有価証券報告書-第167期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/24 14:07
【資料】
PDFをみる
【項目】
176項目

対処すべき課題

以下に記載する経営方針、経営環境、対処すべき課題等には、将来に関する記述が含まれています。こうした記述は、現時点で当社が入手している情報を踏まえた仮定、予期及び見解に基づくものであり、既知及び未知のリスクや不確実性及びその他の要素を内包するものです。「2 事業等のリスク」などに記載された事項及びその他の要素によって、当社の実際の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況が、こうした将来に関する記述とは大きく異なる可能性があります。
(1)経営方針
①企業理念について
当社は2005年の創立100周年を機に、これまで当社が事業を営んできた基盤となる考えを整理し、グループ企業理念として定めましたが、この理念の一層の浸透を図るため、2017年にグループ全社員で意識・共有すべき価値観として、従来の3つの理念を「KOBELCOの3つの約束」と改称したことに加え、この3つの理念に基づく行動指針として「KOBELCOの6つの誓い」を新たに定めました。2017年10月に発覚した当社グループにおける品質不適切行為が、当社グループ社員にとって、当社グループの存在意義とは何かをあらためて考える契機となり、2019年の「KOBELCOの約束月間」(*)には、当社グループが目指す社会像や当社グループの存在意義とは何かについて、それぞれの職場の「語り合う場」のなかで、グループ社員が議論を深めました。
その結果を集約し、グループ社員の思いを抽出した結果、2020年5月に「KOBELCOが実現したい未来」「KOBELCOの使命・存在意義」を新たに定めるとともに、「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」と併せて体系化し、新グループ企業理念として制定いたしました。
この新グループ企業理念は、当社グループのあらゆる事業活動の基盤となるものであり、当社グループは、この新グループ企業理念のもと、お客様、お取引先様、株主様・投資家様、地域社会の皆様、グループ社員などあらゆるステークホルダーの皆様から信頼いただきながら、社会や環境への貢献を通じた持続的な企業価値向上を目指してまいります。
*「KOBELCOの約束月間」:毎年10月を「KOBELCOの約束月間」と定め、グループ企業理念の趣旨を確認するとともに、職位や立場に気兼ねすることなく社員同士が自由な意見を述べ、コミュニケーションを図る「語り合う場」を各職場で開催することとしています。
『KOBELCOが実現したい未来』
安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。
私たちの技術・製品・サービスは、今を生きる人々だけではなく、未来を生きる人々のためのものでもあります。
人々の安全・安心な暮らしと、美しく豊かな地球環境が続く未来であること。
その上で、新たな便利さや快適さをつくる価値が生まれ、人々の夢や希望が叶えられていく。
それが、KOBELCOの目指す世界です。
『KOBELCOの使命・存在意義』
個性と技術を活かし合い、社会課題の解決に挑み続ける。
社員一人ひとりの個性と多事業領域を支える様々な技術は、時代のニーズに向き合い培ってきた私たちの資産であり強みです。
社会の基盤を支えながら、より難易度の高まる課題を解決するため、組織や常識の枠にとらわれず挑みつづける。
それがKOBELCOの使命であり、存在意義です。
『KOBELCOの3つの約束』
1.信頼される技術、製品、サービスを提供します
2.社員一人ひとりを活かし、グループの和を尊びます
3.たゆまぬ変革により、新たな価値を創造します
『KOBELCOの6つの誓い』
私たち神戸製鋼グループに属する全社員は、「KOBELCOの3つの約束」を果たすために、以下を宣誓します。
1.高い倫理観とプロ意識の徹底
2.優れた製品・サービスの提供による社会への貢献[品質憲章]
3.働きやすい職場環境の実現
4.地域社会との共生
5.環境への貢献
6.ステークホルダーの尊重

②当社グループの企業構造と事業領域
