訂正有価証券届出書(新規公開時)

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2015/06/05 10:22
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対処すべき課題

当社は、日本が誇る優れた技術をもって難治性疾患を罹患された方々に新しい治療法を提供するべく、「iPSC再生医薬品分野」と「化合物医薬品分野」のそれぞれにおいて研究開発を進めております。特に中核領域と位置づけているiPS細胞技術によるiPSC再生医薬品に関してはこれまでの医薬品産業と全く異なる新しい産業として成長する可能性があり、かつ、これまで治療が不可能だった多くの疾患への適用が可能であると判断しており、先進国において進む高齢化とともに増加する慢性疾患の一部に対してもiPSC再生医薬品の適用が進んでいくと考えております。
当社はそうしたiPSC再生医薬品分野における開発に注力しますが、iPSC再生医薬品の開発が長期に亘ることを勘案し、iPSC再生医薬品と関連性の高い化合物医薬品分野においても一定の規模で研究・開発を行っていくこととしております。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)既存パイプラインの臨床試験の推進について
① 臨床試験に関するレギュレーションについて
日本において医薬品が製造販売承認を得るためには、(i)治験薬GMPに基づく、ヒトに投与可能な治験薬の準備、(ii)GCP省令に基づく、新薬のヒトにおける有効性と安全性を確認するための臨床試験、並びに、(iii)医薬品GMPに基づく、製造販売承認を得た後に医薬品の製造及び品質を適切に管理できる体制の具備といった要件を充足する必要があります(但し、再生医療等製品に関しては、改正薬事法に基づく条件付承認の制度が認められました。この点に関しては、併せて「③ iPS細胞由来RPE細胞懸濁液又はシートの臨床試験の推進について」をご参照ください。)。
通常の場合、臨床試験を開始する前に、創薬の段階において開発対象(適応症)を決定し、3年から5年程度を費やして前臨床試験(薬効薬理試験や薬物動態試験、安全性薬理試験、毒性試験)を実施します。このため化合物医薬品や細胞医薬品のいずれにしても、開発を始めてからヒトへの有効性・安全性の確認を行う臨床試験を開始できるまでに5年から8年という長い年月が必要となります。
また、ヒトに投与する臨床試験を実施するためには、治験薬GMPに基づいて製造された治験薬を使う必要がありますが、前臨床試験と同時並行で準備を進めることは可能であるものの、治験薬を使用するまでに通常3年以上の準備期間が必要となります。
さらに、治験においては、第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、そののちに第Ⅲ相試験という順番で段階を踏んで、安全性及び有効性を確認していく必要があります。これらの試験には、早くても3年、長い場合には7年以上の年月が必要となります。
また、米国又は欧州において製造・販売を行う場合には、各国の薬事制度に別途それぞれ対応することが必要となります。
② HLM0021(日本向け眼科手術補助剤(硝子体手術))、HLM0023(米国向け眼科手術補助剤)の臨床試験の推進について
HLM0021の主成分は、平成22年に欧州のCEマーキング適合製品として有効性・安全性の確認を得て製造販売が行われているHLM0022の主成分と同じ化合物BBG250であります。このため、(ⅰ)国内でHLM0022の製剤を用いて第Ⅲ相試験を実施すること、(ⅱ)医薬品GMPに基づく原薬及び製剤を製造する体制を確立し、原薬及び製剤について安定性試験を実施すること、並びに、(ⅲ)第Ⅲ相試験で得られた臨床試験の成績と今まで欧州で用いられた安全性に関する成績を比較した結果、医薬品GMPに基づき製造された製剤の品質がHLM0022の品質と同様であることについての適切な説明を申請資料中に記載することの3つの条件を満たすことによって製造販売承認の申請が行われる予定です。
このため、当社は、現在、わかもと製薬による製造販売承認申請に向けて、医薬品GMPに基づく製造管理及び品質管理の基準に則った原薬の製造及び製剤化のプロセスの確立、並びに、かかる製剤での適切な安定性試験の実施を計画しております。なお、HLM0022(欧州向け)の製剤を用いたHLM0021のための第Ⅲ相試験は、九州大学が中心となった医師主導治験で実施され、平成26年10月には、硝子体手術時の内境界膜の可視化に有効であり、手術の容易性が向上することが確認され、また、臨床的に重要な安全性の問題は認められなかった、との結果が得られております。
