有価証券報告書-第149期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 14:46
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【項目】
105項目

研究開発活動

研究開発については、成長戦略を推進する要として、短期・中期・長期のテーマをバランスよく遂行してまいります。
現在の事業の徹底強化と変革及び共通基盤技術の継続的深化に資する研究開発を推進するとともに、多様化する社会課題を解決するための統合ソリューションの提供に向けた技術・事業シナジーの進化、未来技術の開発による持続的成長の実現に取り組んでまいります。
また、大学など社外研究機関とのオープンイノベーションで外にある技術を積極的に活用し、開発効率化とともに、新たな価値の創出に繋げてまいります。
当連結会計年度における三菱電機グループ全体の研究開発費の総額は2,068億円(前連結会計年度比97%)であり、事業セグメントごとの主な研究開発成果は以下のとおりです。
(1) 重電システム
発電機・電動機などの回転機、開閉機器・変圧器などの送変電機器や受配電機器、交通システム、昇降機などの基幹製品の競争力強化に向けた開発を行うとともに、監視制御システム、電力情報システム、ビル管理システム、映像情報システムなどIT応用システムの開発を行っています。当該分野における研究開発費は351億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① センサーネットワーク向け電池駆動無線端末「BLEnDer ICE*1」
ガス・水道メーターや各種センサー機器につなげることで、センサーネットワークへのワイヤレス接続を実現する電池駆動無線端末「BLEnDer ICE」を開発しました。さまざまなフィールド実証にて安定的な通信が可能であることを確認しており、広域通信による検針の自動化やセンサー機器の遠隔監視・制御を実現し、インフラ事業者の業務効率化に貢献します。
② 次世代鉄道車両用VVVFインバーター装置
SiC(炭化ケイ素)を採用した新たなパワー半導体を適用した鉄道車両用インバーター装置の開発を進めています。従来の高効率化のメリットに加え、制御回路やセンサー及びユニットの設計最適化により、更なる省エネ・省保守、小型・軽量や低騒音を実現しました。次世代推進制御システムとして安全・安定輸送に貢献します。
③ エレベーターのグローバル遠隔保守サービス「M's BRIDGE」
独自のIoTプラットフォームを活用してエレベーターの常時監視・点検、データ解析を行うグローバル遠隔保守サービス「M's BRIDGE」を開発し、香港、シンガポールにて提供を開始しました。今後当サービスを世界に広く提供し、エレベーター利用者の安全・安心、利便性の向上に貢献します。
(2) 産業メカトロニクス
FA制御システム機器、サーボモーターなどの駆動機器、配電制御機器、メカトロ機器、産業用ロボット、電動パワーステアリングなどの自動車用電装品、カーマルチメディア機器、予防安全(自動運転)・運転支援系システムなどの競争力強化に向けた開発を行っています。当該分野における研究開発費は674億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 電子ビーム3Dプリンター
国内で初めて*2、電子ビームを熱源とする粉末床溶融結合方式を用いた金属3Dプリンター「EZ300」を開発しました。業界最高*2の加工速度毎時250ccと独自の棒状陰極の採用による業界最長*2の加熱寿命*31,000時間を実現し、製造現場の生産性向上に貢献します。
② ADAS統合ボディコントロールユニット
ミリ波レーダ等で把握した周辺状況に基づき、レーンキープやオートクルーズ等のADAS*4制御の演算結果を「走る、曲がる、止まる」を制御するアクセル、ハンドル、ブレーキユニット等に送信することで、自車両を安全・快適に制御するコントロールユニットを開発しました。自動運転レベル2に対応し、走行時の安全性向上に貢献します。
(3) 情報通信システム
情報通信インフラやネットワークソリューション機器及び宇宙関連システムなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は134億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 準天頂衛星システムCLAS対応高精度測位端末「AQLOC-Light」
準天頂衛星システムによるセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)対応の新しいセンチメータ級高精度測位端末で、小型軽量化によりドローンなどの小型移動体への搭載可能、衛星からの信号が受信できないトンネル内や高架下でも自律測位可能な「AQLOC-Light」を開発しました。さまざまな事業分野における高精度測位情報の利用拡大に貢献します。
② 俯瞰映像合成技術「Fairyview」
監視システムにおける複数のカメラ映像をリアルタイムで1つの映像に合成し、俯瞰映像やパノラマ映像を生成する「Fairyview」を開発しました。監視エリア全体を1つの映像として確認でき、壁などの障害物による死角を排除した映像合成が可能なため、ショッピングモールや屋外駐車場など、広範囲で死角の多い環境での視認性向上に貢献します。
③ 映像解析ソリューション開発環境「kizkia Lite on Cloud*5」
「kizkia*6」は、独自のAI技術「Maisart*7」を搭載し、予めAIに学習させたヒト・モノ・コトを、監視カメラの映像から検知するシステムです。そのシステムに必要な学習モデルを容易に効率よく作成できるAIサービス開発環境をクラウド上で構築した「kizkia Lite on Cloud」を開発しました。
(4) 電子デバイス
様々な事業分野を支える半導体デバイスなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は125億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 高性能パワー半導体モジュール
最新のSiパワー半導体チップ搭載により低ノイズ化と低電力損失を実現し、白物家電の省エネ・騒音低減・小型化に貢献する「SLIMDIP-W」や、白物家電や産業用モーターの低ノイズ化・省エネに貢献する「超小型DIPIPM Ver.7」を開発しました。
