訂正有価証券報告書-第177期(平成27年4月1日-平成28年3月31日)

【提出】
2016/07/28 13:59
【資料】
PDFをみる
【項目】
69項目

研究開発活動

当社グループは、エネルギー、ストレージ、社会インフラ領域を中心に社会の課題を解決し、安心、安全、快適な社会の実現をめざします。社会の潜在ニーズや課題をいち早く発掘して革新技術を創出し、当社グループの幅広い技術資産を多方面に活用することで相乗効果を発揮させ、新たな価値を創造していきます。
エネルギー領域では、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率のよい活用を進めます。また、クリーンなエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを世界に提供することでCO2排出量を抑制し、低炭素社会の実現に貢献していきます。ストレージ領域では、飛躍的に増大する情報量に対応すべく、大容量ストレージ技術をさらに強化し、これをベースとした情報システムやクラウド基盤を提供することで情報化社会のインフラ作りに貢献していきます。社会インフラ領域では、ビル・施設、公共インフラなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現をめざします。
当期における当社グループ全体の研究開発費は3,609億円であり、事業の各セグメント別の研究目的、主課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりです。
(1) 電力・社会インフラ部門
電力システム社、社会インフラシステム社が中心になって、発電、送変電からパワーエレクトロニクスまで、電力エネルギーの安定的な供給や低炭素かつ高効率な電力・社会インフラの提供を実現する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期の電力・社会インフラ部門に係る研究開発費は749億円です。
・送電線や変電所などの送配電設備を監視制御する次世代監視制御システムの開発を進め、2018年から東京電力㈱へ順次納入する予定です。本システムは、地方送配電系統の運用と遠方制御に係る設備監視を一貫して実施するシステムで、国際標準規格を採用して高い相互接続性を実現します。東京電力㈱の基幹事業である送配電系統運用業務の効率化に貢献し、同社とともに国際規格に準拠したシステム等の海外展開を目指していきます。
・再生可能エネルギーと水素を活用して、電力と温水を安定的に供給できるCO2フリーの自立型水素エネルギー供給システムを、川崎市臨海部の公共施設において実証試験を実施しています。このシステムは、川崎市にあるJR南武線武蔵溝ノ口駅にも設置され、2017年春から稼働を予定しています。今後もBCPモデル、リゾートモデル、離島モデル、事業所モデルなど幅広い用途で展開し、CO2を排出しないクリーンな水素社会の実現に貢献していきます。
・早稲田大学と共同で、ケーブルを接続しなくても充電が可能な最新のワイヤレス充電装置とリチウムイオン二次電池SCiB™を搭載したEVバスを中心とするEVバスシステムを開発しました。国際戦略総合特区である川崎市殿町のキングスカイフロント地区及び羽田空港周辺地域において、川崎市・全日本空輸㈱の協力を得て、公道実証試験を開始しました。
・東海旅客鉄道㈱と協力し、3.3kVの高耐圧SiC(炭化ケイ素)デバイスを適用した新幹線用主変換装置(※1)を東海道N700系新幹線車両へ搭載し、東京~新大阪間での走行試験を開始しました。本走行試験は、SiCデバイスを適用した主変換装置を高速鉄道に導入した世界で初めて(※2)の試験であり、実用化に向けて大きく前進したことになります。この走行試験を通じて、走行性能や主変換装置の制御性能・温度性能等の確認、評価を実施しています。
(2) コミュニティ・ソリューション部門
コミュニティ・ソリューション社、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱、東芝テック㈱が中心になって、ビル、工場、住宅等のファシリティ事業から都市関連事業、リテール事業まで、都市・地域における様々なソリューション事業を展開し、コミュニティ・ソリューション事業を強化する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のコミュニティ・ソリューション部門に係る研究開発費は537億円です。
・国土交通省国土技術政策総合研究所が2015年度に実施した「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」に採択された「バイオガス中のCO2分離・回収と微細藻類培養への利用技術実証事業」において、佐賀市下水浄化センター内の実証施設での検証を行っています。当社が開発した設備では、これまで利用されていなかった下水処理施設から発生する消化ガス(バイオガス)中のCO2及び高純度のメタンを同時に回収することが可能です。本実証事業を通じて、下水処理施設における未利用資源の有効活用と新たな高付加価値資源の創造を確立していきます。
