有価証券報告書-第123期(2022/04/01-2023/03/31)

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2023/06/26 9:00
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対処すべき課題


(1)変わることと変わらないこと
新型コロナウイルス感染症は、世界を、そして人々の暮らしを大きく変えました。その中で、働く人を取り巻く環境も大きく変化し、徐々に進展すると考えられていた「いつでもどこでもはたらく」という新しいワークスタイルへの変革が、グローバルで加速されることとなりました。一方で、出社を義務化するような動きが出始めており、ワークスタイルの変化に直面した企業やそこで働く人々は、オフィスに集うことの意義を見直し、いかに創造性を発揮するかを改めて考える必要が出てきました
このように働き方が変わっていく中で、私たちが変わらずに大切にし続けることが2つあります。
1つは、私たちは徹底的にお客様に寄り添い続けるということです。当社は1977年にオフィスオートメーションを提唱して以来、半世紀近くにわたりオフィスの効率化や生産性向上のお手伝いをしてきました。今後、仕事の価値が業務の効率化から人にしかできない創造力の発揮へと移っていく中で、私たちは変わらずにお客様の“はたらく”に寄り添い続け、すべてのお客様が“はたらく”を通じて歓びや幸せを感じることにお役立ちする会社でありたいと考えています。
そして、もう1つ変わらずに大切にするもの、それはリコーの創業の精神である「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」からなる「三愛精神」です。三愛精神を根底とし、お客様の“はたらく”に寄り添い、“はたらく”を歓びに変えるお手伝いをする会社になるという姿勢をより明確にするため、2023年4月1日に企業理念であるリコーウェイを改定しました。「“はたらく”に歓びを」を新たに「使命と目指す姿」と定め、“はたらく”に寄り添い変革を起こし続けることで、人ならではの創造力の発揮を支え、持続可能な未来の社会をつくることを目指します。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において、当社グループが判断したものであります。

(2) 当社の中期展望
当社は、2023年3月に、同年4月からスタートする第21次中期経営戦略(以下、21次中経)を発表しました。
当社の使命と目指す姿である「“はたらく”に歓びを」の実現に向けて、中長期目標として「はたらく人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスを提供するデジタルサービスの会社」となることを目指しております。デジタルサービスを提供するワークプレイスについて、複合機の販売を中心としたオフィス領域から現場・社会へと拡大すると同時に、それぞれのワークプレイス(オフィス・現場・社会)におけるお客様価値を拡げ、デジタルサービスの会社への変革を進めます。

◆将来財務(ESG)の視点
ESGの取り組みは、将来の財務を生み出すために不可欠なものと位置づけ、サステナビリティやESGに関してグローバルでトップレベルの評価を受ける会社であることを基本とした上で、お客様や株主・投資家の皆様からの高まるESG要求に応えるべくバリューチェーン全体を俯瞰した活動を進めます。
21次中経のスタートにあわせマテリアリティ(重要社会課題)を一部改訂し、事業活動を通じた4つの社会課題解決と、それを支える 3つの経営基盤の強化に取り組みます。また、これら 7つのマテリアリティに対する評価指標として 16の将来財務目標(ESG目標)を設定しております。マテリアリティとESG目標は、グローバルなESGの潮流への対応と経営戦略の実行力向上の観点で設定されており、16のESG目標は各ビジネスユニット、機能別組織にブレークダウンして展開されます。
事業を通じた社会課題解決では、お客様の“はたらく”を変革するデジタルサービスを提供し生産性向上と価値創造を支援します。また、脱炭素社会、循環型社会の実現にも引き続き注力し、当社グループの強みである技術力と顧客接点力を活かし、地域・社会システムの維持発展、効率化に貢献していきます。
また、経営基盤の強化では、人権問題への対応の強化、デジタルサービスの会社への変革に向けたデジタル人材の量・質の確保、デジタルサービス関連特許の強化等に取り組みます。
さらに、21次中経では、社会課題解決に貢献する事業とその業績影響の明確化に挑戦し、ESGと事業成長の同軸化の取り組みをステークホルダーの皆様に分かりやすく示していきます。

◆財務の視点
21次中経では、顧客起点のイノベーションでデジタルサービスの会社として成長を実現し、企業価値の向上を目指します。21次中経最終年度である 2025年度の財務目標は、売上高 2兆3,500億円、営業利益 1,300億円、ROE 9%超です。20次中計発表時(2021年3月)は、2025年度の財務目標について営業利益 1,500億円、ROE 10%超と示していましたが、昨今の不測の経営環境変化やオフィスプリンティング事業のノンハードウエア売上高の回復が当初想定していたほど見込めないこと等を考慮し、目標達成の時期が将来にずれ込むと判断し、目標を修正しました。ROE 10%超の実現は継続して目指します。

