有価証券報告書-第25期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/22 15:22
【資料】
PDFをみる
【項目】
108項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
1. 経営の基本方針
当社グループは、情報技術の力で全ての人に無限の可能性を提供する「UPDATE THE WORLD」をミッションに掲げ、『人類は、「自由自在」になれる』というビジョンの実現を目指しています。
情報技術の発展により、人々はインターネットを介してあらゆる知識・情報の取得と、世界中に向けた情報発信が可能になりました。今後も人々は情報技術の活用によって様々な制約から解放されるとともに、新たな未来を創っていくと当社グループは考えます。
常にユーザーファーストの視点を貫き持続的成長に向けたサービスの向上に努め、人々や社会の課題を解決することに貢献し、当社グループの企業価値向上を目指します。
2. 目標とする経営指標
当社グループは主要財務指標として、全社の売上収益、営業利益、1株当たり当期利益を重視しています。サービス毎の指標として、コマース事業ではeコマース取扱高、クレジットカード取扱高、「PayPay」決済回数等を設定しています。メディア事業では広告関連売上収益、月間ログインユーザーID数、スマートフォンログインユーザー利用時間等を指標としています。
3. 中長期的な会社の経営戦略
(1)経営環境
近年、情報技術が発達し社会のあらゆる領域でオンラインとオフラインの境目は急速に失われています。インターネットの可能性が飛躍的に広がった結果、従来では考えつかなかった新しい事業モデルや生活スタイルが生み出されています。
加えて、オンラインとオフラインの融合により、ビッグデータの価値が加速度的に高まっています。日本政府が提唱する「Society5.0」にあるとおり、データを用いて経済発展と社会課題の解決を両立するサービスや事業を創り出す企業が求められています。
(2)市場環境
世界中でキャッシュレスやIoT、ビッグデータ等、インターネットを介し、革新的で高い利便性を持つサービスが次々と生み出され、生活の新しいスタンダードになりつつあります。加えて、海外のIT企業が日本に進出し、その存在感は年々高まっています。他方、国内でもベンチャー企業が次々と現れており、激しい競争が続くインターネット市場では今後もめまぐるしい環境変化が予想されます。
当社グループの展開する事業はコマース事業とメディア事業に大別されます。コマース事業では、経済産業省の調査によると、2018年のBtoC-EC市場規模は18.0兆円、物販系分野におけるEC化率は、6.22%となりました。日本のEC化率は年々右肩上がりに上昇しており、さらなる上昇余地があると考えられます。特に新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う外出自粛要請を契機にeコマースの利用が拡大し、日本のEC化率がさらに上昇することが予想されます。今後の拡大が期待されるキャッシュレス決済の領域に関しては、経済産業省のキャッシュレス・ビジョン「支払い方改革宣言」において、日本のキャッシュレス決済比率は約2割と海外に比べて低い水準にあることから、2025年にキャッシュレス決済比率を4割にまで引き上げることを目標としています。このようにコマース事業の市場は拡大するとともに、ビッグデータやテクノロジーの活用、モバイルペイメントといった決済手段により、オンラインとオフラインの融合が進むことが予想されます。
また、当社グループが創業期から事業を展開しているメディア事業では、(株)電通の発表によると、2019年における日本の総広告費は通年で6兆9,381億円となりました。そのうちインターネット広告費は、テレビメディア広告費を上回り、初めて2兆円を超える2兆1,048億円となりました。そこから「インターネット広告制作費」および「物販系ECプラットフォーム広告費」を除いた「インターネット広告媒体費」は、1兆 6,630億円と成長を続けています。広告種別では、検索連動型広告とディスプレイ広告の2種で全体の約7割を超え、ビデオ(動画)広告は前年から大きく伸長し全体の約2割を占めました。
(3)経営戦略
日本に住む人々を最も理解し、最高の体験を提供することで社会課題を解決し、未来を創り出すための中核となるのが「マルチビッグデータの横断利活用」です。2018年度から「第三の創業期」と位置付け、マルチビッグデータを活かした事業モデルを展開する「データドリブンカンパニー」への変革を目指し、積極的に成長投資を行ってきました。
当社グループは、コマースとメディアという異なる事業領域において、eコマース、メディア、決済を中心とした100を超えるサービスを展開しています。オンラインからオフラインまで一気通貫でサービスを提供する、世界的にもユニークな企業グループです。当社グループの提供する多様なサービスから得られる豊富なデータは、当社グループならではのサービスを創り出すための重要な競争優位性となります。各サービスから得られるデータを横断的に活用することで、利用者一人ひとりに最適化されたサービスを提供し、さらに質の高い利用者体験の提供を目指します。
