有価証券報告書-第96期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 15:40
【資料】
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【項目】
167項目

事業等のリスク

当社企業グループの中核である電気事業は、電力の安定供給のために発電設備や流通設備等が必要不可欠であり、設備の損傷や電源の長期停止といった設備リスクは、事業運営における重要なリスクとして認識しております。また、電気という日常生活、産業活動に不可欠なインフラを供給するという社会的使命を果たす電気事業は、国のエネルギー政策の動向や関連する制度措置の見直しといった規制リスクを有しており、事業環境における重要なリスクとして認識しております。加えて、電気事業における主要コストである火力燃料費は、原油などのCIF価格及び為替レートの変動の影響を大きく受けることなどから、市場リスクについても重要なリスクとして認識しております。
これらのリスクが顕在化した場合には、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があると認識しており、当社企業グループでは、これらのリスクの低減に努めるとともに、発生した場合は、的確な対応に努めております。
以下では、当社企業グループの業績及び財政状態への影響が大きいリスクを取り上げておりますが、有価証券報告書提出日現在において、当社が判断したものであり、すべてのリスクを網羅している訳ではありません。当社企業グループの事業は、現在は未知のリスク、あるいは現時点では重要と見做されていない他のリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。
なお、当社は、定期的に業務上や財務上のリスク調査を実施し、リスクの認識、分析・評価、対応策の検討を行い、重要なリスクについては、その内容に応じて社内取締役をトップとする委員会等を設置し、各種リスクを適切に管理し、未然防止に努めております。
(1)設備リスク等の事業運営におけるリスク
a.自然災害及び設備事故の発生による影響
地震・津波や台風等の自然災害、事故やテロ、サイバー攻撃等の不法行為などにより、当社が受電する他社の発電所を含め設備が損傷した場合や電源の長期停止などに至った場合は、設備復旧費用や発電費用の上昇などにより、当社企業グループの業績及び財政状態は重大な影響を受ける可能性があります。
当社企業グループは、これらの設備リスクを低減し、お客さまに高品質な電力を安定的に供給するため、設備の点検・修繕を計画的に実施するとともに、サイバーセキュリティ対策を講じ、設備の信頼性向上に努めております。
(2)規制リスク等の事業環境におけるリスク
a.電気事業を取り巻く制度変更等による影響
既に取引が開始した非化石価値取引市場やベースロード市場、今後創設が予定される需給調整市場・容量市場などの新市場取引の導入等による電力システム改革の進展、エネルギー基本計画に基づく政策の動向、それによる電気事業者及び他エネルギー事業者との競争の進展、環境関連規制の強化等による設備対策の増加などにより、当社企業グループの業績及び財政状態は長期にわたり影響を受ける可能性があります。
このため、国のエネルギー政策動向や電気事業を取り巻く制度変更等に関して、引き続き動向を注視してまいります。
b.原子力発電を取り巻く制度変更等による影響
原子力発電を取り巻く環境が厳しさを増している中、今後の政策・規制変更等により、当社が保有するあるいは当社が受電する原子力発電所の停止が長期化する場合など、火力燃料費の増加継続などにより、当社企業グループの業績及び財政状態は長期にわたり影響を受ける可能性があります。
当社は、安全確保を大前提に原子力を一定程度活用していくことが重要と考えており、新規制基準への適合に加え、さらなる安全性向上に向けて自主的な対策を進めるなどの取り組みを行っております。
なお、一定の前提を置いた試算ではありますが、女川原子力発電所2号機が再稼働した場合は年間で300億円程度、東通原子力発電所1号機が再稼働した場合は年間で200億円程度の火力燃料費が減少するものと想定しております。
c.原子力のバックエンド事業コストの変動による影響
原子力のバックエンド事業は、超長期の事業で不確実性を伴いますが、国による制度措置等により事業者のリスクが軽減されております。
ただし、国の政策変更や、関連する制度措置の見直し、将来費用の見積額の変動、再処理施設の稼働状況等により、費用負担が増加するなど、当社企業グループの業績及び財政状態は長期にわたり影響を受ける可能性があります。
このため、原子力のバックエンド事業に係る国の政策や関連する制度措置の動向に関して、引き続き動向を注視してまいります。
d.気候変動に関するリスク
自然災害の激甚化による設備被害増大など、気候変動による影響を受けた場合、当社企業グループの業績及び財政状態は長期にわたり影響を受ける可能性があります。
また、低炭素社会への移行が国際的に求められている中、石炭火力発電所の稼働・資金調達には一定の制約等がありうることを認識しておりますが、電気を安定して供給するための当社の電源ポートフォリオには、石炭火力の活用も引き続き必要な状況です。
