訂正有価証券報告書-第176期(平成26年4月1日-平成27年3月31日)

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2016/05/16 11:17
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65項目

研究開発活動

当社グループは、「価値創造」と「生産性向上」による「創造的成長の実現」を経営方針に掲げ、エネルギー、ストレージ、ヘルスケアを注力事業領域として、安心、安全、快適な社会 Human Smart Community の実現を目指します。そのために、360度マーケティングで社会の潜在ニーズや課題をいち早く発掘し、製品である「モノ」から実現される「こと」こそが真の顧客価値だと定義します。そして、革新技術の創出による「バリュー・イノベーション」、東芝グループの幅広い技術資産を多方面に活用して相乗効果を発揮させる「ニュー・コンセプト・イノベーション」を推進することで、新たな顧客価値を創出します。
当期における当社グループ全体の研究開発費は3,527億円であり、事業の各セグメント別の研究目的、主課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりです。
(1) 電力・社会インフラ部門
電力システム社、社会インフラシステム社が中心になって、発電、送変電からパワーエレクトロニクスまで、低炭素かつ高効率な電力・社会インフラの提供を実現する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期の電力・社会インフラ部門に係る研究開発費は693億円です。
・物体を通り抜ける能力が高い宇宙線ミュオンを用いて、原子力発電所の燃料デブリ(原子炉燃料が溶融し、冷えて固まったもの。)の位置や性質を測定する装置を開発しました。ミュオンが物体を通過する際に散乱し進路が変わる性質を利用し、燃料デブリ周辺の構造材の影響を受けずに測定しています。今回の装置は資源エネルギー庁の補助事業「原子炉内燃料デブリ検知技術の開発」の一環として開発したものであり、測定方法は米国ロスアラモス国立研究所と共同で開発したものです。
・新しい発電方式である超臨界CO2サイクル発電システムを実用化するために、米国4社と共同開発を進めています。このシステムは、高温高圧のCO2でタービンを駆動する高効率発電システムであり、発電とCO2回収を同時に実現します。実証試験用に建設される米国・テキサス州のパイロットプラント向けに、タービンと燃焼器を2016年夏から順次供給する予定です。
・全閉式永久磁石同期電動機(PMSM)に、SiC(Silicon Carbide)ダイオードを適用したVVVF(可変電圧可変周波数)インバータ装置を組み合わせた駆動システムを東京地下鉄㈱(東京メトロ)の銀座線に納入しました。本駆動システムは、世界で初めての実運用となり、消費電力量は、従来システムから約37%削減(※1)できます。
・インド原子力エネルギー庁傘下の国営企業Electronic Corporation of India Limitedと共同して、当社として国外で初めてX帯気象レーダー(※2)を同国気象庁から受注しました。今回受注した気象レーダーは、電波の強度、位相、偏波等、多くの項目を測定することにより、半径80km以上の範囲で雨量、風速等の観測ができます。
(2) コミュニティ・ソリューション部門
コミュニティ・ソリューション社、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱、東芝テック㈱が中心になって、ビル、工場、住宅等のファシリティ事業から都市関連事業、リテール事業まで、都市・地域における様々なソリューション事業を展開し、コミュニティ・ソリューション事業を強化する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のコミュニティ・ソリューション部門に係る研究開発費は483億円です。
・水と太陽光のみで稼働し、災害時にライフラインが寸断された場合でも、自立して電気と温水を供給できる自立型エネルギー供給システムの実証実験を行う協定を川崎市と締結しました。本システムは、川崎市臨海部の公共施設「川崎市港湾振興会館(川崎マリエン)」及び「東扇島中公園」に設置され、実証試験を2015年4月から2021年3月末まで実施する計画です。災害時に本システムを活用した場合、300名が約一週間使える電気と温水の供給が可能となります。
・ビルや工場の空調用から生産プロセスの冷却・加熱用などに使用する空冷ヒートポンプ式熱源機「ユニバーサルスマートX」の新シリーズを発売しました。インバータツインロータリー圧縮機の効率改善などにより、省エネ性能を更に向上させ、業界トップクラスの「IPLV 7.0」という高い期間成績係数を実現しました。これは、全負荷運転時だけでなく、中・低負荷での部分負荷運転時にも冷却運転効率が高いことを示す値で、多様な冷温熱負荷に対応できることで様々な用途へ拡大できます。
・紙で出力していたレシートを電子化してPOS(販売時点情報管理)レジスタからクラウドサービスに送信し、スマートフォンのアプリケーションで閲覧できる電子レシートシステム「スマートレシート®」を開発しました。将来は、蓄積データを活用し、様々なサービスと連動するデータマネジメントプラットフォームの事業化を目指します。
