有価証券報告書-第200期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/23 16:53
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87項目

対処すべき課題

当社は、人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献することを企業理念とし、以下の経営理念を掲げております。
■ 顧客視点の経営と革新的な研究を旨とし、これからの医療と健やかな生活に貢献する
■ たゆまぬ事業の発展を通して企業価値を持続的に拡大し、株主の信頼に応える
■ 社員が自らの可能性と創造性を伸ばし、その能力を発揮することができる機会を提供していく
■ 企業市民として社会からの信用・信頼を堅持し、よりよい地球環境の実現に貢献する
当社は、この企業理念の実践を「CSR経営」と定義し、事業活動を通してSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献していきます。
高齢化社会の進展や医療財政の更なるひっ迫が想定されるなか、製薬業界は、デジタル技術を活用した創薬や治療方法の創出、予防医療の普及など「変革の時」を迎えています。かかる環境において、当社は、企業理念のもと、ヘルスケア領域での課題解決に貢献するため、新たなビジョン「もっと、ずっと、健やかに。最先端の技術と英知で、未来を切り拓く企業」と、2018年度を起点とした2022年度までの5か年の「中期経営計画2022」を2019年4月に発表しました。
「中期経営計画2022」の基本方針は、次のとおりです。
中期経営計画2022
(1)基本方針
ポスト・ラツーダ、すなわち、2023年2月20日以降に米国において非定型抗精神病薬「ラツーダ」の後発医薬品の市場参入が可能となる将来の事業環境を見据えつつ、「変革の時」に対応するため、「成長エンジンの確立」と「柔軟で効率的な組織基盤づくり」により、事業基盤の再構築に取り組む。
この方針に則り、当社は、2019年12月からロイバント・サイエンシズ・リミテッド(以下「ロイバント社」)との戦略的提携を開始するとともに、新設子会社であるスミトバント・バイオファーマ・リミテッド(以下「スミトバント社」)の傘下に5社の子会社を迎えました。本戦略的提携では、米国における「ラツーダ」の独占販売期間終了後の持続的成長に向けて、大型化を期待するGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)受容体阻害剤レルゴリクスおよびβ3アドレナリン受容体作動薬ビベグロンを含む複数のパイプラインならびに当社のデジタルトランスフォーメーションを加速するヘルスケアテクノロジープラットフォームであるDrugOmeおよびDigital Innovationとそれらに関わる人材を獲得しました。
今後数年間は、本戦略的提携に伴う研究開発費および販売関連費用の増加が利益の圧迫要因となり、損益的には厳しい期間が継続すると見込んでいますが、これらは、ポスト・ラツーダにおける成長に向けた必要な先行投資です。これを踏まえて、「中期経営計画2022」の最終年度である2022年度の経営目標の見直しを2020年度中に行う予定です。
2022年度の経営目標(見直し予定)
売上収益6,000億円
コア営業利益1,200億円
ROIC ※110%
ROE ※2
長期的に目指すROE
12%
10%以上

※1 ROIC=(コア営業利益-法人所得税)/(資本+有利子負債)
※2 ROE=親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分
2020年度活動方針
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴い、日本を含む各国・地域において情報提供活動の制限や臨床試験の遅延など、事業活動に様々な影響が生じていますが、当社グループは、製品の安定供給に努めるとともに、患者さん、関係者および従業員の安全を最優先に事業活動を進めてまいります。今後もこの状況が続けば、事業活動へのさらなる影響が懸念され、その結果、経営成績に影響が生じる可能性がありますので、適時状況の把握に努め、細心の注意を払って事業を進めてまいります。
また、当社は、2020年4月にビグアナイド系経口血糖降下剤「メトグルコ錠」の自主回収を行いました。患者さんおよびそのご家族ならびに医療関係者の皆様に多大なご心配とご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申しあげます。
当社グループの2020年度の事業活動方針は、次のとおりです。
①CSR経営
当社グループは、CSR経営の重要課題であるマテリアリティを特定しています。革新的な医薬品と医療ソリューションの創出、サイエンス発展への貢献などの持続的成長のために重要な独自性の高い「価値創造につながるマテリアリティ」と、コーポレートガバナンス、コンプライアンスなどの事業活動継続のために不可欠である「事業継続の基盤となるマテリアリティ」に分類し、それぞれの課題に取り組むことを通じて、企業価値の向上に
取り組んでまいります。

②研究開発活動
当社グループは、グローバル・スペシャライズド・プレーヤーを2033年の目指す姿として掲げています。引き続き、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野の重点3領域でグローバルリーダーになることを目指し、積極的に研究開発に取り組んでまいります。また、感染症領域の創薬や、本戦略的提携により得た価値にフォーカスしたベストインクラスの医薬品の開発にも取り組んでまいります。さらには、医薬品以外のヘルスケア領域でのソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業にも取り組んでまいります。日本および米国拠点を中心とした外部とのネットワーク、本戦略的提携により獲得したDrugOmeおよびDigital Innovationなどのデジタル技術を活用して、研究開発を効率的に推進してまいります。

