有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2023/02/17 15:00
【資料】
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【項目】
128項目

対処すべき課題


文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」を企業ミッションとしております。日本発のエンターテインメント・カルチャーを作り出し世界中のユーザーに広めていくことにより、日本のユニークな強みであるアニメ、ゲームといった文化に関わるクリエイターの活動の場を増やしていくことを目指しております。
(2) 中長期的な経営戦略等
当社は中長期戦略として、①付加価値の高いIPの開発とファンベースの確立、②コマース展開と先行投資、③メタバースサービスの展開の3段階の事業拡大戦略を掲げております。
① 付加価値の高いIPの開発とファンベースの確立
デジタル・エンターテインメントにおいて高い成長性と収益性を安定的に維持するには、付加価値の高いIPを保有し、継続的に生み出す仕組みの確立が重要と考えております。付加価値の高いIPを自社で多数保有し、それらを活かした関連ビジネスを多面的に展開することにより、収益基盤の確立と消費者からの継続的な認知拡大を両立することが可能になると考えております。
当社ではYouTube等の動画配信プラットフォームを通じて、高頻度にVTuberのライブ配信、3Dモーション・キャプチャー・スタジオを用いたバーチャルライブ・コンサート、IPアセットを用いたアニメーション・コンテンツ等の供給を行っており、当社所有YouTubeチャンネルの累積動画コンテンツ供給数は約6.3万本、それらの動画コンテンツの累計再生回数は約98億回に上ります(注1)。
また、当社では二次創作ガイドラインを定めた上でファンによる二次創作活動を幅広く奨励しており、YouTube上での当社コンテンツの字幕翻訳等の二次創作動画の累計再生回数は主要な二次創作者によるものだけでも65億回以上(注2)に上ります。
こうした、大規模なPGC(注3)供給及びそれに呼応するUGC発信の文化形成の結果として、当社のVTuberは幅広いファンからの支持を得ていると認識しております。当社が保有するホロライブプロダクションのYouTubeチャンネル登録数は延べ7,200万以上、VTuberあたりの当社年間収益は2022年3月期において約2億円(注4)となっており、大きなファンベースの存在が魅力的な演者や国内外の主要なクリエイターとの継続的な共創を可能としています。結果として、当社は2023年1月時点で日本、北米(英語圏地域)、東南アジア地域それぞれにおいてYouTubeチャンネル登録数No.1(注5)のVTuber IPを有しております。
今後もクリエイターやファンとの共創により、付加価値の高いIPを継続的に開発することで日本発のエンターテインメント・カルチャーを世界に広め、クリエイターの活躍や日本文化のさらなる発展を後押しすることを目指しております。
(注) 1.2022年12月31日時点。
2.出所:ユーザーローカル。2023年1月11日時点。YouTube上に存在する当社コンテンツの切り抜きを扱うチャンネルのうち、総再生回数が上位の200チャンネルについて実績を集計しております。
3.PGCとはProfessionally Generated Contentsの略称であり、プロフェッショナルにより製作されたコンテンツを指すことであります。
4.VTuberあたり収益は当該期間の売上高を当該期末の在籍VTuber数で除して算出。
5.出所:ユーザーローカル。2023年1月11日時点、VTuberランキング(ファン数ランキング)、現在活動休止中のVTuberを除く順位。
② コマース展開と先行投資
VTuberの特徴の一つとして、コマース展開の多様性が挙げられます。アニメルック・アバターで活動するVTuberはキャラクター・コンテンツIPとしての側面を持つため、漫画、アニメ、ゲームといったコンテンツIPと同様に、必ずしも演者の稼働を前提とせずに多様なコンテンツや商品としての展開が可能です。
今後こうした多面的なIP展開の更なる拡大を企図して、足許ではIPコンテンツ開発、モーション・キャプチャー・スタジオ拡充、統合IDサービス開発(注6)、及び2024年内の一般向けサービス開始を目指すメタバースサービスの開発等に係る先行投資を行っております。
