有価証券報告書-第199期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/20 15:21
【資料】
PDFをみる
【項目】
88項目

対処すべき課題

当社は、人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献することを企業理念とし、以下の経営理念を掲げております。
■ 顧客視点の経営と革新的な研究を旨とし、これからの医療と健やかな生活に貢献する
■ たゆまぬ事業の発展を通して企業価値を持続的に拡大し、株主の信頼に応える
■ 社員が自らの可能性と創造性を伸ばし、その能力を発揮することができる機会を提供していく
■ 企業市民として社会からの信用・信頼を堅持し、よりよい地球環境の実現に貢献する
当社は、この企業理念の実践を「CSR経営」と定義し、事業活動を通してSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献していきます。
高齢化社会の進展や医療財政の更なるひっ迫が想定されるなか、製薬業界は、デジタル技術を活用した創薬や治療方法の創出、予防医療の普及など「変革の時」を迎えています。かかる環境において、当社は、企業理念のもと、ヘルスケア領域での課題解決に貢献するため、新たなビジョン「もっと、ずっと、健やかに。最先端の技術と英知で、未来を切り拓く企業」と、2018年度を起点とした2022年度までの5か年の中期経営計画「中期経営計画2022」を本年4月に発表しました。
当社及び子会社(以下「当社グループ」)は、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を重点3領域とし、医薬品および再生・細胞医薬による医療への貢献に加え、これ以外のヘルスケア・ソリューション(フロンティア事業)にも取り組み、2033年に「グローバル・スペシャライズド・プレーヤー」の地位を確立することを目指してまいります。
「中期経営計画2022」の概要は、次のとおりです。
中期経営計画2022
(1)基本方針
ポスト・ラツーダ、すなわち、2023年2月20日以降に米国において非定型抗精神病薬「ラツーダ」の後発医薬品の市場参入が可能となる将来の事業環境を見据えつつ、「変革の時」に対応するため、「成長エンジンの確立」と「柔軟で効率的な組織基盤づくり」により、事業基盤の再構築に取り組んでまいります。
(2)重要課題
① 成長エンジンの確立
成長エンジンの確立に向けて、次の5点を重要課題として取り組んでまいります。
(ア)新たな創薬アプローチによるイノベーション基盤強化
重点3領域および感染症領域において、当社グループの持つ独自の強みを生かし、日本および米国の拠点を中心に、外部とのネットワークを活用した創薬への移行および推進に取り組んでまいります。
(イ)確実に成果を創出する開発力の強化
成果を見据えた目標設定、事業リスクのマネジメント、最先端技術の取込みにより、不確実性の高い重点3領域においても確実に成果を創出すべく、開発力(ちゃんとやりきる力)を強化してまいります。
(ウ)戦略的投資によるパイプラインの拡充
「中期経営計画2022」の期間(2018年度から2022年度まで)において3,000億円から6,000億円のM&A枠を設定し、優先的投資対象として、2023年度以降の収益に貢献する精神神経領域のパイプラインの獲得、また、2028年度以降の収益に貢献する重点3領域のパイプラインや技術の獲得を目指してまいります。
(エ)日本・北米・中国を柱とした地域戦略
日本では、次期中期経営計画の期間(2023年度から2027年度まで)の売上2,000億円達成を目指した基盤づくりに取り組んでまいります。北米では、「ラツーダ」の収益最大化とポスト・ラツーダを見据えた成長路線の確立を目指してまいります。また、中国を第3の柱として基盤強化に取り組むとともに、アジアを成長市場として捉えて、足場固めを推進してまいります。
(オ)フロンティア事業の立ち上げ
求められる健やかさを医薬品のみで実現することが困難な時代が到来することを見据え、医薬品と一体となり「多様な健やかさ」を実現するため、フロンティア事業の立ち上げを推進してまいります。
② 柔軟で効率的な組織基盤づくり
成長エンジンを支えるため、組織とオペレーションの改革と、変革を加速する企業文化の醸成と人材の育成を、デジタル革新と同時に遂行することにより、「ちゃんとやりきる力」が浸透した柔軟で効率的な組織基盤の構築に取り組んでまいります。
(3)経営目標
2022年度の経営目標
売上収益6,000億円
コア営業利益 ※11,200億円
ROIC ※210%
