有価証券報告書-第178期(平成28年4月1日-平成29年3月31日)

【提出】
2017/08/10 12:31
【資料】
PDFをみる
【項目】
76項目

研究開発活動

当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、リテール&プリンティングソリューション、ストレージ&デバイスソリューション、インダストリアルICTソリューション領域を中心に、性能・機能・品質の高い「カタチある製品」はもとより、それら製品を通じた顧客との接点を活かした「カタチのあるソリューション」によって社会課題を解決することを目指した技術開発を推進し、社会とともに成長・発展してまいります。
エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを世界に提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。ストレージ&デバイスソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、メモリ・ストレージ領域や、産業・車載領域、無線通信領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。インダストリアルICTソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT(Internet of Things)/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。
当期における当社グループ全体の研究開発費は2,955億円であり、事業の各セグメント別の研究目的、主課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりです。
(1) エネルギーシステムソリューション
エネルギーシステムソリューション社が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のエネルギーシステムソリューションに係る研究開発費は383億円です。
・当社とみずほ情報総研㈱をはじめとする13法人(※1)は、環境省が公募する「環境配慮型CCS実証事業」(※2)に採択されました。当社は、グループ会社である㈱シグマパワー有明の三川発電所(福岡県大牟田市)から1日に排出されるCO2の50%にあたる500トン以上のCO2を分離・回収する設備を建設し、実証運転します。CCSは、新設のみならず既存の火力発電所へ導入可能なCO2削減技術であり、地球温暖化対策への貢献が期待されています。
・自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」の新モデルとして、車載モデルを開発しました。「H2One™」は、再生可能エネルギーと水素を活用して、電力を安定的に供給できるCO2フリーのエネルギー供給システムです。従来の「H2One™」BCP(※3)モデルの水素貯蔵能力を維持しながらも高出力・小型化することで、機動性を高め、災害時には被災地に短時間で移動し、迅速なエネルギー供給を実現します。「H2One™」のラインアップに「H2One™ 」車載モデルを加えることで、広範な電力供給のニーズに対応します。
(2) インフラシステムソリューション
インフラシステムソリューション社、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱が中心となって、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。
当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のインフラシステムソリューションに係る研究開発費は382億円です。
・東京地下鉄㈱の銀座線1000系車両向けに、高い安全性と耐低温特性が特長のリチウムイオン二次電池「SCiB™」と充放電制御装置を組み合わせた非常走行用電源装置を納入しました。本装置は、平常時に架線からの電源で「SCiB™」に蓄電し、停電など非常時には、乗客輸送用の電力を車両へ供給します。今回、要求される安全性と信頼性を高水準で満たしていることが評価され、受注に至りました。今後も、先進的な鉄道車両用システムを国内外で展開するとともに、電気自動車、系統用蓄電池システム、工場などで使われる自動搬送車(AGV:Automated guided vehicle)など、様々な用途で「SCiB™」の展開を目指します。
