有価証券報告書-第199期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/24 14:07
【資料】
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【項目】
160項目
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、2007年に「古河電工グループ理念」を制定しましたが、当社グループの事業を取り巻く環境の急速な変化を捉え、2019年5月に行動指針をCore Valueに整理し直し、同時にグループビジョンを刷新いたしました。引き続き、グローバルに成長して企業価値を高めるよう努力してまいります。
基本理念
世紀を超えて培ってきた素材力を核として、絶え間ない技術革新により、真に豊かで持続可能な社会の実現に貢献します。
経営理念
私たち古河電工グループは、人と地球の未来を見据えながら、
・ 公正と誠実を基本に、常に社会の期待と信頼に応え続けます。
・ お客様の満足のためにグループの知恵を結集し、お客様とともに成長します。
・ 世界をリードする技術革新と、あらゆる企業活動における変革に絶えず挑戦します。
・ 多様な人材を活かし、創造的で活力あふれる企業グループを目指します。
Core Value
古河電工グループ理念を達成し持続的に成長していく上で、特に大事にし、より強化していきたい価値観を
⦅正々堂々⦆⦅革新⦆⦅本質追究⦆⦅主体・迅速⦆⦅共創⦆の5つに定め、「Core Value」としております。
古河電工グループ ビジョン2030
当社グループの事業を取り巻く環境の急速な変化を捉え、目指す時間軸と事業領域を明確にした「古河電工グループ ビジョン2030」(以下、「ビジョン2030」という)を2019年5月に策定いたしました。今後、次期中期経営計画に落とし込み、存在感のある企業を目指してまいります。

古河電工グループは
「地球環境を守り」「安全・安心・快適な生活を実現する」ため、情報 / エネルギー / モビリティが融合した社会基盤を創る。

(2) 目標とする経営指標
2021年度は、事業の変革、新規事業立上げ・育成強化、資本効率重視経営の強化、を進める年と位置付け、現中期経営計画「Furukawa G Plan 2020 - Group Global Growth - 」における経営指標の更なる改善を進めてまいります。次期中期経営計画においては、資本効率を更に重視した財務指標(ROIC等)など企業価値向上につながる経営指標導入を検討してまいります。
(3) 中長期的な会社の経営戦略
1)中期経営計画「Furukawa G Plan 2020」の取組み
当社グループでは、2020年度を最終年度とする中期経営計画「Furukawa G Plan 2020」に基づき、次の財務目標値の達成に向け、様々な取組みを進めてまいりました。
[「Furukawa G Plan 2020」に掲げた2020年度の各種財務目標値]
Furukawa G Plan 2020
財務目標値
2016年度
実績
2017年度
実績
2018年度
実績
2019年度
実績
2020年度
実績
2016年5月
発表
2018年5月
修正
連結営業利益400億円以上550億円以上386億円448億円408億円236億円84億円
親会社株主に帰属する当期純利益200億円以上300億円以上176億円285億円291億円176億円100億円
NET D/Eレシオ-0.8未満0.990.880.810.820.79
自己資本比率-30%超27.6%29.2%30.3%30.2%31.2%
ROE8%超10%超9.3%12.9%12.0%7.2%4.0%
事業資産営業利益率10%以上10%以上12.1%13.1%11.2%6.1%2.2%

2016年度から開始した本中期経営計画では、①事業の強化と変革、特に重点領域と位置付けるインフラ(情報通信、エネルギー)/自動車分野の強化、②グローバル市場での拡販推進、及び③新事業の開拓加速を重点施策として取り組んでまいりました。
