有価証券報告書-第108期(平成26年4月1日-平成27年3月31日)

【提出】
2015/06/26 10:33
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74項目

研究開発活動

当社グループは、「家電」「住宅」「車載」「BtoBソリューション」「デバイス」の5つの事業領域の成長に向け、それぞれのカンパニーにおいて、成長戦略に基づき、強みを持つ事業をさらに強化すべく、将来を担う新技術や新製品の開発に注力しました。加えて、新規領域における中長期の革新的な研究は、新設の先端研究本部がその役割を担っていきます。
カンパニーや事業部などの組織を横断した主な取り組みと成果は、以下のとおりです。
・家電で培った光学技術を大口径非球面レンズや車載用ヘッドアップディスプレイに展開
デジタルカメラやプロジェクターの開発で得たナノメートル精度を有する独自の成形用金型・プロセス技術・計測設備とノウハウを、業務用途や車載用途に応用展開しました。業務用途では、曇りや割れのない大口径(直径75mm)ガラスモールド非球面レンズの量産化が可能となりました。車載用途では、車の曲面形状のフロントガラスに、ナビ情報などを画面歪みの無い状態で投影することができる特殊な形状のミラーを開発することで、業界最小のヘッドアップディスプレイユニットを実現することができました。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、4,573億円となりました。主な内訳は、「アプライアンス」930億円、「エコソリューションズ」571億円、「AVCネットワークス」1,113億円、「オートモーティブ&インダストリアルシステムズ」1,812億円です。各セグメントの主な成果は以下のとおりです。
(1) アプライアンス
主に当社の研究開発部門を中心として白物家電や情報家電、空調機器等の研究開発を行っています。主な成果としては、
・ハイレゾ音源対応の「Technics」オーディオアンプ向け高音質化技術を開発
ノイズや歪みの影響を受けないフルデジタル構成とするために、低域から高域まで幅広い範囲でブレの少ないクロック信号を生成するデジタル回路技術と、ハイレゾ音源の持つダイナミックレンジを損なうことなくパルス幅変調波へ変換する高精度な信号変換技術を開発しました。これにより従来の最高級A級アナログアンプに匹敵する音質を実現しました。この結果、CD音源よりも原音に近いハイレゾ音源の特長を最大限に引き出すオーディオアンプを実現し、「Technics」ブランドとしてかつてない「驚き」と「感動」の音をお届けすることが可能になりました。
・紙パック式掃除機向け軽量化技術を開発
綾織した繊維を積層することで、一般的に使用する樹脂材料(ABS樹脂)よりも強度がアップした先端材料「PPFRP(ポリプロピレン繊維強化樹脂)」を開発し、業界で初めて掃除機本体に採用しました。この材料により従来品の約1/2の薄さで同じ強度を確保することができます。さらに、この材料の持つ織り目を生かした「綾織」デザインを本体ボディに採用し、一枚の布に優しく包まれた様な素材感が際立つ本体フォルムに仕上げました。また、小型軽量化を追及した「アルミ素材高効率モーター」や部品の小型化とレイアウトの最適化などにより、家庭用床移動型掃除機において世界最軽量の本体質量2.0kgを実現しました。
・冷凍ショーケース向け「新温度制御システム」を開発
従来、店舗用ショーケースの庫内温度は外気条件の変化に影響を受けていました。今回、庫内の冷気の吐出部、吸引部および庫内空気の温度を検知する3つのセンサーからの温度情報を、マイコンコントローラーで冷却不足、適正、冷えすぎといった冷却状況を自動で判断し、冷気が吐出される空気温度を電子的に制御する技術を開発しました。これによりショーケースの庫内温度を一定に保てるようになりました。この技術を自然冷媒(CO2)採用の冷凍機システムに採用することにより、冷設機器用冷媒のノンフロン化と機器の省エネ化の両立が可能となりました。
(2) エコソリューションズ
主に当社とパナソニック エコシステムズ㈱の研究開発部門を中心として、エネルギーマネジメントをはじめ、住宅設備や建材、環境空質機器等の研究開発を行っています。主な成果としては、
・シリコン系太陽電池セルで世界最高の変換効率25.6%を研究レベルで達成
太陽電池モジュール「HIT」の中核技術として永年にわたり蓄積してきた、結晶シリコン基板表面にアモルファスシリコン層を形成することで受光面を安定化させる高出力化技術をさらに進化させたことに加え、太陽光をより有効に活用できる新電極構造を採用することで、シリコン系太陽電池の変換効率の世界記録を実用サイズ(セル面積:143.7cm2)で15年振りに塗り替えました。
・自然の力を積極的に活用するパッシブハウス型農業プラント向け環境制御システムを開発
電気エネルギーにできるだけ頼らず、自然光や水、風などの自然エネルギーを最大限に直接利用するパッシブ技術により、作物周辺の温度、湿度などの環境をバランス良く整えるトータルな環境制御システムを開発しました。このシステムにより、エアコンや暖房機を使用せずエネルギーコストを抑制することができます。また、ハウス外の照度、外気温度、ハウス内の温度・湿度を計測して、遮光、送風、散水を行う機器制御を行う事により、ハウス内の作物の成長に合わせた制御や季節や時間に合わせた自動制御も可能となります。こうしたシステムにより、農産物の生産効率の向上を図り、生産者の方々の負担を軽減することができるようになりました。
