有価証券報告書-第181期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/07/30 10:33
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130項目

研究開発活動

当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、ビルソリューション、リテール&プリンティングソリューション、デバイス&ストレージソリューション、デジタルソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。
エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかう機器・システム・サービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。ビルソリューションでは、スマートで品質の高い昇降機、空調機器、照明機器やサービスを提供することにより、快適なビル環境を提供します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。デバイス&ストレージソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、データセンター向けなどのストレージ領域、産業・車載領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。デジタルソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。
当期における当社グループ全体の研究開発費は1,589億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。
(1) エネルギーシステムソリューション
東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかうための機器・システム・サービスを提供することを通じて培った技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。
主な成果としては次のものが挙げられます。
・再生可能エネルギーを活用した世界最大級となる10 MWの水素製造装置を備えた水素エネルギーシステム(福島水素エネルギー研究フィールド)の建設が完了し、2019年10月から試運転を開始しました。これにあたり、次の二つの特長を持つ制御システムを開発しました。現在その性能確認を進めており、水素エネルギーによる電力系統需給バランス調整とクリーンな水素の製造を両立させる基礎技術の確立を目指します。
1) 水素需要と電力系統需給バランス調整の二つの要求を満たし、かつコスト最小化と太陽光発電の最大限利用を両立させるプラント運転計画を最適化手法により求める。
2) 1)の運転計画に基づいて、水電解装置と太陽光発電用パワーコンディショナー等を協調制御し、リアルタイムな状況変化にも適応する最適運転を行う。
当セグメントに係る当期の研究開発費は189億円です。
(2) インフラシステムソリューション
東芝インフラシステムズ㈱が中心となって、公共インフラ、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。
主な成果としては次のものが挙げられます。
・鉄道車両システムのさらなる省エネ化を進めるため、高性能リチウムイオン二次電池SCiB™搭載の「非常走行用電源装置」、All-SiC(※1)素子採用の「VVVF(※2)インバータ装置」、新型の主電動機の3つを組み合わせた駆動システムを、世界で初めて東京メトロ丸ノ内線に導入しました。これにより、従来と比較して27%(※3)もの省エネを実現しました。「非常走行用電源装置」では、バッテリでの回生(※4)吸収機能、力行(※5)アシスト機能も検証しており、電車がブレーキをかけた際に発電される電力を蓄え再利用することができることから、エネルギーの損失を低減しています。「VVVFインバータ装置」に新開発のAll-SiC素子を採用したことにより、エネルギー損失を大きく低減し、装置の小型化を実現、非常走行用電源装置の搭載スペースを確保しました。新型の主電動機は、前述の「VVVFインバータ装置」に特化した設計にしたことにより、高効率のモータであるPMSMの更なる高効率化と回生性能を向上することに成功しています。
※これらの製品開発の一部は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から支援を受けた「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」の実証開発「All SiCデバイスを用いた高効率小型電力変換器システムの開発」の一環として実施しました。
当セグメントに係る当期の研究開発費は218億円です。
(3) ビルソリューション
東芝エレベータ㈱、東芝キヤリア㈱、東芝ライテック㈱が中心となって、ビルの価値を高める製品及びサービスを継続的に提供するための研究開発を行いました。
主な成果としては次のものが挙げられます。
・エレベーターの主要機器に加速度センサーを設置し、それぞれの機器に加わる揺れを直接計測する方式の地震時自動復旧運転機能を開発しました。これにより、地震で運行を休止したエレベーターの仮復旧運転を行う確率が、従来機能と比較して20%(※6)向上しました。従来の機能では、昇降路内や機械室に設置した地震感知器の計測値から、エレベーター機器に加わる揺れを間接的に検知して自動復旧運転の可否を判断しておりましたが、新たに開発した機能では、主要機器に無線方式の加速度センサーを設置しました。機器に加わる地震の揺れを直接計測し、検出精度をさらに向上させることで、自動復旧運転機能の動作する可能性を高めました。これにより、地震時におけるエレベーターの早期サービス提供開始可能性を高め、ご利用者への更なる利便性向上をご提供します。
当セグメントに係る当期の研究開発費は189億円です。
(4) リテール&プリンティングソリューション
東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。
主な成果としては次のものが挙げられます。
・店舗の運用に応じて自在に設置できる小型スキャナ「IS-200シリーズ」を開発し、カート型セルフレジ用のカート取付けタイプを2019年9月に、スタンド・手持ち・平置きが可能な汎用タイプを同年12月に発売しました。カート取付けタイプは、従来のハンドスキャナの運用と比べてハンズフリーでスピーディな運用が可能となり、スキャン効率を高めることができます。汎用タイプは、スタンドを取外すことで平置きが可能となり、商品スキャンに加えて、お客様のスマートフォンに表示されたバーコードやQRコードをスキャンする端末としても利用できます。
