有価証券報告書-第150期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/29 15:19
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145項目

研究開発活動

当社は、高度な技術でさまざまな社会課題を解決し、持続可能な社会の実現に貢献するべく、現有事業の強化と変革、新たな価値創出に資する以下の研究開発をバランスよく推進してまいります。
・収益向上の原動力となるコア技術の徹底強化
・事業を支える土台となる基盤技術の継続的深化
・次なる成長の源泉となる新技術の探索・創出
今後は特に、AI技術の事業適用加速、IoT技術基盤の整備・拡充、DXによる開発手法の変革に取り組んでまいります。また、大学など社外研究機関とのオープンイノベーションを積極的に活用し、開発加速と価値創出に取り組んでまいります。
当連結会計年度における三菱電機グループ全体の研究開発費の総額は1,905億円(前連結会計年度比92%)であり、事業セグメントごとの主な研究開発成果は以下のとおりです。
(1) 重電システム
発電機・電動機などの回転機、開閉機器・変圧器などの送変電機器や受配電機器、交通システム、ネットワークソリューション機器、昇降機などの基幹製品の競争力強化に向けた開発を行うとともに、監視制御システム、電力情報システム、ビル管理システム、映像情報システムなどIT応用システムの開発を行っています。当該分野における研究開発費は347億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 長期計画策定支援システム
配電設備の状態から分析したリスクに応じ、設備投資計画の最適化を支援する「長期計画策定支援システム」を開発しました。配電設備の経年劣化による電力供給への支障や、電柱の倒壊などの公衆災害を未然に防止するとともに、透明性の高い最適な設備投資計画の立案・実行に貢献します。
② 鉄道車両向け同期リラクタンスモーターとインバーター制御技術
鉄道車両向けに世界最大級の出力を実現した高効率同期リラクタンスモーターと、それを可変速制御するインバーター制御技術を、世界で初めて*1開発しました。独自の電磁界解析技術を活用した回転子構造の最適化などによって世界最大級の最大出力(450kW級)を実現し、既存の高効率誘導モーター*2比50%の損失削減(当社従来製品比)に成功しました。今後製品適用することで、鉄道車両の更なる省エネ化に貢献します。
③ スマートシティ・ビルIoTプラットフォーム「Ville-feuille」
クラウド上に蓄積したビル設備データの利活用を可能にする独自のスマートシティ・ビルIoTプラットフォーム「Ville-feuille(ヴィルフィーユ)」を開発し、これを活用した新たなビル運用支援サービスを開始しました。ビル内のロボット移動支援やエネルギーマネジメントなどのサービスを提供し、スマートシティ及びスマートビルの実現に貢献します。
(2) 産業メカトロニクス
FA制御システム機器、サーボモーターなどの駆動機器、配電制御機器、メカトロ機器、産業用ロボット、電動パワーステアリングなどの自動車用電装品、カーマルチメディア機器、予防安全(自動運転)・運転支援系システムなどの競争力強化に向けた開発を行っています。当該分野における研究開発費は604億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 協働ロボット「MELFA ASSISTA」
衝突検知などの安全機能を備えた人と共に作業ができる協働ロボット「MELFA ASSISTA」と、本ロボットの導入・立ち上げを容易にするプログラム作成ツール「RT VisualBox」を開発しました。直感的な操作が可能な本製品により、製造現場への導入が容易となり、事業環境変化への柔軟な対応と生産性向上、TCO*3削減と共に、製造現場における作業者間の距離確保という新たな課題の解決にも貢献します。
② 多用途搬送サービスロボットシステム
自律走行ロボットとしてさまざまな用途に対応可能な、脱着型カート方式による「多用途搬送サービスロボットシステム」を開発しました。本ロボットはセンシングや管制システムによる安全な自律走行に加え、エレベーター・入退室管理システムなどの施設内設備と連携することで、施設内の自律的な縦横移動を実現します。今後は病院や商業施設などにおける実証と実運用に向けた開発を進め、多様化する搬送需要への対応と事業者の省力化に貢献します。
(3) 情報通信システム
