有価証券報告書-第108期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)
有報資料
文中の将来に関する事項は、当期末現在において当社グループが判断したものです。
(1)企業理念
当社グループは、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念としています。この理念のもとですべての役員および従業員が一丸となり、世界のヘルスケアの多様なニーズを充足し、いかなる医療システム下においても存在意義のあるヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業となることをめざしています。当社グループの使命は、患者様満足の増大であり、その結果として売上や利益がもたらされ、この使命と結果の順序を重要と考えています。
当社グループは、このhhc理念の実現に向けて、主要なステークホルダーズである患者様と生活者の皆様、株主の皆様および社員との信頼関係の構築につとめるとともに、コンプライアンス(法令と倫理の遵守)を日々実践し、企業価値の向上に取り組んでいます。
本企業理念は、定款に定め、株主の皆様と共有化をはかっています。
(2)経営環境、経営方針・経営戦略、ならびに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題等
製薬産業に対しては、革新的な新薬による疾病治療への貢献にとどまらず、予防・先制医療の実現による健康寿命の延伸に対しても、より一層大きな役割を果たすことが期待されています。一方、医療費抑制に向けた動きがグローバルで強まるなど、製薬企業を取り巻く環境が大きく変化しています。当社グループは、中期経営計画「EWAY 2025」の推進を通じて、社会的課題の解決をめざしています。
① 中期経営計画「EWAY 2025」
2016年度にスタートした「EWAY 2025」では、以下の3つの戦略意思の実現をめざしています。
(a) 「病気になりたくない、罹っていれば早く知りたい、そして治りたい」に応える
(b) 「住み慣れた場所、地域やコミュニティで自分の病気を管理し、予後や老後を安心して過ごしたい」に応える
(c) 「hhc(ヒューマン・ヘルスケア)ニーズにもとづく立地(機会)が見出せ、それを満たすイノベーションが可能な事業分野」に集中する
これらの戦略意思の根本は、当社グループの企業理念hhcです。患者様とともに時間を過ごし、患者様の真のニーズを理解することによって生まれる強い動機付けが当社グループのイノベーションの源泉となります。当社グループは、ニューロロジー(神経)領域およびオンコロジー(がん)領域を戦略的重点領域と位置づけ、戦略的パートナーシップを活用した新薬創出の加速とその価値最大化をはかるとともに、エコシステムプラットフォームの構築に取り組んでいます。
② 「EWAY 2025」の主な進捗と取り組み
(a) ニューロロジー領域
ニューロロジー領域において、当社グループはアルツハイマー病(AD)/認知症領域に最も注力しています。ADは、アミロイド(A)からタウタンパク質(T)、神経炎症(I)、神経変性/神経損傷(N)へと病理上の連続性(AT(I)N)をもって進行する疾患であり、当社グループはこれらのAT(I)Nを標的とした包括的な創薬を行っています。
アミロイド(A)に対しては、バイオジェン社との提携による早期ADを対象とした2つの疾患修飾剤の開発が進展しています。抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブは、米国では早期の申請完了をめざす作業が進行するとともに、日本、欧州の規制当局と申請に向けた協議が継続して進行中です。また抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「BAN2401」は、良好な大規模フェーズⅡ試験の結果に基づき、検証用の1本のフェーズⅢ試験(Clarity AD)が進行中であり、2022年度第2四半期でのトップライン結果取得をめざしています。「BAN2401」については、米国の認知症の臨床試験に関するアカデミアのネットワークであるAlzheimer’s Clinical Trials Consortium(ACTC)と共同で実施予定のAD発症予防に関するフェーズⅢ試験(AHEAD 3-45試験)が開始準備中です。
また、疾患修飾剤の価値最大化に向けて、認知機能検査・診断法の確立をめざしています。ADにおける病勢ステージ診断については、脳脊髄液によるバイオマーカー診断のほか、血液での簡便なアミロイドβ測定技術として、シスメックス株式会社と共同開発を進めています。