(注) 6.統合IDサービスとはECやメタバース等の当社が提供する複数のサービスに関するユーザー情報をサービス横断で統合されたIDとアカウントで管理するサービスのことであります。
グループIP及びユニットIPのプロデュース
当社では個別のVTuber IPの開発に加えて、VTuber・バーチャルアイドルグループ「hololive」のようなグループIP、及び統一感のあるキャラクター・コンセプトや世界観を前提とした「秘密結社holoX(ホロックス)」のようなユニットIPのプロデュースを行っており、これにより個別のVTuberのファン層に留まらない幅広な顧客層へのリーチが可能となっている他、世界観を活かしたメディアミックス展開(注7)や外部グローバルブランドとのコラボレーションなどの多面的な事業展開にもつながっております。具体的な事例として、2022年には「秘密結社holoX」を題材としたコミカライズ企画「ホロックスみーてぃんぐ!〜holoX MEETing!〜」が集英社の配信・発行する「少年ジャンプ+」及び「ウルトラジャンプ」にて連載された他、Red Bullとのタイアップ広告やInnerSlothの展開するオンラインゲーム「Among Us」におけるゲーム内コラボのような国際的に認知度の高いブランドとのコラボレーション企画も行われております。
グループ又はユニットIPのコマース展開については、それらをプロデュースする企画運営、及びそうしたIPに蓄積されたブランド力の重要性が高く、関連するグッズ等のマーチャンダイジング展開においても個別VTuberの集客稼働のみに依存した展開よりも収益性が高くなっております。
また、グループ又はユニットIPのプロデュースにおいては、複数のVTuberが共演可能な大型のモーション・キャプチャー・スタジオの活用やそれに伴う技術開発も重要となっていることから、2023年4月からは多人数のVTuberの共演及びライブ配信が可能な、国内でも有数の大型モーション・キャプチャー・スタジオの稼働開始を予定しております。
加えて、当社はVTuber IPの3Dモデルを活用したアニメーションやライブコンサートの制作チームを有しており、YouTube上での3Dアニメーションの累計コンテンツ数は約180作品、YouTube上での3Dライブコンサートの配信数は年間約70件に上ります(注8)。こうした3Dアニメーション展開や臨場感のある3Dモデル・ライブパフォーマンスが、視聴者のVTuber IPへの接点の増加、エンゲージメントの向上、及びIPのコンセプトや世界観の浸透等に寄与すると考えております。
コマースのグローバル展開
当社はECを通じたVTuber IPグッズの国内外各地域への販売、国内外のメーカーや小売企業等への当社IPのライセンスアウト等を通じてグローバルにコマースの展開を行っております。2023年3月期第3四半期累計期間でECからの海外顧客に向けた販売額は全体の約3割となっております。
当社は(i)翻訳等を通した既存IPコンテンツの海外ローカライズとSNS等を通した現地コミュニティ形成(ii)海外現地言語話者のVTuber IPの開発や現地イベント開催による海外地域への本格進出(iii)海外現地向けのコマース展開の本格化と現地サプライチェーンの構築というステップを踏むことにより、着実な海外展開を実施しております。海外地域の顧客層の潜在的な消費余力に対してコマースの拡大余地は大きいと考えられることから、今後も積極的な海外向け商品及びサービスの開発を予定しております。
また、グローバルなユーザーコミュニティの拡大と多面的なコマース展開戦略の一環として、ファン向けの統合IDサービスの提供を予定しております。これにより、特定のVTuber又はVTuberグループ・ユニットのファン毎に最適化された商品・サービスの提供を行うことができるようになる他、動画配信プラットフォーム等でのコンテンツ視聴、ファンコミュニティでの交流、ECでの購買、及びメタバースサービスの利用等においてより統合的な体験の提供を目指します。
(注) 7.メディアミックス展開とは、原作のIPを漫画やアニメといった複数のメディアで多面的に展開することであります。
8.2022年12月31日時点。
③ メタバースサービスの展開
当社は、アニメルックの3D空間でVTuberやそのファン同士が交流できるサービスプラットフォームとして、メタバースサービス「ホロアース」の開発を行っており、2024年内の一般向けサービス開始を目指しています。これまでのYouTube等の複数のプラットフォームでのVTuberやファンの活動及び交流に加え、ホロアース上では同時性を持った臨場感のあるコミュニケーションが可能となり、より豊かな体験価値をファンへ提供可能となる予定です。
