有価証券報告書-第121期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/25 15:11
【資料】
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【項目】
170項目

研究開発活動

当社グループは、強みである皮膚科学技術や処方開発技術、人間科学、情報科学に加えて、デジタル技術や機器開発技術などの新しい科学技術を国や業界を超えて融合し、環境負荷を最小限に日本発のイノベーションを創出することで、資生堂の企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の実現に取り組みます。
資生堂グローバルイノベーションセンター(呼称「S/PARK エスパーク」)をはじめ、米国、フランス、中国、シンガポールの各海外研究開発拠点においては、現地のマーケティング部門と連携しながら、各地域のお客さまの肌や化粧習慣の研究、その特性にあった製品開発に取り組んでいます。2021年は美容・健康産業特区「東方美谷」に設立した、中国イノベーションセンターの本格稼働を予定しており、同地区内で展開する様々な企業・機関と協働し、中国の化粧品業界をリードするとともに、グローバルでの持続的な成長を加速していきます。
当社グループのイノベーションへの取り組みは外部から高い評価を受けており、化粧品技術を競う世界最大の研究発表会「第31回国際化粧品技術者会連盟横浜大会2020」(The 31th IFSCC Congress 2020 Yokohama)において、「口頭発表基礎部門」の最優秀賞を受賞しました。本大会における当社の最優秀賞の受賞は8大会連続、また総受賞回数は通算28回(うち最優秀賞は24回)となり、世界の化粧品メーカーの中では最多の受賞回数となりました。また、第13回中国化粧品学術研討会において、優秀論文として「1等賞」、「2等賞」、「3等賞」をトリプル受賞しました。当受賞は研究内容に加え、中国化粧品業界の技術進歩への貢献が評価されたものです。最も優秀な研究に贈られる「1等賞」については通算7回目の受賞になります。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は270億円(売上高比2.9%)であり、商品カテゴリー別の研究成果は、以下のとおりです。なお、研究開発活動については、特定のセグメントに関連付けられないため、セグメント別の記載は行っていません。
(1) スキンケア
見た目の印象を左右する皮膚の状態を決める要因を解き明かすため、AIを活用し、皮膚を超高精細にコンピューター上に再現して解析する「デジタル3DスキンTM」技術を開発しました。これまで線維芽細胞は真皮中で単独で存在するとの考えが一般的でしたが、この新技術で顔面の皮膚を解析し、超微細な細胞突起まで立体的に観察することで、線維芽細胞は互いに結合してネットワーク構造を形成していることを明らかにしました。また、「線維芽細胞ネットワーク」が失われることで、細胞の状態が悪化し、皮膚の老化に繋がる可能性を示しました。これらの研究成果の一部は化粧品技術者の世界大会「国際化粧品技術者会連盟ミュンヘン大会2018)」(IFSCC Congress 2018)で口頭発表し、最優秀賞を受賞しました。皮膚の若返りが期待できる本研究成果を「エリクシール」へ応用しています。
美容法の中から「圧力」の持つ力に着目し研究を進めた結果、肌に圧力を加えることは、幹細胞リザーバー(皮脂腺周囲)に貯蔵されている幹細胞の増殖を促し、これが細胞のネットワークを構築することで、コラーゲンを生み出し、肌を再生する可能性を明らかにしました。本研究成果の一部は、化粧品技術者の世界大会「国際化粧品技術者会連盟ミュンヘン大会2018(IFSCC Congress 2018)」で口頭発表し、最優秀賞を受賞しました。得られた技術を「クレ・ド・ポー ボーテ」へ採用しました。