タウタンパク質(T)に対するアプローチとしては、University College Londonとの共同研究から創出された抗タウ抗体「E2814」のフェーズⅠ試験が進行中です。また、認知症神経免疫療法にフォーカスした探索研究所として、2019年に米国マサチューセッツ州ケンブリッジにEisai Center for Genetics Guided Dementia Discovery(G2D2)を設立し、神経炎症に関わるミクログリアの制御を標的とした創薬研究を進めています。シナプス関連の再生・修飾プロジェクトとして、筑波研究所創製の「E2511」やカン研究所による「EphA4プロジェクト」について、臨床試験導入に向けた研究が進展しています。さらに、レビー小体型認知症に対しても自社創製のPDE9阻害剤「E2027」についてフェーズⅡ/Ⅲ試験が進行中です。
(b) オンコロジー領域
オンコロジー領域では、米メルク社とグローバルな共同開発・共同販促を行っている自社創製の抗がん剤「レンビマ」の価値最大化に向けた取り組みが順調に進展しています。単剤療法では、「レンビマ」の臨床試験における肝細胞がんに対する高い奏効率が実臨床においても確認されており、肝細胞がんの治療変革に貢献しています。米メルク社の抗PD-1抗体「キイトルーダ」との併用療法に関する試験(LEAP試験)では、2019年9月に併用療法として初めての適応となる子宮内膜がんに対する承認を取得したほか、米国FDAからブレイクスルーセラピーの指定を受けている肝細胞がん(ファーストライン)、腎細胞がん(ファーストライン)、子宮内膜がんをはじめとする7がん腫13適応を対象とした試験や、胃がんを含むバスケット試験が順調に進行しています。「レンビマ」と「キイトルーダ」の併用によりバックボーンセラピーの確立をめざします。
「前がん状態」、「超早期がん」、「早期がん」、「進行がん」など、それぞれのがんステージにおいて、がん化や増殖、浸潤、再発、転移、治療抵抗性などを引き起こすがんの遺伝子変化をリキッドバイオプシーで把握し、創薬のターゲットとする活動を開始しました。米国研究子会社H3 Biomedicine, Inc.が保有するスプライシングプラットフォームを活用したがん免疫療法の効果を高める新規治療法の共同研究をブリストル・マイヤーズ スクイブ社と進めています。また、WNT/β-カテニンシグナル経路の遺伝子変化に対するモジュレーター「E7386」について、フェーズI試験が進行中です。乳がんにおいては、野生型および変異型のエストロゲン受容体(ER)αに共有結合することで、その下流シグナルを阻害し、乳がん細胞の増殖を抑制する「H3B-6545」について、フェーズⅡ試験が進行中です。
(c) 認知症エコシステム プラットフォームの構築
当社グループは、企業理念に基づき、認知症の当事者様やご家族と共に時間を過ごすことで得た「共感」を通じて、以下の3つの「憂慮」を把握しました。
1) 私の症状はいつ出現するのか
2) それを防ぐには何をすればよいか
3) 家族の重荷になりたくない
近年、様々な研究において、定期的な運動、バランスの良い食事など生活習慣を見直すことにより、脳の健康度低下のリスクを減らすことができる可能性が示されていますが、当社の調査によれば、正しい予防行動を理解し、習慣化している方、認知機能をチェックしている方は少なく、予防行動の実践と習慣化に向けて大きな溝(キャズム)が存在しています。これを解消するため、双方向コミュニケーションにもとづく認知症プラットフォームである「easiit」の構築を進めています。開発中の疾患修飾剤に関するバイオマーカーを含むデータセットをベースに、日本で新発売した脳の健康度をセルフチェックするデジタルツール「のうKNOW」(非医療機器)と連携した認知機能データや睡眠、食事、運動といった利用者データを「easiit」に取り込み、適切な予知や予防に関する情報をお届けしていきます。認知症プラットフォームを基盤とし、製薬、行政、医療、介護、診断薬、IT、保険会社などをパートナーとする「認知症エコシステム」を構築することで、疾患修飾剤の価値最大化による医療イノベーションのみならず、社会を変えるイノベーションの実現をめざします。
(d) 目標とする経営指標
中期経営計画「EWAY 2025」でめざす3つの戦略意思を実現するとともに、戦略投資と安定配当を担保する財務規律の実現により持続的な企業価値向上をめざすため、「EWAY 2025」の中間点である2020年度の数値目標・ガイダンスを以下の通り設定しています。
*1 ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)= 親会社の所有者に帰属する当期利益÷親会社の所有者に帰属する持分