当社グループは、1905年(明治38年)に鋳鍛鋼メーカーとしてスタートし、機械事業、鉄鋼の圧延、銅、エンジニアリング、建設機械、アルミ、溶接とその事業を徐々に広げてまいりました。110年を超える歴史の中で、社会のニーズに応え、選択と拡大を進めてきた結果、現在、鉄鋼、アルミ・銅、溶接材料などからなる「素材系事業」、産業用機械、エンジニアリング、建設機械からなる「機械系事業」、そして「電力事業」の3つの事業領域で事業を展開しています。
当社グループが提供する製品・サービスは、輸送機、電機、建設・土木、産業機械、社会インフラなどあらゆる産業の基礎資材となっています。当社グループは、独自の技術をもとにした代替困難な素材や部材、省エネルギーや環境に配慮した様々な機械製品やエンジニアリング技術等、当社グループ独自の多彩な製品群を幅広いお客様に供給することで、競争優位性を生みだしています。また、電力事業では、極めて重要な社会的インフラである電力の供給という公共性の高いサービスを提供しており、当社グループは社会的にも大きな責任を担っているものと考えています。
素材系事業、機械系事業のいずれにおいても、競合メーカーが国内外に多数存在します。
素材系事業においては、国内外の高炉メーカー、電炉メーカー、アルミメーカーなどが競合先として存在しますが、当社グループは、鉄鋼、チタン、アルミ・銅といった様々な素材とその圧延・鋳造・鍛造技術、加えて溶接材料・溶接技術を有する当社グループの特長を活かしたソリューション提案をお客様に行なうことにより、輸送機軽量化の分野などで競争優位性の維持・強化を目指しています。
また、機械系事業においても、産業用機械、エンジニアリング、建設機械のそれぞれの製品・サービス毎に国内外に競合先が存在しますが、機械においては、例えば、当社は、スクリュ・ターボ・レシプロのすべての圧縮機タイプを持つ数少ないメーカーの一つであり、お客様の用途に合わせて最適な圧縮機を提供することで競争力の維持・強化に繋げています。エンジニアリングにおいては、例えば、当社グループの持つ天然ガスを還元剤とした直接還元製鉄法(MIDREX®プロセス)が直接還元鉄の生産において世界シェア60%以上を占めています。加えて、天然ガスの代わりに水素を還元剤とした低炭素製鉄の実証を進めるなど、継続的な技術改良への取組みにより、競争優位性の維持を図っています。建設機械においては、油圧ショベルとクレーン事業に特化する中で、静音性・省エネ技術で高い評価を頂いており、これらの技術をさらに発展させるとともにICT・IoTの活用などで競争力強化に取り組んでいます。
電力事業においては、神戸市に石炭火力発電所を、栃木県真岡市にはガス火力発電所を有しており、また新たに神戸市に石炭火力発電所を建設しておりますが、いずれも現在、実用化されている発電技術の中で最高効率の発電設備を導入し、省エネルギー法で定められた発電効率基準を満たすことにより、国内の火力発電所の高効率化・環境負荷低減に寄与します。
<当社の組織図>0102010_001.png
<お客様分野別にみる当社グループの特長ある技術・製品・サービス 例>
お客様分野当社グループ 技術・製品・サービス主な用途、使用分野事業セグメント
鉄鋼アルミ素形材溶接機械エンジニアリング建設機械電力
自動車自動車用弁ばね用線材自動車エンジン部品
高張力鋼板(ハイテン)ボディ・シート骨格部品など
自動車用アルミパネル材ボディ外板材など
鉄粉各種駆動部品など
自動車サスペンション用アルミ鍛造品足回り部品
自動車用アルミ押出・加工品バンパー、骨格材など
自動車端子・コネクタ用銅合金電装部品
銅めっきなしソリッドワイヤ(SEワイヤ)部材接合
スラグ低減溶接プロセス足回り部品接合
樹脂用混練製造粒装置バンパー等向け樹脂ペレット製造
シートメタル成形プレスボディ骨格等の複雑形状プレス加工
真空成膜装置エンジン部品コーティング
ゴム混練機タイヤ・ゴム製品製造
マルチ・自動車解体機自動車リサイクル
航空機航空機エンジン部品向けチタン航空機エンジンケース部品など
航空機用ギアボックス航空機部品
等方圧加圧装置航空機部品
造船クランクシャフト船舶用エンジン部品
フラックス入りワイヤ船舶組立・部材接合
造船大組立ロボットシステム船舶組立・部材接合
LNG燃料船向け圧縮機LNG燃料船燃料供給装置
鉄道鉄道車両用アルミ型材鉄道車両ボディ・床材など
食品容器アルミ缶・ボトル缶材飲料用容器
電機・エレクトロニクスアルミディスク材記憶装置
精密加工用アルミ合金厚板半導体製造装置
半導体用リードフレーム半導体
建築土木ロングライフ塗装用鋼板「エコビュー®」橋梁等構造物
高耐食めっき鋼板 KOBEMAG®建築資材
フラックス入りワイヤ建設資材接合
REGARC™搭載鉄骨溶接ロボット建設資材接合