ROE ※312%

※1 「コア営業利益」は、営業利益から当社グループが定める非経常的な要因による損益(以下「非経常項目」)を除外したものとなります。非経常項目として除かれる主なものは、減損損失、事業構造改善費用、企業買収に係る条件付対価公正価値の変動額などです。
※2 ROIC=(コア営業利益-法人所得税)/(資本+有利子負債)
※3 ROE=当期利益/資本
また、長期的なROEについて、10%以上を目指してまいります。
2019年度活動方針
当社グループの2019年度の事業活動方針は、次のとおりです。
「中期経営計画2022」で掲げました基本方針に基づき、経営目標の達成に向けて積極的に事業活動を推進してまいります。
(1)CSR経営
企業理念の実践である「CSR経営」は、当社グループの事業活動の前提です。コンプライアンスの徹底、実効性の高いコーポレートガバナンス体制および透明性の高い経営の追求、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、タレントマネジメントによる人材育成の推進、さらには、グローバルヘルスへの貢献、環境負荷の低減、国内外での社会貢献活動などの社会的責任を全うすることを通じて、企業価値の向上に取り組んでまいります。
(2)研究開発活動
創薬においては、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野の重点3領域の研究に積極的に取り組んでまいります。アンメット・メディカル・ニーズが高いこれらの領域は、当社グループの経験と知識を最大限生かせる領域です。日本および米国拠点を中心とした外部とのネットワークに加え、ビッグデータやデジタル技術を活用した創薬を推進してまいります。また、薬剤耐性菌感染症治療薬およびアジュバント添加ワクチンの創薬など感染症領域にも取り組んでまいります。
開発においては、後期開発品の承認取得および製品価値最大化を最優先課題として取り組んでまいります。
① 精神神経領域
日本において、2018年度に承認申請した非定型抗精神病薬「ロナセン」テープ製剤について、2019年度中の承認取得に向けた対応を着実に進めてまいります。また、フェーズ3試験を終了し、承認申請準備中のルラシドン塩酸塩(米国製品名「ラツーダ」)については、統合失調症および双極Ⅰ型障害うつを対象として2019年度中の承認申請を確実に実行し、承認取得を目指してまいります。
次に承認申請を目指す品目としては、SEP-363856について、米国において統合失調症を対象としたフェーズ3試験を開始するとともに、他の適応症への展開を検討し、日本・中国を含む地域でも統合失調症を対象としたフェーズ2試験を開始します。
なお、FDAからCRLを受領した2品目につき、成人および小児の注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした承認申請を行っていたdasotralineについては、検討のうえ開発方針を決定し、パーキンソン病に伴うオフ症状を対象とした承認申請を行っていた舌下投与フィルム製剤のAPL-130277については、2019年度中の再申請を目指し、FDAの要求に対して適切な対応を実施してまいります。
② がん領域
STAT3などのがん幹細胞性に関わる経路を阻害する新しいメカニズムの低分子経口剤ナパブカシンについて、2021年度中の日米での上市を目指し、結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験に最大限注力してまいります。また、米国において急性骨髄性白血病(AML)を対象としたフェーズ2試験を実施中のalvocidibおよび膠芽腫を対象としたフェーズ2試験を実施中のがんペプチドワクチンであるアデグラモチド酢酸塩/ネラチモチドトリフルオロ酢酸塩(開発コード:DSP-7888)についても、積極的に開発を行ってまいります。さらに、初期開発品の臨床開発をスピーディーに進め、オンコロジーフランチャイズの早期確立を目指してまいります。
③ 再生・細胞医薬分野
次期中期経営計画の期間での収益貢献を目指して複数の研究開発プロジェクトを推進してまいります。
慢性期脳梗塞を対象とした骨髄間質細胞由来のSB623については、米国でのフェーズ2b試験の結果を踏まえて、共同開発先であるサンバイオ株式会社と協議のうえ今後の開発方針を決定してまいります。