(3) ヘルスケア部門
ヘルスケア社、東芝メディカルシステムズ㈱が中心になって、当社グループに分散している医療関連事業を集約し、治療・診断等メディカル領域に加え、医療情報、生体情報、ライフログ情報の解析で健康な生活を実現する予防・予後領域を含めたヘルスケア新規事業の展開を図る研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のヘルスケア部門に係る研究開発費は381億円です。
・日本人ゲノム解析ツール「ジャポニカアレイ®(※3)」を用い、血液、唾液、DNA検体等から短期間で安価にゲノム構造を解析するサービスを開始しました。人間1人の全ゲノムの解析には従来1ヶ月以上の時間と50万円以上の費用がかかっていましたが、本サービスは、日本人に特徴的な遺伝情報を短時間で解読可能な「ジャポニカアレイ®」を活用することで、約一週間、19,800円でゲノム解析が可能となりました。
・エボラ出血熱迅速検査キットの試作品を国立大学法人長崎大学と共同開発しました。2015年3月に西アフリカのギニアで実用性評価を行い、高い判定精度と検査時間が短縮(従来比1/6)される事を確認できました。この成果を高く評価したギニア政府からの要請により、日本政府は同年4月に同キットを無償供与しました。将来的には空港や港湾施設などへ提供し、国内の防疫力強化による安心・安全な社会づくりに貢献することを目指します。
(4) 電子デバイス部門
セミコンダクター&ストレージ社、部品材料事業統括部が中心になって、モバイル機器等向けのNAND型フラッシュメモリや統合ストレージ製品を強化するとともに、高度なデバイスの技術力で全社の製品・システム事業の最大化に貢献する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期の電子デバイス部門に係る研究開発費は1,613億円です。
・世界で初めて48層積層プロセスを用いた3次元構造のNAND型フラッシュメモリを開発しました。フラッシュメモリ素子をシリコン平面から垂直方向に積み上げる構造にしたことで、従来のシリコン平面上に並べた構造よりも、素子密度を大幅に向上しました。
・高性能プロセッサ向けキャッシュメモリで世界最高クラスの低消費電力を実現する新方式の不揮発性磁性体メモリSTT-MRAM(※4)回路を開発しました。メモリ内部の漏れ電流(リーク電流)に起因する電力の問題を解決し、従来と同等の性能を保ちながらプロセッサの消費電力を約80%削減しました。本研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のノーマリオフコンピューティング基盤技術開発プロジェクトにて進めています。
(5) ライフスタイル部門
パーソナル&クライアントソリューション社、東芝ライフスタイル㈱が中心になって、テレビ、タブレット、パソコン等のデジタル情報機器や情報家電を含む家庭用電気機器の高機能技術、省エネ技術、及び制御技術を中心とした研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のライフスタイル部門に係る研究開発費は294億円です。
・業界で初めて4K試験放送の規格に対応したチューナーを内蔵した4Kテレビ「レグザZ10X」シリーズを商品化しました。東芝独自のタイムシフトマシン機能及びTimeOnクラウドサービスにより、新たな映像視聴の世界を創出します。
・業界で初めて「アクティブ静電結合方式」を採用し、紙のノートに書くように小さな文字を書くことができるアプリケーション「Truシリーズ」を搭載したWindowsペンタブレット「dynabook Tab」シリーズを商品化しました。
・グラスファイバー素材を採用することで標準質量1.9kgと軽く、女性や年配の方でも使いやすい強力な吸引力が持続するスティックタイプのコードレスサイクロン式クリーナー「TORNEO V cordless」を商品化しました。
(6) その他部門
クラウド&ソリューション社、東芝ソリューション㈱が中心になって、ICT・クラウド事業に関する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のその他部門に係る研究開発費は63億円です。
・音声認識、音声合成、画像認識等のメディア処理と、それらのデータが持つ意味を理解して分析するなどの知識処理を融合したメディアインテリジェンス技術を様々なソリューションへ適用する共通エンジンの強化を行いました。CRM(顧客関係管理)ソリューション「T-SQUARE®x」(※5)や東邦銀行と共同開発した「インターネットを利用した相続相談サービス」に適用し、機能の差別化を行いました。
(注)※1:社内試験結果に基づく予測値
※2:8~12GHz周波数帯のレーダー。近距離(半径約80km)の範囲で高精度観測を行える。
※3:ジャポニカアレイ®は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の研究成果を活用したものです。
なお、ジャポニカアレイ®は国立大学法人東北大学の登録商標です。
※4:Spin Transfer Torque-MRAMの略。
※5:T-SQUARE®は東芝ソリューション株式会社の登録商標です。