ホロアースについて「ロビー」「バーチャルライブ」「サンドボックスゲーム」の3つの機能を基礎として構成される想定です。
「ロビー」では独自のアニメルック・3Dアバターをベースとした参加者同士での同時性を持った臨場感あるコミュニケーションが可能となり、アバター向けのモデルや衣装等デジタルアセットの販売も行われる予定です。
「バーチャルライブ」では、ユーザーがVTuberと同じ3D空間に参加しながらVTuberによるライブコンサートを楽しむことが可能となります。バーチャル空間での提供を前提としたライブコンサートはオフライン会場での提供を前提としたものとは異なるユニークな演出も可能であり、視聴者は同一バーチャル空間上で参加することでより没入感と臨場感のある体験が可能となります。
「サンドボックスゲーム」では、ユーザーが広い3Dバーチャル空間を自由に散策しながら、空間内での創作活動を楽しむことが可能になる想定です。広大な世界でのサバイバル生活という自由度の高いゲーム体験があることにより、ユーザーがアバターは自身の分身であることの認識を深める機会となる他、ゲーム内で手に入れたものをロビーに持ち帰ることにより、ただゲームで遊ぶだけではなく仮想世界で過ごした実感を得ることができます。また、当社の所属VTuberがライブ配信の舞台装置としてサンドボックスゲームを活用することにより、ユーザーはリアルタイムでドラマが生まれていく過程を同一の3Dバーチャル空間内で共有することができるようなユニークな体験の提供を企図しております。
他のメタバースサービスの開発・運営者と比較した当社の独自性として、当社がVTuber IPを自社で保有しており、平時からVTuberと世界中のファンのリアルタイムな交流を運営していることが挙げられます。そうしたユーザー体験と統合的なサービスとしてホロアースを自社で開発・運営することにより、コミュニティ・サービスとしてホロアースの継続的な集客と拡大を行うことを想定しております。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社はVTuberのファン数の直接的な指標である「YouTubeチャンネル登録数」、並びに魅力的なコンテンツ制作の原資となる「売上高」及び「サービス別売上高」を重要な経営指標と位置づけ、企業価値の向上を図って参ります。
(4) 経営環境
当社が提供するVTuber事業は、VTuberというキャラクターIPを中心として、配信/コンテンツ、ライブ/イベント、マーチャンダイジング、ライセンス/タイアップ、及び開発中のメタバースサービスと多岐にわたる領域に広がっております。VTuber市場は比較的新しい市場であるもののその潜在市場規模や動向は広義のアニメ関連IPビジネス市場から類推可能であると考えております。
2021年の同市場については動画配信プラットフォーム等を通じたアニメコンテンツ配信市場規模は1,543億円程度となっており、その他各種メディアでのコンテンツ提供、商品化、音楽、イベント興行等を含む広義アニメ市場は国内で1.4兆円程度、海外も含むグローバルで2.7兆円程度となっております(注9)。新型コロナウイルス感染症の影響により、屋内型の消費行動が増加する中、アニメ関連コンテンツのインターネット動画配信を通じた消費は、テレビや映画等の他のメディアを通じた消費を代替しながら国内及び海外で拡大しており、日本のアニメ文化は以前にも増して広く国際的に受け入れられている状況にあります。
市場全体が好調に推移する中、当社事業の直接競合他社も複数確認されている状況にありますが、日々ライブ配信コンテンツを提供する当社のVTuberとそれに呼応する形でソーシャルメディア等を通じた自律的な発信を行うファンからなる大規模なファンコミュニティの存在が新規参入事業者に対する当社の競争優位性として機能していると当社は考えております。
また、現在開発中のメタバースサービスが提供する体験価値はゲームに近い物になると想定しており、その潜在市場規模はグローバルのゲームコンテンツ市場規模約21.9兆円(注10)の一部を置き換えて行くものと想定しております。
当社事業は、VTuberによるライブ配信を通じた付加価値の高いIPの開発とファンベースの確立を軸に、足許で広義アニメ市場におけるグローバルかつ多面的展開を行っている段階にあり、今後はメタバースサービスによるゲーム市場への展開により更に大きな事業機会を捉えることを計画しております。
