有価証券報告書-第116期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/30 15:24
【資料】
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【項目】
100項目

対処すべき課題

以下に記載の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものです。
(1) 経営目標
野村グループでは、社会からの信頼および株主・お客様をはじめとしたステークホルダーの満足度の向上を通じて、企業価値を高めることを経営目標として掲げています。グローバル金融サービス・グループとして国内外のお客様に付加価値の高いソリューションを提供するとともに、当グループに課せられた社会的使命を踏まえて経済の成長や社会の発展に貢献してまいります。また、企業価値の向上にあたっては、経営指標として自己資本利益率(ROE)を用い、ビジネスの持続的な変革を図るものとしています。あわせて、財務健全性の確保および株主価値の持続的な向上についても取り組んでいくことといたします。
(2) 優先すべき喫緊の課題への取組み
足元では、新型コロナウイルスの世界経済や金融市場における影響は甚大です。このような環境下、当社グループの優先課題は大きく変化しており、その影響が明確になる中で、以下の喫緊の課題に取り組んでいます。
・企業の必要な資金の調達や市場での円滑な取引の実現のため、資本市場における仲介機能・流動性供給者としての役割を途切れることなく遂行
・お客様、地域社会、当社役職員とその家族の安全を確保しつつ、経済と企業活動の回復に尽力(グローバルに多くの社員が在宅勤務を行う中で、お客様への非対面でのサービス提供や通常業務を円滑に遂行できる態勢の整備等)
・マーケットが大きく変動しストレスがかかった環境においても、野村グループの強固な財務基盤と十分な流動性を維持
引き続き、これらの課題に対応していくことが重要と認識しています。
(3) 環境変化を見据えた優先課題への取組み
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、お客様の行動変化や新たなニーズが生まれ、実体経済や資本市場の動向等の野村グループを取り巻くビジネス環境も大きく変わっていくと想定しています。また、社員の働き方も変化していきます。こうした環境変化に合わせて、企業価値の持続的向上を目指す成長戦略の策定を進めていく他、当社のオペレーション・モデルの修正を図っていきます。
・企業価値の持続的向上を目指す成長戦略
企業価値向上のためのビジネス戦略として、「パブリック」から「プライベート」への拡大・強化を掲げています。具体的には、まず「商品・サービス」、「顧客基盤」および「お客様との接点」それぞれの領域において更なる拡大・強化を目指します。
① 商品・サービス
従来から強みをもつ上場株式、投資信託等の金融商品に加え、プライベートの領域(プライベート・エクイティ、プライベート・デット、インフラ等の事業性資産を含むオルタナティブ投資)へと提供する商品・サービスの領域を積極的に拡大していきます。同様に、お客様のニーズにあわせ、公募だけでなく私募への取り組みも強化します。
② 顧客基盤
資金調達やM&A等のソリューション提供においては、上場会社に加え、スタートアップ企業(非上場企業)に対しても、更なるビジネス拡大をはかります。さらに、発行体、投資家ともに、新たなお客様はもちろん、既存のお客様に対しても、商品提供だけでなく、コンサルティングやアドバイザリーによるニーズを掘り起こし、新たなサービスの提供を通じて更なるビジネスの拡大に取り組んでいきます。
③ お客様との接点
非対面はもとより従来の対面においてもデジタルの積極的な活用を推進します。各種の情報や商品提供だけではなく、さまざまなコンテンツも含め、お客様一人ひとりのニーズ・ご都合に対応していきます。

