有価証券報告書

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2020/06/19 15:44
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104項目

対処すべき課題

1. 中期経営戦略2021 ~事業経営モデルによる成長の実現~
三菱商事は、2018年11月に2019年度から始まる3ヵ年の新しい経営の指針として、「中期経営戦略2021」を策定しました。
米国と中国の覇権を巡る対立等による地政学的力学の変化に加え、デジタル技術の進化やプラットフォーマーの台頭による“第4次産業革命”ともいえるビジネスモデル変革の潮流を踏まえて、持続的な事業成長を目指すための、経営方針となります。
「事業ポートフォリオ」「成長メカニズム」「人事制度改革」「定量目標・資本政策」の4項目から構成される新たな中期経営計画により、事業経営モデルによる三価値同時実現※を前提とした成長を実現します。
※事業を通じた「経済価値」・「社会価値」・「環境価値」の同時実現
■事業ポートフォリオ
全産業を俯瞰し、外部環境の変化も踏まえ、次に攻めるべき分野や入替えを進める分野を全社で検討するため、事業ポートフォリオの枠組みを導入します。
事業ポートフォリオの最適化に向けては、三菱商事独自の多次元の軸で考察します。定量面からは勿論のこと、地域の観点、業界におけるプレゼンスの観点、事業経営レベルの観点から、常にあるべき形を検討していく仕組みを整えます。
■成長メカニズム
「成長の芽」を発掘し、これを「成長の柱」へ育て、事業価値を向上し「収益の柱」へと成長させていく。そして三菱商事による事業価値向上にどうしても限界が生じる場合は、入替えも含め抜本的に見直す。
三菱商事に内在するこの一連のサイクルを、事業ポートフォリオの観点も加えながら、従来以上に徹底して運用していきます。
そのためにも、経営企画部に「事業構想室」を、各営業グループに「グループ事業構想担当」を設置し「成長の芽の発掘」「成長の柱の構築」を積極的に進める体制を執ります。また、新たにチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)を任命し、その管下に「デジタル戦略部」を組成、各営業グループにも「グループデジタル戦略担当」を設置することで、急激に進む産業のデジタル化の動きに対応していくこととします。
■人事制度改革
「多様な経験を通じた早期育成」「実力主義と適材適所の徹底」「経営人材の全社的活用」を軸とした人事制度改革を実施します。具体的には、柔軟な人材の配置・活用、成果主義の徹底、株式報酬の導入、複眼的な評価の仕組みの強化を通して、分野を超えて活躍できる経営力の高い人材を継続的に輩出し、社員の成長と会社の発展が一体となることを目指します。
■定量目標・資本政策
事業系の持続的な成長と市況系の競争力強化により、2021年度に連結純利益9,000億円を目指すと共に、二桁ROEの更なる向上を目指します。
投資・売却計画は、リスクアセットベースで事業系7割以上を維持し、事業系・市況系の最適バランスを堅持する様に投資配分を決定していきます。
配当は、持続的な利益成長に合わせて増配していく「累進配当」を継続し、配当性向を現在の30%から将来的に35%程度に引き上げていくことを目指します。
2. 中期経営戦略2021の進捗
2019年度は、世界経済の減速に、新型コロナウイルス感染急拡大の影響が加わる厳しい事業環境の中で、資産入替や、顧客基盤に繋がる「川下」領域、IT・物流等の「サービス」分野での取組を着実に進めました。

(新型コロナウイルス感染症による当社事業への影響)
2020年6月時点では、新型コロナウイルスの感染収束の目途がたたない状況が続いていますが、現段階での営業グループの各事業に対する主な影響は次のとおりとなっています。

