有価証券報告書-第11期(平成26年4月1日-平成26年12月31日)

【提出】
2015/03/30 15:49
【資料】
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【項目】
108項目

財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
1.重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。その作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる場合があります。
2.財政状態の分析
(流動資産)
当連結会計年度末における流動資産の残高は5,737,056千円(前連結会計年度末は4,514,672千円)となり、前連結会計年度と比較して1,222,383千円増加しました。この主な要因は、公募増資及び第三者割当増資等による現金及び預金の増加等によるものであります。
(固定資産)
当連結会計年度末における固定資産の残高は520,211千円(前連結会計年度末は498,131千円)となり、前連結会計年度と比較して22,080千円増加しました。この主な要因は、研究機器の購入などによる有形固定資産25,090千円の増加等によるものであります。
(流動負債)
当連結会計年度末における流動負債の残高は294,614千円(前連結会計年度末は347,064千円)となり、前連結会計年度と比較して52,449千円減少しました。この主な要因は、共同研究に係る売上計上に伴う前受金22,572千円の減少、1年内返済予定の長期借入金20,812千円の減少、固定資産購入代金の支払い等による未払金20,559千円の減少等によるものであります。
(固定負債)
当連結会計年度末における固定負債の残高は123,186千円(前連結会計年度末は106,595千円)となり、前連結会計年度と比較して16,590千円増加しました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産の残高は5,839,466千円(前連結会計年度末は4,559,143千円)となり、前連結会計年度と比較して1,280,323千円増加しました。この主な要因は、公募増資及び第三者割当増資等に伴う新株の発行により資本金及び資本剰余金がそれぞれ1,085,948千円増加したこと、また、当期純損失による利益剰余金863,269千円の減少によるものであります。
3.経営成績の分析
当連結会計年度における売上高は、国内製薬企業とのアライアンス契約に基づく収益の計上等により277,759千円となりました。販売費及び一般管理費は1,054,317千円であり、その主なものは研究開発費574,529千円であります。この結果、営業損失は865,583千円、経常損失は883,352千円、当期純損失は863,269千円となりました。
これらの要因については、「第2 事業の状況 1 業績等の概要 (1)業績」に記載のとおりです。
4.キャッシュ・フローの状況の分析
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 1業績等の概要 (2)キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
5.経営戦略の現状と見通し
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、多様な抗体を迅速に創出して新規医薬品の開発につなげることにより、新しい治療法を必要とする患者さん及び御家族の方々のお役に立ちたいと願っています。治療法が確立されていない難治性或いは稀少疾患と、広域に流行する新興感染症は、いずれも人類にとって大きな脅威です。癌や免疫、アレルギー、さらには中枢系の疾患等多くの疾患に対して抗体医薬品が開発されていますが、患者さんによってはその抗体を処方できないことがあります。例えば、同じ肺がんでも患者さん個人でその原因が異なります。あるいは同じ抗体医薬品を投与しても患者さん毎に体内での分布や分解のスピードは異なります。個々の患者さん固有の疾患に対しては、本来であれば個々の患者さんにとって最適な治療が必要ですが、現在の医薬あるいは医療制度ではそれは適いません。また、新興感染症の爆発的な流行には、グローバルな素早い対応が求められます。完全ヒト抗体を提示するADLib®システムの実用化に成功したことにより、それぞれの患者さんにとって最適な抗体を迅速に提供することを可能にし、既存のどの方法でも為し得ない医療の実現がより現実味を帯びてまいりました。ADLib®システムの多様性や迅速性をもとに、これらの疾患の克服に向けて闘い、人類の健康に貢献してまいります。
(2) 事業展開の方針
