有価証券報告書-第105期(令和2年3月1日-令和3年2月28日)

【提出】
2021/05/27 10:32
【資料】
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【項目】
135項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、創業以来「事業の遂行を通じて広く社会の発展、人類の福祉に貢献すること」を使命とし、この使命達成のため「品質重視の考えに立ち、常に世界に誇る技術を開発、向上させる」「経営効率の向上に努め、企業の存続と発展に必要な利益を確保する」「市場志向の精神に従い、そのニーズにこたえるとともに、需要家への奉仕に徹する」の3項目を掲げ、その実現に努めることを経営理念といたしております。
また、グループ経営理念の実践に加え、環境問題や格差拡大など深刻化する社会問題への対応と社会全体の持続性への配慮を当社グループの経営方針として明確化するため、「サステナビリティ方針」を策定しております。このサステナビリティ方針では、「1. 最先端のメカトロニクス技術によるイノベーション創出で、お客さまをはじめ社会への価値創造に貢献」「2. 世界中のステークホルダーとの対話と連携を通じ、公正かつ透明性の高い信頼ある経営の実現」3. 世界共通の目標であるSDGsの達成を目指し、グローバルでの社会的課題の解決」の3つを方針として掲げています。
このような方針のもと、社会および顧客ニーズに高い次元でこたえる製品・サービスの提供や、従業員にとって働きがいのある会社づくりに取り組んでいます。これらにより、継続的な利益の創出を実現し、ステークホルダーのみなさまへの一層の還元を図るとともに、社会課題の解決を通じた持続可能な社会の実現と企業価値の向上に努めてまいります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループは、長期経営計画「2025年ビジョン」(2016年度~2025年度)においてメカトロニクスを軸とした「工場自動化・最適化」と「メカトロニクスの応用領域」を事業領域と定め、経営目標については営業利益を最も重要な経営指標と定め、「質」の向上にこだわることで経営体質の強化を目指しています。
この「2025年ビジョン」実現に向けて、2019年度より中期経営計画「Challenge 25」(2019年度~2021年度)を始動いたしましたが、その後、新型コロナウイルス感染症の影響によりグローバルで設備投資が抑制されるなど、想定よりも市況が悪化しました。この環境変化を受けて「Challenge 25」の最終年度を1年延長し、収益性向上を実現する新たな取り組みに加え、「Challenge 25 Plus」(2019年度~2022年度)とする見直しを2021年4月に行いました(※1)。
※1 「2025年ビジョン」および「Challenge 25 Plus」の詳細は、以下のURLからご覧いただくことができます。
2025年ビジョン:https://www.yaskawa.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/Vision2025_Revision.pdf
Challenge 25 Plus:https://www.yaskawa.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/Challenge25_Plus.pdf
■中期経営計画「Challenge 25 Plus」の基本方針/重点方策
① サステナビリティ課題の特定
サステナビリティ方針に基づき、持続的に成長するための重要課題として「事業を通じた社会価値の創造と社会的課題の解決」と「サステナブルな社会/事業に寄与する経営基盤の強化」の2つを軸としたサステナビリティ課題・目標(マテリアリティ)を特定し、中期経営計画の方策へ展開を図っています。
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② 中期経営計画「Challenge 25 Plus」の基本方針/重点方策
(a) i3-Mechatronics(※2)によるビジネスモデル変革
(i)i3-Mechatronicsを実現する販売力の強化
(ⅱ)i3-Mechatronicsを実現する技術/製品開発の強化
(ⅲ)i3-Mechatronicsを実践する生産機能の強化
(ⅳ)i3-Mechatronicsの実践によるサービスの強化
※2 i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス):機械工学を表すメカニズムと、電気工学を表すエレクトロニクスを融合させた「Mechatronics(メカトロニクス)」に、3つの“i”(integrated:統合的、intelligent:知能的、innovative:革新的)を重ね合わせ、お客さまの工場の生産現場から経営課題の解決に貢献するソリューションコンセプト。2017年10月に発表
(b) i3-Mechatronicsを通じた成長市場での収益最大化
(i)「3C(※3)」を中心とした中国・アジア市場の攻略、「ニューインフラ(※4)」市場の開拓
(ⅱ)「自動車」完成車/部品メーカとの取り組み加速
(ⅲ)「半導体」製造装置市場での取り組み強化
※3 3C:コンシューマー向けデジタルコミュニケーション機器の略