③ 医薬品アクセス改善に向けた取り組み
当社グループは、グローバルな医薬品アクセスの課題解決への取り組みを、我々の責務であるとともに、将来への長期的な投資であると考え、政府や国際機関、非営利民間団体等との官民パートナーシップのもと、積極的に推進しています。
当社グループは、開発途上国および新興国に蔓延する顧みられない熱帯病の一つであるリンパ系フィラリア症を制圧するため、その治療薬である「DEC(ジエチルカルバマジン)錠」を当社グループのインド・バイザッグ工場で製造し、本剤を必要とするすべての蔓延国において制圧が達成されるまで、WHO(世界保健機関)に「プライス・ゼロ(無償)」で提供しています。2020年3月末までに28カ国に19.9億錠を供給しました。さらに、マイセトーマ(菌腫)をはじめとする顧みられない熱帯病、結核、マラリアに対する新薬開発を推進するほか、認知症、がんといった非感染性疾患に対する疾患啓発・早期発見支援や患者様が購入しやすい価格設定(アフォーダブルプライシング)や所得別段階的価格設定(ティアードプライシング)による製品提供など、各国で様々な医薬品アクセス改善に向けた活動に取り組んでいます。
④ 新型コロナウイルス感染症の影響
上記の経営方針・経営戦略等について、有価証券報告書提出日現在では新型コロナウイルス感染症による見直しはありませんが、デジタルトランスフォーメーションを加速させるなどの対応により、このような環境下においても中期経営計画「EWAY 2025」を着実に進めていきます。なお、新型コロナウイルス感染症が経営環境・事業活動等に与える影響については、「2 事業等のリスク(2)事業戦略 デジタルトランスフォーメーション、(4)その他 新型コロナウイルス感染症」に、将来業績や会計上の見積りに与える影響については、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (6)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ① 重要な会計方針及び見積り」にそれぞれ記載しています。
(3)資本政策の基本的な方針
当社の資本政策は、財務の健全性を担保した上で、株主価値向上に資する「中長期的なROE経営」、「持続的・安定的な株主還元」、「成長のための投資採択基準」を軸に展開しています。
① 中長期的なROE経営
当社グループは、ROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と捉えています。「中長期的なROE経営」では、売上収益利益率(マージン)、財務レバレッジ、総資産回転率(ターンオーバー)を常に改善し、中長期的に正のエクイティ・スプレッド*1を創出すべく、資本コストを上回るROEをめざしていきます。
*1 エクイティ・スプレッド=ROE-株主資本コスト
② 持続的・安定的な株主還元
当社グループは、健全なバランスシートのもと、連結業績、DOE*2およびフリー・キャッシュ・フローを総合的に勘案し、シグナリング効果も考慮して、株主の皆様への還元を継続的・安定的に実施します。DOEは、連結純資産に対する配当の比率を示すことから、バランスシート・マネジメント、ひいては資本政策を反映する指標の一つとして位置づけています。自己株式の取得については、市場環境、資本効率等に鑑み適宜実施する可能性があります。なお、健全なバランスシートの尺度として、親会社所有者帰属持分比率、負債比率(Net DER)*3を指標に採用しています。
*2 DOE(親会社所有者帰属持分配当率)= 配当金総額÷親会社の所有者に帰属する持分
*3 負債比率(Net DER)= (有利子負債(借入金)-現金及び現金同等物-3カ月超預金等
-親会社保有投資有価証券)÷親会社の所有者に帰属する持分
③ 成長のための投資採択基準
当社グループは、成長投資による価値創造を担保するために、戦略投資に対する投資採択基準を採用し、リスク調整後ハードルレートを用いた正味現在価値と内部収益率スプレッドにハードルを設定し、投資を厳選しています。
④ 「EWAY 2025」における財務目標・ガイダンス
(4)ESGをはじめとする非財務価値向上と情報開示
企業の価値は、財務価値に、ESG(環境、社会、ガバナンス)をはじめとする非財務価値を加味したものと考えています。当社グループは、hhc理念を根幹として事業を展開する中、地球環境の負荷低減(環境)、医薬品アクセス向上、人権の尊重、社員の人材育成(社会)、経営の公平性と透明性の確保(ガバナンス)等、ESGへの取り組みを強化してきました。また、これらの取り組みは、国連サミットで採択された国際的な目標であるSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)と一貫したものと位置づけています。