3. 当連結会計年度のセグメント別の事業環境と翌連結会計年度以降の見通し
① 天然ガスグループ
当連結会計年度は、北米シェール事業における一過性損失や、LNG関連事業における持分利益の減少などにより、前連結会計年度と比較して減益となりました。
2019年の世界のLNG需要は前年比41百万トン増の3.5億トンと過去最高を更新しました。特に世界第2位の輸入国である中国にて需要が8百万トン増加すると共に、供給面でも米国の新規LNGが前年比13百万トン増加しています。
なお、原油価格(Dubai)は新型コロナウイルスの感染拡大による需要減やOPEC+の増産などから1バレル当たり20ドル前半まで下落しました。
LNGは、短期的には新型コロナウイルスの影響により需要が低下しているものの、長期的にはエネルギー需要増や環境面での優位性などを背景に需要増が見込まれており、成長が見込まれる事業領域と考えています。なお、当グループの業績には原油価格が少なからぬ影響を与えますが、原油価格の変動が当グループの業績に影響を及ぼすまでにはタイムラグがあるため、価格変動が直ちに業績に反映されるとは限りません。
② 総合素材グループ
当連結会計年度は、主に鉄鋼製品事業における持分利益や炭素事業における取引利益の減少などにより前連結会計年度と比較して減益となりました。
鉄鋼製品事業において事業再編益の一過性利益を計上した一方、当グループの主要対面業界である自動車・モビリティ、建設・インフラ分野の事業環境の悪化に起因した取扱い製品の販売価格・販売数量の減少に加え、第4四半期連結会計期間においては新型コロナウイルスの感染拡大による需要減少を受け、当期純利益は減益となりました。
当グループの取り巻く環境としては、新興国の経済成長が世界経済を牽引し、素材関連の需要や市況は底堅く推移していく見通しです。中長期的には、素材ニーズの多様化により見込まれる事業機会がある一方、競争が厳しさを増す業界環境において、当社が対面業界の課題解決において貢献できる役割を再確認し、強みや機能を発揮できる事業への集中を進めていきます。現在、新型コロナウイルス感染症の影響により鉄鋼製品等の需要は減少しているものの、産業の基礎素材である為、経済活動の回復に伴い、需要も回復する見込みです。
③ 石油・化学グループ
当連結会計年度は、シンガポール連結子会社において元現地社員が社内規程に違反して行った原油デリバティブ取引関連損失や石油化学事業における持分利益の減少などにより、前連結会計年度と比較して大幅な減益となりました。
原油価格(Dubai)は、主要産油国による協調減産や中東情勢の不安定化を受けて、1バレル当たり50-60ドル台で推移しましたが、当連結会計年度末には、協調減産合意の決裂、新型コロナウイルス感染症対策に起因した需要減退懸念等を受け、20ドル台まで下落しました。化学品市況は、プラント新増設による需給バランスの悪化や米中貿易摩擦の影響を受け、全般的に低迷した推移となりました。
新型コロナウイルス感染症対策に起因する需要の減少や産油国を取り巻く環境の変化といった、先行き不透明な状況が当面続くものと予想されます。中長期的には、低炭素社会への移行や循環型社会の実現の重要性がますます増大する中、新型コロナウイルス感染拡大を背景とした生活様式の変化による市場構造の変化も見据え、中核事業の強化と共に、石油・化学の総合力を活かした新規事業に取り組んでまいります。
④ 金属資源グループ
当連結会計年度は、チリ銅事業再編に伴う一過性利益や前連結会計年度に計上したチリ鉄鉱石事業における減損損失の反動があった一方、豪州原料炭事業における事業収益の減少や海外製錬事業における減損損失などにより前連結会計年度と比較して減益となりました。
当グループの中核事業の1つであり、鉄鋼の原料となる原料炭については、堅調に供給が推移した一方、中国の港湾で通関プロセスが一時厳格化されたことや、インド経済の減速、欧州の製鉄会社各社での減産を受け需要が低迷したことなどから、前連結会計年度に比べ市況は下落しました。
また、もう1つの主力事業である銅に関しても、貿易摩擦を発端とした米中対立の激化や中国の経済成長率の減速、欧州の景気低迷などにより価格は低調に推移しました。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、金属資源・製品の需要は低迷している一方、一部鉱山における操業停止や生産性の低下等による供給への懸念もあり、需給バランスは当面不透明な状況が続く見通しですが、新型コロナウイルスの感染収束に伴い、需要・価格ともに回復し、鉱山操業も正常化に向かうことが見込まれます。
中長期的には、新興国を中心とする世界経済の成長により、金属資源・非鉄製品の需要・市況は堅調に推移していく見通しです。
⑤ 産業インフラグループ
当連結会計年度は、船舶事業における一過性利益の反動減がありましたが、千代田化工建設株式会社の子会社化に伴い計上した一過性評価益や建機レンタル事業好調により前連結会計年度と比較し大幅な増益となりました。
プラントエンジニアリング事業は千代田化工建設再生支援への取組み及び同社子会社化に伴い計上した評価益、国内レンタル事業は建機レンタル需要の着実な取込み、産業設備事業は国内工作機械販売堅調、エレベーター事業はアセアン各国での安定的な保守収益確保など、各事業総じて順調に推移しました。
翌連結会計年度以降は、新型コロナウイルスの感染拡大及び油価動向の見通しは難しい状況にあり、短期的には各事業への影響は避けられない見込みです。
一方、中長期的には、プラントエンジニアリング事業では、マクロなエネルギー需要の拡大に伴い、新規プラント需要は着実に見込めると認識しています。産業機械事業では、建設工事・各種生産設備・不動産関連設備などの需要で中長期的には成長を見込んでいます。船舶事業において、一般商船分野では、環境規制の強化に伴う老齢船の撤退による需給バランスの改善が見込め、ガス船分野では、世界的なLNG需要の増加に伴い、ガス船需要は底堅い見通しです。
⑥ 自動車・モビリティグループ
当連結会計年度は、三菱自動車工業株式会社に対する投資の減損損失及び持分利益の減少や、アジア自動車事業における持分利益の減少などを受け、前連結会計年度と比較して大幅な減益となりました。