① 事業の強化と変革、特に重点領域である情報通信分野において当社が技術的優位性を持つ光ファイバ及び光ファイバ・ケーブル(以下、あわせて「光ファイバ等」という)の北米での拡販推進やデジタルコヒーレント関連の新製品の開発、南米拠点におけるソリューションビジネスの展開に取り組みました。また、主に北米の光ファイバ等の拠点において製造能力増強の設備投資を実施しました。エネルギー分野では国内の超高圧地中線需要の着実な取り込みや需要拡大が見込まれる再生可能エネルギー向けの海底線の受注に注力したほか、海底線の長尺化対応や生産性向上のための設備投資も実施しました。自動車分野では、グローバル車種向けのワイヤハーネスの受注獲得に努め、アジア地域での生産体制の最適化及び生産能力の増強を推進しました。
当社では事業資産営業利益率*を指標とした低採算事業・製品群の改善に取り組み、当社の重点領域との事業シナジー等を総合的に勘案し、事業ポートフォリオの見直しも実行しました。
*事業資産営業利益率…営業利益/事業資産(棚卸資産+有形・無形固定資産)
<主な事業ポートフォリオの見直し施策>
● 子会社FCM㈱(当時JASDAQ市場に上場)の全ての当社保有株式を売却
● 建設・電販市場向け汎用線の販売・物流事業を再編(昭和電線ホールディングス㈱と合弁会社を設立)
● 当社グループの銅管事業を譲渡(日本産業パートナーズ㈱傘下の特別目的会社へ譲渡)
● 当社グループの巻線事業の一部を再編(Superior Essexグループと合弁会社を設立)

② グローバル市場での拡販推進では、情報通信ソリューション事業において光ファイバ等の生産及び供給体制をグローバルに一括で管理する体制の確立に努めました。また、タイ子会社に東南アジア地域を統括する機能を持たせグローバルに事業活動を行うための体制整備を実施したほか、海外子会社を含めた将来の経営人材候補のグループ横断的な人材育成に取り組みました。
③ 新事業の開拓では、重点領域であるインフラ/自動車分野への成長投資を加速し、光ファイバの低損失化・高密度化に向けた製品開発、再生可能エネルギー向けの海底線の要素技術開発や、CASE*の進展に対応するための周辺監視レーダやアルミワイヤハーネス等の開発に注力しました。
*CASE…Connected(つながる化)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング)、Electric(電動化)
さらに、新しいビジネスモデル創出の取組みとして、ファイバレーザ技術と素材技術の知見を活かしたモビリティの電動化に貢献する産業用レーザを事業化しました。その他、非接触電力伝送技術を活用した給電システム、再生可能エネルギーにより発電された電力の安定供給に貢献するバイポーラ型蓄電池やラムネ触媒™を用いたLPガス創出技術などの研究開発にも注力しました。また、「古河電工グループ ビジョン2030」(以下、「ビジョン2030」という)の達成に向け、長年培ってきた自社技術に外部の技術やアイデア等を組み合わせるオープンイノベーションにも積極的に取り組みました。
<主なオープンイノベーションの取組み>
● 外部との共創の場として横浜事業所内にFun Lab®を開設
● 米国シリコンバレーに現地企業や大学との共創機会発掘の拠点を開設
● 複数の国立大学法人に産学連携講座を設置
● 複数の地方自治体と防災・減災等に関する協定を締結

本中期経営計画開始当初はインフラ分野において北米における光ファイバ等の旺盛な需要を着実に取り込んだことや、自動車分野でのワイヤハーネス関連の売上増加などから業績は好調に推移しました。2017年度には連結営業利益は448億円、親会社株主に帰属する当期純利益は285億円となり、計画当初の目標値を前倒しで達成したことから、2018年5月に目標値を上方修正しました。その後、中国に端を発する光ファイバ等の需給バランスの悪化や北米拠点の光ファイバ・ケーブル生産性改善の遅れによる拡販機会の逸失により、情報通信ソリューション事業で収益が悪化しました。さらに2020年以降は新型コロナウイルスの世界的流行によるグローバルでの経済活動の停滞が大きく影響し、修正後の目標値を達成することはできませんでしたが、財務体質改善の取組みや経営基盤強化に向けた全社的な変革活動の取組みを推進し、一定の成果を得ることができました。本年3月には㈱格付投資情報センターの信用格付が2002年6月以来19年ぶりに「A-」へ復帰しました。