以上を前提に、当社としては、当社委託先による医薬品GMPに合致した原薬及び製剤の1年間分の安定性試験のデータが得られると見込まれる平成29年第1四半期頃に製造販売承認申請が可能になると見込んでおります。但し、「4 事業等のリスク」に記載のとおり、製品開発に際しては様々なリスクが伴うため、当社として上記の予定時期を保証できるものではありません。また、実際の開発はわかもと製薬の判断によって行われることになります。このため、当社として現段階で製造販売承認申請の具体的な時期又はわかもと製薬による最終的な製造販売承認の取得を保証することはできません。
次に、HLM0023(米国向け)は、米国においても日本同様に医薬品と区分され、医薬品GMPに対応する米国のcGMPに則った製剤を用いての治験の実施等につき、DORC社が米国FDAとの協議を行っております。
もっとも、米国における治験の具体的な開始時期等及び製造販売承認の申請時期は、現在検討中の製造法が確定した時点で、実際の開発を行うDORC社によって最終的に決定されます。また、「4 事業等のリスク」に記載のとおり、製品開発に際しては様々なリスクが伴います。このため、当社として現段階で今後の開発スケジュールを明言し、又はDORC社による最終的な製造販売承認の取得を保証することはできません。
なお、当社は、現在、日本国内においてHLM0021(白内障手術)についてのライセンス先の選定を行っており、今後ライセンス先による治験、製造販売承認の取得を目指す予定であります。但し、現時点で具体的なライセンス先は決定しておらず、また、実際の開発はライセンス先の判断によって行われることになります。加えて、「4 事業等のリスク」に記載のとおり、製品開発に際しては様々なリスクが伴います。このため、当社として現段階で今後の開発スケジュールを明言し、又はライセンス先による最終的な製造販売承認の取得を保証することはできません。
③ iPS細胞由来RPE細胞懸濁液又はシートの臨床試験の推進について
日本国内におけるiPS細胞由来RPE細胞懸濁液又はシートの臨床試験については、改正薬事法に基づき、従来の医薬品、医療機器という薬事区分に加えて、再生医療等製品という新しい薬事区分が設定されております。この再生医療等製品については、早期に罹患者の皆様にその製品を届けることを可能にすべく、条件付承認の制度が新設されております。条件付承認の制度とは、従来のように、治験により有効性及び安全性の両方の確認を行った上で製造販売承認を与えるのではなく、治験によって有効性の推定及び安全性の確認を行った上で条件・期限を付した承認を与え、市販後に有効性とさらなる安全性を検証し、再度承認申請を行って本承認を与えることにより、再生医療等製品の早期の実用化を可能とする制度であります。当社は、この条件付承認を取得すべく注力しておりますが、特に以下の2つの課題が重要だと考えております。
第一に、条件付承認制度を利用した場合、当初はヒトにおける有効性を確認できるまでのデータの収集を要求されず、有効性を推定できる臨床成績が得られれば、製造販売承認申請が可能となったため、従来より早期に申請をすることが可能となりました。そこで、治験薬の製造時には、承認申請を見据えた製造管理及び品質管理に関する新たな基準であるGCTP省令に対応(準拠)しておく必要があります。このため、当社は、治験薬の製造時点までに適切な基準に対応した設備及び組織体制を準備できるよう研究開発を進めております。
第二に、改正薬事法に関連した諸規制の改正に今後速やかに対応していく必要があります。iPSC再生医薬品分野においては、まず改正薬事法の施行に伴って「再生医療等製品の臨床試験の実施の基準に関する省令」が施行されており、iPSC再生医薬品の臨床試験に際してはかかる基準に対応する必要があります。また、細胞を製造するにあたっては、生物由来原料基準に適合した原料を用いたiPS細胞由来RPE細胞懸濁液又はシートを製造する必要があるため、生物由来原料基準に関する近時及び今後の改正に照らして、使用する原材料が適合しているか継続的に確認する必要が生じております。また、適応していない原材料があった場合には、PMDAとの協議が必要となります。さらに、「同種iPS細胞由来網膜色素上皮細胞に関する評価指標」が平成26年9月12日に薬食機発0912第2号として発出されています。この新しい評価指標に対応することも重要な課題の1つと考えております。これに関しましても、適切に情報を収集し、現在及び将来の評価指標に照らして問題が発生しないよう開発を進めてまいります。
