有価証券報告書-第120期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/25 15:00
【資料】
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【項目】
144項目
②戦略
トヨタの戦略(マルチパスウェイ戦略の基本的な考え方)
「マルチパスウェイ戦略」の根幹にある考え方は、「エネルギーの未来」と地域・お客様の期待に寄り添った多様なモビリティを提供することです。大前提として、地球環境やサステナビリティの観点から、化石燃料から脱却していく必要があります。そのうえで、中長期的には、再生可能エネルギーの普及が進み、「電気」と「水素」が社会を支える有力なエネルギーになっていくと考えられます。一方で、短期的には、世界各地の現実に向き合い、エネルギーセキュリティを担保しながら、プラクティカルに変化を進めていくことが重要です。だからこそ私たちは、電気と水素の未来を見据えながら、再生可能エネルギー由来の電力、その電力を基にした水素や合成燃料、バイオ燃料など、多様なエネルギーに対応するモビリティの選択肢でカーボンニュートラルに貢献していきます。
現実的にCO2を減らしていくには、既存のインフラやアセットを活用しながら確実に減らしていくことが重要です。また、自動車産業におけるカーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーや充電インフラなどのエネルギー政策と、購入補助金、サプライヤー支援、電池リサイクルシステムの整備などの産業政策が不可欠であり、各国のエネルギー政策や産業政策、お客様の選択など、不確実性への対応が必要です。多様なモビリティの選択肢を提供するマルチパスウェイ戦略は、不確実性に対し、どのような社会が実現してもいずれかの選択肢で対応することができる戦略です。様々な産業が関わっているため、パートナーづくりに積極的に取り組み、電気と水素が地球環境を守っていく環境づくりを少しでも早く実現できるよう取り組んでいきます。

トヨタは、シナリオ分析によりマルチパスウェイ戦略のレジリエンスを検証しています。
シナリオ分析の概要
トヨタは2019年4月、TCFD提言に賛同・署名し、国内企業や金融機関などが一体となって取り組みを推進するTCFDコンソーシアムに加盟しました。気候変動に関するリスクと機会を重要な経営課題と認識し、TCFD提言を踏まえ、リスクと機会を特定し、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。2022年には、関連組織により構成されるプロジェクトを立ち上げ、TCFDフレームワークを参考に、1.5℃と4℃の2つの温度帯を用いたシナリオ分析を実施し、気候変動リスク・機会の評価・特定、財務影響の評価、トヨタの対応の確認などを実施しました。
設定シナリオは以下のとおりです。
・1.5℃シナリオ(IEA※1 NZE※2、APS※3シナリオなど)
・4℃シナリオ(SSP5-8.5)
※1 International Energy Agency:国際エネルギー機関
※2 Net Zero Emissions by 2050 Scenario:国際エネルギー機関(IEA)が発表した脱炭素シナリオ
※3 Announced Pledges Scenario:IEAが公表しているシナリオのひとつ
分析対象事業は、トヨタ自動車および連結会社における自動車事業およびサプライチェーン、日本および海外のトヨタグループの生産拠点です。
リスクが発現する期間は、以下のように設定しました。

各戦略の説明
・HEV、PHEV
トヨタは、累計2,350万台の電動車を販売し、1.76億トンのCO2排出削減を実現しています(2023年3月時点)。 お客様の多様なニーズにお応えしていくため、新興国を中心にHEVの販売拡充を進めながら、PHEVはEV航続距離を200km以上に延ばすことでプラクティカルなBEVと再定義し、選択肢を増やすための開発を強化しています。また、燃焼技術を進化させ、CO2排出量を抑制できるエンジン開発を推進しています。
・BEV戦略
2023年5月に、次世代BEV開発のため、すべての機能と権限を持つ専任組織(BEVファクトリー)を設置しました。また、2030年までにBEV(電池を含む)に約5兆円の投資を行うことも公表しました。BEVの販売台数は2026年までに年間150万台、2030年にはグローバルで年間350万台を基準台数としてペースを定めています(次世代BEVは2030年時点で170万台)。新モジュール構造、自走生産、デジタルツインなどにより、工程・工場投資・生産準備リードタイムを1/2に短縮します。小型軽量ユニットの開発や空力・熱マネジメントなどの技術を進化させることで、クルマの新しいアーキテクチャに挑戦し、今後はPHEVなどの開発にも応用していきます。
多様な次世代電池技術の開発にも取り組んでいます。
(液系リチウムイオン電池の開発)