「パブリック」から「プライベート」への拡大・強化
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・新たなビジネス環境を見据えたオペレーションの改善
お客様へのアプローチについては、新型コロナウイルスの影響が続いても、お客様の行動変化や新たなニーズ拡大に最大限向き合えるよう、アプローチ方法の多様化(状況に応じて対面、電話、メール、オンラインを選択できる仕組み作り等)を進めます。
また、業務アプローチについては、在宅勤務時を含む、社員の生産性向上に向けた取り組み(ITインフラへの投資、デジタライゼーションの加速等)を継続していきます。
(4) 経営指標
国内でコーポレートガバナンス・コードが導入された後、日本企業においては資本コストを意識した経営の重要性が高まっております。加えて、金融業界においては、金融資本規制の影響下に置かれることから、さらなる資本の有効活用が求められています。そのため、今後、当社にとっては、経営資源の最適配分という観点がより一層重要になるということを鑑み、2021年3月期より、重要な経営指標として自己資本利益率(ROE)を用い、ビジネスの持続的な変革を図ることとしました。ROEは当社株主に帰属する当期純利益を前期末当社株主資本合計および当期末当社株主資本合計の平均で除した値と定義しています。ROEの開示は、企業価値の向上や、投資家の皆さまが当社の経営状況や資本の有効活用状況を把握するためにも有益だと考えています。
ROEの中長期的な目標水準としては、当社に求められる資本コストを意識し、2025年3月期において8~10%の水準を掲げております。しかしながら、ROEは必ずしも財務の健全性を反映するものではないと考えられることから、ROE向上を企図した過度な資本効率の追求を行うことのないよう、財務健全性に十分に配慮した上での企業価値の創造を重視し、ROEの向上に努めております。
野村グループが遵守しなくてはならないグローバル金融規制は複数ありますが、なかでもバーゼル委員会が定める自己資本規制は、当社のビジネスの在り方に、直接影響を及ぼすものです。そのため当社は、普通株式等Tier 1比率(CET 1比率)を11%以上に維持することを掲げています。当社のCET 1比率の詳細と算定方法については、「第2[事業の状況] 3[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析] (6)流動性資金調達と資本の管理」をご参照ください。当社は、先に述べたROEを用いて資本効率を意識した経営を行う一方で、厳しいマーケットストレス等がかかった際のバッファーを含む財務健全性についても考慮しております。上記に述べたような経営指標や経営の基本方針等については、2020年5月に開催された取締役会において深度ある議論が実施されております。
(5) 各部門の課題と取組み
各部門の課題、取組みは以下のとおりです。
[営業部門]
営業部門においては、「お客様の資産の悩みに応えて、お客様を豊かにする」という基本観のもと、多くの人々に必要とされる金融機関を目指しております。今後は、資産承継や老後資金の不足に対する不安など、多様化する資産の悩みに的確に応えるため、パートナーのスキルアップを継続して図るとともに、幅広い商品・サービスの充実に努めます。また、これまで当社をご利用いただいていないお客様にも商品・サービスをお届けするため、オンラインサービスを拡充するとともに、コールセンター等を通じたリモートコンサルティング体制を強化してまいります。
[アセット・マネジメント部門]
投資信託ビジネスにおいては、資産運用に対するニーズの高まりが見込まれる資産形成層やリタイアメント層に焦点をあて、投資家の幅広い投資ニーズに応える多様な投資機会を提供してまいります。投資顧問ビジネスにおいては、国内外の投資家へ付加価値の高い運用商品とサービスを提供することによる顧客基盤の拡大と運用資産の増加を図ってまいります。今後とも、お客様に対して優れた運用成果を提供することに加え、多様化する資産運用ニーズに応えることで、世界の投資家から選ばれる運用会社となることを目指してまいります。
[ホールセール部門]
ホールセール部門においては、お客様のニーズのさらなる高度化やテクノロジーの発展によるマーケットの変化に加えて、新型コロナウイルスなどによる不透明なマーケット環境や景気の低迷などが我々のビジネスに影響を及ぼす可能性があります。引き続きお客様へ高度なサービスと付加価値を提供し続けるために、国内外および他部門との連携を強化し、しっかりとリスクコントロールを行ってまいります。ビジネスの領域を広げるとともに成長の見込まれる分野に効率的に財務リソースを活用していきます。
グローバル・マーケッツでは、今後の景気や市場動向を見据えたポートフォリオの見直しを行い、徹底したリスクコントロールのもとでお客様に流動性の提供を継続してまいります。また、投資家向けストラクチャードビジネスやストラクチャード・ファイナンスといった成長が見込める分野でのビジネスおよび顧客対応を強化するとともに、フロービジネスではデジタライゼーションを推し進めて効率化と差別化に努めてまいります。
一方、インベストメント・バンキングでは、お客様のビジネス活動のグローバル化が継続する中、クロスボーダーM&Aや国内外の市場での資金調達、またそれらの取引に付随する金利・為替ビジネスなどのソリューション・ビジネスの提供に努めてまいります。
[マーチャント・バンキング部門]
マーチャント・バンキング部門においては、事業再編・事業再生・事業承継・MBO等の案件において、多様化・複雑化するお客様のさまざまな課題解決のため、エクイティ等を活用したソリューションを提供しております。お客様からのさらに幅広いソリューションへの期待に応えるため、リスク管理を適切に行いながら、投資先の企業価値向上支援に注力し、プライベート・エクイティ市場の拡大にも貢献してまいります。
[リスク・マネジメント、コンプライアンスなど]
野村グループでは、経営理念に基づき戦略的目標および事業計画の達成のために許容するリスクの種類と水準をリスク・アペタイトとして定めております。その上で、事業戦略に合致し、適切な経営判断に資するリスク管理体制を継続的に拡充していくことにより、財務の健全性確保および企業価値の向上に努めてまいります。
コンプライアンスについては、野村グループがビジネスを展開している各国の法令および規則を遵守するための管理態勢の整備に引き続き取り組むとともに、すべての役職員がより高い倫理観を持って自律的に業務に取り組めるよう社内の制度やルールの見直しを継続的に実施しております。
2019年3月には、東京証券取引所で議論されている上位市場の指定・退出基準に関する情報について、市場の公正性・公平性の観点から不適切な取扱いがあり、同年5月、当社および野村證券は、金融庁より、情報管理にかかる経営管理態勢等につき、業務改善命令を受けました。当社および野村證券では、本件を重く受け止め、組織体制の見直しや規程の整備のほか、法令および規則の遵守のみならず、すべての役職員が社会規範に沿った行動ができるようにするため、野村グループの一員として取るべき行動の指針として「野村グループ行動規範」を策定するとともに、行動規範に基づく適正な行為(コンダクト)を推進する実効的な内部管理態勢の整備を行っております。
また、野村グループでは、2015年より、「野村『創業理念と企業倫理』の日」を定め、毎年、すべての役職員が過去の不祥事からの教訓を再認識し、再発防止と社会およびお客様からの信頼の維持・獲得に向けて決意を新たにすることとしております。この取組みにおいても適正なコンダクトの在り方に関するディスカッション等を行うことで、健全な企業風土の醸成に努めるとともに、役職員一人ひとりが、資本市場に携わるプロフェッショナルとしての高い倫理観を持って行動できるよう、更なる取組みを進めてまいります。
以上のように、経営目標の達成に向け取り組んでまいります。引き続き、金融・資本市場の安定とさらなる拡大および発展に尽力するとともに、より一層、社会に必要とされ、お客様に信頼される金融サービス・グループを目指してまいります。