有価証券報告書-第106期(2024/01/01-2024/12/31)

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2025/03/25 15:54
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対処すべき課題

当社グループの事業環境は、地政学・経済・地球環境・サステナビリティ・デジタル化を含む技術革新などにおいて、様々な変化が複合的・加速度的に起こり続けています。特に、当社グループが経営の中核に据えるサステナビリティについては、気候変動対応に加えて、ネイチャーポジティブ(自然再興)への対応などより一層重要性が高まっております。また、モビリティ業界においては、EVの普及スピードは足元で一部停滞傾向にありますが、中長期的には変わらず、中国EVメーカーが攻勢を強めるなど自動車業界の構造変化が進んでおり、それに連動してタイヤ業界においても欧州・南米を中心に中国廉価輸入タイヤの増加などが「新たな脅威」となっております。
このような環境下、当社グループは、ビジョンに「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」を掲げ、2022年8月に発表した「2030年 長期戦略アスピレーション(実現したい姿)」を当社創立100周年となる2031年へ向けた道筋として、常態化する変化に動じず、ゴムのように強靭でしなやかに、変化をチャンスに変えるということを意味するレジリアントな“エクセレント”ブリヂストンを目指しております。2024年3月に発表した中期事業計画(2024-2026)において、この実現したい姿に向けた活動を3カ年計画として具体化し、変革を加速しております。
中期事業計画(2024-2026)においては、経営の3つの軸である「過去の課題に正面から向き合い、先送りしない」、「足元をしっかり、実行と結果に拘る」、「将来への布石を打つ」は変えず、4つのビジネス基本シナリオに沿って、「価値創造へ、よりフォーカス」しております。4つのビジネス基本シナリオは、「良いビジネス体質を創る」、「良いタイヤを創る」、「良いビジネスを創る」、そして「良い種まきをし、新たなビジネスを創る」です。特に、2025年においては、「良いビジネス体質を創る」に沿って、経営・業務品質の向上を最優先課題としております。
2025年は、自動車業界・タイヤ業界の構造変化の加速も踏まえ、「緊急危機対策年」と位置付け、バリューチェーン全体で経営・業務品質の向上を徹底する「守り」と、2026年以降の成長を見据えた「断トツ商品」やソリューション事業の強化などを含めた「攻め」の活動の両輪で経営を推進してまいります(2025年通期連結業績予想 売上収益4兆3,300億円、調整後営業利益5,050億円、調整後営業利益率11.7%、ROIC9.2%、ROE7.2%)。まず、経営・業務品質の向上を追求するため、2025年1月1日付にて新たなグローバル経営執行体制を構築しました。Global CEOの下に、4名の副社長を配置し、Bridgestone West(ウェスト)、Bridgestone East(イースト)の事業責任(Profit(プロフィット) & Loss(ロス)(PL)責任)と、Global CTO(Chief(チーフ) Technology(テクノロジー) Officer(オフィサー))及び、Global CAO(Chief Administration(アドミニストレーション) Officer)・CSO(Chief Strategy(ストラテジー) Officer)によるグローバル最適を追求する横串・グローバル最適責任を明確にし、それぞれが対等の立場で各役割責任を果たすことで、管理・ガバナンスを強化、チェック&バランスを担保し、「実行と結果に拘る」経営を推進しております。
「守り」の活動については、まず、北米・南米、欧州を中心にグローバルで事業再編・再構築(第2ステージ)を実施し、それと連動した固定費削減を断行してまいります。特に、業績・事業環境ともに厳しい状況にある欧州事業については、2024年末より着手している生産、販売・小売、本社機能などすべての領域における再編・再構築をもう一段強化し、組織体制を統合・シンプル化させ、その効果を取り込むことで、業績の改善を進めてまいります。北米事業においては、2025年1月に米国テネシー州のトラック・バス用タイヤ工場であるラバーン工場の閉鎖を発表し、同時に、アイオワ州デモインの農機用タイヤ工場における生産能力削減、本社機能、販売・オペレーション機能の人員削減など事業拠点とコストの最適化を進めております。南米事業においても、ブラジル・アルゼンチンにおいて、各生産拠点の生産能力及び人員削減に着手しております。また、日本タイヤ、化工品事業を含むBridgestone Eastにおいても、組織のシンプル化、機能集約などを実行してまいります。