完全ヒトADLib®システムの開発により、全ての事業における質的・量的な拡充を実施してまいります。創薬アライアンス事業並びに基盤技術ライセンス事業におきましては、抗体作製におけるこれまでの実績に加え、完全ヒトADLib®システムを主体とする基盤技術の継続的な改良によるクライアントの期待を上回るパフォーマンスを提供し、連鎖的にアライアンス契約や技術ライセンス契約の獲得に結び付け、収益基盤の安定化を目指してまいります。リード抗体ライセンスアウト事業におきましては、未充足の稀少疾患や感染症領域において、従来以上に付加価値の高い候補抗体創出を加速してまいります。
その為に、研究開発投資を継続しつつ、積極的に事業を展開していくことで、経営の安定化と企業価値の向上を図ってまいります。
(3) 事業展開に関する現状認識
① 創薬アライアンス事業
創薬アライアンス事業におきましては、継続中の中外製薬グループとの共同研究契約が当期さらに延長となりました。中外製薬グループ以外の企業につきましては、完全ヒトADLib®システムの多様性の拡大を図り、それにより得られた優良なライブラリを用いた特異的抗体や機能性抗体の取得の実績を積み上げることにより、本格的なアライアンス契約の締結に向けた交渉をより強力に推し進めてまいります。
② リード抗体ライセンスアウト事業
リード抗体ライセンスアウト事業におきましては、横浜市立大学五嶋研をはじめとして、国立がん研究センター、東京大学高橋研、名古屋市立大学植村研、横浜市立大学竹居研等、複数の大学や公的研究機関等との連携を強化し、治療用First in Class抗体についての共同研究開発を推進しております。これにより、複数の有望な候補抗体の獲得に成功しております。そのうちのいくつかは機能検証の段階に移行しており、今後臨床有用性を示し得る薬効試験、またその価値を示し得るPOC(proof of concept)となるデータの取得を進めてまいります。特に横浜市立大学五嶋研との共同研究を通じて作製に成功した抗セマフォリン3A抗体につきましては、新たな適応疾患の可能性を示唆する結果も得ておりますので、これらデータを用いた導出パッケージを提示し、より良い条件での導出契約を目指してまいります。その他のアカデミアとの共同研究については、当社及びリブテックでの機能検証や薬効検討を進めることにより、タイムリーかつ信頼性の高いデータの取得を目指します。より付加価値の高いリード抗体の取得に向け、各種ライブラリの多様性及び品質の向上やセレクション方法の改良等を継続実施してまいります。
Biotecnol社と共同研究開発契約を締結し、当社独自の創薬基盤技術であるADLib®システムとBiotecnol社の技術(Tribody™)との組み合わせによる付加価値の高い抗体医薬品の創製に取り組み、順調に進捗しております。今後もADLib®システムと相補的な技術を持つ企業との提携により、高付加価値のリード抗体の創製に積極的に取り組んでまいります。加えて、従来の技術では取得が困難であった抗原に対する抗体作製にも積極的に取り組んでおります。ADLib®システムの応用技術であるADLib® axCELLによって医薬品のターゲットとして注目されている抗原であるGPCRなど複数回膜貫通型タンパク質に対する抗体の取得にも海外企業との共同研究を通じて成功しております。今後も継続してADLib®システムの技術改良を行うことにより、クライアント候補先へADLib®システムの技術的優位性を積極的にアピールしてアライアンスの提案を行うとともに、新たな市場開拓に繋げていきたいと考えております。
③ 基盤技術ライセンス事業
基盤技術ライセンス事業におきましては、富士レビオとADLib®システムに関する特許実施許諾及び共同研究開発契約を締結しており、平成25年6月に3年間の共同研究開発期間の延長に関する覚書を締結しました。富士レビオでは、ADLib®システムを用いてビタミンDに対する抗体の獲得に成功し、平成25年12月に同社の欧州子会社から診断キットが発売されました。本成果は、従来の抗体作製技術では獲得ができない抗体を取得できた事だけでなく、従来の他社製品に比べて100倍の感受性を示す診断キットとして、今後の海外展開における主力製品と位置付けられています。この他、ADLib®システムに興味を持つ国内外の複数企業との間で技術評価のための検証試験の実施あるいは技術ライセンス交渉を行っており、今後は抗体医薬品の研究開発を目的とする基盤技術ライセンス事業を積極的に進めてまいります。
(4) 中長期的な会社の経営戦略
独自の創薬基盤技術であるADLib®システムを核とした中長期的な事業シナリオは次のとおりです。
① 自社治療用リード抗体の創出
当社グループは、抗体作製の基盤技術であるADLib®システムの特性を生かすべく従来の技術では獲得が極めて困難なFirst in Class抗体の作製に重点的に取り組んでおります。横浜市立大学五嶋研と共同研究中の抗セマフォリン3A抗体の研究開発をはじめ、企業やアカデミアとの共同研究開発を推進し、継続して医薬品として有望な抗体を自社で作製し、国内外の製薬企業への早期導出を目指してまいります。更に、セレクション技術の向上等を武器にして、より多くの高付加価値なリード抗体を創出してまいります。また、ADLib®システムの特性である抗体作製の迅速性については、インフルエンザウイルスやエボラウイルスの部分タンパクに対する抗体作製の成功、完全ヒトADLib®システムの実用化の目途が立ったことばかりでなく、インフルエンザウイルスやエボラウイルスの部分タンパクに対する抗体作製に完全ヒトADLib®システムでもすでに成功していることから、その競合優位性はさらに際立つものとなりました。これによりADLib®システムの進展は、研究開発期間の初期段階を大幅に短縮し、抗体医薬品の販売開始時期を早め、特許有効期限を最大化するなど、製薬企業に大きなメリットをもたらすものと考えております。