当社では、本中期経営計画の取組み・成果を踏まえた分析を、今後の計画に反映させてまいります。なお、2021年度から開始予定であった次期中期経営計画は、新型コロナウイルスの流行により当社グループを取り巻く経営環境が大きく変化したことから計画の策定を中断し、同計画の開始を延期しました。2021年度は「ビジョン2030」の達成に向け、次期中期経営計画の実行に向けた基盤づくりに取り組んでまいります。2022年度を初年度とする次期中期経営計画は現在策定中であり、準備が整い次第、公表し、同計画に基づく各種施策に取り組んでまいります。
2)次期中期経営計画に向けた基盤づくり
2021年度から開始することを予定しておりました次期中期経営計画は、新型コロナウイルスの流行により当社グループを取り巻く経営環境が大きく変化したことから計画の策定を中断し、同計画の開始を延期しました。「ビジョン2030」の達成に向け、2021年度は次期中期経営計画の実行に向けた基盤づくりとして、環境変化を先取りした事業の変革、新事業の立上げ・育成に加え、引き続き資本効率を重視した経営の強化を進めてまいります。2022年度から2025年度までの4ヶ年の次期中期経営計画は現在策定中であり新型コロナウイルスの状況及び事業環境を見極めたうえで、公表することを予定しております。
(4) 経営環境
世界経済は、長期化し激化する米中間の貿易摩擦並びに欧州や中東における政治的・地政学的な緊張等、さらに昨年1月以降の新型コロナウイルスの感染拡大による世界規模での経済活動の停滞や、その回復過程における半導体供給不安の深刻化などにより、先行き不透明な状況が続くと予想されますが、当社グループが重点領域と位置づけているインフラ(情報通信、エネルギー)/自動車分野は中長期では継続的な市場成長が見込まれます。
情報通信分野は、5GやIoTなど、クラウドをベースとしたサービスが様々な分野で成長しておりましたが、それに加えて新型コロナウイルスの感染拡大を受けたテレワークの急速な浸透なども踏まえ、データセンタ及びデータセンタ間を結ぶ光ネットワークの建設が今後も続くと考えられます。足元では、世界的な光ファイバ等の需給バランスが悪化しておりますが、中長期では継続的な市場成長が見込まれます。
エネルギー分野は、国内に関してはオリンピック需要ピーク後の需要減や人手不足による工期遅れが懸念される一方、新エネルギーや電力会社のリプレース需要が見込まれ、海外に関しては欧米、新興国での旺盛な需要が継続する見通しであります。
自動車分野は、CASEというキーワードに代表されるように大変革期を迎えており、今後も当該分野は継続的に成長する見通しであります。
(5) 会社の対処すべき課題
「古河電工グループ ビジョン2030」達成に向けたESG経営の推進
当社グループは、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」が示す社会課題の解決を念頭に置き、目指す時間軸と事業領域を明確にした「古河電工グループ ビジョン2030」(以下、「ビジョン2030」という)を定めております。その達成に向け、当社グループに関わるすべてのステークホルダーとの共創により、当社グループの中長期的な企業価値向上に加え、社会的価値向上を目指し、ESG経営の推進に取り組んでおります。「ビジョン2030」を達成するために当社グループが対処すべき経営上の重要な課題を「マテリアリティ」と定義し、収益機会とリスクの観点から次のとおり特定しました。これらのマテリアリティに取り組み「ビジョン2030」を達成することで、SDGsの達成にも貢献してまいります。

収益機会の観点から、当社グループが事業活動を通じて様々な社会課題を解決していくためには、従来のプロダクト・アウトの考え方からアウトサイド・イン・アプローチへの転換が必要不可欠と考え、「社会課題解決型事業の創出」をマテリアリティとして特定しております。その具体例として、「ビジョン2030」で描く社会の基盤となる「次世代インフラを支える事業の創出」、脱炭素社会・資源循環型社会の実現に貢献する「環境配慮事業の創出」などがあります。自ら積極的に変革する企業を目指すという想いを表した「Open, Agile, Innovative」と、外部との共創に注力する「多様なステークホルダーとのパートナーシップの形成」を通じて「社会課題解決型事業の創出」の取組みを進めてまいります。2021年4月に当社グループ全体の新事業創出を推進する部署を設置しており、取組みを加速してまいります。