(Computer、Communication、Consumer Electronicsの3語の頭文字から)
※4 ニューインフラ:次世代通信規格「5G」や「新エネルギー車」、「AI」などを含む7つの分野を中心に中国政府の主導により産業のデジタル化を急速に推進するもの
(c) サステナブルな社会/事業構築に向けた新領域への展開
(i)Energy Saving → 省エネ機器の高機能化と高効率モータの組み合わせによる高付加価値提案を通じて省エネの応用領域を拡大
(ⅱ)Clean Power → サステナブルな社会構築に貢献するため、太陽光発電用パワーコンディショナ、風力発電用電機品、EV(電気自動車)向けモータドライブシステムなど当社の電力変換技術を生かし、未来に向けた技術の進化に挑戦
(ⅲ)Food & Agri → 当社の強みである自動化技術を食品生産工程や農業分野向けの自動化ソリューションへ展開し、食の安定供給に貢献
(ⅳ)Humatronics → 医療・福祉領域における自動化需要に対応したビジネスモデル構築により、人々の健康と生活を支援
(d) デジタル経営と品質経営を通じた経営効率の向上
デジタル経営の推進により、コロナ禍に伴う市場変化に強い経営体質の強化に努めます。また、TQM(※5)の徹底により「業務品質と現場力の向上」を実現し、経営のさらなる効率化を目指します。
※5 TQM:Total Quality Management、組織全体として統一した品質管理目標を経営戦略へ適用したもの
(e) サステナブルな社会/事業に寄与する経営基盤の強化
当社グループは事業活動を通じて特定したマテリアリティの解決により、様々な社会的課題の解決に貢献していくとともに、そのサステナブルな事業の推進および社会の構築に寄与する経営基盤の強化に努めます。
(3) 経営環境および優先的に対処すべき課題
2021年度の当社グループを取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大の長期化などにより先行きが不透明な状況にあります。一方、生産活動の正常化がいち早く進んだ中国においては、スマートフォン等の電子機器向けの需要が増加しているほか、自動車市場においてはグローバルでEV化を加速する動きがみられます。また、製造業を中心に労働力不足の深刻化を背景とした生産の自動化が進むなど、当社製品を展開する主要市場においては着実な回復がみられています。
このような状況下、当社は2019年度にスタートした中期経営計画「Challenge 25」(2019年度~2021年度)について最終年度を1年延長し、「Challenge 25 Plus」(2019年度~2022年度)として見直しを行いました。長期経営計画「2025年ビジョン」の達成に向け、以下のとおりソリューションコンセプト「i3-Mechatronics」によるビジネスモデルの変革、そして“YDX”(YASKAWA Digital Transformation:安川におけるDX推進)を通じたデジタル経営の実現を柱とした効率化と収益性拡大、さらには、持続可能な社会の実現に向けて掲げているサステナビリティ方針に基づいた活動を織り込み、より一層の企業価値の向上に努めてまいります。
① i3-Mechatronicsによるビジネスモデル変革
「i3-Mechatronics」のソリューション提案力の強化を図るため、2021年度においては開発・生産・販売・サービス面において以下の取り組みを進めます。
開発面においては、これまで事業部間で分散していた製品開発機能や生産技術機能を「安川テクノロジーセンタ」に集約します。基礎技術開発・生産技術開発から量産試作の実証、そして品質管理までの一貫した開発体制を構築することで、事業横断的かつタイムリーな製品開発を加速させます。また、ACサーボモータの新製品「Σ-X」(シグマ・テン)のラインアップ拡充による販売活動の本格化に加え、ロボットとACサーボモータの統合制御を可能にする「YRMコントローラ」の市場投入により、グローバルに「i3-Mechatronics」を浸透させていきます。
生産面では、次世代生産工場「安川ソリューションファクトリ(埼玉県入間市)」の生産方式をグローバルに展開していきます。生産現場のデータ活用を通じた生産の効率化を図ると同時に、各工程の自動化などによって急激な需要変動に対応できるフレキシブルな生産システムの構築を進めます。
販売面においては、トップセールスによる販売活動を継続し、お客さまの経営課題の把握に努めるとともに、ワンフェースによる事業横断的な営業の推進により、お客さまの要望に迅速かつ的確に応えていきます。
サービス面では、データ分析による予兆診断をベースとしたフィールドサービスの充実化を図り、新たな高付加価値サービスの創出を目指します。
② i3-Mechatronicsを通じた成長市場での収益拡大
高い成長が見込まれる3C市場において、中国などアジアのトップ企業との関係構築や協業強化を通じた販売活動を推進するとともに、急拡大するニューインフラ市場における需要の取り込みも加速していきます。また、回復基調にある自動車関連市場ではグローバルに展開する完成車・部品供給メーカの積極的な設備投資を捉えるために、ロボットを中心とした製品ラインアップの拡充を進め、ものづくりの効率・品質の向上に貢献していきます。
半導体関連市場においては、市場競争力の高い製造装置メーカとのリレーション強化を図り、ニーズに的確に対応した製品の市場投入を行っていきます。
