有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2023/02/27 15:00
【資料】
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【項目】
131項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社は、キャッシュレス決済サービス事業を取り巻く経営環境が大きく変化する中、これまでに醸成されてきた社内文化や価値観を改めて明文化し、Corporate Identityである「ミッション(存在意義)・ビジョン(目指す姿)・バリュー(価値観)」を2020年12月に新たに制定いたしました。これらを、経営戦略の策定や経営の意思決定における根幹の考え方と位置づけ、全社一丸となって持続的成長を目指しております。
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当社のキャッシュレス決済サービス事業は、社会インフラであり日本中の生活者の暮らしを支えるものとして高い倫理観を持ち続けながらも、「新しい生活を生み出す会社。」として、さらなる便利で安全な消費社会の創出を目指し、「ありえないを、やり遂げる。」の精神で今後もダイナミックにチャレンジを続けてまいります。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、主な財務指標としては売上高、当期純損益を特に重視しておりますが、KPI(Key Performance Indicators)としては、①全社の売上高、②「情報プロセシング」分野の売上高、③定常的収益源であるセンター利用料売上、④加盟店に対する物理的な「ラストワンマイル」であり非財務指標における当社の事業規模を示す当社センターへの接続端末台数、⑤将来の利益源泉となる開発投資を経常的に実施していることから過年度の投資の影響の少ないEBITDAの5点をKPIとして事業計画上定めております。また、9つのマテリアリティで構成されるサステナビリティ・ステートメントを定め、持続的な成長と企業価値の向上を目指しております。
(3)経営環境
2018年4月の経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」において、2025年にキャッシュレス決済比率40%の実現を目指す(将来的には世界最高水準の80%を目指す)ことがうたわれ、「国策」としてキャッシュレス決済が推進されております。「国策」を後押しするかたちで一般社団法人キャッシュレス推進協議会(当社も正会員として参画)が設置され、改正割賦販売法・軽減税率のポイントバック等の政策的な追い風も吹き、キャッシュレス決済の市場規模は拡大傾向にあります。
0202010_002.png一般社団法人キャッシュレス推進協議会 「キャッシュレス・ロードマップ 2022」(2022/6)から当社作成
一方、政府の成長戦略により、業界全体の決済手数料減少が推進されることが見込まれている他、決済手数料を主な収益源としないQR・バーコード決済サービス事業者の新規参入や、既存の株式会社エヌ・ティ・ティ・データが運営する「CAFIS」及び株式会社日本カードネットワークが運営する「CARDNET」の決済ネットワーク以外に次世代決済ネットワークとして三井住友カード株式会社等が運営する「stera」が登場するなど、業界全体の再編の可能性を注視しております。当社は、決済業界における各プレイヤーと、一部では競合しながらも、競合の少ない電子マネーサービスを強みに、多くのプレイヤーと広く協業し、面を拡大するオープン戦略をとっていることから、市場再編や新規参入にも柔軟に対応していく方針です。
マクロでは、雇用人口減少に伴う自動化の発展、特に主な対面市場となっている小売業のニューリテイル(注)化の流れは新規プレイヤーの参入を促す脅威でもあると同時に、新たな市場機会と捉えております。
[ 決済業界の各プレイヤーと当社の関係性 ]