これらの気候変動に関するリスクに対して、再生可能エネルギーの開発の取組みを拡大するとともに、需給両面でのCO2排出削減などの緩和策や、自然災害へのレジリエンス向上などの適応策に引き続き取り組んでおります。
(3)価格変動リスク等の市場リスク
a.需要及び販売価格の変動による影響
電気事業における販売電力量や託送電力量並びに販売価格は、電力小売全面自由化による競争激化、少子高齢化による人口減少や景気動向、気温の変動、さらには省エネルギーの進展などによって変動することから、当社企業グループの業績及び財政状態は重大な影響を受ける可能性があります。
また、2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東北地域は大きな被害に見舞われ、震災後9年を経てもなお、被災地の復興は途上であり、電力需要について、震災前の水準への回復が遅れる可能性があります。
当社企業グループは、東北6県及び新潟県以外の地域での販売電力量拡大に向けて、関東圏での小売・卸売の拡大により、当社企業グループの業績及び財政状態への影響緩和に努めております。
b.燃料費の変動による影響
電気事業における火力燃料費は、石炭、LNG、重・原油などのCIF価格及び為替レートの変動による影響を受けます。電気事業には、燃料価格及び為替レートの変動を電気料金に反映させる「燃料費調整制度」が適用されますが、燃料価格などが著しく変動した場合には、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があります。
このため、当社は、バランスのとれた電源構成を目指すことなどによって燃料費変動リスクの分散に努めております。
また、年間降雨降雪量により、豊水の場合は燃料費の減少要因、渇水の場合は燃料費の増加要因となりますが、「渇水準備引当金制度」により一定の調整が図られるため、業績への影響は限定的と考えられます。
なお、当社火力燃料費は、一定の前提を置いた試算ではありますが、1バレル当たりの原油価格が1米ドル変動すると年間26億円、1米ドルの為替レートが1円変動すると年間30億円、出水率が1パーセント変動すると年間8億円の変動影響があるものと想定されますが、火力発電所の稼働状況などにも影響を受けるため、燃料価格及び為替レートのみで決定はされません。
c.金利の変動による影響
当連結会計年度末の有利子負債残高は2兆4,126億円となりました。当社では、金利の変動影響を回避するため、固定金利での資金調達を基本としておりますが、今後の市場金利の動向及び格付の変更により、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があり、金利が1パーセント変動すると年間34億円の影響があると試算されます。
ただし、有利子負債残高の多くは固定金利で調達した社債や長期借入金であることなどから、市場金利の変動による影響は限定的と考えております。
d.退職給付費用・債務の変動による影響
退職給付費用及び債務は、割引率など数理計算上で設定される前提条件や年金資産の長期期待運用収益率に基づいて算出しております。割引率や運用利回りの変動により、当社企業グループの業績は影響を受ける可能性があります。
このため、企業年金資産の分散投資によるリスク低減や、連合型確定拠出年金制度の導入により、当社企業グループ全体での退職給付債務の削減による財務リスクの軽減を図り、業績への影響緩和に努めております。
(4)その他のリスク
a.情報流出による影響
当社企業グループは大量の個人情報や設備情報など重要な情報を保有しており、重要な情報の流出により問題が発生した場合は、損害賠償金の支払いや当社企業グループに対する社会的信用の低下などにより、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があります。
当社企業グループでは、重要な情報の適切な取扱いを図るため、基準等の整備や従業員に対する教育啓発、委託先管理の徹底等、情報セキュリティ対策の強化を図っております。
b.企業倫理に反した行為による影響
法令違反等の企業倫理に反した行為が発生した場合、法令上の罰則や当社企業グループに対する社会的信用の低下などにより、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があります。
当社企業グループでは、企業倫理・法令遵守が全ての事業活動の前提になるとの考えのもと、企業倫理・法令遵守の体制を構築し、定着に向けた啓発活動等に取り組んでおります。
c.新型感染症拡大による影響
新型コロナウイルス等の新型感染症の拡大が長期化した場合、消費の低迷や生産活動の停滞等による電力需要の減少等によって、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があります。
また、当社管内での流行時には発電所の運転人員等の確保や、世界的な感染拡大の状況によっては発電燃料の調達に影響を及ぼす可能性があります。
当社では、感染症の大規模流行に備え、電力の安定供給を維持するための事業継続計画を策定しており、当社管内の流行段階に応じて、縮小や中断が可能な業務から順次業務を絞り込みながら業務運営を行うこととしているほか、燃料の調達ソースの多様化・分散化により調達安定性を確保し、燃料の供給が途絶するリスクの低減を図り電力の安定供給に努めていくとともに、中長期的な事業環境変化にも対応していくこととしております。