環境については、2030年度に向けた科学的根拠にもとづく温室効果ガス削減目標を設定し、Science Based Targets(SBT)イニシアチブから承認を取得しました。また、再生可能エネルギーの導入率を計画的に高めるなど、当社グループ全体で、低炭素社会の形成に向け積極的に取り組んでおり、CDPによる気候変動レポート2019において最高評価のAリストに選定されました。さらに、気候変動が企業に与える影響についてリスクと機会を分析し情報開示を求める国際的なフレームワークTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)に賛同を表明し、気候戦略の強靭性を高めるべく検討を重ねています。
人権については、ガイドラインとして国際的に認知されている国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権方針の作成、デューデリジェンスの仕組み構築など、さらなる非財務価値の向上に取り組んでいます。なお、当社グループのESGをはじめとする非財務価値に関する情報は、IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワークに基づき、統合報告書や環境報告などで開示しています。
(https://www.eisai.co.jp/ir/library/annual/index.html)
当社は、常に最良のコーポレートガバナンスを追求し、その充実に継続的に取り組んでいます。当社のコーポレートガバナンスに関する取り組みについては、「第4 提出会社の状況、4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しているほか、「コーポレートガバナンス報告書」をはじめとして、当社のホームページに掲載しています。
(https://www.eisai.co.jp/company/governance/index.html)
(1)企業理念
当社グループは、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念としています。この理念のもとですべての役員および従業員が一丸となり、世界のヘルスケアの多様なニーズを充足し、いかなる医療システム下においても存在意義のあるヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業となることをめざしています。当社グループの使命は、患者様満足の増大であり、その結果として売上や利益がもたらされ、この使命と結果の順序を重要と考えています。
当社グループは、このhhc理念の実現に向けて、主要なステークホルダーズである患者様と生活者の皆様、株主の皆様および社員との信頼関係の構築につとめるとともに、コンプライアンス(法令と倫理の遵守)を日々実践し、企業価値の向上に取り組んでいます。
本企業理念は、定款に定め、株主の皆様と共有化をはかっています。
(2)経営環境、経営方針・経営戦略、ならびに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題等
製薬産業に対しては、革新的な新薬による疾病治療への貢献にとどまらず、予防・先制医療の実現による健康寿命の延伸に対しても、より一層大きな役割を果たすことが期待されています。一方、医療費抑制に向けた動きがグローバルで強まるなど、製薬企業を取り巻く環境が大きく変化しています。当社グループは、中期経営計画「EWAY 2025」の推進を通じて、社会的課題の解決をめざしています。
① 中期経営計画「EWAY 2025」
2016年度にスタートした「EWAY 2025」では、以下の3つの戦略意思の実現をめざしています。
(a) 「病気になりたくない、罹っていれば早く知りたい、そして治りたい」に応える
(b) 「住み慣れた場所、地域やコミュニティで自分の病気を管理し、予後や老後を安心して過ごしたい」に応える
(c) 「hhc(ヒューマン・ヘルスケア)ニーズにもとづく立地(機会)が見出せ、それを満たすイノベーションが可能な事業分野」に集中する
これらの戦略意思の根本は、当社グループの企業理念hhcです。患者様とともに時間を過ごし、患者様の真のニーズを理解することによって生まれる強い動機付けが当社グループのイノベーションの源泉となります。当社グループは、ニューロロジー(神経)領域およびオンコロジー(がん)領域を戦略的重点領域と位置づけ、戦略的パートナーシップを活用した新薬創出の加速とその価値最大化をはかるとともに、エコシステムプラットフォームの構築に取り組んでいます。