・東芝エレベータ㈱は、住友不動産六本木グランドタワーに、乗用タイプとして国内最大(※4)の定員・積載量となる90人乗り、分速300mの大型シャトルエレベーター4台を含む合計43台の昇降機を納入しました。このシャトルエレベーター4台を活用することで、10分間で約1,000人を上層階に運ぶことができます。また一部のエレベーターには地震時の自動復旧運転機能(※5)を採用し、地震発生後自動で診断運転を行いエレベーターの運行に支障がないと判断した場合は、フィールドエンジニアの到着を待たずに仮復旧運転が可能となっています。
(3) リテール&プリンティングソリューション
東芝テック㈱が中心となって、リテールソリューション分野、プリンティング事業分野におけるお客様にとっての価値創造を原点とした差異化技術や、商品、サービス及びソリューションを提供するための研究開発を行いました。
当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のリテール&プリンティングソリューションに係る研究開発費は282億円です。
・経済産業省からの委託事業として、㈱トライアルカンパニーの店舗において、世界初(※6)の個人情報保護機能を搭載した電子レシートシステムの実証実験を行いました。東芝テック㈱が運営している電子レシートシステム「スマートレシート®」をベースに、国際標準仕様の電子レシートフォーマット(※7)に対応し、さらに利用者本人(被験者)が自らの個人情報を保護(マスク処理)できる仕組みプライバシーポリシーマネージャー(PPM)(※8)を搭載した電子レシートシステムを使用しました。本実証実験を通じて、レシートの電子化によるペーパーレス化、環境負荷低減に加えて、購買履歴のデータ保護とそれを活用した各種サービスの提供など、買い物客の利便性の向上を目指します。
(4) ストレージ&デバイスソリューション
ストレージ&デバイスソリューション社が中心となって、メモリ・ストレージ領域、車載領域、無線通信領域などに向けた新しい半導体製品やストレージ製品を提供する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のストレージ&デバイスソリューションに係る研究開発費は1,515億円です。
・当社は、64層積層プロセスを用いた3ビット/セル(※9)から成る512ギガビットの3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」(※10)をサンプル出荷しました。回路技術やプロセスを最適化することでチップサイズを小型化し、48層積層プロセスを用いた256ギガビット品と比べて単位面積当たりのメモリ容量を約1.65倍に大容量化しました。2017年後半の量産開始を予定しています。今後も市場で求められるメモリの大容量化、小型化など多様なニーズに応えていきます。
・自動運転を支援する取り組みとして、車載用プロセッサを用いた自動運転技術を開発しました。従来ハイエンドPC(※11)を用いることが一般的だった、演算量の多いカメラ映像から3次元点群(※12)を計測する処理を車載向け画像認識プロセッサ「Visconti™4」で実現しました。さらに、車載用プロセッサで処理可能な演算量で、車両周辺の障害物地図を生成する技術、および障害物を避ける軌道を生成する技術を独自に開発しました。また、これらの技術を自動運転車両に搭載したPCに実装し、国立大学法人名古屋大学と共同で公道での実証実験を行い、ポールなどの障害物を回避できることを確認しました。今後も予防安全と高度な自動運転へ貢献する技術を開発していきます。
(5) インダストリアルICTソリューション
インダストリアルICTソリューション社、東芝ソリューション㈱が中心となって、ICT・クラウド事業など企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。
当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のインダストリアルICTソリューションに係る研究開発費は74億円です。
・当社の信頼性の高い機器を持つ強みとインダストリアル領域での現場の知見を持つ強みを融合したIoTアーキテクチャー「SPINEX™」の提供を開始しました。現場でのリアルタイム処理を実現するエッジコンピューティング、デジタル上に現場の機器を忠実に再現するデジタルツイン、音声や映像などの情報を解析し人の意図や状況を理解し活用するメディアインテリジェンス技術により「SPINEX™」は、産業分野での生産性や安全性の向上、プロセスの最適化、オペレーションコストの削減など、お客様の課題の解決手段を包括的に提供すると共に、新たなデジタルサービスの創出を実現していきます。