「攻め」の活動については、「断トツ商品」を中核に、タイヤを「創って売る」から「使う」段階で価値を増幅してまいります。そのために「断トツ商品」を継続的に強化してまいります。乗用車用タイヤにおいては、「EV時代の新たなプレミアム(乗用車系)」と位置付ける商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載した新商品、鉱山車両用タイヤにおいては「Bridgestone MASTERCORE(マスターコア)」の展開を拡大するとともに、次世代の「断トツ商品」の開発・企画も進めてまいります。また、原材料の調達から、開発、生産、物流までモノづくりに関わる領域全体において、グローバルビジネスコストダウン活動を強化し、バリューチェーン全体におけるビジネスの質の向上を推進してまいります。この活動は、グローバル調達活動、SCM(サプライチェーンマネジメント)物流改革、BCMA(Bridgestone Commonality(コモナリティ) Modularity(モジュラリティ) Architecture(アーキテクチャ))、グリーン&スマート化、現物現場での地道な生産性向上で構成され、2024年の厳しい事業環境においても業績を下支えしました。2025年においても、これらを加速し、業績への貢献と価値創造を強化してまいります。
成長事業であるソリューション事業においては、生産財系Bto(トゥ)Bソリューション(鉱山、航空、トラック・バス系ソリューション)を、戦略事業として強化してまいります。当社グループの強みである強いリアルとデジタルを融合させ、現物現場でお客様に寄り添い、困りごとを解決することで、「断トツ商品の価値の増幅」、「お客様との信頼の増幅」、「データの価値の増幅」を実現し、新たな社会価値・顧客価値を創造することで、業績への貢献を拡大してまいります。これらを踏まえ、当社グループでは、米国事業、インド事業、鉱山車両用及び航空機用タイヤ・ソリューション事業を成長市場として位置づけ、質の伴った成長を実現してまいります。米国においては、米国の社会・経済に貢献し、人とモノの移動を支え続けるという想いの下、乗用車用タイヤにおいて「断トツ商品」の強化を中核にチャネルについても拡充を図り、米国消費財ビジネス再構築に着手することで、成長に舵を切ってまいります。トラック・バス用タイヤにおいても、リアルとデジタルを融合させたトラック・バス系ソリューションを拡充し、カスタマー・サクセスを創出してまいります。インドにおいては、乗用車用タイヤにおいて生産増強投資や、インド市場向けの「断トツ商品」強化のためのサテライトテクノロジーセンターの設立など技術開発投資も実行し、インド市場における存在感を高め、マーケットリーダーポジションをより強固なものにしてまいります。鉱山車両用及び航空機用タイヤ・ソリューション事業については、プレミアムタイヤの販売拡大や、上述の生産財系BtoBソリューションの方向性に沿ってプレミアムタイヤとソリューションの連動を深めることで、価値創造を進めてまいります。
加えて、新たなコーポレートブランディング活動にも着手し、「サステナブルなプレミアム」ブランドの構築を進めてまいります。サステナブルなグローバルモータースポーツ活動を軸に、「サステナブルなプレミアム」として、全ての一人ひとりにとっての「最高」を支え続け、モビリティの未来になくてはならない存在となることを目指してまいります。
化工品・多角化事業においては、引き続き当社グループの強みが活きる領域にフォーカスしてまいります。
将来に向けた「新たな種まき」と位置付ける探索事業においては、社会価値とサステナビリティを中核に推進しております。リサイクル、グアユール、ソフトロボティクス、パンクしない次世代タイヤ「AirFree(エアフリー)」において、社外パートナーとの共創を軸にビジネスモデルの探索を加速してまいります。
これらの「守り」と「攻め」の活動を両輪で実行することで、変化に対応できる「強いブリヂストン」へ進化し、「稼ぐ力の強化」を実現し、2026年には「真の次のステージ」へ歩を進めてまいります。
経営の中核であるサステナビリティについては、商品を「創って売る」「使う」、原材料に「戻す」という、バリューチェーン全体でカーボンニュートラル化(脱炭素化)、サーキュラーエコノミー(循環型経済)及びネイチャーポジティブ(自然再興)に貢献する取り組みとビジネスを連動する当社グループ独自のサステナビリティビジネスモデルを進化させてまいります。
特に、環境面は、当社グループとしての目標として、2050年を見据えた環境長期目標を2012年に策定し、これを達成するために2030年を目標とした環境中期目標「マイルストン2030」を設定し、その実現に向けた取り組みを進めております。カーボンニュートラル化へ向けては、2030年にCO2の総量(Scope(スコープ)1、2)(注)を2011年対比50%削減、2050年にカーボンニュートラル化という明確なターゲットを掲げており、2024年は、目標を上回る約60%の削減を見込んでおります。この大幅な削減は、前期対比で生産量減の影響や生産性向上の効果などに加えて、CO2排出量削減に向けたグローバル各工場における再生可能エネルギー(電力)比率の向上が大きく寄与しており、グローバル各地域において、太陽光発電パネルの設置や外部から購入する電力の再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを推進しております。2024年の再生可能エネルギー(電力)の比率は約70%を見込んでおり、2030年目標の100%への挑戦に向けて着実に進めてまいります。バリューチェーン全体のCO2排出量(Scope3)(注)については、2030年までに、商品・サービス・ソリューションのライフサイクルを通じて、Scope1、2における排出量の5倍以上のCO2削減に貢献(基準年:2020年)することを目標とし、活動を進めてまいります。2024年は約2.6倍と、着実な貢献拡大を見込んでおります。