有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/11/08 15:00
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【項目】
90項目

対処すべき課題

ここに記載した将来に関する事項は、本書提出日現在において入手可能な情報に基づいて当社グループが判断したものであり、当該将来に関する事項については、その達成を保証するものではありません。
(1) 会社の経営方針
当社グループは、「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションを掲げ、医療ヘルスケア領域において社会の実需に対応した事業を展開しております。インターネット等の技術を活用して医療ヘルスケア領域のデジタルトランスフォーメーションを推進し、患者と医療従事者の双方にとって納得できる医療を実現することを目指しております。
(2) 経営戦略及び経営上の目標達成状況を判断するための経営指標等
当社グループは、顧客への提供価値、すなわち当社グループの売上高の最大化が長期フリーキャッシュ・フローの最大化ひいては企業価値向上につながると考え、売上高を重要な経営指標と位置づけて各経営課題に取り組んでおります。具体的には、売上高を「顧客事業所数」×「ARPU(注1)」と捉え、高い売上高成長率の継続に向けて顧客ストック型の事業を中心とした事業展開を行うとともに、「顧客数の最大化」と、「ARPUの継続改善のためのプロダクトラインナップ強化」に取り組んでまいります。これらを達成するために、継続的な顧客獲得に加え、当社グループの顧客によるサービス利用率の向上や、サービスの機能拡張のために必要な成長投資を可能な限り行っていくことを経営戦略としております。現時点では、当社グループにおける188名(連結)の正社員従業員のうち、48名(連結)がエンジニア及びデザイナーとなっており、その構成比率は25.5%となっておりますが、この比率を向上させてプロダクトラインナップ強化のための組織基盤をさらに充実させることを目指し、エンジニア採用にも積極的な投資を行っていく方針です。
(注) 1.ARPU(Average Revenue Per User)とは、当社グループの顧客事業所当たりの売上額を指します。
(3) 経営環境及び市場戦略
当社グループの事業が対象とする市場は、医療ヘルスケア領域の人材市場及び医療システム市場です。当社グループは、医療ヘルスケア領域の人材市場の市場規模を約3,000億円(注2)、医療システム市場の市場規模を約4,500億円(注3)と推計しております。それぞれの市場規模は巨大ですが、一般産業界における人材市場やシステム市場と比較すると、顧客の事業規模が小さいことから顧客当たりの売上が低単価となる傾向にあります。
そこで当社グループでは、このような市場環境下において多数の顧客基盤を獲得するため、人材プラットフォーム事業において低単価な人材採用システム「ジョブメドレー」を提供することにより、顧客事業所数及び医療ヘルスケア領域の労働従事者会員数の拡大に取り組んでまいりました。今後もかかるコストリーダーシップ戦略を継続し、顧客基盤の強化を図ってまいります。
さらに、当社グループでは、ジョブメドレーの提供を経て獲得した業界最大級の17.5万事業所(注4)の顧客基盤を活用する形で、医療プラットフォーム事業の展開を行っております。医療システム市場においては、業界特性としてオンプレミス型のシステムが未だに多く利用されている状況ですが、医療機関の業務を効率化し、医療情報の利活用を促進して患者の負担軽減を実現するためには、医療機関内に閉じたオンプレミス型システムをクラウド型の開かれたシステムに置き換えていくことが非常に重要であると考えております。近年では規制緩和等を背景に医療システムのクラウド型への移行が進んでおり、クラウド型の医療システム市場は拡大が見込まれておりますが、当社グループはジョブメドレーの顧客基盤を活用し、病院、診療所、歯科診療所及び調剤薬局等の事業所に向けて様々なラインナップのSaaSを自社サービス、他社連携サービスとして提供していくことを戦略としています。
また、当社グループでは医療ヘルスケア領域における技術のオープン化や情報の活用を推進するため、医療ヘルスケア領域の企業に対して出資、プロダクト開発支援、マーケティング支援、コンプライアンス体制構築支援等の幅広い支援を行っていく「MEDLEY DRIVE」プロジェクトを2018年11月より推進しております。MEDLEY DRIVEプロジェクトの第1号案件として、2019年3月には日本医師会標準レセプトソフト「ORCA」の開発を長年担ってきた株式会社ネットワーク応用通信研究所から、ORCA開発チームを会社分割により分社化した株式会社NaClメディカルを完全子会社化しました。当社グループは、今後もMEDLEY DRIVEプロジェクトを通じて当社グループの事業基盤を強化してまいります。
さらに当社グループは、医療情報提供サービス「MEDLEY」等の患者向けサービスを提供していくことで、医療ヘルスケア領域の顧客事業所と患者の双方にアクセスを持つことをその戦略としております。かかる戦略の下で、医療ヘルスケアに関するデータの利活用を促進させ、医療に対する患者の様々なハードルを下げ、「患者が医療を使いこなせる未来」ひいては「納得のできる医療」を実現することを目指しています。一般ユーザーの健康の保持・増進に役立つ情報を提供するサービスや、自身や家族の健康状態を把握するためのデバイス及びサービスの市場規模合計は2020年には1.1兆円に達することが予想されており(注5)、これらの市場において当社グループは患者向けのアプリ開発や、PHR(注6)等の患者の課題解決に直接向き合う仕組みを持ったプロダクト展開を構想してまいります。
(注) 2.医療ヘルスケアの従事者人口700万人のうち、2016年度雇用動向調査結果のうち「医療・福祉」に該当する職種の年間平均入職率(約15%=約100万人)に対して、各職種におけるジョブメドレーの平均採用単価を乗じた場合、約3,000億円の市場規模となります。
