有価証券報告書-第124期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 13:50
【資料】
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【項目】
158項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)基本方針
当社グループは、企業活動を行う上での軸・拠り所として企業理念「JGC Way」を制定しております。
「JGC Way」はMission(経営理念)、Values(価値観)、Vision(目指す姿)の3つの要素から構成され、Missionとして、「私たちは、世界を舞台に、技術と知見を結集して、人と地球の豊かな未来を創ります」を掲げ、当社グループ共通のValuesとして、4つのちから、即ち、「挑戦」、「創造」、「結集」、「完遂」を定め、さらに「尊重」、「誠実」を2つの誓いとして明らかにしております。そして、Visionとして、「私たちは、エンジニアリングと機能材の分野で培った技術力をコアに新たな価値を創造し、幅広い分野で社会や顧客の課題解決に貢献する企業グループを目指します」を掲げております。
当社グループは、企業理念「JGC Way」に基づき企業活動を進めていくことで、企業価値の一層の向上を図り、以て社会と地球の持続的な成長に貢献してまいります。
(2)目標とする経営指標、経営環境、中長期的な経営戦略および会社の対処すべき課題
当社グループは、2016年度から2020年度までの5か年を対象とする中期経営計画「Beyond the Horizon」(以下、本計画)を推進しております。
本計画においては、目標とする経営指標として、2020年度の売上高1兆円以上、親会社株主に帰属する当期純利益600億円、自己資本利益率(ROE)10%以上を掲げております。
本計画の基本方針として、総合エンジニアリング事業においては、オイル&ガス分野を中心としつつインフラ分野への領域拡大を掲げ、また同時に機能材製造事業を強化すること等により、さらなる企業価値の向上を目指しております。
加えて、本計画で掲げた企業価値のさらなる向上という目的を確実に、かつスピード感を持って達成するために、複数事業から安定的かつ確実な収益を挙げる企業グループを目指し、当社グループは、2019年10月1日に新たなグループ会社体制として持株会社体制へ移行いたしました。
メインビジネスである海外オイル&ガス分野は原油価格の変動などによるマーケットボラティリティが高いことから、当社グループが持続的な成長を図っていくためには、海外オイル&ガス分野に加えて、第2、第3の収益の柱を早急に構築することが必要であり、加えて、低炭素化の進展に代表されるマクロ環境の変化にスピーディーに対応していく必要があると考えております。
グループとして常に最適な事業ポートフォリオを追求していくためのプラットフォームである持株会社体制のもとで、海外オイル&ガス、海外インフラ、国内の3分野による総合エンジニアリング事業と機能材製造事業による複数事業を通じて持続的な成長を図ってまいります。
【本計画に係る数値目標の進捗状況および今後の取組みについて】
本計画のもと、連結会計年度における2016年度から2019年度までの実績は以下のとおりとなりました。
■売上高 ■親会社株主に帰属する当期純利益 ■ROE
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2016年度から2019年度の業績はグラフが示すとおり厳しい状況となり、本計画期間中での売上高等の目標数値の達成は難しい状況となっておりますが、目標数値に近づけるよう引き続き努力を継続してまいります。目標数値の達成が困難となっている主な要因としては、本計画策定時の想定とは異なり、原油価格が低迷したことでメジャーオイルや産油・産ガス諸国の設備投資が抑制され、大型LNG計画の進展が遅れる等プラントマーケットが停滞した結果、受注高を想定通りに積み上げられなかったことが挙げられます。加えて米国および中東のプロジェクトにおいて、想定以上の天候不順、ビザ発給の遅れによる労働力確保の難しさなどが原因となり、建設工事費用が増加したこと等により、2016年度に多額の損失を計上するに至ったことも業績に影響いたしました。