次に、リスクのマテリアリティとして特定した「気候変動に配慮したビジネス活動の展開」への取組みとして、TCFD*提言に沿ったシナリオ分析を「Furukawa G Plan 2020」で注力している3つの事業で実施しました。気候変動による収益機会の取り込み及びリスクへの適切な対処の重要性を認識し、今後、シナリオ分析の対象事業を拡大し、財務影響度開示に向けたより具体的な分析に取り組んでまいります。
また、2021年3月に「古河電工グループ環境ビジョン2050」を公表しました。チャレンジ目標として2050年に事業活動における温室効果ガス排出量*ゼロを設定しております。環境に配慮した製品・サービスの提供及び循環型生産活動を通じ、バリューチェーン全体で持続可能な社会に貢献してまいります。2020年における当社グループの気候変動に関するリスクと機会への取組みが評価され、CDP*から最高評価である「気候変動Aリスト企業」と「サプライヤーエンゲージメント評価」のリーダーボードに選定されました。
*TCFD…Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称であり、企業等に対し気候関連リスク及び機会に関する開示等を推奨している民間主導の気候関連財務情報開示タスクフォース
*事業活動における温室効果ガス排出量…自社工場・オフィスからの直接排出及び自社が購入した電力・熱などの使用による間接排出の排出量
*CDP…環境情報開示に取り組む国際的な非営利団体
「人材・組織実行力の強化」への取組みとして、2018年11月に策定した「古河電工グループPeople Vision」に沿い、人材育成と組織風土改革を進めております。新型コロナウイルス収束後を見据えた「働き方改革」を全社横断的に推進したほか、成果のあがるチームを作るリーダーとなるための心構え・行動原則を定めた「古河電工流上司心得七則~フルカワセブン」を策定しております。人材育成と組織実行力の強化が当社グループの文化として定着することを目指し、順次対象層を拡大し取組みを推進してまいります。外部からの評価として、女性活躍推進の取組みが評価され、「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」の構成銘柄への採用や厚生労働大臣より「えるぼし」の認定を受けております。また、経済産業省より優良な健康経営を実践している法人として「健康経営優良法人」に認定されました。引き続き従業員の健康増進に向けた取組みを進めてまいります。
「リスク管理強化に向けたガバナンス体制の構築」への取組みとして、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指し、コーポレートガバナンスの強化に注力しております。2020年6月の定時株主総会において、公認会計士の資格を有する女性の社外監査役が就任し、取締役・監査役全体としての知見・経験の充実と多様性の実現を図りました。また、2020年度も取締役会実効性評価を実施し、重要課題として指摘された、事業環境の変化を踏まえた中長期的な成長戦略の議論の充実や社外役員への情報提供の質・量の改善等に取り組むことで、引き続き取締役会の実効性向上を図ってまいります。さらに、グループガバナンスの強化の取組みとして、グループ全体のリスクアセスメントの高度化に引き続き取り組んでまいります。上場子会社である古河電池㈱及び東京特殊電線㈱では、当社と当該上場子会社の少数株主との間には構造的な利益相反リスクがあることを踏まえ、取締役会における独立社外取締役の比率を3分の1以上に高め、親会社との取引についてその合理性・公正性等を審査する機関として独立社外取締役が過半数を占める「利益相反管理委員会」を設置しております。また、2021年2月に「古河電工グループCSR調達ガイドライン」を改訂し、CSRの観点からもサプライチェーンマネジメントの強化に取り組んでおります。
ESGに関する各種取組みの実行と積極的な情報開示を行い、「FTSE4Good Index Series*」及び「FTSE Blossom Japan Index*」の構成銘柄に初選定されました。
* FTSE4Good Index Series及びFTSE Blossom Japan Index
…英国ロンドン証券取引所グループの一企業であるFTSE Russellが定める株式指標