0202010_003.pngまた、新型コロナウィルス感染症による影響については、クレジットカード会社の営業が停滞したことによる新規端末販売等が鈍化や加盟店における開発案件の検討長期化などの影響から、フロー収入である端末販売及び開発売上について業績の押し下げ効果があります。一方、当社は多種多様な業種にわたる加盟店の確保により特定業種の加盟店に依存しない形で決済サービスの提供を行っていることで、ストックの収益であるセンター利用料等の既存加盟店からの定常的な収益に堅調に増加しております。また、中長期では対人接触機会を減少させる自動精算機等の無人決済機については、感染拡大防止策として一層の需要増加も期待できると考えており、当社が開発したものをサービス展開するという形で好循環の収益機会となる可能性もありますが、先行きは不透明な部分もあり、継続して注視すべき環境と見做しております。なお、2023年3月期は、今期のコロナ禍と同じ外部環境を想定して予算策定が実施されており、常態化するコロナ禍を前提としているため新たな変異種の拡大やワクチン接種の進捗等の状況によって前提の変更が発生する可能性があります。
(注)小売業において、IT及びデータを活用することで、売上の拡大やコスト削減を図ると共に、消費者に対しオンラインとオフラインの融合等により新しい消費体験を提供するコンセプト
(4)経営戦略
当社は、これまで市場が求める全ての決済端末に接続しあらゆる決済サービスを高いセキュリティかつワンストップで提供するという方針のもと、クラウド型の電子決済処理で事業を拡大してまいりました。既に接続端末台数は80万台超(2023年1月末時点)、年間で3.1兆円(2022年3月期実績)を超える決済を処理する社会インフラとして拡大しております。
[短期成長戦略]
今後、短期経営戦略としては、「キャッシュレス決済サービス事業」の面的拡大・岩盤化を推進し、市場成長のフェーズにおいて、ダイレクト営業とホワイトレーベルによる幅広い営業ルートにより圧倒的な規模を追求する「①接続端末の増加戦略」と、汎用電子マネーをフックとしソリューションを複合的に提供することで加盟店に深く入り込む「②クロスセル(注1)戦略」により、ストック収入の成長カーブを引き上げる方針です。
①接続端末の増加戦略
大型案件としては、三井住友カード株式会社等が推進する次世代決済プラットフォーム「stera」と接続し電子マネー、QR・バーコード決済等々を提供し、新たな面の拡大を追求しております。
尚、自社端末としては、次世代決済端末として世界有数の決済端末メーカーと協業し同枠組みにて、外回り方式(注2)の自前端末を開発するとともに、他社端末ではSquare株式会社の電子マネー対応を支援し、当社決済処理センターでのプロセシングを行う等、引続きセンター運用強化のために端末レイヤーはオープンに協業を進める戦略です。
②クロスセル戦略
直近では、キャッシュレス推進の追い風を捉え、QR・バーコード決済等の市場に導入される新決済サービスも取り込みつつ、端末あたりの定額(決済手段やブランド数に依存するが、処理件数、金額に連動しない)サブスクリプション型の課金体系から一部(QR・バーコード決済精算業務等)の従量課金(GMV課金(注3)、処理件数課金)の導入を進めており、ストック収入による収益拡大とあわせて、定額型・従量型のベストミックスを追求していきます。
[中長期成長戦略]
中長期での経営戦略としては、決済インフラを梃に、店舗の高度化を目的とした「総合流通ソリューション」の提供による新たな収益基盤を構築し、また、これらにより集まるあらゆるデータを保管、分析、連携し「情報プロセシング」を推進することで新たな価値提供を行う方針です。「情報プロセシング」とは、決済ゲートウェイに集約されたデータを安全に保存し、高度なデータ分析へ活用できるよう情報処理をする仕掛けを構築し、販促、インキュベーション、ファイナンス等のさまざまなサービスへ連携するものです。
店舗を高度化する「総合流通ソリューション」としては、決済、プリペイド、ポイントサービスのほか、マーケティングや、画像認識をはじめとするIoT、広告、医療等、領域を拡大しています。
新たな取り組みとして、次世代自社端末を活用し、これまでの大型加盟店中心だった顧客基盤に加え中小規模以下のロングテールに対して、マルチ決済サービスとして2020年4月に「nextore」をローンチしました。当該端末はAndroidベースで様々なアプリケーションを搭載することが可能となり、「情報プロセシング」のデータの出入り口として活用する戦略をとっております。「nextore」については、従来のPOSメーカーやクレジットカード会社との営業連携に加え、地方銀行と新たに提携を行うことで、地方の中小企業のキャッシュレス化に加え、Android端末上に搭載するアプリケーション等によるデジタル化支援を企図しております。
