有価証券報告書-第106期(令和3年3月1日-令和4年2月28日)

【提出】
2022/05/27 10:39
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【項目】
132項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、創業以来「事業の遂行を通じて広く社会の発展、人類の福祉に貢献すること」を使命とし、この使命達成のため「品質重視の考えに立ち、常に世界に誇る技術を開発、向上させる」「経営効率の向上に努め、企業の存続と発展に必要な利益を確保する」「市場志向の精神に従い、そのニーズにこたえるとともに、需要家への奉仕に徹する」の3項目を掲げ、その実現に努めることを経営理念といたしております。
また、グループ経営理念の実践に加え、環境問題や格差拡大など深刻化する社会問題への対応と社会全体の持続性への配慮を当社グループの経営方針として明確化するため、「サステナビリティ方針」を策定しております。このサステナビリティ方針では、「1. 最先端のメカトロニクス技術によるイノベーション創出で、お客さまをはじめ社会への価値創造に貢献」「2. 世界中のステークホルダーとの対話と連携を通じ、公正かつ透明性の高い信頼ある経営の実現」「3. 世界共通の目標であるSDGsの達成を目指し、グローバルでの社会的課題の解決」の3つを方針として掲げています。
このような方針のもと、社会および顧客ニーズに高い次元でこたえる製品・サービスの提供や、従業員にとって働きがいのある会社づくりに取り組んでいます。これらにより、継続的な利益の創出を実現し、ステークホルダーのみなさまへの一層の還元を図るとともに、社会課題の解決を通じた持続可能な社会の実現と企業価値の向上に努めてまいります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループは、長期経営計画「2025年ビジョン」(2016年度~2025年度)においてメカトロニクスを軸とした「工場自動化・最適化」と「メカトロニクスの応用領域」を事業領域と定め、経営目標については営業利益を最も重要な経営指標と定め、「質」の向上にこだわることで経営体質の強化を目指しています。
この「2025年ビジョン」実現に向けて、2019年度より中期経営計画「Challenge 25」(2019年度~2021年度)を始動いたしましたが、その後、新型コロナウイルス感染症の影響によりグローバルで設備投資が抑制されるなど、想定よりも市況が悪化しました。この環境変化を受けて「Challenge 25」の最終年度を1年延長し、収益性向上を実現する新たな取り組みに加え、「Challenge 25 Plus」(2019年度~2022年度)とする見直しを2021年4月に行いました(※1)。
※1 「2025年ビジョン」および「Challenge 25 Plus」の詳細は、以下のURLからご覧いただくことができます。
2025年ビジョン:https://www.yaskawa.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/Vision2025_Revision.pdf
Challenge 25 Plus:https://www.yaskawa.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/Challenge25_Plus.pdf
■中期経営計画「Challenge 25 Plus」の基本方針/重点方策
① サステナビリティ課題の特定
サステナビリティ方針に基づき、持続的に成長するための重要課題として「事業を通じた社会価値の創造と社会的課題の解決」と「サステナブルな社会/事業に寄与する経営基盤の強化」の2つを軸としたサステナビリティ課題・目標(マテリアリティ)を特定し、中期経営計画の方策へ展開を図っています。
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② 中期経営計画「Challenge 25 Plus」の基本方針/重点方策
(a) i3-Mechatronics(※2)によるビジネスモデル変革
(i)i3-Mechatronicsを実現する販売力の強化
(ⅱ)i3-Mechatronicsを実現する技術/製品開発の強化
(ⅲ)i3-Mechatronicsを実践する生産機能の強化
(ⅳ)i3-Mechatronicsの実践によるサービスの強化
※2 i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス):機械工学を表すメカニズムと、電気工学を表すエレクトロニクスを融合させた「Mechatronics(メカトロニクス)」に、3つの“i”(integrated:統合的、intelligent:知能的、innovative:革新的)を重ね合わせ、お客さまの工場の生産現場から経営課題の解決に貢献するソリューションコンセプト。2017年10月に発表
(b) i3-Mechatronicsを通じた成長市場での収益最大化
(i)「3C(※3)」を中心とした中国・アジア市場の攻略、「ニューインフラ(※4)」市場の開拓
(ⅱ)「自動車」完成車/部品メーカとの取り組み加速
(ⅲ)「半導体」製造装置市場での取り組み強化
※3 3C:コンシューマー向けデジタルコミュニケーション機器の略
(Computer、Communication、Consumer Electronicsの3語の頭文字から)
※4 ニューインフラ:次世代通信規格「5G」や「新エネルギー車」、「AI」などを含む7つの分野を中心に中国政府の主導により産業のデジタル化を急速に推進するもの
