有価証券報告書-第198期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

【提出】
2018/06/19 15:40
【資料】
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【項目】
55項目

対処すべき課題

当社は、人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献す
ることを企業理念とし、以下の経営理念を掲げております。
■ 顧客視点の経営と革新的な研究を旨とし、これからの医療と健やかな生活に貢献する
■ たゆまぬ事業の発展を通して企業価値を持続的に拡大し、株主の信頼に応える
■ 社員が自らの可能性と創造性を伸ばし、その能力を発揮することができる機会を提供していく
■ 企業市民として社会からの信用・信頼を堅持し、よりよい地球環境の実現に貢献する
そして、「グローバルレベルで戦える研究開発型企業」および「最先端の技術で医療に貢献」のビジョンを設定し、事業活動を進めています。
当社がこれらの企業理念とビジョンを実現し、持続的に成長していくためには、積極的に研究開発活動を進め、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)に応えられる革新的な新薬の創出を続けていくことが必要です。
当社は、非定型抗精神病薬「ラツーダ」などの医薬品を創出し、広く社会に提供しており、これらの医薬品の医療への貢献から得られる利益を、精神神経領域、がん領域、再生・細胞医薬分野などにおける研究開発に再投資し、新たな価値を創造していきたいと考えています。当社およびサノビオン・ファーマシューティカルズ・インク(以下「サノビオン社」)は、「ラツーダ」の後発品申請への対応措置として、米国において特許侵害訴訟を提起していますが、今後も「ラツーダ」の特許に対する侵害行為に対して適切に対処してまいります。
当期は、当社の第三期中期経営計画の最終年度であり、2018年度を起点とする5ヶ年の次期中期経営計画の策定作業を進めてまいりました。2018年2月に提起した特許侵害訴訟を踏まえ、次期中期経営計画の公表を延期しましたが、当社が持続的に成長していくためには、革新的な新薬を創出していくことが必要なことに変わりはなく、2018年度も引き続き、積極的に研究開発を進めてまいります。
当社及び子会社(以下「当社グループ」)の2018年度の事業活動方針は、次のとおりです。
(1) CSR経営
当社は、企業理念の実践を「当社のCSR経営」と定義し、事業活動を進めています。
事業活動の前提となるコンプライアンスの徹底、実効性の高いコーポレートガバナンス体制および透明性の高い経営の追求、多様なステークホルダーとのコミュニケーション、環境負荷の低減、働き方改革、女性の活躍などのダイバーシフィケーションの推進、国内外での社会貢献活動などの社会的責任を全うすることを通じて、企業価値の向上に取り組んでまいります。
(2) 研究開発および事業開発活動
研究開発については、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野に積極的に経営資源を投入し、なかでも、後期開発品の開発を最優先に進めてまいります。研究段階においては、革新的な医薬品の創出を目指して、自社研究に加えて国内外の研究機関などとの共同研究などにも取り組んでまいります。
精神神経領域では、2017年度に米国において注意欠如・多動症(ADHD)を対象に承認申請を行ったdasotraline(開発コード:SEP-225289)およびパーキンソン病に伴うオフ症状を対象に承認申請を行ったアポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)ならびに日本においてレビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムの効能・効果を追加する一部承認申請を行った「トレリーフ」について、承認取得に向けた活動を着実に進めてまいります。また、米国でのdasotralineの過食性障害(BED)の適応追加や日本での非定型抗精神病薬「ロナセン」テープ製剤の2018年度中の承認申請を目指し、さらには、ルラシドン塩酸塩(米国製品名「ラツーダ」)について、日本での統合失調症、双極Ⅰ型障害うつおよび双極性障害メンテナンスを対象とした2019年度中の承認申請を目指して、それぞれ開発を推進してまいります。
がん領域では、当社とボストン・バイオメディカル・インク(以下「ボストン・バイオメディカル社」)およびトレロ・ファーマシューティカルズ・インク(以下「トレロ社」)との連携をより一層強め、後期開発品の開発および申請に向けた取組を強化してまいります。その中でも、がん幹細胞性に対する阻害剤としてファースト・イン・クラスのナパブカシン(開発コード:BBI608)について、フェーズ3試験を実施中の結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした開発に最大限の注力をしてまいります。また、米国において急性骨髄性白血病(AML)を対象としたフェーズ2試験を実施中のalvocidib(開発コード:DSP-2033)および膠芽腫を対象としたフェーズ2試験を実施中のがんペプチドワクチンであるアデグラモチド酢酸塩/ネラチモチドトリフルオロ酢酸塩(開発コード:DSP-7888)についても、積極的に開発を行ってまいります。