同時に、分野(ビジネスユニット)別の売上高・営業利益目標を一部見直しました。オフィスのデジタルサービスを担うリコーデジタルサービスが全社の成長を牽引しながら、現場のデジタル化として、製造や流通等の現場や社会へも成長領域を拡げ、お客様が働く場所でサービスを提供する会社としてお役立ちするとともに、新たな収益の柱の確立を目指します。

また、デジタルサービスの会社への変革の実現について進捗を管理するために、4つの主要指標と 2025年度目標を設定しました。1つ目は、事業ポートフォリオの変革において、成長領域であるデジタルサービスへの事業転換を図り、デジタルサービスの売上高構成比を 60%超にすることです。2つ目は、ビジネスモデルの転換と収益力の強化において、継続的に対価を得られるビジネスモデルを伸ばし、ストック利益 18%増(2022年度比)を目指します。さらに、3つ目として、そのストック利益において、オフィスプリンティング事業以外の事業分野で稼ぐストック利益の構成比を 54%に引き上げます。最後の4つ目は、人的資本のポテンシャル最大化として、リスキル*による成長領域への人的資本の再配分や組織の生産性向上により、社員1人当たりの稼ぐ力を 2022年度比で 70%増やします。
* リスキル(reskill):既存の人材が新しい資格や技術を習得する取り組み

掲げた21次中経の財務目標を達成するため、「① 地域戦略の強化とグループ経営の進化」「② 現場・社会の領域における収益の柱を構築」「③ グローバル人材の活躍」という3つの基本方針に基づき取り組んでいきます。
●21次中期経営戦略 基本方針
① 地域戦略の強化とグループ経営の進化
② 現場・社会の領域における収益の柱を構築
③ グローバル人材の活躍
基本方針① 地域戦略の強化とグループ経営の進化
オフィスプリンティング以外の収益を積み上げ高収益な体質にしていくために、顧客接点における価値創造能力の向上、当社グループ内でのシナジー発揮、継続した収益改善のために環境変化への対応力をつけていくことの 3つが重要になります。
当社は日本、欧州、米国、アジア、ラテンアメリカ等のグローバルの地域で事業を展開していますが、それぞれの顧客層には違いがあり、お客様の課題や要望も同じということはありません。そのため、各地域のお客様の“はたらく”を変革するお手伝いをするために顧客接点機能を強化し、お客様に寄り添いながら素早くソリューションを提供する地産地消型の開発体制が必要になります。21次中経においては、各地域のお客様特性や既存の組織力を加味して顧客接点機能を強化し、価値を生み出す体制の強化を図ります。
その上で、グローバルでグループとしてのシナジーを発揮するため、共創プラットフォーム(RICOH Smart Integration)によるエコシステムの構築、自社ソフトウエアの拡充とグローバル展開、競争力のあるエッジデバイスの開発・供給は、本社が主導して進めます。

基本方針② 現場・社会の領域における収益の柱を構築
現在はオフィス領域での収益が中心となっていますが、デジタルサービスの領域を拡げ、より幅広いお客様に価値を提供していくため、現場領域の事業拡大を進めます。製造や物流の現場は、まだまだアナログの業務が多く、当社のテクノロジーをもって新たなビジネスを開発していきたいと考えています。さらに、社会課題の解決に直結するビジネスの創出に取り組みます。
21次中経で重点的に取り組む事業には、印刷業のお客様を中心とした商用印刷、食品・物流業等の外装表示に対してソリューションを提供するサーマル、廃棄物による環境汚染低減に貢献する新素材PLAiR(プレアー)等社会課題の解決に寄与する事業があります。注力する事業領域を見極め、現場・社会の領域における収益の柱を構築していきます。
基本方針③ グローバル人材の活躍
事業構造を変化させ、グローバルでの提供価値を拡大させるためには、社員の活躍が不可欠です。当社では社員の能力やスキルを資本と捉え、人に対して積極的に投資をしていく人的資本戦略を策定しました。

人的資本戦略は「自律」「成長」「“はたらく”に歓びを」の3つの柱があり、社員が当社で働くことを通じて得られる体験を積み重ねることにより、社員の「“はたらく”に歓びを」と、事業成長の同時実現を目指すことが、人的資本の考え方です。