(c) サステナブルな社会/事業構築に向けた新領域への展開
(i)Energy Saving → 省エネ機器の高機能化と高効率モータの組み合わせによる高付加価値提案を通じて省エネの応用領域を拡大
(ⅱ)Clean Power → サステナブルな社会構築に貢献するため、太陽光発電用パワーコンディショナ、風力発電用電機品、EV(電気自動車)向けモータドライブシステムなど当社の電力変換技術を生かし、未来に向けた技術の進化に挑戦
(ⅲ)Food & Agri → 当社の強みである自動化技術を食品生産工程や農業分野向けの自動化ソリューションへ展開し、食の安定供給に貢献
(ⅳ)Humatronics → 医療・福祉領域における自動化需要に対応したビジネスモデル構築により、人々の健康と生活を支援
(d) デジタル経営と品質経営を通じた経営効率の向上
デジタル経営の推進により、コロナ禍に伴う市場変化に強い経営体質の強化に努めます。また、TQM(※5)の徹底により「業務品質と現場力の向上」を実現し、経営のさらなる効率化を目指します。
※5 TQM:Total Quality Management、組織全体として統一した品質管理目標を経営戦略へ適用したもの
(e) サステナブルな社会/事業に寄与する経営基盤の強化
当社グループは事業活動を通じて特定したマテリアリティの解決により、様々な社会的課題の解決に貢献していくとともに、そのサステナブルな事業の推進および社会の構築に寄与する経営基盤の強化に努めます。
(3) 経営環境および優先的に対処すべき課題
2022年度の当社グループを取り巻く経営環境は、ロシア・ウクライナ問題をはじめとする地政学リスクの高まりや、新型コロナの感染拡大の長期化など、先行きが不透明な状況にあります。
製造業全般では、昨年度に発生した半導体を中心とする部品不足の長期化による生産制約が継続していますが、人手不足への対応や生産の高度化・自動化を目的とした積極的な設備投資を背景に、当社の主要市場は総じて好調な状況にあります。特に、自動車市場におけるEV(電気自動車)化やリチウムイオン電池関連などの設備投資の加速、そして5Gや新エネルギーなどのニューインフラ投資拡大や、グローバルでは半導体・電子部品市場の拡大が継続する見込みです。
このような状況下、中期経営計画「Challenge 25 Plus」(2019年度~2022年度)の最終年度となる今年度においては、長期経営計画「2025年ビジョン」の目標達成に向けて、ソリューションコンセプト「i3-Mechatronics」によるビジネスモデルの変革ならびに成長市場における収益拡大、そして、YDX(Yaskawa Digital Transformation)を通じた効率化と収益性の拡大、さらには、持続可能な社会の実現に向けて掲げているサステナビリティ方針に基づいた活動の推進を通じ、新たな事業領域への展開を加速しながら、より一層の企業価値の向上に努めてまいります。
i3-Mechatronicsによるビジネスモデル変革については、開発・生産・販売・サービスの強化を通じて、ソリューション提案力のさらなる向上を図ります。
開発面においては、各事業部に分散していた製品開発機能や生産技術機能を集約した「安川テクノロジーセンタ」を中心に、部門横断開発とオープンイノベーションを加速させ、タイムリーかつこれまで以上にお客さまのニーズに応えられる製品開発を加速させていきます。ACサーボモータの新製品「Σ-X」(シグマ・テン)のラインアップ拡充に加え、ロボットとACサーボモータの統合制御を可能にする「YRM-Xコントローラ」による、セル(生産工程における複数のユニットのかたまり)を最適化させるソリューションの提供を本格化させていきます。
生産面では、次世代生産工場「安川ソリューションファクトリ(埼玉県入間市)」の生産方式をグローバルの各生産拠点に展開し、生産現場のデータ活用を通じた生産効率化を図ると同時に、急激な需要変動に対応できるフレキシブルかつサステナブルな生産システムの構築を進めます。
販売面においては、トップセールスによる販売活動を継続し、販売パートナーとの連携を強化することで、お客さまの付加価値向上を実現する包括的なソリューションの提供を強化し、サービス面では、データ分析による予見・予兆診断をベースとしたフィールドサービスの充実化を図り、お客さまの設備を止めない高付加価値なサービスの実現を目指していきます。
i3-Mechatronicsを通じた成長市場での収益拡大については、当社の主要市場の一つである自動車市場のEV(電気自動車)化による積極的な設備投資需要をグローバルで捉えるべく、ロボットを中心とした製品ラインアップの拡充に努めていきます。また、EV化に伴い急拡大するリチウムイオン電池関連の新たな需要についても、安川グループの総合力を結集させ積極的なアプローチで需要を着実に捕捉していきます。
また、今後も高い成長が見込まれる半導体関連市場を始め、3C市場、5Gや新エネルギーを中心とするニューインフラ市場では、中国などアジアのトップメーカーとの関係構築や協業を通じた販売活動の強化を図り、急拡大する需要の確実な取り込みを推進します。
サステナブルな社会の構築に向けた新たな事業領域への展開については、Energy Saving領域におけるインバータや高効率モータなどの省エネ機器の拡販を進め、脱炭素社会の実現に寄与していきます。Clean Power事業では、太陽光発電における自家消費市場向けの需要獲得に向けた新製品の投入・拡販を中心に、収益安定化に向けた活動を強化していきます。また、Food & Agri領域では、中食分野や農業分野におけるロボット活用を中心とした自動化を加速させるとともに、お客さまのニーズを踏まえた野菜自動生産システムの機能強化を図り、本格的なビジネス展開を強化していきます。さらに、Humatronics機器事業では、バイオメディカルロボット事業におけるゲノム解析分野およびiPS細胞培養分野での事業基盤の強化を進めていきます。