・ベッドからの移動を支援する「自立支援型起立歩行アシストロボット」を開発
長年、製造現場の重量物搬送支援向けに研究し続けてきた人との協調制御技術を介護福祉分野に適用しました。この技術を用いて、被介助者の起立・着座・静止などの動作をセンシングし、足りない力をモーターでアシストすることで、被介助者の自立的動作を支援するロボットのプロトタイプを開発しました。
(3) AVCネットワークス
主に当社の研究開発部門を中心として、AVとICTとを融合し、企業・法人向けの機器やソリューションの研究開発を行っています。主な成果としては、
・スマートフォンをかざすだけで対象物の情報をすばやく受信する新たな通信技術を開発
対象物を照らすLED光源の光を目に見えない速さで高速に点滅させ、専用アプリを搭載したスマートフォンのカメラを用いて、その点滅による明暗を情報として、従来技術の数百倍の通信速度(数キロbps)で、すばやく情報を読み取る技術を独自に開発しました。この結果、本技術を適用したLED照明やディスプレイに、スマートフォンをかざせば関連情報をお客様に表示するなど、新しいBtoBソリューションの創出が可能となりました。
・最大直径75mmのガラスモールド非球面レンズ・ミラーを開発
小型化・高解像度化が進むカメラやプロジェクター用の交換レンズに適用可能な、直径75mmの大口径ガラスモールド非球面レンズを開発しました。さらに、デジタルカメラなどの開発・生産で蓄積した技術力と生産ノウハウを活かし、金型・成形・計測設備を自社開発し、大口径化に伴うレンズ成形時の曇りや割れを防ぎ、形状精度を保つ量産化技術を確立しました。このレンズの採用により、カメラ・プロジェクター用交換レンズの小型化・軽量化を実現し、業務用途のレンズ事業を幅広い業界に向けて展開することが可能になりました。
・ネットワークカメラの画像と連動し必要な場所の音声のみを指定できる収音技術を開発
全方位カメラと複数のマイクロホンを組み合わせ、1台で360度全方位から目的方向の音を抽出する収音技術を開発しました。従来は周辺のもの音や話している様子などを確認するレベルにとどまっていましたが、この技術により、全方位カメラの画像を見ながら、指定した方向の音声を最大2箇所までピンポイントで音声を確認することが可能になりました。これにより、例えば同時に複数の人が話しているような場合でも、特定の話者の声だけを選んで確認できるだけでなく、映像と高性能な音声の確認・記録との組合せで、多様なセキュリティ用途への対応が可能となりました。
(4) オートモーティブ&インダストリアルシステムズ
主に当社の研究開発部門を中心として、車載向けなどのインフォテインメント関連機器、二次電池をはじめとした電子部品、電子材料等の研究開発を行っています。主な成果としては、
・ナノファイバーを常温で大量生産できる世界最高レベルの製造技術を開発
髪の毛の1/1000以下の細さを持つ繊維状の物質であるナノファイバーは、従来の合成繊維にはない新しい特性を有する新素材ですが、これまで大量に生産することが課題でした。今回、紡糸ノズル内のポリマー溶液に高電圧を加えてナノファイバーにする方法に独自の工夫を加え、常温で様々な高分子のナノファイバー化が可能な製造方法を開発しました。さらに、この技術を適用した大型の製造装置の開発にも成功しました。
これにより、IT分野、バイオ・医療分野、環境分野など様々な分野への新規応用が期待されます。なお、本技術は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトを元に開発された成果です。
・業界最小、低損失なSiCパワーモジュールを開発
大電流・高電圧用途での省エネルギー化のキーデバイスとして注目されているSiC(炭化ケイ素)パワーデバイスにおいて、当社の持つSiCパワートランジスタ技術と㈱三社電機製作所の持つパワーモジュール工法の強みを生かし、複数のSiCトランジスタを組み込んだ、業界最小のSiCパワーモジュールを共同開発しました。このパワーモジュールは従来比で約1/3の小型化とともに、電力変換損失の要因となるオン抵抗の低減も実現しました。これにより、機器の省エネルギー化と共に、パワーデバイスと放熱器を大幅に小型化でき、機器の設計自由度を向上させる事が可能となりました。
・高速マルチユーザ伝送に向けた無線通信技術を開発
4K・8K映像などのリッチコンテンツ(大容量データ)を複数の端末で同時に送受信でき、最大2Gbpsの通信速度を実現する60GHz帯無線LAN規格に対応した高速無線技術を開発しました。電波の送受信方向を制御するビームフォーミング技術により、送受信可能な角度範囲を従来比2.4倍の120度に拡大することができました。また、この技術を3つ組み合わせて360度の全範囲をカバーすることで、通信速度を落とさずに複数ユーザが大容量データをストレスなく送受信が可能になります。加えて、端末位置に追従する機能を適用することで途切れない高速通信を実現しました。この技術を適用した無線アクセスポイントができれば、多くのユーザが集まる場所でも高速な無線通信を提供することが期待できます。本技術は、総務省の委託を受けて実施した「ミリ波帯における高度多重化干渉制御技術等に関する研究開発」による成果です。