情報通信インフラや宇宙関連システムなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は88億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 宇宙機・衛星開発へのMBSE*4適用
デジタル技術と複数のモデルを利用し、大規模化・複雑化するシステムを円滑に開発する手法であるMBSEを宇宙機・衛星開発へ適用するため、MBSE開発プロセスのガイドライン化を実施しました。今後もMBSEを宇宙機・衛星開発のデジタル化の柱と位置付けて継続的に適用し、設計・製造の柔軟性の向上や更なる信頼性向上、開発期間の短縮及び低コスト化につなげていきます。
② 映像解析ソリューション「kizkia-Knight*5」
サーマルダイオード赤外線センサーで取得した人やモノなどの表面温度データを活用し、暗い場所や夜間での転倒やうずくまりなどをAI技術で自動検知する映像解析ソリューション「kizkia-Knight(きづきあ-ないと)」を開発しました。プライバシーに配慮した見守りや夜間の見守りが可能となり、トイレや居室などにおける24時間365日の見守りサービスを実現します。
(4) 電子デバイス
様々な事業分野を支える半導体デバイスなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は104億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 高性能パワー半導体モジュール
新開発のSiC*6パワー半導体チップを搭載した「産業用第2世代フルSiCパワーモジュール」、「SiC-MOSFET*7 1200V-Nシリーズ TO-247-4パッケージ」を開発しました。電力損失を低減し、パワーエレクトロニクス機器の高効率化、小型・軽量化に貢献します。また最新のSiパワー半導体チップを搭載した「HVIGBT*8モジュール XシリーズdualタイプHV100」を開発しました。耐電圧3.3kV、業界最大*9の定格電流600Aを実現し、電鉄・電力向けインバーターの高出力・高効率化に貢献します。
② 次世代高速光ファイバー通信用デバイス
第5世代移動通信システム(5G)基地局からのデータを束ね、光ファイバー通信網に接続する次世代光デバイスとして「100Gbps EML*10 CAN*11」を開発しました。高速での光変調が可能なEML素子の高性能化とPAM4*12方式の採用により従来(25Gbps)比4倍の伝送速度を実現し、5Gの高速大容量化に貢献します。
(5) 家庭電器
空調機器、調理家電、家事家電、照明機器、デジタル映像機器、電材住設機器などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は423億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① IoT基盤技術Linovaの新機能と家電統合アプリMyMU*13
IoT基盤技術Linovaの新機能として、製品稼働データの取得・蓄積・提供、製品の運用・使用方法支援、他社製品・サービスとの連携を実現する機能を開発しました。また、その機能を操作する家電統合アプリMyMUを開発し、ルームエアコン、エコキュート、バス乾燥・暖房・換気システムなど様々な家電の操作及び家電間の動作連携を1つのスマートフォン用アプリで実現しました。LinovaとMyMUの活用により、ユーザーの暮らしのクオリティ向上に貢献します。
② 三菱ルームエアコン「霧ヶ峰 FZ・Zシリーズ」
帯電させた水の微粒子「ピュアミスト」による空気中の菌、ウイルス、カビ菌、花粉の活動抑制機能*14、AI技術と高性能赤外線センサーを搭載した「ムーブアイmirA.I.+(ミライプラス)」で室内の温湿度変化を先読みすることによる運転自動オン・オフ機能(業界初*15)、スマートフォンの画面上の熱画像を確認しながら気流の方向を調整できる「タッチ気流」機能(業界初*16)を開発しました。「新しい生活様式」の実践により室内で過ごす時間が増える中、ユーザーが求める空気の清潔性と快適性、省エネ性を実現します。
(6) その他・共通(先端技術・共通基盤技術)
社会課題解決による顧客価値の創出を目的として、先端技術の研究開発を推進しています。当該分野における研究開発費は337億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① レーダーによる津波の浸水深*17予測AI
AI技術「Maisart*18」を活用し、レーダーで検出した海表面の流速値から、陸地での津波浸水深を予測する「レーダーによる津波の浸水深予測AI」を開発しました。津波検出後数秒程度の短時間で陸地での津波浸水深の高精度予測が可能となり、迅速な避難計画の策定支援と沿岸地域の防災・減災に貢献します。
