有価証券報告書-第96期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 15:40
【資料】
PDFをみる
【項目】
167項目

対処すべき課題

以下に記載の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)東北電力グループ中長期ビジョン
当社企業グループを取り巻く環境は、電力小売全面自由化の進展による競争の激化、及び本年4月の送配電事業の分社化に加えて、再生可能エネルギーの導入拡大やデジタル化に伴う電力需給構造の変化など、大きな転換点を迎えております。また、新型コロナウイルス感染拡大もこうした電力需給構造の変化を進展させる契機になると考えられます。
これまで当社は、発電・送配電・販売の一貫体制での事業運営で、震災からの地域の復興と財務基盤の回復や、全面自由化後の競争力強化などに的確に対応してまいりました。今後とも、電力供給事業につきましては、再生可能エネルギーを含めた最適な電源ポートフォリオや事業効率を最大限に高めることにより電気の価値の最大化を目指すとともに、引き続き電力の安定供給という使命を果たし続けてまいります。さらに、女川及び東通地点の原子力発電所につきましては、地域のみなさまのご理解をいただき、着実に再稼働に向けて取り組んでまいります。あわせて、女川原子力発電所1号機の廃止措置にもしっかりと対応してまいります。
事業基盤である東北6県及び新潟県では、他地域と比較して人口減少や少子高齢化が加速しており、今後、交通、教育、福祉など、様々な分野で社会課題が顕在化していくことも想定され、社会構造が大きく変化しようとしております。こうした変化の激しい時代においては、自らが変革を推し進め、主体的に挑戦していかなければ、今後も、当社企業グループが存在意義を果たし続け、社会とともに持続的成長を実現することは困難となります。
このような強い危機感のもと、当社企業グループは、「東北発の新たな時代のスマート社会※の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループ」を2030年代のありたい姿とする「東北電力グループ中長期ビジョン」を策定いたしました。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、様々な課題が浮き彫りになるとともに、今後、デジタル化や分散化は一層加速し、暮らしや働き方など社会経済システムに大きな変化をもたらす可能性があります。当社企業グループは、これらの課題解決に資するスマート社会の実現に貢献できるよう、スピード感を持って中長期ビジョンの達成に取り組んでまいります。
※スマート社会:地域における人口減少や少子高齢化など様々な分野で顕在化する社会課題を、次世代のデジタル技術やイノベーションの活用などにより解決し、地域に住む方々が快適・安全・安心に暮らすことができる社会