② 「EWAY 2025」の主な進捗と取り組み
(a) ニューロロジー領域
ニューロロジー領域において、当社グループはアルツハイマー病(AD)/認知症領域に最も注力しています。ADは、アミロイド(A)からタウタンパク質(T)、神経炎症(I)、神経変性/神経損傷(N)へと病理上の連続性(AT(I)N)をもって進行する疾患であり、当社グループはこれらのAT(I)Nを標的とした包括的な創薬を行っています。
アミロイド(A)に対しては、バイオジェン社との提携による早期ADを対象とした2つの疾患修飾剤の開発が進展しています。抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブは、米国では早期の申請完了をめざす作業が進行するとともに、日本、欧州の規制当局と申請に向けた協議が継続して進行中です。また抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「BAN2401」は、良好な大規模フェーズⅡ試験の結果に基づき、検証用の1本のフェーズⅢ試験(Clarity AD)が進行中であり、2022年度第2四半期でのトップライン結果取得をめざしています。「BAN2401」については、米国の認知症の臨床試験に関するアカデミアのネットワークであるAlzheimer’s Clinical Trials Consortium(ACTC)と共同で実施予定のAD発症予防に関するフェーズⅢ試験(AHEAD 3-45試験)が開始準備中です。
また、疾患修飾剤の価値最大化に向けて、認知機能検査・診断法の確立をめざしています。ADにおける病勢ステージ診断については、脳脊髄液によるバイオマーカー診断のほか、血液での簡便なアミロイドβ測定技術として、シスメックス株式会社と共同開発を進めています。
タウタンパク質(T)に対するアプローチとしては、University College Londonとの共同研究から創出された抗タウ抗体「E2814」のフェーズⅠ試験が進行中です。また、認知症神経免疫療法にフォーカスした探索研究所として、2019年に米国マサチューセッツ州ケンブリッジにEisai Center for Genetics Guided Dementia Discovery(G2D2)を設立し、神経炎症に関わるミクログリアの制御を標的とした創薬研究を進めています。シナプス関連の再生・修飾プロジェクトとして、筑波研究所創製の「E2511」やカン研究所による「EphA4プロジェクト」について、臨床試験導入に向けた研究が進展しています。さらに、レビー小体型認知症に対しても自社創製のPDE9阻害剤「E2027」についてフェーズⅡ/Ⅲ試験が進行中です。
(b) オンコロジー領域
オンコロジー領域では、米メルク社とグローバルな共同開発・共同販促を行っている自社創製の抗がん剤「レンビマ」の価値最大化に向けた取り組みが順調に進展しています。単剤療法では、「レンビマ」の臨床試験における肝細胞がんに対する高い奏効率が実臨床においても確認されており、肝細胞がんの治療変革に貢献しています。米メルク社の抗PD-1抗体「キイトルーダ」との併用療法に関する試験(LEAP試験)では、2019年9月に併用療法として初めての適応となる子宮内膜がんに対する承認を取得したほか、米国FDAからブレイクスルーセラピーの指定を受けている肝細胞がん(ファーストライン)、腎細胞がん(ファーストライン)、子宮内膜がんをはじめとする7がん腫13適応を対象とした試験や、胃がんを含むバスケット試験が順調に進行しています。「レンビマ」と「キイトルーダ」の併用によりバックボーンセラピーの確立をめざします。
「前がん状態」、「超早期がん」、「早期がん」、「進行がん」など、それぞれのがんステージにおいて、がん化や増殖、浸潤、再発、転移、治療抵抗性などを引き起こすがんの遺伝子変化をリキッドバイオプシーで把握し、創薬のターゲットとする活動を開始しました。米国研究子会社H3 Biomedicine, Inc.が保有するスプライシングプラットフォームを活用したがん免疫療法の効果を高める新規治療法の共同研究をブリストル・マイヤーズ スクイブ社と進めています。また、WNT/β-カテニンシグナル経路の遺伝子変化に対するモジュレーター「E7386」について、フェーズI試験が進行中です。乳がんにおいては、野生型および変異型のエストロゲン受容体(ER)αに共有結合することで、その下流シグナルを阻害し、乳がん細胞の増殖を抑制する「H3B-6545」について、フェーズⅡ試験が進行中です。