一方、米国及び欧州では、日本のように条件付承認制度は設けられておりません。このため、当社は、米国における前臨床試験を継続し、日本においてRPE細胞製品の条件付承認を取得した後に、追加の資金調達を行ったうえで欧米における前臨床試験を完了させ、続いて第Ⅰ相/第Ⅱ相試験を開始し、安全性と有効性の確認をしていくことになります。当社は、米国及び欧州の規制当局とは適切にコミュニケーションをとりながら、遅滞なく開発を進めていくことにしております。なお、米国における製造に関しては、米国内のCMOに委託することにより、米国内でのiPS細胞の樹立、RPE細胞の作製、米国内の医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準に対応した細胞医薬品の製造までの一連の業務を、米国の薬事法に基づき適切に進めることが可能であると考えております。欧州につきましては、基本的に米国で得られたデータを治験手続に使用することが可能であるため、まずは米国における前臨床試験を進めることが肝要であると考えております。
以上のとおり、当社は、これらのiPSC再生医薬品について臨床試験に向けた取組みを行っております。もっとも、日本の改正薬事法に基づく条件付承認制度を活用した治験手続については未だ運用実績がないことから明らかでない点も多い状況であります。また、「4 事業等のリスク」に記載のとおり、製品開発に際しては様々なリスクが伴うため、当社としてこれらのiPSC再生医薬品に関する製造販売承認の取得を保証できるものではありません。また、かかる治療法は、現在のところ前臨床試験を実施している段階にあり、未だ臨床試験も開始されておらず、ヒトに対する有効性及び安全性が確認されておりません。さらに条件付承認の条件が解除されるまで、又は欧米において承認を取得するまでに現時点から10年以上の期間を要する可能性もあり、今後開発の失敗や遅延のリスクも低くはありません。
(2)研究開発体制及び開発におけるアライアンス体制の強化について
医薬品の開発には、多額の資金と長期に亘る研究開発活動が必要となります。また、研究開発活動が当初の計画どおりに進む保証はなく、開発品の製造販売承認取得、上市までには、様々な不確実性が存在します。
そのため、当社では、優秀な人材を積極的に採用し、効率的に研究成果をあげることができるような組織的な研究開発体制の構築を図ってまいります。
また、研究開発活動における不確実性を低減させるために、他企業との業務提携等についても、引き続き積極的に推進することにより、他社が保有する各分野の強みを当社の研究開発活動等に効果的に活用してまいります。
(3)製品パイプラインの拡充について
iPS細胞由来のRPE細胞移植治療法は、網膜変性疾患に罹患していない状態の細胞を罹患者に移植するため、加齢黄斑変性を含む網膜変性疾患一般に適応するものと考えられます。このため、加齢黄斑変性を適応症とした製造販売承認が得られた後は、他の疾患にその適応症を拡大して行く予定であります。
さらに、iPS細胞技術は、様々な再生医療への応用可能性を有していると考えられるため、当社としては、将来的に、眼疾患の領域に加えて、アンメットメディカルニーズの高い他の領域におけるパイプライン拡充にも積極的に取り組んでいく予定です。
なお、パイプライン拡充に向けた具体的な取組みの一例として、当社は、横浜市立大学との間で平成26年10月24日付で特許実施許諾契約書を締結しており、これに伴い、ヒト臓器の再生に関する基礎研究を開始しております。横浜市立大学から導入した技術は、iPS細胞から作製された肝細胞・腎細胞・膵細胞などに分化する前の前駆細胞(臓器の細胞)を、細胞同士をつなぐ働きなどを持つ間葉系幹細胞と血管を作り出す血管内皮細胞に混合して培養することで、血管構造を持つ立体的な臓器の原基(臓器の種)を形成できる技術であり、当社は、これに関する基礎研究を行うことで、将来的には肝臓・腎臓・膵臓等の臓器の機能回復などを目的としたパイプライン拡充を模索しております。
これに対して、化合物医薬品分野の開発品についてですが、当社はBBG250を含有する眼科手術補助剤に関して、DORC社に対して日本以外の全世界向けの独占的サブライセンスを付与しており、また、わかもと製薬に対して日本向けの内境界膜を含む後眼部(網膜等、目の奥に当たる部分)についてのサブライセンスを付与しております。今後、DORC社は米国その他の国において、わかもと製薬は日本において、製造販売承認の取得を目指す予定であります。
