有価証券報告書-第68期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 9:06
【資料】
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【項目】
167項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2020年6月26日)現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営の基本方針
当社グループは、「人々の求めるエネルギーを不断に提供し、日本と世界の持続可能な発展に貢献する」という企業理念のもとに、公益事業としての使命を果たしつつ、多くのステークホルダーにとって魅力ある安定成長企業となるため、国内においては電力供給の安定性と強靭化の要請に応えつつ、再生可能エネルギーの拡大や化石電源のゼロエミッション化等によるCO2フリーの電力供給の実現を目指していくとともに、海外においては経済発展に伴うエネルギー需要増と気候変動問題への対応の両立に貢献していくことにより、グローバルな事業展開を目指します。また、併せてこれらの取組みを支える事業基盤の強化を図ってまいります。
当社グループは、公正で透明な経営を行うとともに、上記取組みを通じて企業価値の増大を図り、多様なステークホルダーの期待に応えてまいります。
(2) 当社グループを取り巻く経営環境と対処すべき課題
わが国の電気事業においては、国際社会に向けた新たなCO2削減目標の決定、2016年4月から開始された電力小売の全面自由化と卸規制の撤廃、2020年4月からの発送電分離や、新たな市場の創設(2019年7月のベースロード市場や2020年予定の容量市場等)など、事業環境が大きく変化しております。
一方で、長期的には気候変動問題への対応、発展途上国での電力需要の増加やデジタルトランスフォーメーションの進展等により、エネルギー業界は大きな転換期を迎えています。
このような状況のなか、当社グループは、2050年に向けて国内ではCO2フリーの電力供給の実現、海外では経済発展と気候変動問題対応の両立への貢献を目指していく長期的な方向性のもと、更なる成長に向けてグローバルな事業展開に取り組んでまいります。具体的には、中期経営計画(2015年7月31日公表)に基づき以下の重点的な6つの取組みを推進し、事業環境の大きな変化を成長の機会に結び付け、企業価値の向上に努めてまいります。
① 再生可能エネルギーの更なる拡大
当社グループは、設立以来、電力安定供給及びCO2排出削減に大きく貢献する水力発電で大量の電気を生み続けており、今後も長期安定稼働に向けて取り組みつつ、更なる発電電力量の増加(中小水力開発、既設発電所の主要設備一括更新に伴う増出力等)にも取り組んでまいります。
風力発電においては、陸上風力について建設・建設準備中のプロジェクト(くずまき第二、上ノ国第二、南愛媛第二)の着実な推進に加え、引き続き新たな地点の発掘・培養を進めるとともに、既設地点での大型風車へのリプレースにも取り組んでまいります。洋上風力では、北九州市港湾区域や先進地イギリスでの開発案件(響灘洋上風力発電、トライトン・ノール風力発電プロジェクト)への参画により得られた事業ノウハウを活用し、更なる新規開発案件の獲得を目指してまいります。
ベースロード電源である地熱発電についても、建設・建設準備中のプロジェクト(鬼首、安比)の着実な推進に加え、新たな地点の発掘にも取り組んでまいります。
当社グループは、水力発電・風力発電を中心に国内トップクラスの設備出力を有する再生可能エネルギーのトップランナーとして、これらの取組みを通じて更なる規模拡大と事業基盤強化を図ってまいります。
② 化石電源のゼロエミッション化への取組み
世界に広く賦存し安定的なエネルギー資源である石炭を利用し、バランスのとれたエネルギーミックスの実現に貢献していくとともに、石炭利用のゼロエミッション化に挑戦してまいります。
当社グループは、石炭利用のゼロエミッション化に向けて、CO2の分離・回収に優れ、発電用途以外の多目的利用が可能な酸素吹石炭ガス化複合発電(酸素吹IGCC)の商用機開発計画の検討、並びに分離・回収したCO2の利用・貯留(CCUS)などの研究開発に取り組んでまいります。
このような技術開発の一環として、当社グループは、中国電力㈱と共同で設立した大崎クールジェン㈱において、酸素吹IGCC実証事業(第1段階)の実証試験を2017年より進めてまいりましたが、2019年2月に同試験が終了し、基本性能や制御性・運用性等の実証試験目標を達成しました。また、2019年12月にはCO2分離・回収型酸素吹IGCC実証事業(第2段階)の実証試験を開始したほか、同年3月にはこれらに燃料電池を組み込んだ、CO2分離回収型の石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証事業(第3段階)にも着手しております。
なお、第2段階の実証試験で分離・回収したCO2を用いたカーボンリサイクルについても、中国電力㈱と共同で検討(農業利用等)を進めているほか、培った石炭ガス化技術を活かしてCO2フリーの水素サプライチェーン構築の日豪共同の実証試験にも参画しております。
③ 安全を大前提とした大間原子力計画の推進
当社グループは、青森県下北郡大間町にて、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使用する大間原子力発電所(出力138.3万kW、運転開始時期未定)の建設を進めております。