再生・細胞医薬分野については、早期の事業化を目指して複数の研究開発プロジェクトを推進してまいります。サンバイオ・インクから導入した慢性期脳梗塞を対象とした骨髄間質細胞由来のSB623について、北米でのフェーズ2試験を推進します。iPS細胞由来では、先駆け審査指定制度の指定品目となった「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」について、パーキンソン病を対象として、2018年度中の医師主導治験開始に向けた準備が共同研究先の国立大学法人京都大学にて進められており、また、当社は同大学および株式会社日立製作所との細胞培養に関する共同研究を推進してまいります。眼疾患領域では、株式会社ヘリオスと加齢黄斑変性を対象とした早期治験開始に向けた共同開発および国立研究開発法人理化学研究所とiPS細胞由来立体網膜を用いた網膜色素変性の再生医療の共同研究を、それぞれ推進してまいります。さらには、慶應義塾大学および国立病院機構大阪医療センターとiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた脊髄損傷の再生医療の共同研究などを推進してまいります。これらの実用化に向けて、2018年3月に竣工した再生・細胞医薬製造プラント(Sumitomo Dainippon Manufacturing Plant for Regenerative Medicine & Cell Therapy、通称「SMaRT」)において、iPS細胞由来の治験薬製造体制の構築および商用生産に向けた準備を進めてまいります。また、当社と株式会社ヘリオスとの合弁会社である株式会社サイレジェンにおいても、SMaRTを使用した商用生産に向けた準備を進めてまいります。
これらの領域・分野以外では、日本において、2017年10月に導入した2型糖尿病を対象としたimeglimin(開発コード:PXL008)の開発などを推進してまいります。
また、医療分野における人工知能(AI)やデジタル化の進展を見据え、デジタルヘルスケアなどの新たな事業分野(フロンティア領域)の探索を推進してまいります。
さらに、短期から長期に至るまで当社の利益拡大に向けて、各地域の戦略に見合う導入・導出、提携、買収などを積極的に推進してまいります。
(3) 各地域セグメントにおける事業活動
日本セグメントでは、当社が創製した医薬品であるパーキンソン病治療剤「トレリーフ」や「ロナセン」、日本イーライリリー株式会社との提携品である2型糖尿病治療剤「トルリシティ」、鳥居薬品株式会社とのプロモーション提携品であるそう痒症改善剤「レミッチ」およびファイザー株式会社とコ・プロモーションを開始したうつ病治療剤「イフェクサー」の売上拡大を図りますが、薬価改定や後発医薬品の使用促進策は、売上収益に大きな影響を与えており、日本セグメント全体では減収となる見通しです。当社グループは、日本セグメントの収益力の向上を目的として、2018年4月にバーチャル組織Japan Business Unitを設置しました。日本事業を一体的に運営し、投資単位として明確化することなどにより、中期的な収益の拡大を図ってまいります。
北米セグメントでは、当社グループの収益の柱であり、連結売上収益の40%近くを占める「ラツーダ」のさらなる伸長を図ります。また、精神神経領域では抗てんかん剤「アプティオム」や2018年度中に上市を計画しているアポモルヒネ塩酸塩水和物、呼吸器領域では慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤「ブロバナ」、「ウチブロン」、「シーブリ」および「アルカプタ」に加え、2018年4月から販売を開始した「ロンハラ マグネア」の5製品の売上拡大を図るとともに、高効率な販売活動により、利益の最大化を図ります。
中国セグメントでは、カルバペネム系抗生物質製剤「メロペン」の販売を中心に事業規模の維持に努めるとともに、2018年2月に販売を開始した「ロナセン」の早期市場浸透を図ってまいります。
その他の地域では、「ラツーダ」について、英国などでの自社販売に加えて、アンジェリーニ・エス・ピー・エー(以下「アンジェリーニ社」)との提携開始により展開地域を拡大した欧州、さらにはアジア、オセアニア、南米などでそれぞれの提携先との連携強化により売上拡大を図ります。
(4) 事業基盤の強化
当社グループが、効率的に研究開発を進め、また展開する各地域の事業環境および事業状況の変化に対し機動的に事業構造を転換できるようにするため、引き続き、人件費および一般経費の最適化、資産効率の向上、意思決定の迅速化などにより、経営効率の向上を図り、事業基盤の強化と強い企業文化の構築に取り組んでまいります。
(5) 株主還元および財務戦略
当社は、企業価値と株主価値の持続的かつ一体的な向上を基本方針としており、株主への還元については、安定的な配当に加えて、業績向上に連動した増配を行ってまいります。2017年度の業績は、第三期中期経営計画の2017年度経営目標を大幅に超え、当社発足以来の最高益となりましたので、特別配当を実施いたしました。
財務状況については、2016年度のシナプサス・セラピューティクス・インク(現 サノビオン・シーエヌエス・ディベロップメント・カナダ・ユーエルシー)およびトレロ社の買収により、2016年度に新たに400億円の借入を行いました。一方で、当社は順次有利子負債の返済を進めており、セプラコール・インク(現サノビオン社)の買収に際して2009年度に借り入れた1,770億円は、2018年度中に全額返済できる見込みです。当社グループが持続的に成長していくためには、買収で取得した開発品などへの先行投資に加え、製品および開発品の導入ならびに国内事業、北米事業、新たな事業分野などへの投資をさらに積極的に進めていく必要があり、自己資金に加えて必要に応じて借入によるレバレッジの活用などによりその投資資金を確保してまいります。
(6) リスクへの対応
これらの事業計画を進めるうえにおいては、新製品開発の遅延または中止のリスク、市販後に予期せぬ副作用が発生するリスク、訴訟に関わるリスク、操業停止のリスク、海外事業展開に関するリスク、情報管理に関するリスク、コンプライアンス違反により社会的信用を失うリスクなどの様々なリスクがあります。
当社グループは、リスクマネジメントに関する基本方針「DSP Group Risk Management Policy」の下で、リスクマネジメントを推進する体制を整備・運用し、リスク管理の強化に努めてまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。