油圧ショベル土木工事
メインブーム兼用型建物解体専用機「NEXT」建造物解体
テレスコピッククローラクレーンTK-Gシリーズ建築・土木工事
「ホルナビ」(ICT建機)建築・土木工事

お客様分野当社グループ 技術・製品・サービス主な用途、使用分野事業セグメント
鉄鋼アルミ素形材溶接機械エンジニアリング建設機械電力
社会・産業インフラ、環境・エネルギー都市交通システム新交通
神戸発電所、真岡発電所電力供給
木質バイオマス発電電力供給
下水道バイオガス都市ガス導管注入設備ガス供給
水処理設備上下水道処理、用水・排水処理、汚泥処理・純水・超純水製造設備など
水素ステーション向けコンプレッサーユニット「HyAC」水素ステーション
ストーカ式焼却炉、流動床式ガス化溶融炉廃棄物処理
汎用圧縮機「エメロード」産業用圧縮空気/ガスの供給
スクリュ式非汎用圧縮機産業用圧縮空気/ガスの供給
MIDREX®プロセス直接還元鉄製造
低合金用溶接材料石油精製リアクター・発電用ボイラー材
マイクロチャネル熱交換器(DCHE)天然ガス関連設備、水素ステーション部品
LNG関連機器ガス供給関連設備
ヒートポンプ産業用エネルギー供給


<当社グループの事業のサプライチェーン概要>0102010_002.png
③グループ中期経営計画について
当社グループは、2016年4月に、中長期経営ビジョン「KOBELCO VISION“G+”(ジープラス)」のもとに「素材」「機械」「電力」の3本柱の事業体確立を目指した「2016~2020年度グループ中期経営計画」を策定し、2018年度までに各種施策を実施してまいりました。
具体的には、鋼材事業における上工程集約や、新規発電プロジェクトの推進等の安定収益基盤の確立に向けた施策に加え、自動車軽量化戦略等による成長機会の追求、さらには、コーポレートガバナンス強化、Next100プロジェクト(*)等による経営基盤の強化などが主な取組みとして挙げられます。
*Next100プロジェクト:2017年度から開始した、神戸製鋼グループ全社員が一つになって「誇り」「愛着」「希望」あふれる企業集団を作り、持続的に成長していくことを目指した活動
2016年から2018年まで、課題として掲げた鋼材事業における上工程の集約、中国での建設機械事業の再構築、新規発電プロジェクトの推進等を順調に進め、一定の成果を得てまいりました。
一方で、原材料価格やエネルギー価格の上昇と高止まりといった市場環境の変化に加え、設備トラブルの発生、素材系事業における戦略投資案件の収益化の遅れ、品質不適切行為の発覚など当社グループにおける状況の変化もあったため、中期経営計画の進捗の精査と課題の再整理が必要と判断し、2019年5月に、中期経営計画期間の残りの2年間である2019~2020年度にやりきる重点テーマと将来に向けた重点課題及び対策をとりまとめ、「中期経営計画ローリング」として公表いたしました。具体的なテーマとしては、「素材系を中心とした収益力強化」、「経営資源の効率化と経営基盤の強化」を掲げ、その取組みを推進してまいりました。
しかしながら、2019年度の多額の減損損失の計上などが示すとおり、素材系事業全般で、ものづくり力や販売価格の改善はいまだ不十分であり、戦略投資案件の収益化も遅れていることから、素材系事業の収益力強化が当社グループにとって引き続き最重要課題であり、加えて、米中貿易摩擦に起因した需要減、新型コロナウイルス感染症の影響など、以前に増して厳しい事業環境への対応も必要です。
当社グループが生き残り、そして持続的成長を成し遂げていくためには、現実を真摯に受け止め、変化を恐れずに改革を進めていく必要があると認識しており、2021年度からスタートする次期中期経営計画期間に向けた取組みを、現行の中期経営計画の最終年度となる2020年度から進めてまいります。その概要については、後述の「(2)経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
なお、当社グループは、組織の隅々まで健全な内部統制が機能し、リスクの早期把握と適切な対応を可能とする目標や指標を踏まえた経営を実践し、持続可能な企業価値向上を実現するため、「安全」、「品質」、「環境・防災」、「コンプライアンス(法令・契約遵守)」、「社員意識(人材確保・育成)」、「お客様満足度」、「経済性(ROIC)」の7つの事業管理指標を設定し、2019年4月より運用を開始しております。この7つの指標については、経営陣が随時確認し計画の確実な進行を図ってまいります。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