iPS細胞由来では、2018年8月にパーキンソン病を対象とした医師主導治験が開始された、先駆け審査指定制度の指定品目である「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」について、京都大学と連携して実用化に向けた取組を強化してまいります。眼疾患領域では、国立研究開発法人理化学研究所との連携のもと、iPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いた加齢黄斑変性を対象とした株式会社ヘリオスとの共同開発を推進し、また、iPS細胞由来立体網膜を用いた網膜色素変性の再生医療の臨床応用に向けた国立研究開発法人理化学研究所との共同研究を推進してまいります。さらには、慶應義塾大学および国立病院機構大阪医療センターとiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた脊髄損傷の再生医療の臨床応用に向けた共同研究を推進してまいります。これらの実用化に向けて、2018年3月に竣工した再生・細胞医薬製造プラント(Sumitomo Dainippon Manufacturing Plant for Regenerative Medicine & Cell Therapy:通称「SMaRT」)において、iPS細胞由来製品の治験薬製造および商用生産に向けた準備を進めてまいります。また、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療について、東京慈恵会医科大学、明治大学、バイオス株式会社および株式会社ポル・メド・テックと共同研究・開発などの取組を推進してまいります。
④ 重点3領域以外およびフロンティア事業
重点3領域以外では、日本において、2020年度の承認申請を目指し、imegliminの2型糖尿病を対象としたフェーズ3試験に取り組んでまいります。
フロンティア事業では、次期中期経営計画の期間での成長エンジンとしての確立を目指し、さまざまな展開の可能性を追求してまいります。
(3)各地域セグメントにおける事業活動
日本セグメントでは、2019年度に上市を計画している「ロナセン」テープ製剤の早期価値最大化、2018年4月に設置したバーチャル組織 Japan Business Unitの効率的な運営および収益に貢献する導入・提携の早期実現により、近年相次ぐ主力品の後発医薬品参入による収益低下の影響を最小限に留め、中期的な成長路線への転換を目指してまいります。
北米セグメントでは、当社グループの収益の柱である「ラツーダ」のさらなる収益拡大が最重要課題であり、引き続き注力してまいります。さらには、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤「ロンハラ マグネア」および抗てんかん剤「アプティオム」の販売拡大にも取り組み、また、ポスト・ラツーダにおける収益に貢献する導入・提携にも積極的に取り組んでまいります。がん領域では、ボストン・バイオメディカル社を中心に、ナパブカシン、alvocidibの開発の進展にあわせて、適時に販売準備体制の構築を行ってまいります。
中国セグメントでは、カルバペネム系抗生物質製剤「メロペン」の販売拡大や「ロナセン」および「ラツーダ」の早期市場浸透を図ることに加え、パイプラインの拡充を検討してまいります。
また、本格始動する東南アジア子会社では、提携企業との連携により「メロペン」および「ラツーダ」の販売拡大を図るとともに、東南アジアの中期的な展開について検討を進めてまいります。
欧州では、「ラツーダ」の自社販売やパートナー企業との提携による収益拡大を図ってまいります。
(4)柔軟で効率的な組織基盤の構築
当社グループは、「変革の時」に対応し、「ちゃんとやりきる力」を強化するため、「粘り強く精緻に物事を進める文化」を維持しつつ、環境変化を好機と捉えて潮流を読み、自ら変革して柔軟に動く文化の醸成および人材の育成を推進してまいります。
また、AI(Artificial Intelligence)、RPA(Robotic Process Automation)などの活用による業務改革の推進、最新のデジタルツールの活用によるより効果的なコミュニケーションの実現などのデジタル革新および働き方改革を通じて、効率的なオペレーションに取り組んでまいります。
株主還元
当社は、株主への還元について、安定的な配当に加えて、業績向上に連動した増配を行うことを基本方針としており、「中期経営計画2022」では、2018年度から2022年度までの5年間における平均の配当性向として20%以上を目指す方針を掲げています。
当連結会計年度の期末配当については、配当方針および当連結会計年度の業績を踏まえ、1株につき19円の配当を行うことといたしました。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。