(c) 認知症エコシステム プラットフォームの構築
当社グループは、企業理念に基づき、認知症の当事者様やご家族と共に時間を過ごすことで得た「共感」を通じて、以下の3つの「憂慮」を把握しました。
1) 私の症状はいつ出現するのか
2) それを防ぐには何をすればよいか
3) 家族の重荷になりたくない
近年、様々な研究において、定期的な運動、バランスの良い食事など生活習慣を見直すことにより、脳の健康度低下のリスクを減らすことができる可能性が示されていますが、当社の調査によれば、正しい予防行動を理解し、習慣化している方、認知機能をチェックしている方は少なく、予防行動の実践と習慣化に向けて大きな溝(キャズム)が存在しています。これを解消するため、双方向コミュニケーションにもとづく認知症プラットフォームである「easiit」の構築を進めています。開発中の疾患修飾剤に関するバイオマーカーを含むデータセットをベースに、日本で新発売した脳の健康度をセルフチェックするデジタルツール「のうKNOW」(非医療機器)と連携した認知機能データや睡眠、食事、運動といった利用者データを「easiit」に取り込み、適切な予知や予防に関する情報をお届けしていきます。認知症プラットフォームを基盤とし、製薬、行政、医療、介護、診断薬、IT、保険会社などをパートナーとする「認知症エコシステム」を構築することで、疾患修飾剤の価値最大化による医療イノベーションのみならず、社会を変えるイノベーションの実現をめざします。
(d) 目標とする経営指標中期経営計画「EWAY 2025」でめざす3つの戦略意思を実現するとともに、戦略投資と安定配当を担保する財務規律の実現により持続的な企業価値向上をめざすため、「EWAY 2025」の中間点である2020年度の数値目標・ガイダンスを以下の通り設定しています。
| 2020年度目標・ガイダンス | |
| 売上収益 | 8,000億円レベル |
| 営業利益 | 1,020億円レベル |
| 当期利益 | 740億円レベル |
| ROE*1 | 10%以上 |
*1 ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)= 親会社の所有者に帰属する当期利益÷親会社の所有者に帰属する持分
③ 医薬品アクセス改善に向けた取り組み
当社グループは、グローバルな医薬品アクセスの課題解決への取り組みを、我々の責務であるとともに、将来への長期的な投資であると考え、政府や国際機関、非営利民間団体等との官民パートナーシップのもと、積極的に推進しています。
当社グループは、開発途上国および新興国に蔓延する顧みられない熱帯病の一つであるリンパ系フィラリア症を制圧するため、その治療薬である「DEC(ジエチルカルバマジン)錠」を当社グループのインド・バイザッグ工場で製造し、本剤を必要とするすべての蔓延国において制圧が達成されるまで、WHO(世界保健機関)に「プライス・ゼロ(無償)」で提供しています。2020年3月末までに28カ国に19.9億錠を供給しました。さらに、マイセトーマ(菌腫)をはじめとする顧みられない熱帯病、結核、マラリアに対する新薬開発を推進するほか、認知症、がんといった非感染性疾患に対する疾患啓発・早期発見支援や患者様が購入しやすい価格設定(アフォーダブルプライシング)や所得別段階的価格設定(ティアードプライシング)による製品提供など、各国で様々な医薬品アクセス改善に向けた活動に取り組んでいます。
④ 新型コロナウイルス感染症の影響
上記の経営方針・経営戦略等について、有価証券報告書提出日現在では新型コロナウイルス感染症による見直しはありませんが、デジタルトランスフォーメーションを加速させるなどの対応により、このような環境下においても中期経営計画「EWAY 2025」を着実に進めていきます。なお、新型コロナウイルス感染症が経営環境・事業活動等に与える影響については、「2 事業等のリスク(2)事業戦略 デジタルトランスフォーメーション、(4)その他 新型コロナウイルス感染症」に、将来業績や会計上の見積りに与える影響については、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (6)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ① 重要な会計方針及び見積り」にそれぞれ記載しています。
(3)資本政策の基本的な方針
当社の資本政策は、財務の健全性を担保した上で、株主価値向上に資する「中長期的なROE経営」、「持続的・安定的な株主還元」、「成長のための投資採択基準」を軸に展開しています。
① 中長期的なROE経営