①経営環境
素材系事業は、自動車、造船、電気機械、建築・土木、IT、飲料容器などを主な需要分野としており、販売数量・価格は、これら需要分野の動向、経済情勢等の影響を受けます。機械系事業は、建築・土木、産業機械、石油化学、廃棄物処理関連などを主な需要分野としており、受注件数や販売台数及び受注高は、国内外の公共投資・民間設備投資の動向、経済情勢等の影響を受けます。電力需要については、気象状況や景気動向に左右されるほか、当社の売電量は定期点検の実施回数等によっても変動します。
また、原材料価格の変動や資機材等の取引関係の重大な変更、為替レートの変動があった場合にも、各事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。
国内経済は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、需要が大きく減退し、自動車メーカーが生産を停止するなど、製造業の活動水準に著しい影響が出ており、海外経済についても、世界各地で感染拡大の影響で経済活動が大きく停滞しております。各国政府による財政・金融政策、雇用政策など、大規模な対応策が順次実行に移されており、新規感染者数の減少に伴い、中国では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から立ち直りの兆しが見え、欧州や米国でも感染拡大による経済活動の回復に向けた動きも見られますが、再度の感染拡大の懸念もあることから、本格的な需要回復には時間を要するものと考えられ、2020年度後半以降になることも想定される状況です。
当社グループの主要な事業領域の中長期の需要動向については、新型コロナウイルス感染症の影響により、従来の需要予測に遅れが生じる一方で、生活様式の変化により、新たな需要が喚起されることが期待されます。主要な需要分野については、以下のとおりとみております。
自動車分野については、国内外ともに需要の回復には時間がかかるため、当面は生産水準も低水準となると見ておりますが、自動車の軽量化への動きは変わらず、当社の得意分野である、超ハイテン、アルミ板、アルミサスペンションなどについては、中長期的には潜在的な需要は高いものと考えております。また、自動運転技術の開発も年々進んでおり、自動車の電装化はますます加速すると考えられ、当社の自動車電装用の銅板事業も期待できます。
造船分野については、好況期に発注された新造船が大量に竣工し、海上荷動き量の成長を上回る船舶が供給されたことで、需給バランスが大きく悪化しているため、需要回復にはしばらく時間がかかるものと想定され、当社の厚板、鋳鍛鋼事業は影響を受けます。このような状況のもと、省エネ船開発や価格競争に陥り難い高付加価値船へのシフトが見込まれ、燃費向上に向けた技術開発が進むものと想定されます。
航空機分野は、中長期的には需要が伸びるものと想定されますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う渡航制限などの影響により、航空会社の財務状態が大きく悪化しているため、当面の航空機の新規需要は低迷するものと想定され、当社のチタン事業が影響を受けます。ただし、燃費向上の観点からの技術開発は引き続き進むと考えており、軽量化のためのチタン、アルミなどの素材、部材への需要が期待されます。
建築・土木分野では、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う建設工事の遅れが見込まれるほか、企業の資金繰り悪化や個人消費の冷え込みなどから、当面は需要の低迷が続くものと想定されます。また、海外においても、国内同様に投資が停滞することが予想され、当社の建設用資材向けの鋼材や建設機械の需要低迷が懸念されます。ただし、建設機械に関しては、ICT技術を使った省力化や建設現場のテレワークシステムであるK-DIVE CONCEPTなどの開発が加速しており、同技術の開発が今後の優位性向上に大きく寄与するものと考えております。
石油精製、石油化学分野については、新型コロナウイルス感染症の影響により、原油価格が不安定になったことで石油メジャーの開発・設備投資案件の遅れなどが想定され、不透明な状況が続くものと見ております。
産業機械分野においても、経済の停滞により、設備投資意欲が減退しており、不透明な状況が続くものと見ておりますが、省エネルギー・省人化の観点から、当社の溶接ロボットや圧縮機の分野での需要が中長期的には期待できます。