同発電所は、エネルギー安定供給を支えるベースロード電源の確保と、気候変動問題対応の社会的要請に応えるとともに、プルトニウム利用による原子燃料サイクルの中核を担う重要なプロジェクトとして、一層の安全性の向上を不断に追求してまいります。また、引き続き地域の皆様にご理解・ご信頼を頂けるように、より丁寧な情報発信・双方向コミュニケーションに努めながら、着実な推進を図ってまいります。
2014年12月16日、原子力発電所に係る新規制基準への適合性審査を受けるため、原子力規制委員会に対し、原子炉設置変更許可申請書及び工事計画認可申請書を提出いたしました。現在、当社グループは、原子力規制委員会の適合性審査に真摯かつ適切に対応しており、引き続き必要な安全対策などを着実に実施することで、早期の建設工事本格再開を目指してまいります。
④ 海外発電事業での新たな展開
当社グループは、2000年より本格的に海外での発電事業に参画し、2010年以降は主に火力発電の新規開発により規模及び収益を拡大してまいりました。一方で、各国の新たな電源の開発ニーズは多様化しており、また、自由化や再生可能エネルギーの導入が進展する国では電気事業の構造変化が進行しつつあります。
現在当社グループは、インドネシアと米国で火力電源(セントラルジャワ石炭火力発電所、ジャクソン火力発電所)の開発を進めておりますが、こうした事業環境の変化に対応して、イギリスで建設中のトライトン・ノール風力発電プロジェクトや米国での大規模太陽光発電プロジェクトといった再生可能エネルギーの新規開発にも取り組んでまいります。加えて、電気事業の構造変化が進展していく国では、発電事業以外の電気事業についても取組みを検討してまいります。
⑤ 分散型エネルギーサービスへの取組み
気候変動問題の対応に向けて、大規模電源のゼロエミッション化と並行して、今後、太陽光発電等の再生可能エネルギーを軸に電源の分散化が進展していく見込みです。これにより新たな分散型のエネルギーサービスが普及・拡大していくことを見据え、当社グループの新たな事業分野として取り組んでまいります。
具体的には、当社グループはパートナー企業と協同して電力の小売販売事業を実施しておりますが、グリーン電力の小売供給やバーチャル・パワープラント(VPP)事業等による新たな付加価値の創出にも取り組んでいます。今後、パートナー企業とも連携してこうした取組みを更に発展させていくことにより、分散化の進展に対応した新たなビジネス機会を追求してまいります。
加えて、これまで取組みを進めてきたスタートアップ企業とのネットワーク拡大を通じた新事業の創出においても、様々な分散型サービス提供の可能性を探求してまいります。
⑥ 収益基盤の強化・財務規律及び人財戦略
収益基盤の一層の強化のために、現在国内で建設中の竹原火力発電所新1号機及び鹿島火力発電所2号機、また、海外で建設中のセントラルジャワ石炭火力発電所やジャクソン火力発電所の着実な遂行を図ってまいります。
運転中の発電所につきましては、火力発電所の保守・運営の現在の保守子会社への集約、風力発電所の保守・運営の水力・送変電設備の保守子会社への移管により、当社グループとしての実施体制の変革による競争力の一層の強化を図ってまいります。
電力販売においては、今後卸電力市場向けの販売電力量の増加が予想されることを踏まえて、販売方法の多様化を図ることにより、収益向上と安定化を図ってまいります。
送電事業については、2020年4月1日に当社より100%出資子会社である電源開発送変電ネットワーク㈱に承継しております。今後は同社を通じて、設備信頼性の維持・向上に取り組み、佐久間周波数変換設備及び関連設備の増強とともに、安定供給やレジリエンス強化、さらには広域的な電力ネットワーク整備に努めてまいります。
財務規律においては、財務健全性を保つために一定の範囲内で有利子負債を活用していく方針としており、また、投資決定にあたっては、案件毎に社内で定める収益率の基準をもとに審査を実施し、投資実施後は定期的なモニタリングによる事後チェックを実施することとしています。
これらの取組みを支える人財戦略では、多様な個性や世代、異なる価値観を持つ従業員の活躍を促進してまいります。具体的には、国内外での事業拡大を支える能力・個性を持つ人財育成・獲得と成長分野へのローテーション、自発的な学びを支援する公募制度、多様な働き方の実現、安全な職場環境の整備や健康経営の推進に取り組んでまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な経営指標として、以下を採用しております。
○成長性指標:『J-POWER EBITDA=営業利益+減価償却費+持分法投資損益』
継続的に大規模な電源開発を進める当社グループにとっては、設備投資の回収を踏まえた収益力の大きさが成長を表すこと、また持分法投資による収益貢献も大きいことから、EBITDA(営業利益+減価償却費)に持分法投資損益を加えたJ-POWER EBITDAを成長性指標として採用しております。
○健全性指標:『有利子負債÷J-POWER EBITDA』
今後も成長に向けた設備形成のための投資を行う当社グループとしては、有利子負債とキャッシュ・フローのバランスを重視し、財務健全性に留意しながら成長を目指す必要があることから、有利子負債÷J-POWER EBITDAを健全性指標として採用しております。