有価証券報告書-第20期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/09 10:42
【資料】
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【項目】
161項目

対処すべき課題

記載事項のうち将来に関する事項は、提出日現在において入手可能な情報等に基づいて判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、公共性及び信頼性の確保、利便性、効率性及び透明性の高い市場基盤の構築並びに創造的かつ魅力的なサービスの提供により、市場の持続的な発展を図り、豊かな社会の実現に貢献します。また、これらを通じて、投資者を始めとする市場利用者の支持及び信頼の増大が図られ、その結果として、利益がもたらされるものと考えます。
この企業理念の下、中期経営計画において、中長期の将来像を見据えた経営の基本方針、事業戦略及び経営目標を策定しています。
2019年度から2021年度の3か年を対象とした「第三次中期経営計画 ―市場への責任 未来への挑戦―」(2019年3月策定、2020年3月及び2021年4月アップデート)においては、グローバルな環境変化や技術革新の中、ステークホルダーとの一層の協力や新たなパートナーシップを通じ、誰もがあらゆる商品を安心かつ容易に取引できる取引所⦅Total smart exchange⦆への進化を目指すとともに、「責任あるインフラの運営者として『持続可能な社会の構築』に向けて、さらに積極的に貢献していく」ことを経営の基本方針とし、社会を支えるインフラとしての責任を果たす意思と、環境変化に立ち向かう意思を「市場への責任 未来への挑戦」と表しています。
中期経営計画を着実に実行するとともに、投資家・利用者のニーズや事業環境の変化、技術の進展や規制の枠組みの見直しに応じて、的確な対応を進めることにより、日本国内のみならず、アジア太平洋地域のタイムゾーンにおける機軸マーケットとして、世界でも枢要な市場の一つであり続けることを目指していきます。
(2)中期経営計画、経営環境及び対処すべき課題等
① 第三次中期経営計画2年目の振り返り
当社グループは、第三次中期経営計画の計画2年目として、4つの重点戦略に基づく施策を着実に実行いたしました。
一方で、2020年10月1日に株式売買システム「arrowhead」で発生した障害及びそれを契機として現物市場の全ての売買が終日停止したことを受けて、当社及び株式会社東京証券取引所は、障害が発生した機器の自動切替え機能の設定に不備があったことや、売買再開に係る東証のルールが十分でなかったことなどが認められたとして、同年11月に金融庁から業務改善命令を受けました。また、当社においては、障害発生の原因等について調査を行うとともに、調査結果を踏まえた再発防止等の各種対策の実効性を高めるため、当社取締役会の決議により、当社の独立社外取締役から構成される「システム障害に係る独立社外取締役による調査委員会」を同年10月5日付で設置し、同委員会から同年11月30日付で報告書を受領しています。
これまで「ネバーストップ」をスローガンとして、信頼性を高める施策に取り組んでまいりましたが、今後は、迅速かつ適切な回復策を拡充すべく、「レジリエンス(障害回復力)」も同様に重視して取り組むことで、当社グループ全体として、市場の信頼回復に努めてまいります。
重点戦略主な施策や成果
次世代に向けた
「市場のカタチ」の追求
■新市場区分の上場制度や移行プロセスについて制度要綱を公表
■IPO件数は安定的に推移(19年度94社、20年度99社)
■ETF設定・交換に係る清算業務を開始
総合取引所の実現・活性化とその発展■貴金属先物等の商品移管及び清算機関統合を実現
■祝日取引の開始時期や対象商品等概要を公表
■商品・参加者の多様化に向けた積極的な取組みを実施
データサービスの多様化の実現と次世代への挑戦■外部パートナーとの協業も活用し、新しいデータサービスを実現
■TOPIXの段階的移行プロセスを公表
■適時開示情報・株価情報のAPI配信を実現
事業と社会の未来を
支えるための基盤作り
■在宅勤務の推進・業務遂行体制の複数チャネル化をはじめとする、各種コロナ対策を実施・継続
■ESG開示・ESG投資の情報を集約したサイトを開設
■ESG情報開示実践ハンドブックがUNCTAD(国連貿易開発会議)の"ISAR Honours"受賞