サーキュラーエコノミーの実現に向けては、2030年までに再生資源・再生可能資源比率を40%に向上、2050年までにサステナブルマテリアル化を目標としており、2024年は約39%を見込み、商品戦略との連動を基盤に継続的に強化してまいります。今後に向けては、モータースポーツ活動を「走る実験室」として、バリューチェーン全体でのカーボンニュートラル化、サーキュラーエコノミーの実現を加速してまいります。加えて、ネイチャーポジティブへの貢献において、当社グループの事業に直結している天然ゴムや水資源の持続可能な利用を推進する活動に注力してまいります。特に、小規模農家の生産性向上、森林破壊ゼロの実現に貢献するために、自社農園で培った技術や病害対策に有効なノウハウを活用し、2026年までに累計12,000軒を目標に、天然ゴム小規模農家の支援に取り組んでおります。現物現場で現地の農家に寄り添い、困りごとを解決する活動に注力し、地域社会へも貢献してまいります。
また、事業環境が常に変化していく中、変化に動じないためにグローバル経営リスク管理を強化してまいります。当社グループにおいては、4つの重点管理アイテムを現在設定しております。1つ目は、6PPD(タイヤ業界で一般的に使用される老化防止剤)、TRWP(Tire(タイヤ) and(アンド) Road(ロード) Wear(ウェア) Particles(パーティクルズ))、についての対応であります。6PPDについては、業界全体として取り組むと共に、当社グループとしても、タイヤの安全性を担保できることを大前提として代替品の開発を進めております。TRWPは、タイヤが安心・安全な移動を支えるために必要な路面と摩擦することによって発生する粉じんで、タイヤの表面であるトレッドと道路舗装材の混合物です。当社グループは業界のリーダーとして、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)傘下のタイヤ産業プロジェクトを通じて、TRWPの特性とその影響の研究に取り組んでおります。また、各地域業界団体での取り組みに積極的に参加し、評価試験法の国際標準(ISO規格)策定を主導すると共に、当社グループ独自の取り組みとして、タイヤを「創って売る」「使う」バリューチェーン全体で、ロングライフ商品の拡大やソリューション事業との連携を含め、TRWPの削減に向けたアプローチを継続的に強化してまいります。2つ目は、EUDR(欧州森林破壊防止規則)への対応であります。サステナビリティを中核とした天然ゴムパートナーとの関係を強化してまいります。3つ目は、サイバー攻撃への対応であります。当社グループでは、グローバルでセキュリティー対応チームを立ち上げ、抜本的な対策を進めております。4つ目は、地政学リスクへの対応であります。特に、当社グループの重要市場である米国の政治動向を中心に注視しており、政策変更に伴うビジネスインパクトの洗い出しと対策を進めております。2025年1月の米国トランプ政権の発足後に発表されたメキシコ、カナダ、中国に対する追加関税につきましては、想定されるケースを検討し、複数のシナリオを構築することで、迅速に対応できる体制を整備し、状況を正しく見極め、適切なタイミングで構築したシナリオの中から実行計画を発動、迅速に実行する様、今後も状況を注視しながら対応を進めてまいります。
これら全ての企業活動の基盤となる人財については、生産性・創造性の向上を基本として、「人財投資を強化し、付加価値をあげ、価値創造の好循環を生む」ことを目指しております。その取り組みを表す指標として「人的創造性」を、2024年からグローバル経営指標として正式に導入いたしました。グローバルの推移を把握しながら、地域別・国別の課題に取り組んでおります。特に日本においては、デジタル研修、現場での挑戦を後押しする現場100日チャレンジ、生産現場の環境改善を実行するなど、多様な人財が輝く場、働きやすい職場づくりを進めております。さらに、2020年に開始した次世代経営リーダー育成を目的としたプログラム「Bridgestone NEXT(ネクスト)100」では、グローバルで毎年約100人を選抜し、経営層との対話機会の強化、積極的なストレッチアサイメントなどを通じた重点育成を進めております。また、DE&Iの推進については、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテック・プログラムを導入するなど、一人ひとりが自分らしい毎日を歩める職場環境の整備を強化しています。厳しい事業環境下においても、多様な人財が輝けるよう、人的創造性・生産性の向上をベースに、金銭報酬のみならず報酬以外の施策を組み合わせた人財投資を強化しメリハリをつけた賃金の引き上げを含め、一人あたり人財投資額アップに取り組んでいきます。
当社グループは、不変の使命である「最高の品質で社会に貢献」の下、株主・顧客・パートナー(サプライヤー)・従業員・社会といった全てのステークホルダーへの貢献を最大化することを目指してまいります。「Bridgestone E8 Commitment」を価値創造の軸として、持続的な価値創造基盤の構築に継続して取り組んでまいります。
(注) Scope1は企業が直接排出するCO2(自社工場のボイラーなどからの排出)、Scope2はエネルギー起源間接排出(電力など他社から供給され、自社で消費したエネルギーに伴うCO2排出)、Scope3はライフサイクルにおける原材料調達、流通、顧客の使用と廃棄・リサイクル段階のCO2排出量等を指します。