デジタル経営(YDX)の推進については、開発・生産・販売などバリューチェーンに関わるデータから人事データなど様々な経営データのグローバル一元化を進め、経営情報の見える化を加速させると同時に、徹底した業務効率化を図ります。また、今年度はこれら一元化されたデータの活用をさらにレベルアップさせることで製品ライフサイクルの強化につなげ、お客さまに新たな付加価値を提供する製品・サービスの開発および提供を加速させてまいります。
なお、各セグメントにおける具体策については、つぎのとおりです。
[モーションコントロール]
ACサーボモータ・コントローラ事業においては、昨年度市場投入を終えた「YRM-Xコントローラ」やACサーボ「Σ-X」ラインアップ強化など「i3-Mechatronics」を推進させるコア製品の拡販を通じ、受注・収益のさらなる拡大を図ります。
インバータ事業においては、昨年度シリーズ展開を完了した新インバータシリーズの拡販をグローバルで加速させ、さらなるシェア向上に努めます。
モーションコントロール製品では、拡大する需要に対して国内外での生産効率化・内製化をさらに進めることで、製品供給能力を強化し、収益の拡大を図っていきます。

[ロボット]
主力製品を展開する自動車関連市場においては、EV(電気自動車)やリチウムイオン電池関連の設備投資需要を確実に捉え、グローバルに展開する完成車・部品供給メーカーへの拡販を進めます。今後も成長が期待される3Cや急拡大する中国でのニューインフラ市場においては、トップセールスによる積極的な販売活動を継続して、お客さまとの協業・連携を深化させることで事業拡大に努めます。さらに、「i3-Mechatronics」を軸とした自律分散型の生産システム実現に向けた製品開発およびデジタルデータマネジメントの強化により、新たな市場創出を通じた自動化領域の拡大を図っていきます。
また、グローバルで拡大する需要に対して、国内・中国・欧州での効率化・内製化による生産能力向上を図り、需要変動に強い生産体制を構築することで収益性のさらなる改善を目指します。
[システムエンジニアリング]
環境・エネルギー分野においては、太陽光発電市場において、国内の自家消費市場の拡大を捉えたパワーコンディショナ新製品を投入するなど売上拡大を図ります。また、欧州を中心とした大型風力発電市場の主要なお客さまとの協業強化を図り、洋上風力発電の安定した受注獲得を目指します。
鉄鋼プラントシステム・社会システム分野では、グループ内で実施した事業再編により経営のさらなる効率化を進めます。また、国内の公共事業関連のビジネスにおいて、AI・IoT技術による付加価値の高いサービスの提供に努めると同時に、民間ビジネスなどの獲得を通じた高収益体質化を目指します。
(4) 目標とする経営指標
当社グループは「2025年ビジョン」において、営業利益を最も重要な経営指標に据え、過去最高となる1,000億円の営業利益の創出を目指しています。「(2) 中長期的な会社の経営戦略」に記載のとおり、当社グループは2019年度より「Challenge 25」を始動し、2021年度目標として、売上収益5,400億円、営業利益700億円(営業利益率13.0%)、ROEおよびROICを15.0%以上とする目標を設定いたしました。しかしながら、2020年度前半の世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響等による環境変化を踏まえ、2021年4月9日に中期経営計画の最終年度を1年延長させるとともに、市場環境に即した新たな方策を加え、中期経営計画「Challenge 25 Plus」として見直しを行いました。2022年度はこの「Challenge 25 Plus」の最終年度に当たることから、経営目標の実現に向けた取り組みを加速させていきます。
■「Challenge 25 Plus」における主な経営目標
新型コロナウイルス感染症拡大の長期化やロシア・ウクライナ問題などにより、不透明かつ変化が読みにくい市場環境にありますが、このことから、当社グループにおける中期経営計画「Challenge 25 Plus」では、さらなる高収益体質の実現と資本効率の向上を目指しています。「Challenge 25 Plus」の最終年度に当たる2022年度見通しとしては、ロボットを中心にグローバルで好調な需要が見込まれることから、2021年4月に発表した経営目標をすべて上回る計画をしています。
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・2022年度従来目標 想定為替レート 1米ドル=110.0円、1ユーロ=130.0円、1中国元=16.80円、1韓国ウォン=0.096円
・2022年度見通し 想定為替レート 1米ドル=120.0円、1ユーロ=133.0円、1中国元=19.00円、1韓国ウォン=0.100円
※6 2021年4月9日の中期経営計画「Challenge 25 Plus」の発表時点の目標
※7 2022年4月8日の2022年2月期決算発表時点の2022年度の見通し
※8 ROE/Return on Equity (親会社所有者帰属持分当期利益率) = 親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分
※9 ROIC/Return on Invested Capital (投下資本利益率) = 親会社の所有者に帰属する当期利益/投下資本