3.出典:株式会社富士経済「2018年医療ITのシームレス化・クラウド化と医療ビッグデータビジネスの将来展望」
4.2019年9月末日現在。
5.出典:経済産業省「平成29年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営普及推進・環境整備等事業)調査報告書」
6.PHR(Personal Health Record)とは、患者が自らの医療・健康情報を収集し一元的に保存・管理する仕組みを指します。
(4) 対処すべき課題
上記を踏まえ、当社グループの中長期的な経営戦略を達成するために対処すべき課題として以下のような課題を認識し、これに対処してまいります。
① 医療プラットフォーム事業及び新規開発サービスへの継続投資
当社グループは、持続的な成長のため、既存事業以外の新規事業開発に積極的に取り組んでおります。
医療プラットフォーム事業については、人材プラットフォーム事業で得られた資金を成長投資として再投資に回し、オンライン診療システム「CLINICSオンライン診療」及びクラウド型電子カルテ「CLINICSカルテ」を2016年以降新たに立ち上げております。医療プラットフォーム事業は、事業の立ち上げ期であること等から黒字化には至っておりません。しかしながら、セグメントとしての黒字化を早期に達成することよりも、顧客基盤を拡充し、プロダクトラインナップを強化する等の施策により顧客当たり売上を継続的に伸長させていくための成長投資を費用対効果及び投資回収期間を重視しつつ継続し、高い売上高成長率を実現していくことが重要と考えております。この考え方のもと、今後も医療プラットフォーム事業における積極的かつ規律のある投資を実行してまいります。
新規開発サービスについては、介護施設検索サイトとして「介護のほんね」を運営しております。介護のほんねにおいては、事業の立ち上げ期であること等から黒字化できておりませんが、現在は入居者紹介に基づく成果報酬が収益の中心となっており、今後のさらなる収益化及び既存事業との連携等の様々な方向性を検討しております。また、介護のほんね以外にも、既存事業とのシナジーを活かす形で、医療ヘルスケア領域を中心として事業領域を拡大しテクノロジーを活用して課題を解決するサービスを開発・提供してまいります。
② 知名度の向上
当社グループは、運営するサービスの飛躍的な成長にとって、医療ヘルスケア領域の事業者のみならず、エンドユーザー(求職者や患者等)からの健全な知名度の向上を図ることが必要であると考えております。また、当社グループの知名度の向上は、他企業との提携等も含めた事業展開をより有利に進めることや、サービスを支える優秀な人材を採用・確保することに寄与すると考えております。そうした考えから、当社グループでは、各サービスの知名度の向上を目指した広告宣伝活動に加え、全社的な広報活動を推進してまいります。
③ システムの安定稼働と強化
当社グループは、インターネット技術を活用して事業を運営していることから、事業運営上、システムの安定稼働が極めて重要であると認識しております。このため、当社グループは、利用者の増加、取扱データ容量拡大に応じたサーバーの増強を含め、システムの安定化のため継続的にシステム強化に取り組んでまいります。
④ 情報管理体制の強化
当社グループは、個人情報やインサイダー情報等の機密情報について、社内規程の厳格な運用、定期的かつ継続的な社内研修の実施、セキュリティシステムの整備、及び各種セキュリティ認証の取得等により、情報管理体制の強化徹底を図ってまいります。
⑤ リスク管理体制の強化
当社グループは、多数の顧客やユーザーに向けたサービス提供を行っていることから、顧客やユーザーからのクレームや、その他事業推進に関連したリスクを管理する体制を強化することが重要であると認識しております。このため、当社グループではリスク管理を統括する内部組織としてリスク管理委員会を設置し、リスク管理体制の強化を図っております。当該組織は、当社グループの経営及び事業運営にリスク管理の視点を定着させることをミッションとし、取締役会においてその活動報告を行うこととなっている等、より実効的なリスクマネジメント体制を構築することを基本方針としています。また、2018年1月より内部監査部を専任の部門として新設しており、当社グループでは今後ともリスク管理を含めた内部管理体制の強化に努めてまいります。
⑥ 組織体制の整備
当社グループは、顧客基盤の拡大、サービスの利便性向上及び新規サービスの開発等により継続的に成長していくため、医師・エンジニアをはじめとする多様なバックグラウンドを有する優秀な人材を採用し、組織体制を整備していくことが重要であると認識しております。当社グループの経営理念に共感し、高い意欲を持った優秀な人材を採用していくために、積極的な採用活動を行っていくとともに、従業員が高いモチベーションを持って働ける就業環境や人事制度の整備を行うことで、組織力の強化を目指してまいります。
⑦ 事業連携及びM&Aの取り組み
当社グループは、医療ヘルスケア領域における顧客獲得及びプロダクトラインナップの強化による売上高の成長を継続するため、事業連携やM&A等を実施して事業拡大を加速することが重要であると認識しております。当社グループでは事業連携やM&A等を加速させる取り組みの一つとして、医療ヘルスケア領域における技術のオープン化及び情報の活用を推進するための「MEDLEY DRIVE」プロジェクトを推進しておりますが、これ以外にも事業連携及びM&A等を積極的に実施することで、各事業のプラットフォーム強化に取り組んでまいります。
⑧ コーポレート・ガバナンスの強化
当社グループは現在成長段階にあり、継続的な成長を続けることのできる事業基盤の確立に向けて、コーポレート・ガバナンス体制のさらなる強化が経営上の重要な課題であると認識しております。特に、事業連携及びM&A等を実施しながら事業拡大を行っていくことを前提に、子会社管理体制を強化し、連結グループとしての財務報告の信頼性確保及びコンプライアンス体制の強化を図ってまいります。