2018年に入り、徐々に原油価格は回復し、メジャーオイルや産油・産ガス諸国の設備投資再開の動きが見られ、プラントマーケットが回復しつつあった中で、カナダにおける大型LNGプラント建設プロジェクトを受注する等、2018年度の受注高は過去最高の9,354億円となりました。翌2019年度は、受注目標として8,000億円を掲げましたが、新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」という。)の世界的な感染拡大によって世界経済は減速しエネルギー需要も減少する見通しになったことや、原油価格の急激な下落を背景に、顧客の最終投資決定が先送りされたことなどから、未達となりました。
上述の通り、総合エンジニアリング事業の市場環境は、足元では先行きが不透明な状況となっています。しかし、新興国における人口増加に伴い、中長期的にはエネルギー需要の増大が見込まれ、アジア地域や国内でのインフラ設備の需要も、中長期的には堅調な推移が期待されることから、現在、停滞している設備投資計画は、市場環境の回復につれ、徐々に実行に移されていくものと予測されています。
当社グループは、引き続きCOVID-19の感染拡大の防止に努めるとともに、総合エンジニアリング事業においては、市場環境の変化を見極めながら、COVID-19や原油価格の低迷などの影響によってマーケット環境の不透明感がある中でも進展可能性のある案件を確実に受注していくとともに、遂行中のプロジェクトの管理徹底を図ってまいります。また、機能材製造事業については、COVID-19の感染拡大の収束とともに回復が想定される製品需要の増加に備えるほか、グループの中核事業の一つとして位置付け、最適な経営資源の配分を行いつつ、次世代の社会・産業に貢献しうる技術開発の促進、高機能材の提供を推進してまいります。
【本計画に係る重点施策の進捗状況】
当連結会計年度末における本計画の基本方針に基づく重点施策の進捗状況については、以下のとおりです。
【基本方針1】 総合エンジニアリング事業の拡大(オイル&ガス分野の拡大、インフラ分野への拡大)
総合エンジニアリング事業の拡大のため、以下の事業戦略を推し進めております。
戦略1)マーケット拡大
2017年にモザンビーク共和国において、アフリカ地域初となる洋上LNGプラント建設プロジェクトを受注しました。さらに、受注計上時期は顧客の最終投資決定後になるものの、2019年には同国における大型LNGプラント建設プロジェクトを受注しました。加えて、2018年には当社グループにとって過去最大級の受注金額でカナダにおける大型LNG建設プロジェクトを受注しており、将来が有望視される東アフリカ・北米地域など新たな地域における事業を展開いたしました。
戦略2)プロジェクト遂行力強化
高いモジュール製作能力を持つ中国企業との協業、および米国メキシコ湾岸地域で豊富なプラント建設実績を持つ米国の建設会社との協業に合意する等、パートナーとの協業を進めました。
また、2016年度に最終損失を計上して以降、プロジェクトの管理体制の改善を目的として、プロジェクトの入札段階では、それぞれの案件が持つリスクを分類、グレード分けし、それに応じてリスクヘッジを徹底した上で優良案件を選別受注しております。プロジェクトの遂行段階では、リスク項目のグレードに応じて事業会社のマネジメントが、案件によっては持株会社のトップマネジメントがリスクへの対応状況を定期的にモニタリングし、PDCAを組織的に実践する体制を整えております。その他、若手プロジェクトリーダーの育成強化、AI・IoT等のデジタル技術を活用したプロジェクト遂行システムの改革等も積極的に実施し遂行力の強化に努めております。
戦略3)事業領域拡大