当社グループ全体の社員のスキルの底上げに加え、デジタルサービスの創出・加速に貢献するデジタル人材の専門性の向上を進めます。21次中経では、地域ごとの顧客接点から先進的なサービスを創り上げ、モデル化したサービスをグローバルに展開することができる人材の強化を進めます。さらに、将来の経営人材の育成に向け、デジタルサービスのビジネス経験者に対する早期育成プログラムの実施や、複数のプロジェクトをグローバルに経験させています。

◆成長を支える資本政策
当社は、ステークホルダーの皆様の期待に応えながら、株主価値・企業価値を最大化することを目指しております。株主の皆様からお預かりした資本に対して、資本コストを上回るリターンの創出を目指します。ROIC*経営、事業ポートフォリオマネジメントの資産効率向上等を推進し、ROEの改善に努めます。なお、当連結会計年度のROICは、4.9%となりました。
* ROIC(投下資本利益率) = (営業利益-法人所得税費用+持分法による投資損益) / (親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債)

デジタルサービスの会社への変革に向けて、リスク評価に基づき適切な資本構成を目指し、投資の原資に借入を積極的に活用しながら、負債と資本をバランスよく事業に投資していきます。オフィスプリンティング事業等の安定事業には負債を積極的に活用し、リスクの比較的高い成長事業には資本を中心に配分する考えです。
なお、2025年度に向けては、経営環境の不確実性が残る想定のもと、格付や資金調達リスクを鑑みた資本構成で、成長のための資本を確保します。2025年度以降は、成長投資領域の安定事業化とあわせ、新たな成長投資戦略に伴う事業構造変化を考慮し、柔軟に最適資本構成を調整していく考えです。
事業投資によって創出した営業キャッシュ・フローは、さらなる成長に向けた投資と株主還元に対して計画的に活用していきます。デジタルサービスの会社への変革に向けた成長投資については、20次中計発表時に掲げた 5年間(2021~2025年度)の成長投資枠 5,000億円から変更はありません。当連結会計年度はお客様のドキュメントワークフロー変革支援、ITマネジメントサービス機能強化に向けたPFUの買収、オフィスサービス事業成長のための欧米におけるM&A投資等、事業成長のための投資を着実に進めています。投資原資は、営業キャッシュ・フローを中心に有利子負債も活用しながら、メリハリを利かせて戦略的に実施します。

なお、2023年5月8日の 2022年度決算説明会において、PBR 1倍以上の実現に向けた特別プロジェクトを立ち上げ、活動を開始したことを公表しました。理論株式価値と現在の評価のギャップ分析を行い、PBR 1倍割れの要因を洗い出すことで、21次中経施策の加速も含め、企業価値向上に向けたアクションプランを策定、実行していく考えです。対象は、事業ポートフォリオの見極めから資本政策まで広くカバーしていく予定です。
株主還元方針については、引き続き総還元性向 50%の方針を堅持していきます。総還元性向 50%を目安とした上で、配当利回りを意識し毎年利益拡大に沿った継続的な増配を目指します。さらに、自己株式取得等の追加還元策は、経営環境や成長投資の状況を踏まえながら、最適資本構成の考え方に基づき、機動的かつ適切なタイミングで実施し、TSRの向上を実現していきます。
この株主還元方針を踏まえ、2023年度の配当見通しについては、当連結会計年度から 1株当たり 2円増配し年間 36円を予定しております。

(3)翌連結会計年度の見通し
当連結会計年度は、新型コロナウイルス感染症の影響による行動制限が緩和され、緩やかな景気回復基調が見られました。しかしながら、継続する国際情勢の緊迫化、資源価格の高騰やインフレ、円安の進行等により、グローバルビジネスにおける景気の先行きは依然として不透明な状況となっています。翌連結会計年度においてもこのような厳しい外部環境が続きますが、21次中経においては、デジタルサービスの会社として、従来のオフィスプリンティング事業を主とした収益構造からの変革を加速し、収益性の向上を図っていきます。また、柔軟な生産供給体制を構築し、環境変化への対応力を向上させていくとともに、現場のデジタル化領域において新たな収益の柱を構築していきます。
翌連結会計年度の業績見通しについては、連結売上高 2兆2,500億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は 500億円としました。当連結会計年度実績に対し減益となっていますが、これは主に当連結会計年度に発生した資産売却や政府支援金等の一過性収益、そして翌連結会計年度に含まれている構造改革のための一過性費用の影響によるものであり、これらを除くと実質増益となります。この見通しを確実に達成するために、デジタルサービスを中心とする事業成長と体質強化による収益構造の変革を引き続き進めていきます。