再生可能エネルギー分野は、新型コロナウイルス感染症の影響による設備投資意欲の後退の影響を受けると考えられますが、中長期的には大きく伸びることが期待され、当社の圧縮機技術に潜在的な需要があるものと考えております。
還元鉄分野については、中国を中心とした鉄鋼設備の過剰感は解消されていないものの、中東・北アフリカ等の一部地域では還元鉄プラントの潜在的な需要があります。加えて、高炉製鉄法に比べCO₂排出量が少ない直接還元製鉄法への関心が増大傾向にあります。一方で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による、世界的な設備投資意欲の後退の影響について、留意する必要があると考えております。
水処理及び廃棄物処理の環境関連分野については、水処理では自然災害に対する国土強靭化政策や、廃棄物処理では基幹改良ニーズが引き続き堅調であるなど、国内公共投資は概ね現状の水準で推移するものと認識しております。一方で、国内の民間設備投資や海外市場では新型コロナウイルス感染症が経済活動や社会生活に大きな影響を与えている中、予断を許さない状況であると認識しており、これらに起因する変動につき、十分留意する必要があると考えております。
IT分野では、当社グループは半導体製造装置向け材料などを扱っておりますが、半導体関連の需要低迷が続いていることに加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、当面の需要の反転は厳しいものと見ております。しかしながら、ICT技術の進展、テレワークやキャッシュレス決済の進展などIT分野は今後ますます加速すると考えられ、周期的な需要の変動はあるものの、成長する分野と見ております。
飲料用容器では、気象状況の影響を受けますが、マイクロプラスチックの問題の台頭による金属容器への回帰の動きなどから底堅い需要が続くものと見ており、当社のアルミ板への需要が期待できます。
電力需要については、国内経済が新型コロナウイルス感染症の拡大を受け低迷しており、電力需要が低下していますが、今後、生産再開などにあわせて徐々に回復していくものとみております。
②対処すべき課題
当社グループを取り巻く事業環境は「①経営環境」に記載のとおり、当面は先行きが不透明な状況が続くものと想定されます。こうした状況のもと、当社の対処すべき課題は以下のとおりと考えております。
<新型コロナウイルス感染症の拡大に対する対応>新型コロナウイルス感染症が地球規模で感染拡大し、世界のあらゆる社会、経済活動が未曽有の影響を受ける中、当社は、3つの基本方針のもとで各種対応を進めております。
[3つの基本方針]
●お客様、お取引先様をはじめ、地域社会の皆様、当社グループ及び当社グループ構内で働く従業員とその家族など、国内外全てのステークホルダーの皆様の安全・健康を第一とする。
●社会的責任を果たすため、感染防止策を徹底の上、社会インフラ等の維持に必要な製品・サービスの提供を継続する。
●適時適切な情報開示を実施し、社会の一員として説明責任を果たす。

当社は、2020年1月末の時点で全社対策事務局(4月に全社対策本部に改編)を設置し、マスク着用の奨励、手洗い消毒の徹底、来訪者への検温や問診のお願いなどを開始しました。その後、緊急事態宣言の発令に先んじて、時差出勤、在宅勤務への切替えとオンライン会議の活用、国内外の出張の原則禁止など順次対策を強化し、お客様や従業員、そのご家族の皆様の安全と健康を第一に、感染拡大防止に努め、適切な事業継続を図ってまいりました。
当社は、新型コロナウイルス感染症の一日も早い収束を心より祈念するとともに、医療従事者の皆様をはじめ、最前線で新型コロナウイルス感染症と戦われている方々に感謝申しあげながら、今後も日々変化する状況に応じた取組みを実施してまいります。
なお、当社グループの対応につきましては、当社ホームページ(https://www.kobelco.co.jp)もご覧ください。
<緊急収益・キャッシュ・フロー改善策>2019年度業績が、米中貿易摩擦に起因する世界経済全体の減速等から、鉄鋼、アルミ・銅を中心に大幅な赤字の見通しとなったことをうけ、2020年2月7日、緊急施策の検討及び実行をモニタリングする機関として「緊急収益改善 特別委員会」(委員長:社長)を設置し、固定費の圧縮(労務費の削減、研究開発費・保全工事費において不急のものを削減・繰り延べ)を中心とした200億円規模の緊急収益改善を2020年度計画として策定しました。また、キャッシュ・フローについても、棚卸資産の削減など運転資金改善、資産売却、設備投資の繰り延べ等により1,200億円規模の対策を計画しました。加えて、素材系を中心とした収益改善(ベースコスト改善、設備投資効果等200億円以上)を計画しております。