③ サステナブルな社会の構築に向けた新たな事業領域への展開
サステナブルな社会の実現に向けて、新規領域における事業展開を加速させます。
Energy Saving領域では、業界トップレベルのパワー変換技術を活用した省エネ機器の拡販を進め、脱炭素社会の実現を目指します。
Clean Power事業では、未来に向けたクリーンな技術への取り組みを強化するとともに、新製品の拡販と収益安定化に向けた活動を加速させます。
Food & Agri領域では、中食分野や農業分野におけるロボット活用を中心とした自動化を進めるとともに、野菜自動生産システムについては実証フェーズを完了させ、本格的な事業拡大を目指します。
Humatronics機器事業では、バイオメディカルロボットのPCR検査工程への活用展開、ゲノム解析分野での事業化に向けた取り組みを強化していきます。
④ デジタル経営の推進
開発・生産・販売のグローバルデータの一元化により、経営情報の見える化を加速すると同時に、統合されたデータの徹底した活用を通じて業務の効率化を図ります。また、市場品質情報を収集・一元化し、その情報を製品開発に確実にフィードバックする体制の構築を進めます。
(4) 目標とする経営指標
当社グループは「2025年ビジョン」において、営業利益を最も重要な経営指標に据え、過去最高となる1,000億円の営業利益の創出を目指しています。「(2) 中長期的な会社の経営戦略」に記載のとおり、当社グループは2019年度より「Challenge 25」を始動し、2021年度目標として、売上収益5,400億円、営業利益700億円(営業利益率13.0%)、ROEおよびROICを15.0%以上とする目標を設定いたしました。しかしながら、2019年度における米中貿易摩擦や、2020年度前半の世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響により、グローバルで設備投資が抑制され、当初想定していた市場の拡大は見られませんでした。
このような環境の変化を踏まえ、2021年4月9日に中期経営計画の最終年度を1年延長させるとともに、市場環境に即した新たな方策を加え、中期経営計画「Challenge 25 Plus」として見直しを行いました。
■「Challenge 25 Plus」における主な経営目標
新型コロナウイルス感染症拡大の長期化により、不透明且つ変化が読みにくい市場環境にあります。このことから、当社グループにおける中期経営計画「Challenge 25 Plus」では、さらなる高収益体質の実現と資本効率の向上を目指し、2022年度をターゲットする中期戦略目標を設定しています。
0102010_002.png[参考] 2022年度の想定為替レート 1米ドル=110円、1ユーロ=130円
※6 ROE/Return on Equity (親会社所有者帰属持分当期利益率) = 親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分
※7 ROIC/Return on Invested Capital (投下資本利益率) = 親会社の所有者に帰属する当期利益/投下資本
なお、各セグメントにおける具体策については、それぞれ以下のとおりです。
[モーションコントロール]
ACサーボモータ・コントローラ事業においては、「i3-Mechatronics」を具現化する「YRMコントローラ」の市場投入によるソリューション提案力強化に加え、ACサーボモータの主力製品「Σ-X」の市場投入により、コンポーネントおよびソリューションの差別化をさらに加速し、収益の拡大を図ります。
インバータ事業においては、新インバータシリーズのラインアップ拡充を完了させるとともに、お客さまの機械を画期的に進化させる差別化機能を拡充することで、シェア向上を目指します。
また、「安川ソリューションファクトリ」の生産方式をグローバルの生産工場に展開させることで、さらなる体質強化を進めていきます。
[ロボット]
主力製品を展開する自動車関連市場においては、グローバルに展開する完成車・部品供給メーカへの拡販を進めます。成長が期待される3Cを中心とした一般産業向け市場や急拡大する中国でのニューインフラ市場においては、トップセールスによる販売活動を積極的に行い、お客さまとの協業・連携をこれまで以上に推進することで事業拡大を図っていきます。
また、中国・欧州の工場を最大限活用し、グローバル生産能力の最適化を図ることで、需要変動に強い生産体制の構築と、さらなる自動化推進による収益性の改善を進めていきます。
さらに、「i3-Mechatronics」を軸とした自立分散型の生産システム実現に向けた製品開発およびデジタルデータマネージメントの強化を推進し、自動化領域を拡大していきます。
[システムエンジニアリング]
環境・エネルギー分野においては、欧州を中心とした大型風力発電市場で主要なお客さまとの協業強化を図り、洋上風力発電案件の安定した受注獲得を目指します。
米州を中心とした太陽光発電市場では、パワーコンディショナの新製品XGI1500の売上拡大を図ります。
鉄鋼プラントシステム・社会システム分野では、グループ内で実施した事業再編により経営のさらなる効率化を進めます。また、国内の公共事業関連のビジネスにおいて、AI・IoT技術による新たな取り組みを加速させると同時に、民間ビジネスなどの獲得を通じた高収益体質化を目指します。