(注) 9.出所:一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート 2022」2021年のアニメ関連市場規模。(アニメに関連したTV、映画、ビデオ、配信、商品化、音楽、遊興、ライブ・イベント等のビジネスの売上高から推定)
10.2021年のゲームコンテンツ市場規模。(出所:株式会社角川アスキー総合研究所「ファミ通ゲーム白書2022」)
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 魅力的なIPの開発
VTuberの人気はアニメルック・アバターや関連するグループ又はユニットIPの魅力の影響を大きく受けるため、付加価値の高いVTuber IPを継続的に開発することは当社の経営課題です。当社は、IPやコンテンツを共創するクリエイターにとっても意義深い活動の機会を継続的に提供するために、当社IPの認知及びブランド価値の一層の向上に努めております。
② コンテンツ・クリエイターの発掘及び育成
VTuberの活動はアニメルック・アバターを用いて活動するコンテンツ・クリエイター(演者)の創作活動に依存しているため、能力のあるコンテンツ・クリエイターの発掘、及びその能力を一層開花させるための育成は当社の課題です。
当社では定期的なオーディションの実施により新しいコンテンツ・クリエイターの発掘ができるよう努めている他、採用後も社内外のクリエイター・企画チームを活用し、継続的なグッズ企画・衣装企画・ライブ企画等の多様な活動支援によってコンテンツ・クリエイターの個性をより発揮できるような環境を構築しております。
③ 事業拡大と収益性向上を両立した事業運営
当社は付加価値の高いVTuber IPの継続的な開発と育成を主軸に、動画配信プラットフォーム上でのサービス展開のみに留まらない、多面的なIPビジネス市場での事業展開を推進しております。そのため、より大きな市場を捉えるために複数の先行投資を実施しております。具体的には、より付加価値の高いIP開発と集客力の向上に向けた、3Dモデリング、3Dアニメーションに関する人材投資、大型モーション・キャプチャー・スタジオの取得、統合IDサービスの開発及びユーザーの体験価値の向上に向けたメタバースサービスの開発を行っております。
大型モーション・キャプチャー・スタジオの取得については、ライブコンサート制作の内製化により、コンテンツの表現の自由度の向上に加えて中長期的なコスト改善も目指しております。
また、マーチャンダイジングにおいてはグループ及びユニットの企画性とブランドを活かした収益性の高い商品の開発に注力し、持続可能な成長を企図して参ります。
④ 組織体制の整備
当社の成長には多様な専門性を持った優秀な人材を採用し、組織体制を整備していくことが重要であると考えております。積極的な採用活動を行っていくとともに、従業員が中長期的に働きやすい職場環境や人事制度を整備して参ります。
⑤ 技術力の強化
当社はコンテンツ・クリエイターの活動について、モーション・キャプチャー技術を駆使した自社開発のアプリケーション等で支えており、今後の継続的な技術改善が視聴者に新しいエンターテインメント体験を届けるために重要であると考えております。
高度なスタジオ配信を可能にするアプリケーションのアップデート等、継続的な技術改善を進めて参ります。
⑥ コミュニティの健全性維持
当社は多数のVTuberを擁しており、それぞれのコンテンツ・クリエイターの裁量で日常的に膨大な数の視聴者との双方向コミュニケーションがライブ配信を通して行われています。
継続的な創作活動や視聴者とのコミュニケーションが維持されるよう、誹謗中傷対策などのコミュニティ健全化の施策は重要であると考えております。
外部専門家と連携しての誹謗中傷対策等、コンテンツ・クリエイター保護のための施策を継続的に実施して参ります。
⑦ その他財務上の課題
当社は、これまで金融機関からの借入に大きく依存せず、資金需要は自己資金及び営業活動によるキャッシュ・フローを源泉とした財務基盤を維持していることから、先述の「事業拡大と収益性向上を両立した事業運営」の他には、優先的に対処すべき財務上の課題はありませんが、上記事業上の課題に対する対処及び継続的な成長に資する設備投資を実行できるよう、内部留保の確保と株主還元の適切なバランスを検討し、既存事業の営業キャッシュ・フローの改善等に対処するなど、財務体質のさらなる強化に努めて参ります。