日常生活から過酷な紫外線条件下までのあらゆる環境下で、紫外線の悪影響から肌をしっかり守りたいというお客さまのニーズに向けて研究開発に取り組んできました。当社の調査では、天気の良い日に屋外で太陽に当たると、人の体表温度はわずか数分で約40℃にまで達することを確認しています。そこで、太陽の「熱エネルギー」を利用して紫外線防御効果を高める研究を進め、塗布した日焼け止めが太陽の熱などで温められると紫外線防御成分が膜内で均一に広がり、紫外線防御効果が高まる技術を世界で初めて開発しました。得られた技術を「SHISEIDO」、「アネッサ」へ採用しました。顔の皮膚の常在細菌叢を網羅的に解析し、健常な日本人女性の肌において、表皮ブドウ球菌の割合が高いほど肌の水分量は高く、肌の赤みは低いという相関を見出し、また、敏感肌における菌叢の解析を行い、敏感肌では非敏感肌に比べて有意に菌叢の多様性が低く、表皮ブドウ球菌も少ないことを確認しました。新たに開発したプレバイオティクス成分を含む基剤を連用した結果、全ての肌において水分量が改善し、特に菌叢の多様性が低い肌においてキメの改善が確認できました。得られた技術を敏感肌ブランド「dプログラム」へ採用しました。
(2) メイクアップ
昨今、つややかな仕上がりのあるベースメイクアイテムが好まれる一方で、マスクや衣服に付着しやすいという課題がありました。水をはじく性質をもつ疎水化処理粉末を油や界面活性剤に頼らずに水に分散する技術を世界で初めて開発し、粉末が本来もつ特性を最大限に発揮させることに成功しました。今回の技術を用いることにより、瑞々しくうるおった艶やかな仕上がりを実現しながら、均一な塗布膜が肌に密着してマスクに付着しにくい効果の両立を実現することに成功しました。得られた技術を「マキアージュ」へ採用しました。ニューノーマルな生活のなかでも、お客さまが好みの使用感や仕上がりを自由に選択し、化粧を楽しむ生活をサポートします。
また、当社の調査ではシルクのように「なめらか」で「やわらかい」肌触りが好まれていることが分かりました。そこで、心理物理学的手法を用いて人が肌の「やわらかさ」を感じる新しいメカニズムを発見しました。このメカニズムをもとに,なめらかで柔らかい感触を実現する成分や製法を選び出し、「インテグレートグレイシィ」へ採用しました。
(3) ヘアケア
サロントリートメントの技術から発想を得た革新の浸透テクノロジーである①美容成分の通り道を広げる、②美容成分をダイレクトに注入、③美容成分を髪内部にとどめて密封という3ステップのアプローチをシャンプー・コンディショナー、ヘアトリートメント、ヘアウォーターに搭載し、「TSUBAKI」へ採用しました。髪の内側へたっぷりと美容成分を浸透させ、うるおい・艶バランスのベストコンディションに導き、毎日の基本ケアでサロン帰りのような美しい髪を実現します。
(4) ヘルスケア
ヘルスケア領域では、美と健康をつなぐ食品の研究開発を進めています。肌に対するアンチエイジング効果を体の内側から実現するため肌のコラーゲンを生み出す力を高めることに注目しています。コラーゲン産生機能を活性化する力と肌の幹細胞を減らさない力をこれまで以上に強化し、お客さまが求めているハリのある立体的な美しい肌を実現させる美容サプリメント「新 ザ・コラーゲン」を開発しました。
(5) プロフェッショナル
100年以上もの歴史を持つ資生堂の毛髪研究により、頭皮の最深層が育毛の原動力に影響を与えるメカニズムを解明しました。毛根の発毛・育毛の原動力に働きかけるとともに頭皮の深層にアプローチして、クオリティの高い髪の成長をサポートし、ハリ・コシ・ボリューム感のある髪へと育成します。その対応技術を「サブリミック」へ採用しました。
その他の活動としては、環境負荷の最小化を目指し、2019年4月より株式会社カネカと共同開発を進めていました高い生分解性を持つ独自素材「カネカ生分解性ポリマー PHBH®」を、世界に先駆けて化粧品容器に応用し、「SHISEIDO」のリップカラーパレットへ採用しました。ビューティー領域における新価値創造や化粧品だけにとどまらないイノベーションの創出を目的として、オープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」では、資生堂の研究員と外部の多様な知と人の融合から、新たな美のイノベーションを目指して活動しています。その一環として、株式会社マクアケと連携し、クラウドファンディングシステムを活用し、ユニークなフィルム型のサプリで、いきいきとした顔印象をサポートする「Lämmin」(ランミン)のβ版商品のローンチを行いました。生活者とのコミュニケーションを研究員自らが行うことで、今後、よりお客さまに向き合った価値づくりを実践していきます。また、当社が細胞培養加工を担当した毛髪再生に関する共同臨床研究で、安全性及び一定の有効性が確認され、米国皮膚科学会誌(Journal of American Academy of Dermatology)に掲載されました。現在実用化に向け、東京医科大学、東邦大学、杏林大学病院と共同で、より実用的な治療法の臨床研究を推進しています。