2030年代のありたい姿と事業ドメイン
(2)ビジネスモデル転換期の取り組み方針
中長期ビジョンでは、2030年代のありたい姿の実現に向け、向こう5年間(2020~2024年度)を、「ビジネスモデル転換期」と位置づけております。
3つの力点 (“Change”、“Challenge”、“Create” )に基づき、基盤事業の「電力供給事業」の構造改革を通じた徹底的な競争力強化により安定的に収益を確保するとともに、成長事業の「スマート社会実現事業」に挑戦し、経営資源を戦略的に投入していくことで、ビジネスモデルを転換してまいります。
[力点1]“Change”電力供給事業の抜本的変革による競争力の徹底強化
再生可能エネルギーを含めた経済性・環境性に優れた最適な電源ポートフォリオと、電力取引市場も活用した積極販売により、お届けする電気の価値の最大化を目指してまいります。
具体的には、まず、原子力発電については、引き続き、適合性審査に的確に対応していくとともに、新規制基準への適合性にとどまらず、より高いレベルの安全確保に向けて、最新の知見も取り入れながら、安全対策工事を着実に進め、早期の再稼働を目指してまいります。原子力発電所の再稼働には、地域のみなさまのご理解が何より重要であることから、社員一人ひとりが、双方向を基本としたコミュニケーション活動にしっかり取り組むことで、地域のみなさまとの信頼関係の構築に努めてまいります。
火力発電については、LNGを使用する上越火力発電所1号機(57.2万キロワット)の着実な開発のほか、環境性や経済効率性の低い経年火力発電所の休廃止を検討・実施し、さらなる電源の競争力の強化や、再生可能エネルギー導入拡大に伴う需給変動への対応を進めてまいります。
再生可能エネルギーについては、当社企業グループが責任ある事業主体となるべく、風力発電を主軸に、水力発電や太陽光発電、地熱発電、バイオマス発電などの全般において、これまで培ってきたノウハウを活用しながら新たな開発や事業参画に取り組むことにより、東北6県及び新潟県を中心に200万キロワットの開発を目指してまいります。
電力販売については、これまでの電力小売に加え、お客さまの快適・安全・安心に資するサービスを提供してまいります。
また、新たな電力取引市場の創設など、電力の市場化が進む中で、発電した電気の価値を最大化し、収益拡大を図るため、株式会社シナジアパワーや株式会社東急パワーサプライへの卸売、市場取引などを積極的に進めるとともに、市場でのトレーディング機能を最大限活用しながら、電力卸売の付加価値向上に資するサービスを検討・推進してまいります。
送配電については、東北6県及び新潟県の電力の安定供給の使命を果たし続けるため、自然災害への対応力向上など、レジリエンス強化に取り組んでまいります。また、設備の高経年化対策とAI・IoTの活用などによる徹底的なコスト低減を両立するとともに、効率的な設備形成のあり方や需給変化に適応した系統運用等の検討、スマート社会の実現に向けた電力ネットワークの高度化に取り組んでまいります。
[力点2]“Challenge”スマート社会実現事業の早期収益化への挑戦
企業グループの連携により総合力を発揮しながらマーケティング機能を拡充し、電力小売の競争力を徹底強化するとともに、お客さまの豊かさの最大化や社会課題の解決に資する多様なサービスや取り組みを展開してまいります。
具体的には、まず、電力小売については、マーケティング機能の拡充により、競争力を徹底強化するとともに、お客さまのライフステージやビジネスニーズに着目したサービスを拡充し、エネルギーとサービスをトータルパッケージで提供することで、お客さまの満足度向上と収益力強化の両立を目指してまいります。
ガス販売については、東北6県及び新潟県の都市ガス事業者との連携により、電力・ガスのセット提案やトータルエネルギーソリューションの提供等を進めることで、収益を拡大してまいります。
新規事業や新規サービスの創出などについては、公共インフラの保守・点検業務へのドローンの活用、電化による生産性向上を目指すスマート農業、電気自動車のカーシェアリングなどのモビリティサービス、家電製品の自動制御などを含む見守りサービス、これら複数のサービスをトータルで提供するタウンマネジメントなどの検討・展開を進めてまいります。
また、地域に分散して存在しているエネルギーリソースを「バーチャルパワープラント(VPP)」により集約・活用する地域のエネルギーの有効活用や、IoTを活用し、太陽光発電や蓄電池といった分散型電源も組み合わせてエネルギーを最適制御するスマートハウス、スマートビルといった暮らし・ビジネス関連のサービス充実などにも取り組んでまいります。
こうした取り組みを加速するため、本年7月のコーポレート組織の再編にあわせ、事業創出部門を設置し、体制を強化してまいります。
[力点3]“Create”企業価値創造を支える経営基盤の進化
「東北電力グループCSR方針」・「東北電力グループ行動指針」を基盤に、「中長期ビジョン」に沿った取り組みを進めることで、東北発の新たな時代のスマート社会を実現し、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に貢献するESG経営を推進してまいります。
環境については、「東北電力グループ環境方針」のもと、当社企業グループが一体となったマネジメントにより、環境に係る取り組みを通じた企業価値向上や環境保全活動等を着実に推進してまいります。また、気候変動緩和・適応への取り組みや、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)最終報告書等も踏まえた環境情報開示の充実に取り組んでまいります。
社会については、安全最優先の企業文化の構築やレジリエンスの強化に取り組んでまいります。また、生産性向上とワーク・ライフ・バランスの実現を両立するため、多様なワークスタイル、ICT(情報通信技術)環境整備、デジタルイノベーションの推進、社内ルールの見直しなどによる働き方改革の加速とともに、ダイバーシティや健康経営を推進してまいります。
ガバナンスについては、「気づく・話す・直す」の基本姿勢のもと、「東北電力グループ企業倫理・法令遵守活動方針」に基づき、当社企業グループ各社が「企業倫理・法令遵守活動計画」を策定、自律的活動を展開し、当社企業グループ全体でコンプライアンスの実効性を高めてまいります。また、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向け、経営の機動性、健全性、透明性などを高めるためのコーポレート・ガバナンスの強化に継続して取り組んでまいります。
(3)中長期ビジョンにおける財務目標
当社は、競争激化や需給構造の変化により、現金を生み出す力(キャッシュ創出力)の向上が課題となっております。また、今後、成長事業を推進するためのキャッシュが必要になります。しかし、経常利益など会計上の利益では、現金支出を伴わない減価償却費などの費用が大きく、当社のキャッシュ創出力を適切にはかることができません。そのため、新たに「連結キャッシュ利益※」を財務目標として設定いたしました。
「連結キャッシュ利益」は、営業利益に減価償却費などの現金支出を伴わない費用を加えるとともに、会計上は営業収益として整理されない関連会社(持分法適用会社)の損益についても加えることになります。これにより、当社企業グループのキャッシュ創出力を適切に示し、販売活動や効率化の成果などを指標に反映することができるものと考えております。当社は、2024年度に連結キャッシュ利益3,200億円以上を達成し、長期的に持続可能なキャッシュ創出力の基盤を構築するとともに、将来的にはさらなる成長を目指します。
※連結キャッシュ利益=営業利益+減価償却費+核燃料減損額+持分法投資損益(営業利益は、燃料費調整制度のタイムラグ影響を除く。)

(4)地域の復興・発展への貢献
東日本大震災の被災地では、不通となっていたJR常磐線が全線開通するなど、今後も再生に向けたまちづくりが進められます。
当社といたしましては、経営理念である「地域社会との共栄」のもと、被災地の地元電力会社として、地域の課題解決に資するスマート社会の実現に向けた事業を通じて、それぞれの地域がおかれた状況やニーズの違いを踏まえながら、将来の成長・発展に資するプロジェクトなどを積極的に支援することで、地域の復興・発展に貢献してまいります。
また、東北電力グループスローガン「より、そう、ちから。」のもと、総合力を発揮し、当社企業グループだからできる「よりそう」価値を創造し、社会の持続的発展と当社企業グループの成長の両立をはかり、みなさまのご期待にしっかりと応えてまいります。