また、当社は、地方創生を掲げ、公共プロジェクト推進を強化し「地方交通マネーのクラウド化」等にも取り組んでおり、複合的な面展開を行っております。
更に、一定規模以上の加盟店に対しては、決済領域における事業の可能性として、流通ソリューション領域全体へ視野を広げ、その中でも決済と最も親和性の高い店舗業務のラストワンマイルであるPOSに着目し、POSのクラウド化とIoT化を進めております。POSをクラウド化及びIoT化することにより、あらゆる情報がつながり、大容量データの高速処理が可能な5Gの定着を見据え、クラウドPOSから集約された決済データと、非決済データを融合させた新たなサービスの提供を目指しております。新たに参入したクラウドPOSは情報の出入り口として、「情報プロセシング」の重要な要素と捉えております。
(注) 1. 契約済や検討中のサービスと併せて、他のサービスを販売すること
2.外回り方式は、カード会員データの取扱を決済端末側ですべて対応し、POS側の開発コストを抑える方式
3.Gross Merchandise Value(流通取引総額)
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① セキュリティ体制の継続的強化及びシステムの強化
当社は、クレジットカード業界のセキュリティ基準協議団体(PCI SSC)が定めるPCI DSSの基準に則った運用をしており、決済端末で暗号化されたカード情報は、データセンターで復号化されるまで、決済処理の経路上でカード情報を取得できないようにしております。また、当社の事業は、インターネットを介しての通信ネットワークに依存していることから、データセンター内の多層化・冗長化を進めております。今後もセキュアな決済システムを維持強化していくことが重要な課題であると認識しております。現在、社内規程に基づき管理を徹底しておりますが、今後も継続して、社内教育・研修の実施を通じて強固な基盤システムの構築に努めてまいります。
②データセンター移設体制の強化
当社は2025年にデータセンターの移設を予定しております。今後の「情報プロセシング」拡大を見据え、より安全で拡張性の高いデータセンターの選定、サービス提供に影響を及ぼさない移設作業を行うために仮想化技術に長け、決済系に精通しているベンダー選定を行っております。また、移行方式含めたアーキテクチャの第三者評価を実施し、予期せぬ事象が発生しないような詳細スケジュール策定とバックアッププラン策定を進めております。
③ ストック収入による定常的な利益の創出
当社の収益モデルは、顧客端末が当社決済処理センターに接続され継続して利用されることで収益が積み上がっていくストック型の構造にありますが、収益を積み上げていくために先行して費用が計上されるインフラ事業的要素があります。顧客基盤の拡大と端末設置台数の増加に伴い、当社決済処理センター利用売上のみで定常的な利益を創出すべく固定費のマネジメントを行っております。
④ 「情報プロセシング」及び流通ソリューション事業の立ち上げ
当社は今後10年間を掛けて決済のみならず流通業が必要とするソリューションを総合的に提供する企業体、そしてデータを保存・分析・連携する「情報プロセシング」を提供する高度なインフラ事業体へと進化をとげることが戦略的方向性であることから、顧客等との実証実験等を通じ具体化をはかるべく、取組を加速させております。
⑤組織体制の強化
当社の持続的な事業継続には、事業拡大に応じて多岐にわたるバックグラウンドの優秀な人材を採用し、組織体制を整備していくことが重要であると考えております。当社の理念に共感し、高い意欲を持った優秀な人材を採用していくために、積極的な採用活動を行っていくとともに、従業員が働きやすい環境の整備、人事制度の構築に努めてまいります。また、特に今後、総合流通ソリューションあるいは「情報プロセシング」へ足を踏み出す中、これまでとは異なる事業企画やシステム開発ができる人材の獲得・育成が必須と考えます。