総合エンジニアリング事業におけるオフショア分野、およびインフラ分野への事業領域拡大に向けた取組みを着実に実行しております。オフショア分野では、マレーシアにおける洋上LNGプラント建設プロジェクトに引き続き、戦略1)に記載のとおり、モザンビーク共和国でアフリカ地域初となる洋上LNGプラント建設プロジェクトを受注し、オフショア分野への事業領域の拡大を実現することによって、洋上LNGプラント建設のリーディングコントラクターとしての地位を確立いたしました。インフラ分野については、ベトナムにおいて複数の大規模太陽光発電所建設プロジェクトやフィリピンにおける火力発電所建設プロジェクトを受注し、さらにはLNG受入基地建設プロジェクトの優先交渉権獲得を受け、顧客と最終交渉を行っております。
上述の取組みに加え、当社グループは、持株会社体制下において海外オイル&ガス、海外インフラ、国内の3分野で構成する総合エンジニアリング事業、および機能材製造事業による複数事業で持続的な成長を図っていく方針です。海外オイル&ガス分野は、メインビジネスとしてこれまで通り石油・天然ガス・石油化学分野をターゲットとしつつも、環境負荷の小さい天然ガスやLNG分野にも注力していく方針です。海外インフラ分野は、グループ事業の次の柱とすべく、アジアを主要マーケットとして環境に配慮し、地域特性に応じた再生可能エネルギーをはじめとする発電などのインフラ設備の受注拡大を目指してまいります。国内分野はグループの収益のベースロードであり、エネルギー・ケミカル、ライフサイエンス、発電、ヘルスケアなどのインフラ設備を中心に課題先進国日本に貢献していくことを目指してまいります。また国内で開拓した新規事業を海外に展開していくというインキュベーターとしての役割も担ってまいります。
加えて、世界的な課題である環境問題の解決に貢献し、拡大する環境ビジネス市場に対応していくことは、当社グループが持続的な成長を図る上で重要な課題であると認識し、グループ全体で環境分野に対して、これまで以上に注力していく方針です。当社グループは環境関連分野に対して、①関連プラントの設計・建設、②環境負荷の低減に寄与する機能材の開発・製造、③環境技術の早期ビジネス化の3つの観点から取り組んでおります。
具体的には、国内外での多くの大規模太陽光発電所建設プロジェクトの受注、遂行に加え、国内外で数多く計画されている洋上風力発電建設プロジェクトへ参入するために、国内EPC事業を担う日揮㈱の「ウィンドパワープロジェクト事業部」において、新規案件の開拓から見積り、プロジェクト遂行に至るまで、一貫して遂行する体制を構築し、新規案件の受注に向けて取り組んでおります。
また、日揮ホールディングス㈱の「サステナビリティ協創部」では、当面は、現在開発中の次の環境関連技術を対象として、具体的な環境ビジネス構築を目指してまいります。
・DDR型ゼオライト膜によるCO2分離・回収処理
・廃プラスチックのガス化ケミカルリサイクル
・CO2フリーアンモニアを活用したエネルギーチェーンの構築
・CO2の固定化と利用に関する新技術開発と商用化
戦略4)技術優位性追求による受注競争力強化
自然環境が厳しい地域や労働者の確保が困難な地域等、建設工事の遂行が困難な地域におけるプロジェクトが増加傾向にあるなかで、当社グループはオーストラリアにおけるイクシスLNGプロジェクト、ロシアにおけるヤマルLNGプロジェクト等において、モジュール工法に関する経験・知見を確実に積み上げてまいりました。さらに、戦略2)で記載のとおり、高いモジュール製作能力を持つ中国企業との協業を推進することで、他社との差別化および受注競争力強化を図っております。
また、昨今のデジタル化の流れを踏まえて、当社グループの2030年に向けた新たなIT戦略である「ITグランドプラン 2030」を策定いたしました。本プランに基づき、AI・IoT等のデジタル技術を積極的に活用し、プロジェクト遂行の効率化や受注競争力強化を図っております。
【基本方針2】 機能材製造事業の利益拡大
