革の背景には、次のような市場環境認識があります。
国内アパレル市場は成熟しており、過当競争の中、熾烈なシェア争いはいっそう激しさを増し、今の企業数やブランド数、店舗数は維持できないと想定しております。その結果、業界再編がより一層活発になると想定されます。こうした環境下においては、国内アパレル事業は、従来のような業態開発と出店拡大に依存した収益構造では、持続的な成長や収益性を維持することは難しいと考えており、むしろ、安易な新規ブランド開発や新規出店開発そのものがリスクを高めるとも考えられます。
特に、「ファッション」の付加価値は、衣・食・住横断での再定義によってこそ高めうるため、業態の確立も以前に比べて相当に複雑性を増しております。Webを軸とした小規模でも発信力があるスタートアップ企業が浮かんでは消える市場でもあり、自前主義・リアル店舗主義による業態開発は経済性が成り立ち難い状況であります。
さらには、デジタル化の不可逆的な進展にともない、顧客自体の価値観や行動パターンが加速度的に変化しております。次世代のリテールモデルは未だ確立していないと考えておりますが、今後はこうしたデジタル化の変化に応じた大胆な改革が求められることになると認識しております。
当社グループとしては、競争が激しく変化の大きな厳しい事業環境との認識のもと、後記「6.MBO後の再上場について」で述べる戦略指針の実現を目指してまいります。この実現に向けて、次のような思想に基づき、最適なコーポレートデザインとして持株会社化のグループ体系へ再編成しております。
従来型のブランドビジネスについては柔軟に入替可能なコーポレートデザイン、かつ、自律的・機動的な運営が可能な事業運営体制に転換する必要があり、また、デジタルを軸としたプラットフォームビジネスへの事業ドメインの転換が必要であると認識しております。事業持株会社化を通して、子会社経営を任せることなどで、次世代リーダーの開発・育成を図り、こうした経験等を通じて更なる経営力の強化が図られると考えております。
加えて、事業持株会社の特長も活かして、事業ポートフォリオの弾力的な入れ替えを図ります。この一環として、2017年6月、中間持株会社である株式会社ワールドインベストメントネットワーク(WIN)を通じて、株式会社日本政策投資銀行との合弁でファンド運営会社「株式会社W&Dインベストメントデザイン(WDiD)」を設立し、ファッション産業全般を投資対象とした共同運営ファンドであるW&Dデザイン投資事業有限責任組合(以下「W&Dデザインファンド」という。)で産業活性化の一翼を担える体制も整えております。
6.MBO後の再上場について
当社グループでは、事業持株会社化への移行と並行して、次のような戦略指針を立てて進めております。
まず、既存ブランド及び新たなブランド等への投資等により、ポートフォリオの市場最適化の徹底に取り組む方針であります。環境や各ブランドのコンディション変化に即時に対応し、既存の自社ブランドについてもより付加価値が出やすい相手先への売却や連携、また、ファッション産業を対象とした他社ブランドへの投資及び価値向上に取り組んでいきたいと考えております。この投資、売却、連携は、当社グループの事業ポートフォリオの入れ替えにとどまらず、業界再編や合従連衡の一翼を担うことでファッション産業の発展に貢献することも目指しております。
また、今後の持続的な成長のためには、従来のブランド開発とは別の収益源が必要であると認識しており、アパレルに留まらないファッション全体の中小規模ブランド事業群に対するデジタルを軸としたソリューションビジネスにチャレンジする方針であります。ファッション領域の拡大やリアルとネットの空間がボーダレス化、不可逆的なデジタルの進化の中、異業種を巻き込んだ活発な投資が想定され、当社グループもデジタル事業の拡大を将来の重要な収益牽引役として期待しております。このデジタル事業の収益を飛躍的に高めるには、当社グループの収益成長に先行して戦略投資を重点的に実行することが有効と判断しております。
そして、これらの一連の戦略指針を着実に実現していくには、財務体質の一段の健全化に加えて、戦略投資にも耐え得る資金調達手段の確保が不可欠であります。加えて、これまでとは異なるステージへスピードをもって成長していくには、外部株主の厳しく規律あるコーポレート・ガバナンスの視点を入れることも有益な手法ではないかと考えております。
ファッション産業を取り巻く業界環境も上記のとおり大きく変化しており、またMBOの目的であるアパレルバリューチェーン上のプラットフォーム構築にもいったん目途が付いた今こそ、今後の当社グループの成長においては、ここまで整備してきたプラットフォーム事業の収益化及びファンド等も活用したポートフォリオマネジメントの適切な運用、デジタル事業などへの先行的な戦略投資を集中的に行う必要があると認識しております。
構造改革プランの完遂で「利益の出易い体質」になったこともあり、一定の環境変化にも対応可能な収益管理体制は強化されたと認識しており、外部株主の高い要求に応えることが継続的に求められる資本市場に身を置く上場企業になることこそが、それを実現できる方法であると考えられ、このことが再上場する理由であります。