② サーマルダイオード赤外線センサー「MelDIR*8」
高画素化・高温度分解能化*9により、防犯機器や空調機器、人数カウントソリューション、スマートビルなどの幅広い分野において、人・物の識別や行動把握を高精度に実現するサーマルダイオード赤外線センサー「MelDIR」を開発しました。
(5) 家庭電器
空調機器、調理家電、家事家電、照明機器、デジタル映像機器、電材住設機器などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は449億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① 三菱ルームエアコン「霧ヶ峰 FZシリーズ」
人工衛星にも搭載されたセンサー技術を活用し、高解像度・高感度の「サーマルダイオード赤外線センサー」を搭載した「ムーブアイmirA.I.+(ミライプラス)」を開発しました。世界で初めて*10気流が到達した先の微小な温度変化を検知し、気流の到達範囲を正確に把握できるようになりました。「ムーブアイmirA.I.+」のAIが気流の最適位置を探索する「気流制御」を行い、家具や間取りにかかわらず、エアコンの気流を目標に届け、快適性を向上するとともに、消費電力を8.6%削減*11しました。こうした本件技術が評価され、2019年度省エネ大賞や第69回電機工業技術功績者表彰最優秀賞を受賞しました。
② 三菱冷蔵庫「置けるスマート大容量」MX・MBシリーズ
冷蔵庫「置けるスマート大容量・野菜室が真ん中」シリーズとして、AI(人工知能)が庫内の温度を最適に制御することで、肉や魚などの生鮮食品の鮮度を長持ちさせる技術を開発しました。まとめ買いした食材をおいしく長く保存でき、また、取り出して必要な分だけすぐに使えるので、家事時間の短縮に貢献します。
(6) その他・共通(先端技術・共通基盤技術)
社会課題解決による顧客価値の創出を目的として、先端技術の研究開発を推進しています。当該分野における研究開発費は332億円であり、主な成果は以下のとおりです。
① ビル内ダイナミックマップを用いた「モビリティ・ビル設備連携制御技術」
ビル内ダイナミックマップ*12を用いて、サービスロボットやパーソナルモビリティと、エレベーターや入退室管理システムといったビル設備を連携制御する技術を開発するとともに、アニメーションライティング誘導システム*13と連携するシステムを構築しました。これによりモビリティと人の効率的かつ安全なビル内縦横移動が可能になり、ビル管理の省力化と人とロボットが安全に共存する「スマートビル*14」を実現します。
② 世界最薄クラスの航空機用電子走査アレイアンテナ技術
NICT*15と共同で、厚み3cm以下となる世界最薄クラス*16のKa帯*17対応航空機用電子走査アレイアンテナ技術を開発し、衛星通信用アンテナの薄型化・小型化と、100Mbps以上の大容量・高速通信への対応を実現しました。機体サイズに左右されず搭載可能で、高緯度地域にも対応しており、世界中の航空路で、オンデマンド動画再生など高速インターネットサービスの実現に貢献します。
③ 曖昧な命令を理解する「コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術」
独自のAI技術「Maisart」を用いて、人の曖昧な命令を、状況に応じて機器単体で不足情報を自動補完して理解する「コンパクトな知識処理に基づくHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御技術」を開発しました。知識処理の演算量とメモリー使用量を削減することで、家電製品やカーナビなどの機器単体のHMIに適用でき、素早い機器操作を実現します。
④ 大型製品の木枠梱包の設計技術
環境に配慮して木材使用量を削減するため、木枠強度の計算精度を改善する技術を開発しました。柱と梁の釘締結部の変形まで考慮した計算モデルを構築し設計に活用することで、柱や梁の木材使用量を約10%削減しました。
⑤ 熟練作業の形式知化とセンシングの高度化による組立て・検査の自動化
少量生産品・個別受注生産品において、熟練作業者の作業ノウハウを丹念に分析して形式知化し、カメラ・センサから得られた情報を基に多関節ロボットで作業者の動作を模擬することで、従来できなかった熟練作業を自動化し、生産現場へ導入しました。
*1 BLEnDer Intelligent Communication Edgeの略
BLEnDer:エネルギー政策に対応して開発した電力市場向けパッケージ型ソフトウエア
*2 2019年8月22日現在(当社調べ)
*3 加熱された陰極が、安定的に電子を出力できる状態を持続できる時間
*4 Advanced Driving Assistant Systemの略(先進運転支援システム)
*5 「kizkia Lite on Cloud」は、三菱電機インフォメーションシステムズ㈱の登録商標です
*6 「kizkia」は、三菱電機インフォメーションシステムズ㈱の登録商標です
*7 Mitsubishi Electric’s AI creates the State-of-the-ART in technologyの略。全ての機器をより賢くすることを目指した当社のAI 技術ブランド
*8 Mitsubishi Electric Diode InfraRed sensorの略
*9 どれだけ細かい温度差を見分けられるかの指標
*10 2019年11月1日現在(当社調べ)。家庭用エアコンにおいて。部屋の中を360°センシングして、目標への温風・冷風の到達度を判定する技術
*11 MSZ-FZ6320S、当社環境試験室(20畳)、外気温度7℃、同一体感温度運転時の消費電力量は、通常気流の場合は546Wh、AIを活用した気流制御の場合は499Wh
*12 当社が開発した、エレベーターや入退室管理システムなどのビル設備の状態、モビリティの位置情報、通行可能な経路情報などの動的な情報を付加したビル内の三次元地図
*13 床面に投影する光のアニメーションにより、施設利用者が直感的に案内や注意喚起を理解できる、アニメーションライティング誘導システム「てらすガイド」(2020年4月発売)
*14 IoTを活用し、省エネ/省人化を実現しながら人が安心できる環境で効率的な仕事を行える空間を提供するビル
*15 国立研究開発法人情報通信研究機構
*16 2020年2月6日現在(当社調べ)
*17 周波数27GHz~40GHzの電波
(注) 「第2 事業の状況」の各記載金額には消費税等を含んでいません。