しかしながら、その後、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、国内外の拠点において生産・受注量の減少が顕在化しており、相当程度の業績影響があるものと想定せざるを得ない状況から、追加の対策として、需要に見合った生産の徹底による支出の最大限の抑制、グループ会社を含めたきめ細かい資金管理と必要な対策の実施、間接部門における経費支出の原則凍結、更新投資など事業運営上不可欠なもの以外の設備投資・投融資の凍結などに取り組んでおります。
なお、親会社株主に帰属する当期純損益が多額の損失となったこと及び年間配当の見送りを厳粛に受けとめ、2020年2月より当面の間、役員報酬の一部を返上しております。
今後、さらなる固定費削減策、並びに追加のキャッシュ・フロー対策について、「緊急収益改善 特別委員会」にて、聖域なく検討し、実行してまいります。
<次期中期経営計画を見据えて>現行の「2016~2020年度グループ中期経営計画」では、「素材系・機械系・電力の3本柱の事業体確立」を目指し、2018年度までに各種施策を実施してまいりました。
具体的には、鋼材事業における上工程集約や、新規発電プロジェクトの推進等の安定収益基盤の確立に向けた施策に加え、自動車軽量化戦略等による成長機会の追求、さらには、コーポレートガバナンス強化、Next100プロジェクト等による経営基盤の強化などが主な取組みとして挙げられます。
また、2019年5月には、グループ中期経営計画策定以降の市場環境の変化や、当社グループの状況などを踏まえ、中期経営計画期間の残りの2年間である2019~2020年度にやりきる重点テーマと将来に向けた重点課題及び対策をとりまとめた「中期経営計画ローリング」を公表しました。具体的なテーマとしては、「素材系を中心とした収益力強化」、「経営資源の効率化と経営基盤の強化」を掲げ、その取組みを推進してまいりました。
2019年度には、「経営資源の効率化」に向け、政策保有株式の縮減やグループ会社再編などを、計画を上回るペースで意思決定し、順次実行に移してまいりました。また、「素材系を中心とした収益力強化」については、先行して進めていた加古川製鉄所への上工程集約効果を取り込むことができているほか、ものづくり力の強化についてもグループ横断的な支援も含めて対応してまいりました。
しかしながら、2019年度の多額の減損損失の計上などが示すとおり、素材系事業全般で、ものづくり力や販売価格の改善はいまだ不十分であり、戦略投資案件の収益化も遅れていることから、「素材系事業の収益力強化」が引き続き当社グループの最重要課題であり、危機感をもって取り組まねばなりません。
米中貿易摩擦に起因した需要減、新型コロナウイルス感染症の影響など、以前に増して厳しい事業環境に直面しており、当社グループが生き残り、そして持続的成長を成し遂げていくためには、現実を真摯に受け止め、変化を恐れずに改革を進めていく必要があると認識しております。
当社グループは、このような認識を踏まえ、2021年度からスタートする次期中期経営計画期間に向けて、現行の中期経営計画の最終年度となる2020年度から以下の取組みを進めてまいります。
[素材系事業の収益力強化に向けた取組み]
・素材系事業(鋼材・アルミ板)の収益悪化要因と今後の施策
鋼材については、製鉄所上工程の集約等でコスト競争力を強化してまいりましたが、固定費の高止まりの一方、「原料高・製品安」、想定以上の速さで進む需要縮小等が収益悪化要因です。
アルミ板については、自動車材の投資意思決定時に対し、アルミ適用の遅延、中国での自動車販売の失速等の理由から将来の需要予測を下方修正せざるを得ず、投資の収益化も当初より大幅に遅れる見込みとなっていることが収益悪化要因です。
一方で、特殊鋼線材と超ハイテンは競争力を有しており、アルミ板についても、市場占有率と技術優位性の面では強みを有しております。こうした状況を踏まえ、それぞれ、以下の取組みを進めてまいります。
課題取組内容
鋼材産業構造の変化への対応
(固定費の高止まり、原料高・製品安、需要縮小への対応)
・再生産可能な価格への改善と収益性や数量規模の見極め
・固定費削減の早期実行