(全固体電池の開発)
全固体電池は、高出力化、長い航続距離、充電時間の短縮など、液体電池以上の性能が期待され、2027~2028年の実用化を目指しています。2023年10月には、出光興産株式会社との量産実現に向けた協業を発表しました。
・水素事業戦略
2023年7月に、燃料電池・水素関連商品で商品開発と生産を加速するため、専任組織 (水素ファクトリー) を設置し、三つの軸で事業化の基盤づくりを推進しています。
①マーケットのある国 (欧州・中国) での開発・生産 (量産化・現地化)
②有力パートナーとの連携強化 (標準規格化)
③次世代FC技術の革新的進化
商用領域での水素モビリティの開発・実装に加え、電車・船舶・発電機など多様なアプリケーションに対し、次世代FCシステムを提供します。水素の価格低減・需要拡大のため、水素を「つくる」「ためる」領域に取り組み、大型商用タンクの規格化 (原単位づくり) にも挑戦しています。今後は、水素消費量の大きい欧州、中国、北米を中心に、鉄鋼業界・電力業界のパートナーと連携し、インフラも含めて水素モビリティの社会実装を加速していきます。
・カーボンニュートラル燃料の取り組み
電気と水素がエネルギーの中心となる未来においても、e-fuelやバイオ燃料など、液体燃料の活用を視野に入れた次世代エンジンの開発を進め、業界の垣根を超えたパートナーとの取り組みを進めていきます。水素が高価な地域では、水素が安い地域で製造したe-fuelを輸送し、活用します。また、バイオ燃料の活用が拡大する新興国では、バイオ燃料対応車両を投入しています。2022年7月には、民間7社で「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立し、第2世代バイオ燃料の製造技術向上を目指しています。
・今後の取り組み
多様なエネルギー事情やお客様ニーズに寄り添い、既存インフラの有効活用、カーボンニュートラル燃料、既販車への取り組みなど、プラクティカルなトランジションを軸に、あらゆる手段でカーボンニュートラルの実現を目指します。
a.組織が特定した短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会
トヨタは環境問題から生じる様々なリスクと機会の把握に努めており、「トヨタ環境チャレンジ2050」などの戦略が妥当かどうかを常に確認しながら取り組みを進め、競争力の強化を図っています。トヨタの事業領域に影響を及ぼす可能性のある気候変動に伴う変化への対策が必要です。そのような認識の下、リスク管理フレームワーク、Toyota Global Risk Management Standard(TGRS)に沿って特定したものから、影響度やステークホルダーからの関心も踏まえ、特に重要度の高い気候変動リスクを抽出しました。気候変動の進行は、事業上のリスクになりますが、適切に対応できれば競争力の強化や新たな事業機会の獲得にもつながると認識しています。

b.ビジネス、戦略および財務計画に対する1.5℃シナリオ、4℃シナリオなどの様々なシナリオ下の影響
気候変動影響を踏まえた社会像の設定
1.5℃シナリオにおける移行リスクと機会について、2030年の外部環境を、IEAのNZE、APSなど複数シナリオを用いて想定し、TGRSにて抽出した気候変動リスクの中で影響が大きいと懸念されるものに対し、詳細な影響度評価を実施しました。4℃シナリオにおける物理リスクについて、IPCC※4シナリオ(SSP5-8.5)を用い、2050年・2090年の将来予測をもとにリスク分析を実施しました。また、気候変動に伴う気象災害の増加がトヨタグループの事業に与える影響を把握するため、国内外の事業拠点(国内137拠点、海外73拠点)について、気候変動による影響を簡易評価し、優先的に調査すべき拠点のスクリーニングを実施しました。
※4 Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル
Step1で描いた社会像におけるトヨタへの影響
1.5℃シナリオにおいては、グローバル全体で再生可能エネルギー(電気・カーボンニュートラル燃料※5)の導入が進み、電動車(特にZEV)の役割も増大します。一方で、国・地域により再生可能エネルギーの導入速度や、導入するエネルギー種(太陽光・風力・バイオなど)は異なります。新車販売に占めるZEV比率が大幅に増加する国・地域がある一方で、カーボンニュートラル燃料利用を進める国・地域もあるため、それぞれの市場に適合した商品(車両)を提供する必要があります。カーボンニュートラル燃料の導入は、既販車から排出されるCO2削減にも有効で、新車だけに頼らずCO2を削減していくことが可能です。生産や調達への影響としては、炭素税などの導入や税率引き上げによるコスト上昇の懸念により、省エネルギー技術、再生可能エネルギーや水素などの利用拡大がリスク低減につながります。
4℃シナリオにおいては、内水氾濫と高潮について将来変化が認められた拠点が存在します。社会全体の気候変動対策が十分ではない場合、洪水などの自然災害の頻発や激甚化による生産停止やサプライチェーン寸断による減産や生産停止の可能性が高まる懸念があります。
※5 バイオ燃料、合成燃料など


トヨタの戦略
シナリオ分析を用いることで、トヨタはマルチパスウェイ戦略によって、中長期的にレジリエンスを高めるべく事業運営に取り組んでいることが確認できました。
移行リスクにおいては、IEA NZEを含む複数のシナリオとの比較を通じて、カーボンニュートラル燃料の組み合わせも含めたトヨタの戦略は、パリ協定で掲げられている1.5 ℃目標を満たす可能性があることを確認しました。
トヨタは、各地域のエネルギー事情を考慮した上で、BEV、PHEV、HEV、水素エンジンなど、お客様へ様々な選択肢を用意し、かつ、電気や水素のほか、既存インフラの有効活用も可能な新しい燃料(カーボンニュートラル燃料)による既販車のCO2削減への取組みなど、あらゆる手段で2050年カーボンニュートラルを目指します。
一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)のCNFシナリオの報告によると、自動車燃料の低炭素化も重要であり、BEV化を急速に進めるシナリオだけでなく、HEV・PHEVとカーボンニュートラル燃料を有効活用するシナリオでも、IPCCの2050年1.5℃シナリオに整合的になり得ます。
物理リスクにおいては気象災害ハザードスクリーニングの結果、気候変動による将来変化が見られ、リスクに留意すべき(グレードB 以上)と評価された国内外の拠点について、リスク評価の実施を検討し、その結果に応じて水災対策や事業継続計画(BCP)の見直しを進めます。
今後もシナリオ分析を継続的に行い、気候変動の影響が大きいリスクと機会の特定・整理、インパクト評価を進めていきます。


c.気候関連のリスクと機会が組織のビジネス、戦略および財務計画に及ぼす影響
前述したリスクと機会へ対応するために、トヨタでは移行計画として温室効果ガス(GHG)削減目標を設定しています。移行計画の妥当性確認には、複数のシナリオを参照しています。
マルチパスウェイ戦略のもと、プロジェクト関連の財務計画に落とし込み、移行計画を具体化していきます。
なお、一定額以上のプロジェクト投資にあたっては、取締役会で承認します。