米中貿易摩擦を含めた景気減速・為替変動等の外部環境の影響に加え、第4四半期連結会計期間は新型コロナウイルスの感染拡大により、世界的に自動車市場が低迷しました。当社の取り扱いは、主力のタイ・インドネシアを含む多くの国でも販売台数が前年度比で減少となりました。
既存のタイ・インドネシア事業を更に強化・拡張すると共に、アセアン・新興国を中心に更なる事業展開と一層の拡販に努めます。
加えて、CASEなどによる業界構造変化を捉え、長年培ってきた事業基盤や地域密着型の強みを活かして、モビリティ・サービス事業を推進します。
しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで世界的な自動車市場の低迷はしばらく続き、翌連結会計年度は厳しい市場環境を想定しています。
⑦ 食品産業グループ
当連結会計年度の消費市場は、米中貿易摩擦の激化による中国・新興国経済成長の減速がみられたものの、国内・海外共に底堅く推移していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で急速に悪化しました。当連結会計年度の当グループの当期純利益は、前連結会計年度に計上した海外食品原料事業における減損損失の反動や、海外食品事業の売却関連益の影響などにより、前連結会計年度と比較して増益となりました。
翌連結会計年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、国内・海外消費市場共に景気減速・消費低迷等、先行きは極めて厳しい状況が続くと見込まれますが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の積極的活用によるサプライチェーン全体の効率化や高度化を推進すると共に、消費者ニーズに合った商品・サービスの提供に努めることで収益の安定化に取り組んでまいります。
⑧ コンシューマー産業グループ
当連結会計年度は、国内消費市場の景況感が比較的良好に推移した一方、人手不足や人件費の高騰など、業界を取り巻く環境はますます厳しくなりました。また、インターネット通販の拡大やシェアリングエコノミーの浸透等を背景に、業態を超えた競争も激化する環境下、当グループは、消費者にとって利用価値の高い小売・流通プラットフォーム構築の実現に向けた第一歩として、2019年12月、KDDI、ロイヤリティマーケティング、ローソンの3社と、ネットとリアルを融合した新たな消費体験の創造に向けた取り組みに合意しました。当連結会計年度の当グループの当期純利益は、CVS事業における不採算店舗の閉鎖増や物流事業における倉庫売却益の反動に伴う持分利益の減少などにより、前連結会計年度と比較して減益となりました。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、消費者の生活様式の変化やニーズのますますの多様化・細分化が予想される中、常に変化する消費者ニーズを的確に捉えた価値創出に取り組んでいきます。また、食品流通を含めた中間流通事業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を通じ、業態変革を進めてまいります。
⑨ 電力ソリューショングループ
当連結会計年度は、世界的な脱化石燃料の動きの加速により、洋上風力を始めとする再生可能エネルギーの事業機会が旺盛な中、開発発電資産入れ替えに伴う利益及びオランダの総合エネルギー会社であるEneco社の子会社化に伴う再評価益など一過性損益も含めて、前連結会計年度と比較して増益となりました。
分散型発電事業や電力小売事業に於いてもデジタル・トランスフォーメーション(DX)によるビジネスモデルの変化が起きており、電力事業の取組機会が引き続き見込まれます。2020年3月にはEneco社を買収、同社を欧州におけるプラットフォームとして、川上(供給側)から川下(需要側)までのエネルギーバリューチェーン全体での価値極大化に向けた取り組みを推進してまいります。環境関連事業においては、電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車などの普及や蓄電などの産業用市場への広がりも加わって、リチウムイオン電池市場は順調に拡大しており、蓄電池を用いたサービス事業も開始しました。
⑩ 複合都市開発グループ
当連結会計年度は、日米不動産事業における物件売却益やリース事業利益の増加などにより、前連結会計年度と比較して増益となりました。
当グループの事業領域である都市開発・不動産、企業投資、リース、インフラの各業界を取り巻く事業環境は、主要国における潜在成長率の低下及び中東や東アジア情勢の地政学的リスク、米中貿易摩擦に伴う景気の下振れなど一部足元の懸念要素はあったものの、米国を中心に財政面からの景気刺激策による下支え効果や、新興国の底堅い経済成長に支えられ、当グループの対面市場の景況は安定的に推移しました。
不動産関連では、アセアンを中心に中間層の人口増加等を背景に都市化が進展し、不動産市場の拡大や大規模な都市開発事業の機会が見込まれます。足元では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により売買市場の一時的な鈍化が懸念される一方、物流施設やデータセンターについては、電子商取引の拡大等を背景に需要が急増しており、持続的な市場拡大が見込まれます。
リース関連では、新興国の経済成長やリース取引の市場浸透率拡大等により、中長期では堅調な市場拡大を見込む一方で、足元の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を注視していきます。
4. 個別重要案件
当連結会計年度における重要な個別案件については、「2. 事業等のリスク ⑤事業投資リスク」内の(重要な投資案件)「a. 豪州原料炭及びその他の金属資源権益への投資」、「b. チリ銅資産権益への投資及びその他の資源権益への投資」 、「c. ペルー銅資産権益への投資及びその他の資源権益への投資」、「d. モントニー・シェールガス開発プロジェクト/LNGカナダプロジェクト」、「e. ローソンへの出資」及び「f. 欧州総合エネルギー事業への投資」を参照願います。