加えて、当社は、今後、日本国内における白内障手術についてもライセンスアウト(第三者へのサブライセンス付与)を検討し、かかる適応症に関しても今後サブライセンス先による治験、製造販売承認の取得を目指す予定であります。
当社は、今後もiPSC再生医薬品分野を中核領域としつつ、化合物医薬品分野についてもiPSC再生医薬品分野との関連性が期待できる分野などにおいてパイプラインの拡充を推進してまいります。
(4)事業体制の確立について
当社は、研究開発型企業としてだけではなく、製薬企業として研究開発から製造販売承認の取得、製造・販売までの全てを当社、サイレジェン及び提携企業によってカバーする体制の確立を目指しております。
特にiPSC再生医薬品分野の事業体制の確立のためには、医薬品の製造技術、細胞の培養技術、医療全般に関する深い知見が必要になると考えており、そのためには幅広い要素技術が必要になると判断しております。
こうした判断に基づき、当社は、国内におけるiPS細胞由来RPE細胞懸濁液の開発については、京都大学iPS細胞研究所からiPS細胞の親株の提供を受け、その後の培養(分化誘導)、製剤化といった製造に関しては、大日本住友製薬と当社の合弁会社であるサイレジェンにこれを委託することを予定しております。
加えて、当社は、さらなる製造の安定化・効率化を目指して自ら製造に必要な作業の標準化などを進めており、さらに大阪大学、ニコン及び澁谷工業と共同してコストの削減のために重要と考える自動培養装置の開発を進めております。また、製造販売承認を得た後は、当社が医療機関への販売を行い、各医療機関が罹患者への施術・投与を行うことを予定しております。なお、各医療機関への販売促進活動等は当社からの委託に基づきサイレジェンが行うことを予定しております。
当社は、今後も研究開発を行うのみならず、iPSC再生医薬品について製造販売承認の取得、製造・販売までを当社、サイレジェン、提携企業において一貫して行う体制の構築を進めてまいります。
(5)海外展開について
当社は、当社の開発するiPSC再生医薬品が、国内のみならず、世界各国の難治性疾患の罹患者の方々にとって需要のあるものと考えております。
そのため、当社は、海外展開も視野に入れて、これまでに米国におけるCMOの選定を完了し、当該CMOへの技術移管に着手しており、米国の規制当局とも事前相談を開始しております。海外展開に関しては、前臨床試験を継続し、日本においてRPE細胞製品の条件付承認を取得した後に、追加の資金調達を行ったうえで、治験の推進、製造体制の構築、販売体制の構築など米国及び欧州市場への進出を進めてまいります。
(6)iPSC再生医薬品分野における眼科以外の領域の基礎研究の充実について
iPSC再生医薬品分野においては、様々な研究機関から研究結果が公表されるなど研究開発の裾野が広がっています。当社は、そうした研究結果の実用化に向けてシーズ(実用化に繋がる可能性のある技術・ノウハウ)の拡充及び関連する基礎研究にも注力していく方針であり、平成26年10月には、横浜市立大学からヒト臓器に関するシーズの導入を行っております。当社は、今後様々な臓器を形作るプラットフォーム技術として肝臓、腎臓及び膵臓といった臓器を視野に入れて侵襲の少ない治療法の開発を進めてまいります。
なお、実用化に際しては、健康な機能を持つ細胞を分化誘導して、細胞機能が損なわれた箇所に移植するというiPSC再生医薬品の特徴から、第一に特に移植可能な臓器が不足しているアンメットメディカルニーズの高い領域への対応が重要と考えております。即ち、iPSC再生医薬品の移植を臓器の移植と捉えた場合、iPSC再生医薬品の開発は、移植可能な臓器の種類・数量を増やすことだけでなく、当該臓器を安全に移植する技術・薬剤などの開発をも伴うものであるため、実際に治療行為を行う医師の立場から医療の現状に関する十分な知見を持って研究開発を進めるとともに、常に医療現場との連携を念頭に置くことが必要になってくると判断しております。このため、当社が現在iPSC再生医薬品の開発を進める眼科以外の領域についても、当社の代表取締役社長である鍵本忠尚や事業開発領域管掌常務取締役である澤田昌典らの医師としての知見を最大限に活用しつつ、従来の化合物医薬品や抗体医薬品によって根治することができない、細胞の移植を検討せざるを得ない領域などを優先して実用化のために基礎研究を進めてまいります。