② AIで話し言葉から要約文を自動生成する「知識処理に基づく対話要約技術」
AI技術「Maisart」を用いて、話し言葉から書き言葉の要約文を高精度に自動生成する「知識処理に基づく対話要約技術」を開発しました。コールセンターにおける報告書作成時間の半減*19を実現し、オペレーター業務の効率化に貢献します。
③ 5G基地局用GaN*20増幅器モジュールの小型・高効率化技術
GaN増幅器モジュールの小型・高効率化技術を開発しました。6mm×10mmと小型ながら世界最高*21の電力効率43%以上*22を実現し、5G基地局の小型化と設置性向上、低消費電力化に貢献します。
④ AI配筋検査システム
AI技術「Maisart」を活用し、コンクリート構造物の建設時に鉄筋が正しく配置されていることの検査(以下、配筋検査)を支援する「AI配筋検査システム」を開発しました。ステレオカメラを搭載した端末で撮影した画像から、鉄筋の本数、径(太さ)、間隔の自動計測を瞬時に行い、検査にかかる時間や手間を軽減できます。配筋検査の省力化を通じて、建設現場の生産性向上に貢献します。
⑤ ゲル封止型パワーモジュールの信頼性向上技術
車載用パワーユニット向けゲル封止型パワーモジュールの信頼性向上技術を開発しました。通電時に半導体と配線の接合部にかかる熱応力を当社従来比3分の1に低減することにより、当社従来比5倍の接合部寿命を実現し、パワーユニットの信頼性向上に貢献します。
⑥ 広域遠隔ネットワークを活用した海外新工場での改善サイクルの高速化
海外新工場と国内工場間で稼働情報や品質情報を共有する広域遠隔ネットワークを構築しました。国内工場から海外新工場の生産・品質状況をリアルタイムで確認できるようになり、リモート管理ニーズにも対応した改善サイクルの高速化を実現します。
*1 2020年11月26日現在(当社調べ)
*2 固定子の回転磁界と、その回転磁界によって回転子導体に誘導電流が流れることで発生する磁束との相互作用によりトルクを発生させるモーター
*3 Total Cost of Ownershipの略:総保有コスト
*4 Model-Based Systems Engineeringの略:デジタルの力と複数のモデルを利用することで複雑化するシステム開発を円滑に進めるための手法
*5 「kizkia-Knight」は三菱電機インフォメーションシステムズ㈱が商標出願中です
*6 Silicon Carbideの略:炭化ケイ素
*7 Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略:金属酸化膜半導体製の電界効果トランジスタ
*8 High Voltage Insulated Gate Bipolar Transistorの略:高耐圧絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ
*9 2020年12月17日現在、耐電圧3.3kVのSi IGBTモジュールにおいて(当社調べ)。
*10 Electro-absorption Modulator Laserの略:電界吸収型光変調器を集積した半導体レーザー
*11 光通信用デバイスで広く用いられている生産性(量産性)に優れた標準パッケージ
*12 4-level pulse-amplitude modulationの略:4値パルス振幅変調。従来の「0」と「1」から成る2値のビット列でなく、4値のパルス信号として伝送する方式
*13 My Mitsubishi Unified applicationsの略
*14 25m3密閉空間での試験結果。実使用空間での実証結果ではありません
*15 2020年9月1日現在、家庭用エアコンにおいて(当社調べ)。部屋の中を360°センシングして、少し先の温度と湿度の変化を予測し、運転モード、気流に加え、オフ(スタンバイ)にする技術
*16 2020年9月1日現在、家庭用エアコンにおいて(当社調べ)。部屋の中を200°センシングして、室内の熱画像をスマートフォン画面に表示し、熱画像上で気流の送り先を調整する機能
*17 地盤の高さから津波が到達したときに浸水する深さ
*18 Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略:全ての機器をより賢くすることを目指した当社のAI技術ブランド
*19 コールセンターで録音されたデータおよび報告書による評価
*20 Gallium Nitrideの略:窒化ガリウム
*21 2020年7月14日現在(当社調べ)
*22 5Gで使用される周波数範囲3.4~3.8GHzにおいて
(注) 「第2 事業の状況」の各記載金額には消費税等を含んでいません。