・増加する訪日外国人(インバウンド)の多様なニーズに対応するため、同時通訳などのメディアインテリジェンス(※3)技術を利用し、観光行動や購買データなどとシステムを有機的に結合し、集客・接客をサポートする「トータルインバウンドサービス」の提供を開始しました。本サービスは、「福岡・天神地下街」で集客力・回遊性・接客のサービス向上のための実証実験を実施しました。
(3) 電子デバイス部門
セミコンダクター&ストレージ社、部品材料事業統括部が中心になって、モバイル機器等向けのNAND型フラッシュメモリや統合ストレージ製品を強化するとともに、高度なデバイスの技術力で全社の製品・システム事業の最大化に貢献する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期の電子デバイス部門に係る研究開発費は1,969億円です。
・マイクロ波磁界を用いることによって、多層の磁性体の磁化の向きを、層を選択して反転させる磁化反転技術を開発しました。この新技術は、ハードディスクの大容量化を実現するために記録層を多層化(3次元構造)した高記録密度の磁気記録への応用が期待されます。
なお、この研究開発は、国立行政法人科学技術振興機構(JST)における研究成果展開事業「戦略的イノベーション創出推進プログラム」の一環として実施しています。
・カメラからの入力映像を処理し、自動車前方の車線、車両、歩行者、標識などを認識する画像認識プロセッサ「Visconti™2」が、㈱デンソーの車載用前方監視カメラシステム向けに採用されました。当社独自の画像処理アクセラレータにより、複数のアプリケーションの同時・並列処理と低消費電力動作を実現したことが評価されました。車載向け半導体市場では、より安全で快適な車社会の実現に向け、先進運転支援システムの重要性がより高まるとともに、将来的には自動運転のニーズが高まることが見込まれています。
・これまでに、48層2ビット/セルから成る128ギガビット/チップの3次元フラッシュメモリBiCS FLASHTMをサンディスク社と共同で開発し、2015年3月にサンプルを出荷しました。さらに3ビット/セルへの適用も進め、256ギガビット/チップのサンプルを出荷しました。従来のフローティングゲートNAND型フラッシュメモリと比較して、2倍の容量を実現しており、急成長が見込まれるストレージ市場への適用に向けて更なる大容量化を図っていきます。
(4) ライフスタイル部門
パーソナル&クライアントソリューション社、東芝ライフスタイル㈱が中心になって、テレビ、タブレット、パソコン等のデジタル情報機器や情報家電を含む家庭用電気機器の高機能技術、省エネ技術、及び制御技術を中心とした研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のライフスタイル部門に係る研究開発費は205億円です。
・チューリッヒ保険会社向けにテレマティクス技術(※4)を活用した、運転者支援ソリューションを提供しました。本サービスでは、自動車の事故を検知した場合(※5)に、事故受付センターへ自動的に通知する機能、安全運転のアシスト、車載カメラによる動画の記録などのサービスを提供します。今後、自動車保険業界は、テレマティクス技術によるビッグデータ収集により、様々なサービスへの可能性や需要が見込まれます。端末からのデータの収集と解析に加え、PC開発で培った技術を活かした幅広いソリューションをワンストップで提供していきます。
(5) その他部門
インダストリアルICTソリューション社、東芝ソリューション㈱が中心になって、ICT・クラウド事業に関する研究開発を行いました。
当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のその他部門に係る研究開発費は149億円です。
・1台のカメラで広範囲を撮影した映像から、人や車の数を高精度に計測できる技術を開発しました。本技術は、人や物が重なって映っていたり、非常に小さく映っていたりしても対象を見つけ出すことができ、各大学が公開している評価用画像データ(※6)における計測誤差で、世界最高性能を達成しました。トラブルが発生する原因となり易い人や車の密集、交通渋滞等を高精度に計測し、混雑緩和対策の検討に貢献します。また、防犯等セキュリティ分野への応用により、安心・安全な社会の実現にも貢献します。
(注)※1:架線からの交流電力を直流に変換するコンバータと直流から主電動機を駆動させる為の三相交流に変換するインバータを一体とした、車両の力行、回生を制御する電力変換装置。
※2:2015年6月現在。当社調べ。
※3:音声・映像・文字データを人が理解するように知的に処理するメディア知識処理を中心とする技術領域の名称。
※4:テレコミュニケーション(Telecommunication=通信)とインフォマティクス(Informatics=情報工学)から作られた造語で、車などの移動体に通信手段を用いて、データサービスを行うことを指します。
※5:各種センサーの状態から危険挙動を検知しますが、すべての危険挙動をもれなく検知することを保証するものではありません。また、危険挙動ではないものを危険挙動と検知することもあります。
※6:手法の評価を目的として各大学が公開している画像データ。人数計測の評価に一般的に用いられるMallデータ及びUCSDデータに対して評価しました。