当セグメントに係る当期の研究開発費は269億円です。
(5) デバイス&ストレージソリューション
東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、データセンター向けなどのストレージ製品や、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。
主な成果としては次のものが挙げられます。
・東芝デバイス&ストレージ㈱は最新世代プロセス(※7)を採用したトレンチ構造MOSFET「U-MOS X-Hシリーズ」初の製品である100V耐圧NチャネルパワーMOSFET「XK1R9F10QB」を開発しました。48V系車載機器のロードスイッチ、スイッチング電源、モーター駆動などに適し、低抵抗パッケージに搭載することにより業界トップクラス(※8)の低オン抵抗を実現しました。最大オン抵抗を1.92mΩ(※9)に抑え、従来製品「TK160F10N1L」と比べて約20%低減しました。これにより機器の低消費電力化に貢献します。さらに、MOS構造の最適化によりスイッチングノイズが少なく、機器のEMI(※10)低減に貢献できます。また、しきい値電圧幅を1Vに抑え、並列使用時の電流アンバランスを抑制します。
当セグメントに係る当期の研究開発費は407億円です。
(6) デジタルソリューション
東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。
主な成果としては次のものが挙げられます。
・製造業のバリューチェーンのデジタル化の進展に対応するため、東芝デジタルソリューションズ㈱は、当社グループのものづくりのノウハウを凝縮したデジタルツインと、工場及び設備メーカー向けのアプリケーションやテンプレートを組み合わせ、サブスクリプション型のサービスとして、「製造業向けIoTサービス Meister Cloud™シリーズ」を提供開始しました。本サービスにより、サプライヤーや海外拠点・製造プロセスを含むサプライチェーンを横断したトレーサビリティ、工場と設備メーカーとの間でのデータ共有などの実現を可能にするとともに、クラウド上でのさまざまなアプリケーション連携を容易にします。なお、当社グループが推進しているオープンな標準プラットフォームであるToshiba IoT Reference Architectureに基づいて開発・整備されたIoTサービスの第一号であり、さまざまなステークホルダーの垣根を超えた共創も進めてまいります。
当セグメントに係る当期の研究開発費は57億円です。
(7) その他
研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。
・血液中のマイクロRNA(※11)を使った簡便で高精度ながん検出技術を開発しました。当社独自の電気化学的なマイクロRNA検出技術を活用することで、すい臓がん、乳がんなど13種類のがんの患者と健常者を2時間以内に99%(※12)の精度で網羅的に識別できることを研究開発レベルで確認しました。本成果は、当社と学校法人東京医科大学及び国立研究開発法人国立がん研究センター研究所の共同研究によるものです。当社は今後、早期の社会実装に向けて実証試験を進めてまいります。
・大規模で複雑な組合せ最適化問題の高精度な近似解(良解)を短時間で得る当社独自の「シミュレーテッド分岐アルゴリズム(Simulated Bifurcation アルゴリズム。以下「SBアルゴリズム」という。)」の高速性を最大限引き出す専用大規模並列処理回路(※13)を開発しました。今回の回路の開発によって、金融取引の最適化、産業用ロボットの動作の最適化、移動経路や送電経路の最適化など超高速で良解を選び応答することが必要な分野にSBアルゴリズムを適用できます。本回路を搭載することで大規模並列計算が可能となり、より高速に良解を算出できます。また、SBアルゴリズムを搭載した超高速な金融取引マシンのコンセプト実証機(Proof-of-Concept。以下「PoC機」という。)を開発しました。本PoC機により、刻々と変化する外国為替市場において膨大な通貨の組合せパターンの中から利益率が最大となる裁定取引の機会を90%(※14)以上の高確率で発見し、売買注文の発行までをマイクロ(100万分の1)秒級の時間で完了することが可能となります。最良の裁定取引を瞬時に発見・実行するPoC機の実証は世界初です。
当期の研究開発費は260億円です。
(注)※1:SiC (Silicon Carbide): 炭化ケイ素
※2:VVVF (Variable Voltage Variable Frequency): 可変電圧可変周波数制御
※3:2019年5月22日現在、東芝インフラシステムズ㈱調べ。
※4:車両のブレーキ力を電力に変換して返すこと。
※5:電力の供給を受けて車両が加速すること。
※6:2020年3月現在、東芝エレベータ㈱シミュレーション結果に基づく。
※7:2020年2月25日時点。
※8:同耐圧の製品、同一パッケージクラスにおいて。
2020年2月25日時点、東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。
※9:周囲温度Ta=25℃条件において。東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。
※10:EMI (Electro Magnetic Interference): 電磁妨害
※11:マイクロRNA 体の中で遺伝子やタンパク質を制御している20塩基程度の短い核酸分子で、血液中にも安定に存在していることが知られている。最近、血液中のマイクロRNAの種類と量を調べると、肺がんや乳がんなどの様々ながんを早期に見つけられる可能性のあることが分かり、新しい診断マーカーとして期待されている。
※12:2019年11月、当社調べ。
※13:K. Tatsumura, A. R. Dixon, H. Goto, "FPGA-based Simulated Bifurcation Machine," The International Conference on Field-Programmable Logic and Applications (FPL), pp.59-66 (2019)
https://ieeexplore.ieee.org/document/8892209
※14:2019年10月、当社調べ。