当社グループは、ROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と捉えています。「中長期的なROE経営」では、売上収益利益率(マージン)、財務レバレッジ、総資産回転率(ターンオーバー)を常に改善し、中長期的に正のエクイティ・スプレッド*1を創出すべく、資本コストを上回るROEをめざしていきます。
*1 エクイティ・スプレッド=ROE-株主資本コスト
② 持続的・安定的な株主還元
当社グループは、健全なバランスシートのもと、連結業績、DOE*2およびフリー・キャッシュ・フローを総合的に勘案し、シグナリング効果も考慮して、株主の皆様への還元を継続的・安定的に実施します。DOEは、連結純資産に対する配当の比率を示すことから、バランスシート・マネジメント、ひいては資本政策を反映する指標の一つとして位置づけています。自己株式の取得については、市場環境、資本効率等に鑑み適宜実施する可能性があります。なお、健全なバランスシートの尺度として、親会社所有者帰属持分比率、負債比率(Net DER)*3を指標に採用しています。
*2 DOE(親会社所有者帰属持分配当率)= 配当金総額÷親会社の所有者に帰属する持分
*3 負債比率(Net DER)= (有利子負債(借入金)-現金及び現金同等物-3カ月超預金等
-親会社保有投資有価証券)÷親会社の所有者に帰属する持分
③ 成長のための投資採択基準
当社グループは、成長投資による価値創造を担保するために、戦略投資に対する投資採択基準を採用し、リスク調整後ハードルレートを用いた正味現在価値と内部収益率スプレッドにハードルを設定し、投資を厳選しています。
④ 「EWAY 2025」における財務目標・ガイダンス| 2020年度目標・ガイダンス | |
| ROE | 10%以上 |
| DOE | 8%レベル |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 50%~60% |
| Net DER | △0.3~0.3 |
(4)ESGをはじめとする非財務価値向上と情報開示
企業の価値は、財務価値に、ESG(環境、社会、ガバナンス)をはじめとする非財務価値を加味したものと考えています。当社グループは、hhc理念を根幹として事業を展開する中、地球環境の負荷低減(環境)、医薬品アクセス向上、人権の尊重、社員の人材育成(社会)、経営の公平性と透明性の確保(ガバナンス)等、ESGへの取り組みを強化してきました。また、これらの取り組みは、国連サミットで採択された国際的な目標であるSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)と一貫したものと位置づけています。
環境については、2030年度に向けた科学的根拠にもとづく温室効果ガス削減目標を設定し、Science Based Targets(SBT)イニシアチブから承認を取得しました。また、再生可能エネルギーの導入率を計画的に高めるなど、当社グループ全体で、低炭素社会の形成に向け積極的に取り組んでおり、CDPによる気候変動レポート2019において最高評価のAリストに選定されました。さらに、気候変動が企業に与える影響についてリスクと機会を分析し情報開示を求める国際的なフレームワークTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)に賛同を表明し、気候戦略の強靭性を高めるべく検討を重ねています。
人権については、ガイドラインとして国際的に認知されている国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権方針の作成、デューデリジェンスの仕組み構築など、さらなる非財務価値の向上に取り組んでいます。なお、当社グループのESGをはじめとする非財務価値に関する情報は、IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワークに基づき、統合報告書や環境報告などで開示しています。
(https://www.eisai.co.jp/ir/library/annual/index.html)
当社は、常に最良のコーポレートガバナンスを追求し、その充実に継続的に取り組んでいます。当社のコーポレートガバナンスに関する取り組みについては、「第4 提出会社の状況、4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しているほか、「コーポレートガバナンス報告書」をはじめとして、当社のホームページに掲載しています。
(https://www.eisai.co.jp/company/governance/index.html)