その実現に向けた施策の1つが、ソフトバンク(株)との連携強化です。従来からeコマースやモバイルペイメント事業等の分野で事業連携を進めてきましたが、2019年6月に当社グループはソフトバンク(株)の連結子会社になりました。世界的にも類を見ない規模の「情報通信グループ」として、両者の多様なサービス群と国内最大級の顧客基盤、およびそこから得られる膨大な量と種類のマルチビッグデータを活用し、さらなる成長と企業価値の向上を目指します。
さらに、この取り組みを強力に推進し日本・アジアを代表する企業グループになるべく、当社グループはLINE(株)と経営統合に向けた最終合意を締結しました。経営統合完了後は国内最大級のコミュニケーションサービスであるLINE(株)の月間利用者8,300万人という利用者基盤を活かし、eコマース、メディア、決済の各事業でシナジー創出に向け取り組みます。
また、このように多様なサービス・グループ会社を展開する経営を進めることは、安定的な収益創出にもつながります。新型コロナウイルスの感染拡大など有事の際でも収益源やビジネスモデルが多様性に富むことで影響を分散化できるため、経営基盤の安定に寄与すると考えています。
これらの競争優位性や強みを活かし、利用者のニーズに合致したより質の高いサービスから、新たな利用者体験を創り出していきます。こうした取り組みを通じ、2023年度に過去最高益となる営業利益2,250億円の達成を営業利益見通しとして掲げています。
豊富なデータ量と多様性あふれるデータ資産を持ち合わせた国内最大級のデータ所有者として、その能力を最大限に引き出し、日本全体の価値を向上させる企業を目指します。
(4)主要セグメントの基本方針
コマース事業
コマース事業では、eコマース関連サービスや会員向けサービス、決済金融関連サービス等を提供しています。ソフトバンク連携のポイント還元が奏功し、ショッピング事業取扱高が4年連続で20%以上の高い成長率を維持しています。2019年度には「プレミアムなオンラインショッピングモール」をコンセプトとする「PayPayモール」、およびフリマ領域への進出となる「PayPayフリマ」をリリースしました。これまで成長をけん引してきたソフトバンク会員に加え、「PayPay」利用者へのプロモーションを実施し、eコマース取扱高の持続的な成長を実現してまいります。加えて、(株)ZOZOが2019年11月から連結子会社に加わりました。ファッション領域の強化に留まらず、双方の複数の事業でシナジー効果を生み出せるよう取り組んでまいります。また、PayPay(株)との連携により、「PayPay」を起点とする決済を中心としたオフライン上での生活における様々なデータの蓄積と残高拡大により、O2O(Online to Offline / 送客)ビジネスや金融サービス等、多様な収益事業へと成長させてまいります。
メディア事業
メディア事業では、日常に欠かせない多様なメディアサービスを提供することで多くの利用者を集め、広告により収益を上げています。特に新型コロナウイルスの感染拡大のような有事の際には、求められている情報やサービスを適切かつ迅速に提供することが重要です。我々が創業以来掲げてきた「ユーザーファースト」の理念に基づき、本当に必要とされるサービスを提供することがメディアとしての信頼性を高め、結果として中長期的なユーザー数の拡大、ひいては広告売上収益の拡大につながると考えています。
サービス利用に関する重要指標である月間ログインユーザーID数は順調に拡大を続け、2019年度に初めて5,000万IDを超えました。サービス利用の結果蓄積されるデータを活用することで、より深く利用者を理解し、最適なサービスの提供を通じ、利用頻度の増加を目指します。加えて、オフラインへの進出を新たなチャンスと捉え、オフライン上の利用者の生活も便利にする取り組みを進めています。「PayPay」によるオフライン決済のデータを活用することで、「認知」から「購買」までを一気通貫で可視化することにより、将来的に販促市場も開拓すべく、取り組んでいます。
4. 優先的に対処すべき課題
3.(3)の経営戦略を実行するにあたり、当社グループでは、常にユーザーファーストの視点を貫き持続的成長に向けたサービスの向上のため、個人情報の保護を筆頭にセキュリティの強化を最優先に取り組んでいます。マルチビッグデータの横断利活用を進める上で、最も大切な基本姿勢は利用者の方のプライバシーを尊重することと考えています。プライバシーポリシーを策定した上で、日本国の法令に基づいて運用しています。今後も当社グループが提供するサービスを利用者が安全にかつ安心してご利用いただけるよう対策を講じていきます。
インターネットは生活やビジネスに欠かせないインフラであり、その中で当社グループの担う公共的な責任も増しているため、突発的な事故や自然災害等に対する施設面・業務面でのリスクマネジメントの徹底に努めています。特に、当社グループはコーポレートガバナンスを「中長期的な企業価値の増大」を図るために必要不可欠な機能と位置付けています。少数株主を含む全株主の利益に適う経営が実現できるようガバナンス体制の強化に努めてまいります。また、企業の社会的責任を果たすための取り組みや、企業経営のリスクに対応するための内部統制システムの構築および運用についても、さらに強化していきます。
加えて、当社グループの価値創造の源泉である人財のパフォーマンス最大化も重要な課題です。そのため、仕事に対する社員の意識や仕事の質のスタンダードを向上させていく仕組み・制度の整備を進めています。また、働く社員の心身のコンディションを最高の状態にすることがパフォーマンスの最大化につながると考え、全ての社員が心身ともに最高の状態で仕事に向き合えるような環境整備にも継続して取り組んでいます。