(ア)精神神経領域
精神疾患領域(統合失調症、うつ、神経疾患周辺症状など)においては、神経回路病態に基づく創薬により治療の最適化を目指し、神経疾患領域(認知症、パーキンソン病、希少疾患など)においては、分子病態メカニズムに基づく創薬により神経変性疾患の根治療法を目指し、先端技術を取り入れながら築いた自社独自の創薬技術プラットフォームを基盤に競争力のある創薬研究を推進してまいります。また、自社製品の臨床試験の情報から得られた知見をトランスレーショナル研究に生かし、ゲノム情報やイメージング画像などのビッグデータから適切な創薬ターゲットやバイオマーカーを選定することで、研究開発の確度の向上を図ってまいります。
開発段階では、日米が一体となったグローバル臨床開発体制のもと、戦略的な開発計画を策定し、効率的に臨床開発を推進して、早期に承認取得することを目指してまいります。
まず、2019年11月に再申請しましたアポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)については、着実な承認取得に向けて、取り組んでまいります。
また、SEP-363856について、米国において統合失調症を対象としたフェーズ3試験を推進するとともに、日本・中国を含む地域での統合失調症を対象としたフェーズ2/3試験の開始に向けた活動を推進してまいります。加えて、他の適応症の追加に向けて検討を進めてまいります。
さらには、双極Ⅰ型障害うつを対象とした国際共同フェーズ2試験を実施中のSEP-4199およびエクセンティア・リミテッドとの共同研究を通じて、人工知能(AI)を活用し創製した、強迫性障害を対象としたフェーズ1試験を実施中のDSP-1181などの開発品についても、積極的に取り組んでまいります。
(イ)がん領域
がん領域では、がん微小環境における細胞間ネットワークや細胞内シグナルに着目したユニークなシーズやテーマから革新的な新薬の創出を目指してまいります。さらにアカデミアとの共同研究やベンチャーファンドへの投資などの外部連携を通じて、革新的な技術やシーズを取り込み、研究開発ポートフォリオの充実を図ります。また、当社、北米子会社および外部機関の間でのネットワーク型創薬の推進により、有望シーズの臨床試験への早期移行およびトランスレーショナル研究の促進を目指してまいります。後期開発品については、開発を着実に進め、早期の承認取得を目指し、オンコロジーフランチャイズの早期確立を目指してまいります。
まず、米国において、2020年4月に前立腺がんを対象として承認申請したレルゴリクスについて、承認取得に向けた対応を着実に進めてまいります。また、結腸直腸がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を実施中のナパブカシン(開発コード:BBI608)について、日米での早期の承認申請を目指して、臨床試験を進めてまいります。さらには、膠芽腫を対象とした併用での国際共同フェーズ2試験を実施中のがんペプチドワクチンであるアデグラモチド酢酸塩/ネラチモチドトリフルオロ酢酸塩(開発コード:DSP-7888)および初期開発品の臨床開発をスピーディに進めてまいります。
(ウ)再生・細胞医薬分野
再生・細胞医薬分野では、オープンイノベーションを基軸に、高度な工業化・生産技術と最先端のサイエンスを追求する当社独自の成長モデルにより早期事業化を目指し、複数の研究開発プロジェクトを推進してまいります。神経領域および眼疾患領域に関するプロジェクトを着実に推進するとともに、立体臓器の再生を含む次世代の再生医療の取組も視野に入れ、グローバル(日本、米国およびアジア)での展開を目指し、まずは日本および米国を中心に次期中期経営計画(以下「次期中計」)の期間(2023年度から2027年度まで)での収益貢献を目指してまいります。
小児先天性無胸腺症を対象とするRVT-802について、2020年度中の再申請に向けて、FDAの要求に対して適切な対応を実施してまいります。
iPS細胞由来では、パーキンソン病を対象として京都大学にて医師主導治験実施中の先駆け審査指定制度の指定品目である「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」については、2020年度中に7例すべての治験予定の患者さんへの細胞移植が完了する予定であり、当社グループは、京都大学と連携して実用化に向けた取組をさらに強化してまいります。また、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷および腎不全の研究開発プロジェクトについても提携先とともに積極的に推進してまいります。さらには、次世代技術を取り入れたパイプラインの拡充にも取り組んでまいります。
(エ)感染症領域
感染症領域では、グローバルヘルスへの貢献を目的として、北里研究所と共同研究を進めている薬剤耐性菌感染症治療薬、愛媛大学および米国PATHと三者共同で研究を進めているマラリア伝播阻止ワクチン、医薬基盤・健康・栄養研究所と共同研究を進めているユニバーサルインフルエンザワクチンなどの研究開発に積極的に取り組み、次期中計の期間中の実用化を目指してまいります。
(オ)その他の領域