② 経営・事業環境及び課題
当社グループは、有価証券やデリバティブの上場から、取引の場の提供、清算・決済サービスから指数・情報サービスに至るまで、我が国の市場に関する一連のサービスをグループ一丸となって提供しています(当社の企業構造については「第1企業の概況 3事業の内容」の事業系統図をご覧ください。)。当社グループが運営する市場は、企業等に対しては資金調達機会を、投資家に対しては資産運用機会を、社会全体に対しては価格発見機能を提供しています。我が国においては、国内の他の取引所や私設取引システム(PTS)が市場を提供していますが、当社グループは、証券会社等の取引参加者を通じて、国内外の投資家からの大量の需給を集約することにより日本国内において確固たる地位を確立しています。当社グループが、我が国におけるセントラル・マーケットの運営者として、引き続き安定的に市場運営を行っていくためには、取引参加者・上場会社・システムベンダーをはじめとする市場関係者との一層の連携を図っていくことが重要と認識しています。また、政府の成長戦略における、金融・資本市場関連分野の課題として掲げられている事項に対しても、市場運営者としての立場から、実現に向けた取組みが求められています。
当社グループの運営する市場は、内外の経済情勢や金融政策、地政学リスクの動向など外部環境の変化によって大きな影響を受けるため、内外の経済動向や市場環境を注視しながら、市場運営を行っていく必要があります。景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により依然として厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いているものの一部に弱さがみられ、先行きについては、各種政策の効果や海外経済の改善もあって、持ち直していくことが期待されますが、感染の動向が内外経済に与える影響に十分注意するとともに、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要があります。さらに、日本経済においては、少子高齢化や財政赤字、金融緩和の長期化などの中長期的な構造要因の急速な顕在化が懸念されています。また、世界経済においては、米国・欧州における金融政策の動向や米中貿易問題など米中経済の動向や政治リスクの高まりなどが想定されますが、これらの動向により、当社グループの運営する市場の動向に影響を与える可能性があります。当社グループとしては、環境の不透明性・不確実性から生じる様々なリスクに的確に対処しながら、常に安定的に利用者の満足度が高い市場インフラを提供することを最大の経営課題と認識しております。特に、2020年10月1日に発生したシステム障害により現物市場の全銘柄が終日売買停止した事態については、市場運営者としての重責を改めて認識しております。また、中期経営計画の最終年度を迎えるにあたっては、重点戦略に基づく施策を仕上げていくとともに、中長期の環境変化にも引き続き備えていく必要があります。
③ 第三次中期経営計画(2019年度-2021年度)最終年度に向けたアップデート
こうした認識の下、当社グループは、第三次中期経営計画の大枠を維持しつつ、市場の信頼回復や機能強化のため、「ネバーストップ」に加えレジリエンス向上に向けて喫緊の再発防止策を確実に実施していきます。また、中長期的な視点からは、IT機能・人材のあり方の検討や研究部門の設置などについてもこれまでのDX関連施策と併せて推進することで、市場の安定的運営という本来の使命を果たしていきます。さらに、市場区分再編など重要施策を着実に実施するとともに、ESG投資の推進をはじめ投資手法や資金調達手段の変化にも呼応できるように準備を進めていきます。以上をアップデートの基本方針とし、以下4つの重点戦略を実行していきます。
重点戦略具体的施策
次世代に向けた
「市場のカタチ」の追求
■現物市場の機能強化、次世代現物プラットフォームの構築推進
■日本市場の魅力向上に向けた市場構造の構築、コーポレートガバナンス向上
■グローバル競争力強化のための清算サービス向上
■個人投資家との新たなチャネル拡大、グローバル投資家サポートの推進
■ETF市場活性化、新たな投資家層の受け皿となる環境整備
■質的魅力を備えた上場会社・上場商品の拡充
総合取引所の活性化と発展■総合取引所の活性化
■次期デリバティブプラットフォーム J-GATE3.0の構築推進
■多様なフロー獲得によるデリバティブ市場活性化
■デリバティブ市場の発展に向けた新しい施策の推進
■中長期の将来像の実現に向けた対応
データサービスの多様化の実現と次世代への挑戦■技術革新とパートナーシップを活用した新しい情報サービスの創造
■API配信・クラウド配信を実現する次世代情報配信システムの構築
■環境変化・ニーズに即した指数開発・事業強化
■投資対象としての機能性を備えたTOPIXへの移行
■中長期の将来像の実現に向けた対応
事業と社会の未来を
支えるための基盤作り
■ITシステム基盤強化、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進、デジタル人材育成
■更なるサステナビリティの推進
■サイバーセキュリティ対策の強化と自然災害リスクに備える関西バックアップセンター整備
■環境変化に即した的確な自主規制機能の発揮
■安定的な資産形成や市場機能強化のための金融リテラシー向上
■事業基盤の強化

なお、当社グループは、4つの重点戦略の達成状況を判断するための客観的な指標として、主要目標を定めており、計画2年間で以下のとおり進捗しています。今後は、推進中のものを中心に施策を進めていきます。
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④ 第三次中期経営計画(2019年度-2021年度)の経営財務数値及び資本政策
市場への責任を果たすためのシステム投資・BCP投資を実施しつつ未来へ挑戦していくための取組みを推進すること、具体的には4つの重点戦略を着実に遂行することにより、当社グループの収益基盤である取引量などの中長期的な増大を図っていくことを経営財務方針としています。また、安定的な市場運営のための財務の安全性と株主還元のバランスをとりつつ、継続的な投資により、市場の持続的な発展・進化を支えることを資本政策の基本方針とし、市況にかかわらず資本コストを上回るROE10%を中長期的に維持することを目指します。当該経営財務方針及び資本政策に基づき、計画最終年度の経営財務数値と計画期間中の設備投資金額の目安となる水準を以下のとおり設定しておりました。
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こうしたなか、2020年度において当社グループは、営業収益1,333億円、当期利益(親会社の所有者帰属分)513億円、ROE16.6%(注)と、最終年度を待たずに経営財務数値を達成しました。
(注)営業収益及び当期利益(親会社の所有者帰属分)については表示単位未満を切捨て、ROEについては小数
第2位を四捨五入。
2021年度においては、レジリエンス向上、市場の安定的運営の徹底、未来への挑戦に向けた取組みへ投資を強化するため、計画3か年の設備投資額を450億円から500億円程度へ増額しています。