② 技術開発と事業開発の連動
当社グループのような基盤技術型のバイオベンチャー企業の場合、技術の改良や新規開発が全ての事業に影響を与え、それぞれの事業が相互に影響しながら事業展開をしていきます。それゆえ、継続的に技術開発と事業開発との連動を図っていくことが非常に重要であると考えています。技術開発の進捗が事業開発活動とその成果に大きな影響を及ぼすため、技術開発の進捗、クライアントニーズ及び環境変化に対応した柔軟な事業展開を行っていく方針であります。完全ヒトADLib®システムの事業化を進めることで、当社グループの契約規模拡大に寄与する事が期待されるとともに、ADLib®システムと相乗効果を持ち抗体の機能性向上等に関わる技術を保有する企業との共同研究を進展させることで、より付加価値の高い抗体医薬品を短期間に創出することが可能になると考えております。こうした取り組みを通じての実績を積み重ねることにより、多くの企業にとって掛け替えのない存在になる事が当社グループの成長を加速すると考えています。そして、何よりも当社のビジョンであるパンデミック感染症対応や究極のオーダーメイド医療の実現に向けて大きなマイルストーンを越えることが出来ると考えております。
③ グローバル展開の加速
現在、当社グループでは国内外の複数の製薬企業等と共同研究契約及び技術アライアンス契約を締結しておりますが、今後欧米における事業開発機能を更に充実させ、また研究開発機能を新たに構築することによって、抗体創薬企業としての認知度をグローバルレベルに高めるとともに、最先端の情報をより速く入手し、より優秀な人材を確保することが出来ると考えております。今後の事業展開や情報収集分野等を考慮した適切な地域にこうした機能拠点を設けることにより、当社グループと相互補完的な価値を持つ企業との戦略的アライアンスや共同研究契約の新規締結と基盤技術の導出を積極的に推進し、企業価値の増大を目指してまいります。
④ 創薬アライアンス事業や基盤技術ライセンス事業の規模拡大
国内外の製薬企業との共同研究契約の新規獲得並びに提携中の既存の製薬企業との契約規模拡大を目指します。新規契約の獲得に当たっては、過去の経験を踏まえ既存の製薬企業との大型アライアンス締結に至る経緯と同様に、本格的契約に至る前段階としての検証的契約を取り入れ、より大規模な契約に繋げていくことを目指します。新規契約締結後は、クライアントのニーズに適合した抗体を作製し、更なる契約規模の拡大を目指します。
<用語解説>(50音、アルファベット順)
用語意味・内容
アンメットメディカルニーズいまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズです。
核酸医薬特定のDNAやタンパク質などに直接作用し、疾患に関連するタンパク質やRNAの生合成を阻害するD核酸(オリゴヌクレオチド)からなる医薬品です。
細胞内ターゲット細胞膜表面ではなく、細胞内に存在している特定の疾患に関連した治療標的を言います。
疾患モデル動物ヒトの疾患と似た疾患を持ち、ヒトの疾患研究を行うことのできる実験動物(マウス等)のことを指します。
生体内安定性薬物が、生体内での分解作用や排せつ作用に耐え保持され得る程度を意味します。速やかに体内に吸収され、薬効を示す適切な濃度が一定期間保たれ、その後、体外へ排泄されることです。
ターゲット結合力薬剤が病気の原因となるたんぱく質等に結合する力です。
ターゲット多様性治療標的の多様さを言います。
ターゲット特異性標的とした原因タンパク質等にへ選択的に作用する性質を言います。結合する能力です。
低分子医薬分子量が小さく、ごく少数の機能的な分子グループを含む比較的単純な構造をした有機化合物。医薬品の領域では、概ね分子量数百程度のものを低分子(型)化合物といいます。
特異的抗体抗原抗体反応において、ある特定の抗原に結合する抗体です。
特殊ペプチド非天然型アミノ酸やN-メチル基、アミノD体など特殊な構造を組み込んだペプチド様化合物です。
非臨床試験新薬開発の段階で、ヒトを対象とする臨床試験の前に行う試験のことで、動物を使って有効性や安全性を調べる試験です。
フェーズ・ゼロフェーズ・ゼロ試験とは、通常の第I相臨床試験実施の為に要求される安全性試験の完了前に新薬候補を選別するための一つの方法で、薬効や有害な作用が予想される用量の1/100以下の量を健常人に投与して血中濃度の推移や吸収や代謝の情報を得て、その後の臨床開発の方針を決めるために必要な情報を得ることです。これにより、臨床開発にかかる時間とコストを大幅に減少することが期待されています。