・慶應義塾大学理工学部青木研究室との共同研究として、画像・音声認識の技術とディープラーニングの技術を組み合わせ、ラグビーの試合映像を自動で解析し、プレー分析に活用する実証実験を開始しました。本実証実験を通じ、音声や映像から人の意図を理解し人の活動をサポートするコミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の機能強化に繋げ、他産業へ展開していきます。例えば、多人数の動きを同時に認識する技術を工場の動線管理に、また特定プレーを検出する技術を作業内容の検証や作業時間の測定に応用し、製造業の生産性向上に寄与していきます。
(6) その他
東芝クライアントソリューション㈱、東芝映像ソリューション㈱が中心となって、テレビ、タブレット、パソコン等のデジタル情報機器、およびそれらを活かしたサービスの研究開発を行いました。
当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のその他部門に係る研究開発費は319億円です。
・カラーフィルタと独自の画像処理の組み合わせにより、単眼カメラで撮影した1枚の画像から、カラー画像と高精度な距離画像(※13)が得られる独自の撮像技術を開発しました。本方式は、レンズと画像処理で構成されるため、一般的な安価なイメージセンサを利用して構成することが可能です。今後、自動車の運転支援の高度化やロボットなどの遠隔操作によるインフラ点検など、カメラによる画像センシング(※14)の応用が期待されています。
・当社と東芝マテリアル㈱は、レアアースの中でも特に希少な重希土類を一切使用せずに高い磁力と優れた減磁耐性(※15)をあわせ持つモータ用の高鉄濃度サマリウムコバルト磁石を開発しました。本開発品は、高耐熱モータの実使用温度域(140℃以上)において、現在一般的に採用されている耐熱型ネオジム磁石を上回る磁力(※16)を持つとともに、180℃でも優れた減磁耐性を示す世界初(※17)の磁石です。今後、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータ、産業用モータなどへの活用が期待されます。本技術の先進性と実用化が評価され、第49回市村産業賞貢献賞を受賞しました(※18)。
(注)※1:当社、みずほ情報総研㈱、千代田化工建設㈱、日揮㈱、三菱マテリアル㈱、大成建設㈱、㈱ダイヤコンサルタント、㈱QJサイエンス、日本エヌ・ユー・エス㈱、国立研究開発法人産業技術総合研究所、一般財団法人電力中央研究所、国立大学法人東京大学、国立大学法人九州大学の13法人。
※2:Carbon dioxide Capture and Storageの略で、二酸化炭素回収・貯留のこと。
※3:Business Continuity Plan(事業継続計画)の略。
※4:2017年6月現在。東芝エレベータ㈱調べ。
※5:本機能はフィールドエンジニア到着までの間、エレベーターの運転を仮復旧させることを目的とし、通常の運転に復帰させる場合はフィールドエンジニアによる点検が必要となります。
※6:2017年2月現在。当社調べ。
※7:ARTS国際標準仕様の標準電子レシートフォーマット。ARTS(Association for Retail Technology Standards)は、全米小売業協会(NRF)傘下の国際標準化団体です。
※8:PPMは㈱KDDI総合研究所が開発した技術で、利用者自身が定めたポリシーに応じて、パーソナルデータの流通制御やマスク処理、利用同意支援、提供状況の可視化機能などを提供する仕組みです。本実証実験では、個人情報やレシート情報のマスク処理機能、提供状況の可視化機能、わかりやすい利用規約を提供します。
※9:1つの記憶素子(メモリセル)あたり3ビットのデータを格納する記録方式。
※10:従来のシリコン平面上にフラッシュメモリ素子を並べた構造ではなく、シリコン平面から垂直方向にフラッシュメモリ素子を積み上げ、素子密度を大幅に向上した構造。
※11:消費電力の大きい高性能GPU(Graphics Processing Unit)や高クロックのCPU(Central Processing Unit)を搭載している等、高位スペックのPC。
※12:2次元の画像における特徴点に、カメラから特徴点までの距離情報を付加して3次元化した点の集合をいいます。
※13:撮影画像を光の強さや周波数(色)としてではなく、対象までの距離情報として表したもの。
※14:画像情報を用いて対象を非接触で計測し数値化すること。
※15:熱や外部磁界に対抗して磁石が磁束を保とうとする性質のことを指し、モータ設計上重要な性質です。
※16:磁力とは、単位面積当たりの磁力線の数(磁束量)のことを指します。磁束密度とも呼ばれます。
※17:2016年11月現在。当社調べ。
※18:市村産業賞は、公益財団法人新技術開発財団により主催され、優れた国産技術を開発することにより産業分野の発展に貢献・功績のあった技術開発者またはグループに贈られる権威ある賞です。