機能材製造事業においては、良好なマーケット環境を背景に、2016年度以降、全体として堅調に推移いたしました。触媒分野においては、FCC触媒のインドネシア向け大口案件を受注する等、海外展開を積極的に進めるとともに、国内シェア拡大に取り組んでおります。ケミカル触媒は、各化学会社の独自の製造プロセスに合わせたカスタム触媒の受託が増加しております。加えて環境保全触媒は、ハニカム(蜂の巣状)触媒のパイオニアとして、世界各国への製造技術のライセンス供与の実績を強みに売上を伸ばしております。ファインケミカル分野においては、マイクロプラスチック代替の化粧品材、フラットパネルディスプレイ向け反射防止材および眼鏡用コート材を中心に事業を拡大しており、コアとなるナノ材料調整技術を基に新規材料・製品の開発および既存製品の用途拡大を目指しております。ファインセラミックス分野においては、デジタル化の進展に伴い半導体関連の洗浄装置用部品、露光装置用部品や光通信用部品等を中心に事業を拡大してきました。加えて、電気自動車(EV)/ハイブリッド車(HV)のパワーモジュール(半導体)向け高熱伝導窒化珪素基板を開発し、現在、量産化に向けた新生産工場の操業準備を進めております。
当社グループは、機能材製造事業をグループの中核事業の一つとして位置づけ、最適な経営資源の配分を行いつつ、次世代の社会・産業に貢献しうる技術開発の促進、高機能材の提供を推進してまいります。具体的には、5Gの普及、EV(電気自動車)/HV(ハイブリッド車)の増加、マイクロプラスチック代替の進展といった環境変化を追い風に、時代が求める新製品を開発していくことで、事業拡大を目指してまいります。
【基本方針3】 基本方針1および2を実現するための財務戦略の策定
本計画においては、自己資本比率50%以上を安定的に維持すること、また、自己資本利益率(ROE)については10%以上とすることを目標として定め、手元資金の配分を行ってまいりました。各目標に対する結果は以下のとおりとなっております。
自己資本比率
過去4年の自己資本比率は、下表のとおり、いずれの年も50%以上を達成し、強固な財務基盤を維持しております。今後も50%以上を安定的に維持することで、顧客からの信頼維持に努めてまいります。
■自己資本比率(単位:%)
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自己資本利益率(ROE)
【本計画に係る数値目標の進捗状況および今後の取組みについて】に記載したとおり自己資本利益率(ROE)は、目標とする10%には達しておりません。
本計画の最終年度となる2020年度においては、引き続き、資本効率が重要課題であることを認識し、マーケット動向の変化を見極めながら、選別受注、プロジェクト遂行力の強化を図ることで確実に利益を創出し、ROEの目標数値に近づけるよう努力してまいります。
手元資金の使途
2016年度に建設工事費用が増加した米国、中東等のプロジェクトでの損失負担に加えて、イクシスLNGプロジェクトにおいて、顧客およびサブコントラクターとの間で懸案事項に関する協議および仲裁が続いており、工事債権や立替費用が増加したこと等によって、多くの手元資金をEPC事業の運転資金に充当いたしました。
2019年度においては、アルジェリアで遂行中の複数プロジェクトでの立替費用の回収が順調に進み、手元資金の流動性は大きく改善いたしました。これら資金の使途として、今後の成長投資に充当していくことを想定しております。
また、株主還元につきましては、配当性向を親会社株主に帰属する当期純利益の30%を目途とする配当政策のもと、業績見通しおよび財務状況等を勘案のうえ、下表のとおり実施してまいりました。事業投資につきましては、新たな案件は厳選のうえ最小限に留める一方、保有資産の一部入れ替えや売却により、資金の回収を図りました。グループ会社関連では、機能材製造事業の拡大を見据えた新工場の建設に資金を充当いたしました。
なお、グループ会社における借入金の返済やEPC事業の運転資金に充当することを目的に、2017年10月に普通社債発行により500億円を調達いたしました。
(株主還元の実績)
2016年度(※1)2017年度2018年度2019年度
1株当たりの
配当額
30.00円25.00円28.50円12.00円
配当性向-38.0%30.0%73.5%
配当金の総額7,569百万円6,307百万円7,190百万円3,028百万円

(※1)2016年度の配当性向につきましては、当期純損失であるため記載しておりません。