・国内粗鋼生産縮小に対応した生産体制見直しの検討
アルミ板需要拡大時期の大幅遅れへの対応
(戦略投資案件の収益化遅延への対応)
・「ソリューション技術センター」を新設し、お客様へのソリューション提案を一層強化
・飲料缶材を中心とした全分野での拡販
・緊急収益対策含む固定費削減の実行

・素材系事業(素形材)の収益悪化要因と今後の施策
2019年度において減損損失を計上した、チタン、アルミサスペンション、アルミ鋳鍛は、市場占有率が高く、市場成長性も高い事業と認識しており、事業拡大・シェア確保を目指し、積極的な受注活動を行なってまいりましたが、生産性やコストなど、ものづくり力の面で大きな課題があったことが収益悪化の要因と認識しております。加えて、従来、鉄鋼事業部門やアルミ・銅事業部門といった比較的規模の大きな素材事業の中で、市場・商慣習の異なるこれらの部品事業を拡大していくにあたって、マネジメントの整備が遅れたことも要因の一つであると考えております。
鋳鍛鋼事業については、造船需要の長期の低迷といった産業構造の変化が収益悪化の要因となっております。
こうした状況を踏まえ、それぞれ、以下の取組みを進めてまいります。
課題取組内容
チタン
アルミサスペンション
アルミ鋳鍛
ものづくり力の再構築・強化
(事業マネジメントの強化)
・組織改正によるものづくり連携・企画管理機能の強化 ※
(部品軸による需要分野別戦略推進とものづくり力の改善、受注決定のモニタリングを含めた企画管理機能の強化)
・採算を重視した事業運営(メニューの絞り込みを含む)による安定収益の確保
鋳鍛鋼産業構造の変化への対応
(需要低迷長期化への対応)
・需要に見合った固定費削減と再生産可能な価格への改善による安定収益の確保

※ 2020年4月1日付で、「鉄鋼事業部門」と「アルミ・銅事業部門」を、素材(鉄鋼アルミ)を扱う「鉄鋼アルミ事業部門」と部品(素形材)を扱う「素形材事業部門」に組織を改編いたしました。
[次期中期経営計画に向けた考え方・枠組み]
足下から当面の間は、緊急収益・キャッシュ・フロー改善策として、引き続き、設備投資を含む投融資を厳選し、支払を抑制するとともに、固定費についても可能な限り抑制する方針です。
その上で、次期中期経営計画期間に向け、当社グループの製品・サービスの置かれたポジション、強み、弱みなどを客観的に見極め、真に競争力ある製品・サービスへ特化し、収益力の回復を図ってまいります。
また、多様な技術を有する当社ならではの特長を活かした価値創造を追求し、環境負荷軽減に貢献するビジネスの拡大や機械系事業の成長の可能性の探求など、将来の成長分野・新規分野への取組みを推進いたします。
新型コロナウイルス感染症の影響により、生活様式が大きく変わる可能性がありますが、現在、社会が抱えている、環境負荷軽減をはじめとした課題は何ら変わることはありません。こうした社会課題に対し、当社グループには、例えば、世界シェアの60%以上をもつ直接還元鉄技術(MIDREX®プロセス)の活用によるCO2削減、輸送機軽量化技術、ICT・IoT技術を活用した建設機械、水処理技術、工場の自動化技術、圧縮機技術を活用した生産現場での省エネルギーへの貢献など、解決に資する将来性豊かな技術や製品が数多くあります。当社グループは、このような多様な技術・製品の可能性を探求し、企業価値の向上を目指してまいります。これらの検討を進めるにあたっては、ROIC(投下資本収益率)導入による事業ポートフォリオ管理の強化を実施してまいります。
さらには、事業を下支えし、多様な事業を有機的に結びつけることが出来る経営基盤、組織構造のあり方についても検討を進めてまいります。
[ROIC管理導入による事業ポートフォリオ管理の強化]
当社グループの製品の中には、収益性は高くとも市場占有率が高くないもの、市場占有率は高くとも、収益性が劣後しているものが混在しております。当社グループが持つ多様な製品・サービスの中には、将来の成長を大きく期待されるものもあり、経営資源の配分に関しては、しっかりとした見極めが必要になると考えております。
2019年度の多額の減損損失の計上を真摯に受け止め、今後は、事業ユニット単位でのROIC管理の導入により、資本コストを意識した上で、各事業ユニットの現在の位置づけを明確にするとともに、事業・財務の観点、及びSDGs(国連の定める持続可能な開発目標)等の国際社会共通の目標と成長性を踏まえながら、将来の方向性について検討を進めてまいります。