その他の領域では、米国における「ラツーダ」の独占販売期間終了後の成長に向けて、価値にフォーカスしたベストインクラスの医薬品の開発や日本において注力している糖尿病領域の医薬品の開発を推進してまいります。米国において、2019年度に過活動膀胱(OAB)を対象として承認申請したビベグロンについて、2020年度中の承認取得に向けた対応を着実に進めてまいります。また、レルゴリクスについて、米国での子宮筋腫を対象とした承認申請に向けて準備を進めるとともに、子宮内膜症を対象としたフェーズ3試験に取り組んでまいります。
日本においては、イメグリミン塩酸塩(開発コード:PXL008)の2型糖尿病を対象とした承認申請に向けて準備を進めてまいります。
(カ)フロンティア事業
自社医薬事業とシナジーが見込める領域として、メンタルレジリエンス(精神神経疾患の兆候を早期に把握することによる悪化の未然防止)およびアクティブエイジング(高齢者の健康の意識レベルからの改善および維持・向上)にフォーカスし、核となる技術(情報系、工学系等)やネットワーク(アライアンス、ベンチャー投資等)などの事業基盤を構築し、「中期経営計画2022」の期間中の事業化を目指します。さらに、次期中計の期間に成長エンジンとして確立することを目指し、日本、米国および中国を中心に様々な展開の可能性を追求してまいります。
③各地域セグメントにおける事業活動
日本セグメントでは、次期中計の期間での年間売上2,000億円達成を目指し、精神神経領域および糖尿病領域に注力してまいります。精神神経領域では、2020年3月に統合失調症および双極性障害におけるうつ症状の改善を適応症として承認を取得した「ラツーダ」および2019年9月に上市した非定型抗精神病薬「ロナセンテープ」の市場浸透に努めてまいります。糖尿病領域では、2型糖尿病治療剤「トルリシティ」に加え、2型糖尿病治療剤「エクア」および「エクメット」の販売拡大に努めてまいります。
北米セグメントでは、ポスト・ラツーダを見据えた成長路線の確立を目指し、サノビオン・ファーマシューティカルズ・インク(以下「サノビオン社」)、スミトバントグループ、ボストン・バイオメディカル・インク(以下「ボストン・バイオメディカル社」)およびトレロ・ファーマシューティカルズ・インク(以下「トレロ社」)において事業活動を進めてまいります。サノビオン社では、当社グループの収益の柱である「ラツーダ」のさらなる収益拡大、また、2020年度に上市を計画しているAPL-130277に注力してまいります。スミトバントグループでは、ユーロバント・サイエンシズ・リミテッド(以下「ユーロバント社」)が2020年度に上市を計画しているビベグロンならびにマイオバント・サイエンシズ・リミテッド(以下「マイオバント社」)が前立腺がん(2020年4月承認申請)および子宮筋腫(2020年度承認申請予定)を対象とするレルゴリクスの販売準備活動を進めてまいります。販売準備に際しては、サノビオン社が有するコマーシャル機能を有効活用するなど、効率的な販売体制構築に努めてまいります。ボストン・バイオメディカル社とトレロ社は、2020年7月に統合を予定しており、Global Head of Oncologyのリーダーシップのもと、ナパブカシンの結腸直腸がんの国際共同フェーズ3試験の結果を踏まえて、速やかに上市準備を進めてまいります。また、2020年4月から、持株会社であるスミトモダイニッポンファーマアメリカ・インクに法務、知的財産、内部監査、コンプライアンス、経理などの機能を持たせ、その子会社であるサノビオン社、ボストン・バイオメディカル社およびトレロ社に対して、それらのサービスを提供することにより、北米事業の更なる効率化を進めてまいります。
当社グループは、中国を第3の柱として基盤強化に取り組むとともに、アジアを成長市場として捉えて足場固めを推進してまいります。中国セグメントでは、カルバペネム系抗生物質製剤「メロペン」の販売拡大や非定型抗精神病薬「ロナセン」および「ラツーダ」の早期市場浸透に向けて、販売活動を強化してまいります。東南アジアでは、提携企業との連携により「メロペン」および「ラツーダ」の販売拡大を図るとともに、中期的な展開について検討を進めてまいります。
欧州では、「ラツーダ」の自社販売やパートナー企業との提携による収益拡大を図ってまいります。
④柔軟で効率的な組織基盤の構築
当社グループは、「変革の時」に対応し、「ちゃんとやりきる力」を強化するため、「粘り強く精緻に物事を進める文化」を維持しつつ、環境変化を好機と捉えて潮流を読み、自ら変革して柔軟に動く文化の醸成および人材の育成を推進してまいります。
また、Digital Innovationの利用拡大を進め、当社グループのデジタルトランスフォーメーションを加速することにより、効率的なオペレーションに取り組んでまいります。
現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、対面による様々な活動が制限されていますが、これを機に働き方の抜本的な見直し、テレワークの積極的な推進など、ビジネススタイルの変革や業務効率の向上を目指してまいります。
株主還元
当社は、株主への還元について、安定的な配当に加えて、業績向上に連動した増配を行うことを基本方針としており、「中期経営計画2022」で掲げている2018年度から2022年度までの5年間における平均の配当性向20%以上を目指してまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。