新型コロナウイルス感染症による各事業への深刻な影響に対応しつつ、次期中期計画を見据えて、事業ユニット単位にまで踏み込んだ全社的観点での最適な事業ポートフォリオの再構築を進めてまいります。
[グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営の推進]
グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営(事業活動を通じた環境・社会への貢献と持続的成長の追求)の推進は、当社グループの継続的テーマと位置づけております。
お客様や社会にとって、かけがえのない存在となるよう、社会課題の解決に挑み、新しい価値を創造し続けることが、当社グループにとっての使命であり存在意義です。
ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する外部評価やSDGs(国連の定める持続可能な開発目標)等を踏まえながら、事業を通じた環境・社会への貢献と持続的成長を追求し、事業ポートフォリオの再構築と事業マネジメントの強化により収益力の早期回復を目指してまいります。
当社グループのサステナビリティ経営の推進への取組みについては、グループ統合報告書などを通じて、積極的な情報開示にも努めてまいります。
0102010_003.png
(ご参考)
2016年度
(実績)
2017年度
(実績)
2018年度
(実績)
2019年度
(実績)
ROS△1.1%3.8%1.8%△0.4%
1株当たり当期純損益△63.54円174.43円99.20円△187.55円
有利子負債7,896億円7,260億円7,242億円7,844億円
D/Eレシオ1.17倍0.98倍0.98倍1.19倍
ROA△0.8%3.1%1.5%△0.3%
ROE△3.4%8.9%4.8%△9.7%

③品質不適切行為の再発防止策等について
2017年10月に公表しました、当社グループにおける品質不適切行為につきましては、ステークホルダーの皆様には多大なるご迷惑をお掛けしておりますこと、改めてお詫び申しあげます。
対象となりました不適合製品の安全性の検証に関しましては、2019年3月29日公表のとおり、不適合製品を納入したことが判明している、のべ688社全てのお客様より、安全上の問題がない、あるいは、安全性に当面の問題はないとのご確認をいただいております。
また、当社グループは、現在、2018年3月6日付「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」にて公表いたしました再発防止策を順次実行に移しております。
再発防止策の根幹となる意識改革のための様々な階層での対話機会の創出などコミュニケーションの活性化に注力しているほか、品質マネジメント体制の再構築と徹底、品質管理プロセスの強化、それに伴う設備投資などにも順次着手しており、概ね順調に進捗しております。
また、現在、社外有識者が過半数を占める「品質マネジメント委員会」が、再発防止策の実効性に対するモニタリングの実施、当社グループにおける品質マネジメント強化活動のモニタリング及び提言を行なっております。再発防止策の各項目、進捗状況の詳細につきましては、当社ホームページにてご報告しておりますので、以下よりご参照ください。(https://www.kobelco.co.jp/progress/relapse-prevention/index.html)
なお、これまでに当社が開示してまいりました品質不適切行為に関する訴訟等の状況につきましては、以下のとおりとなっております。当社グループとしましては、厳粛に受け止め、引き続き解決に向け、鋭意取り組んでまいります。
案件状況
日本不正競争防止法違反の疑いで起訴(2018年7月)2019年3月 罰金1億円の有罪判決
米国米国司法省の調査開始(2017年10月)2019年7月 調査終了
当社ADR証券に関する、米国証券法違反(コンプライアンス体制等の虚偽表示)に基づくクラスアクション2019年2月 和解(和解金500千米ドル)
当社の製造した金属製品を使用して製造された自動車に関する、転売価値の下落等の経済的損失の賠償等を求めるクラスアクション2020年2月 和解基本合意
2020年4月 和解手続き完了
(和解金非公表)
カナダ当社グループが製造した自動車向け金属製品や、それらを使用して製造された自動車に関する、経済的損失の賠償等を求めるクラスアクション2019年6月 和解(和解金1,950千カナダドル)
訴訟取り下げを主な内容とする和解の基本合意書締結(訴訟却下手続き実施中)